秘録エロイムエッサイム・6
(The witch training・2)
「さて、なにからやろうか……」
沙耶が渋谷のハチ公前で呟いた。
「あの、頭にリングのかかった人は何?」
群衆の中に三人ほど天使のようなリングが付いた人を見つけて真由が聞いた。
「ああ、三日以内に死ぬ人。ちゃんと見えるんだ」
「沙耶も、ああだったわけ?」
「そうよ。で、知らないあなたが見つけて助けたもんだから、あたしが沙耶の体に入って代理をしてるわけ。魂は、もう向こうの世界に行ってるから、助けちゃだめ。助けると、あたしみたいなのが代わりに体に入るか、意識が戻らずに眠ったままになる」
「あ、バツ印が付いている人がいる!」
それは、歩きスマホの女の子だった。沙耶は急いで呪文「エロイムエッサイム」を唱えた。すると、スマホが手から滑り落ち、女の子は立ち止まって、拾おうとした。その瞬間目の前を猛然とダッシュしたスーツ姿の男が駆け抜けて行った。
「待て!」
そう叫びながら、人相の悪い革ジャンの男が追いかける。通りの向こうからも一人。そして街路樹の横からも二人のオッサンが駆け出し、スーツ姿は、スクランブルの真ん中で乱闘の末に捕まった。
真由は混乱した。まるでヤクザが、善良な市民を拉致したように見えたからである。
「な、なにあれ!?」
「鈍いなあ、人相の悪いオッサンたちが警察。で、スーツ姿が振込詐欺の主犯。アジトから一人逃げてきたのを、張り込んでいた警察が捕まえたとこ。ほら、人だかりになるから交番からお巡りさんが出てきて、交通整理し始めた」
「さっきのバツ印の子は?」
「ほら、ピンクのセーター、野次馬の中に居るでしょ」
「あ、ああ。でもバツ印が無い」
「バツ印は、突発の事情で本人の自覚も了解もなく死が迫っている人。あの子、逃げてくる犯人にぶつかられて転倒。打ち所が悪くて死ぬとこだった。ああいう人は救けていいの。リングが付いた人でも赤い人は、まだ魂が抜け切れていない。時と場合によっては助ける。ピンク色やら白はダメ」
「沙耶も、ああだったの?」
「そう、さっきも言ったけど……リングの人を助けると、代わりに死ぬ人が出る。死に方は様々だけど、確実にね」
「じゃ、あたしが助けたのは……」
「魔法って、そういうものなの。落ちてくる爆弾は避けられても、それは別のところに落ちるだけ。場合によっては、犠牲者の数が増えることもある」
真由は、少し落ち込んでしまった。
「デリケートなんだ真由。この程度で傷つかれたんじゃ……そうだ、灯台下暗し。ハチ公に頼もう」
沙耶が指を鳴らすと、人ごみの中から、秋田犬が現れた。
「じゃ、散歩しながら話そうか?」
「犬が喋った!」
「びっくりするほどの事じゃないわ。テレビのCMでも、普通に喋ってるじゃない」
「あれは北大路欣也さんでしょ」
「まあ、魔法の世界って、そういうものなの。じゃ、ハチのおじさんよろしく」
「調子がいいんだから沙耶は。じゃ、真由ちゃん、一回りしようか」
ハチの姿は見えているようで、道行く人たちも避けてくれる。心配した言葉は、実際に声に出さなくても通じるようで、ハチと真由が会話していてもいぶかる人は居なかった。
「さあ、渋谷も広い、ゆっくり話そうかい……」
真由とハチ公は、とりあえず道玄坂方面に向かった……。
(The witch training・2)
「さて、なにからやろうか……」
沙耶が渋谷のハチ公前で呟いた。
「あの、頭にリングのかかった人は何?」
群衆の中に三人ほど天使のようなリングが付いた人を見つけて真由が聞いた。
「ああ、三日以内に死ぬ人。ちゃんと見えるんだ」
「沙耶も、ああだったわけ?」
「そうよ。で、知らないあなたが見つけて助けたもんだから、あたしが沙耶の体に入って代理をしてるわけ。魂は、もう向こうの世界に行ってるから、助けちゃだめ。助けると、あたしみたいなのが代わりに体に入るか、意識が戻らずに眠ったままになる」
「あ、バツ印が付いている人がいる!」
それは、歩きスマホの女の子だった。沙耶は急いで呪文「エロイムエッサイム」を唱えた。すると、スマホが手から滑り落ち、女の子は立ち止まって、拾おうとした。その瞬間目の前を猛然とダッシュしたスーツ姿の男が駆け抜けて行った。
「待て!」
そう叫びながら、人相の悪い革ジャンの男が追いかける。通りの向こうからも一人。そして街路樹の横からも二人のオッサンが駆け出し、スーツ姿は、スクランブルの真ん中で乱闘の末に捕まった。
真由は混乱した。まるでヤクザが、善良な市民を拉致したように見えたからである。
「な、なにあれ!?」
「鈍いなあ、人相の悪いオッサンたちが警察。で、スーツ姿が振込詐欺の主犯。アジトから一人逃げてきたのを、張り込んでいた警察が捕まえたとこ。ほら、人だかりになるから交番からお巡りさんが出てきて、交通整理し始めた」
「さっきのバツ印の子は?」
「ほら、ピンクのセーター、野次馬の中に居るでしょ」
「あ、ああ。でもバツ印が無い」
「バツ印は、突発の事情で本人の自覚も了解もなく死が迫っている人。あの子、逃げてくる犯人にぶつかられて転倒。打ち所が悪くて死ぬとこだった。ああいう人は救けていいの。リングが付いた人でも赤い人は、まだ魂が抜け切れていない。時と場合によっては助ける。ピンク色やら白はダメ」
「沙耶も、ああだったの?」
「そう、さっきも言ったけど……リングの人を助けると、代わりに死ぬ人が出る。死に方は様々だけど、確実にね」
「じゃ、あたしが助けたのは……」
「魔法って、そういうものなの。落ちてくる爆弾は避けられても、それは別のところに落ちるだけ。場合によっては、犠牲者の数が増えることもある」
真由は、少し落ち込んでしまった。
「デリケートなんだ真由。この程度で傷つかれたんじゃ……そうだ、灯台下暗し。ハチ公に頼もう」
沙耶が指を鳴らすと、人ごみの中から、秋田犬が現れた。
「じゃ、散歩しながら話そうか?」
「犬が喋った!」
「びっくりするほどの事じゃないわ。テレビのCMでも、普通に喋ってるじゃない」
「あれは北大路欣也さんでしょ」
「まあ、魔法の世界って、そういうものなの。じゃ、ハチのおじさんよろしく」
「調子がいいんだから沙耶は。じゃ、真由ちゃん、一回りしようか」
ハチの姿は見えているようで、道行く人たちも避けてくれる。心配した言葉は、実際に声に出さなくても通じるようで、ハチと真由が会話していてもいぶかる人は居なかった。
「さあ、渋谷も広い、ゆっくり話そうかい……」
真由とハチ公は、とりあえず道玄坂方面に向かった……。