秘録エロイムエッサイム・2
(助けた命 助けられなかった命・1)
駅につくと、改札を抜けホームにたどりついた。
「ああ、よっこいしょ……と」
思わずお婆さんのような言葉が口をついた。隣に腰かけたキャリア風のオネエサンがクスクス笑っている。朝倉真由は真っ赤になった。
「ごめんなさい。出るわよね、朝急いで電車の席に座れたときなんか」
「アハハ、ども」
真由は自分の中にお婆さんがいるような気がしたが、すぐにこの言葉が自然な年ごろになるんだと開き直り、当駅仕立ての準急に乗れたことをラッキーと思ったが、束の間だった。八十ぐらいのお婆ちゃんが真由の前に立ってしまった。
「あ、どうぞ」
真由は潔く立って席を譲った。
「どうも、ありがとうね」
お婆ちゃんは素直に座ってくれた。こういう時、変に遠慮されると気恥ずかしいものである。キャリア風が「ナイス」というような顔をした。真由はこういうのが苦手であった。コックンと目で挨拶して、反対側の吊革につかまった。
島型のホームなので、電車を待つ人、ホームを歩く人が良く見える。真由は、こういう時退屈しない。人間と言うのは、なんだかんだ言ってもアナログの極みで、電車を待つという行動だけで千差万別である。それを観察しているだけで楽しいほどではないが時間つぶしにはなる。
この準急は、特急の通過待ちなので、発車まで二分近くある。観察は、より深くなる。ホームにいる大半の人がスマホや携帯を見ている。集団の中の孤独という言葉が浮かんで、思わず写メる。真由の、ささやかな趣味。いろいろ撮っては自分一人で楽しんでいる。一頃友達に見せたりしていたが、コピーされてSNSに流されたことがある。男女の学生風が至近距離ですれ違う瞬間で、女子学生が偶然目をつぶった、切り取ったコマは、まるで二人がキスする瞬間のように見えた。関係者が、この写メに気づいて、冷やかしのコメントでいっぱいになり、本人とおぼしき女学生が「迷惑している」という書き込みをしていたので、それ以来、自分一人の楽しみにしている。
――G高いいな。あの制服のモデルチェンジは正解だよ――
そう思って見ていると、刹那無意識に人を避け、そのまま重心を戻せずに、線路側によろめいて落ちた。そこを特急が通過!
血しぶきをあげて、女生徒の体はバラバラになって弾き飛ばされた!
――だめ!――
瞬間心で、強く思った。目はつぶったがスマホのシャッターは切っていた。
阿鼻叫喚になる……はずであったが、特急は、何事もなく轟音を立てながら通過していった。跳ね飛ばされたはずの女生徒は、スマホを見ながら平然と準急にのってきた。そして真由の横で吊革につかまった。
――え、なんで……?――
習慣でスマホを見る。いま撮ったばかりの惨劇が写っていた。思わず口を押えた……そして、写メはしだいに薄くなって、当たり前のホームの朝の姿に戻っていった……。
(助けた命 助けられなかった命・1)
駅につくと、改札を抜けホームにたどりついた。
「ああ、よっこいしょ……と」
思わずお婆さんのような言葉が口をついた。隣に腰かけたキャリア風のオネエサンがクスクス笑っている。朝倉真由は真っ赤になった。
「ごめんなさい。出るわよね、朝急いで電車の席に座れたときなんか」
「アハハ、ども」
真由は自分の中にお婆さんがいるような気がしたが、すぐにこの言葉が自然な年ごろになるんだと開き直り、当駅仕立ての準急に乗れたことをラッキーと思ったが、束の間だった。八十ぐらいのお婆ちゃんが真由の前に立ってしまった。
「あ、どうぞ」
真由は潔く立って席を譲った。
「どうも、ありがとうね」
お婆ちゃんは素直に座ってくれた。こういう時、変に遠慮されると気恥ずかしいものである。キャリア風が「ナイス」というような顔をした。真由はこういうのが苦手であった。コックンと目で挨拶して、反対側の吊革につかまった。
島型のホームなので、電車を待つ人、ホームを歩く人が良く見える。真由は、こういう時退屈しない。人間と言うのは、なんだかんだ言ってもアナログの極みで、電車を待つという行動だけで千差万別である。それを観察しているだけで楽しいほどではないが時間つぶしにはなる。
この準急は、特急の通過待ちなので、発車まで二分近くある。観察は、より深くなる。ホームにいる大半の人がスマホや携帯を見ている。集団の中の孤独という言葉が浮かんで、思わず写メる。真由の、ささやかな趣味。いろいろ撮っては自分一人で楽しんでいる。一頃友達に見せたりしていたが、コピーされてSNSに流されたことがある。男女の学生風が至近距離ですれ違う瞬間で、女子学生が偶然目をつぶった、切り取ったコマは、まるで二人がキスする瞬間のように見えた。関係者が、この写メに気づいて、冷やかしのコメントでいっぱいになり、本人とおぼしき女学生が「迷惑している」という書き込みをしていたので、それ以来、自分一人の楽しみにしている。
――G高いいな。あの制服のモデルチェンジは正解だよ――
そう思って見ていると、刹那無意識に人を避け、そのまま重心を戻せずに、線路側によろめいて落ちた。そこを特急が通過!
血しぶきをあげて、女生徒の体はバラバラになって弾き飛ばされた!
――だめ!――
瞬間心で、強く思った。目はつぶったがスマホのシャッターは切っていた。
阿鼻叫喚になる……はずであったが、特急は、何事もなく轟音を立てながら通過していった。跳ね飛ばされたはずの女生徒は、スマホを見ながら平然と準急にのってきた。そして真由の横で吊革につかまった。
――え、なんで……?――
習慣でスマホを見る。いま撮ったばかりの惨劇が写っていた。思わず口を押えた……そして、写メはしだいに薄くなって、当たり前のホームの朝の姿に戻っていった……。