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〔会いたかったカモ〕
「え、うそ……」
女子高生みたいな言葉しか出てこなかった。
「……水本さん」
鈴木クンは、一瞬遅れて、わたしに気が付いた。
隣同士駐車したコインパーキング、国産車と外車の違いがあったので、ちょうど車二台挟んで18年ぶりの再会だった。
すぐに手にしたパンフで分かった。
『浪速高等学校演劇研究大会』二日目の朝だった。
あたしは、フリ-のライターと言えば聞こえはいいが、要はアルバイトのゴーストライター。
最近人気のあるパフォーマンス系の部活の取材。編集はダンスや軽音なんかを提案してきたが、あたしは、あえて演劇部を主張してきた。ダンスや軽音は、いわばメジャーで、もういくつも各紙で特集が組まれている。「演劇部こそステージパフォーマンスの王道なんです!」適当な理由を、それらしく押し出して認めさせた。
でも、初日の昨日観に来て愕然だった。あたしたちの頃は加盟校130、コンクール参加校でも100校近くあった。それが参加校は80まで落ちていた。会場は1200も入るホールに、やっと三分の入り。まあ二階席を閉鎖していたので、一階席にいるかぎり、そんなに少ないとは感じない……一般客には。でも、こういう仕事をしていると、ざっと見ただけで観客の数ぐらい分かる。芝居は「熱意が伝わってくる」という表現しかできないシロモノばかりだった。今日こそは、突き抜けた作品を観せて欲しいものだと、諦め半分の気持ちで来た。
「ふうん、そうなんや」鈴木クンは、昔と同じ機嫌の良さで聞いてくれた。
鈴木クンは、自意識が強い演劇部の中ではくすんでいた。見かけはいいんだけど、芝居は花丸のヘタクソ。体育なんかもできない。そもそも演劇部に入ってきたのも、ガタイだけで判断して引っ張り込んだバスケが引導を渡したから。女子が多い演劇部では、芝居ができなくても力仕事は一杯ある。照明や、道具作り、立て込みやバラシ。そんな陰の仕事を楽しそうにやっていた。
あたしは、ませた子だったので、こういう男の子が、案外大人になると堅実な家庭人になることや、可愛げのある堅実さは、社会に出たら強い武器になることを見抜いていた。そして、彼が地元の名家の次男坊であることも承知していた。将来を見据えてカモの一人ぐらいの認識で接していた。
遠足で、宝塚遊園の現地解散になったとき、鈴木君の期待に応えて二時間近くいっしょに遊んだ。ジェットコースターで彼の熱気を隣で感じて、あたしは太知真央みたいにはしゃいで、鈴木君の気持ちをくすぐったりした。ジェットコースターから降りるとき意識的に手を伸ばした。
「いま、どうしてんの?」
ホールの屋根が見えたころに粉を振った。
「兄貴がアメリカで独立したんで、ボクが家の跡を継いでんねん」
ということは、駅前の鈴木ビルとかの不動産や株とか、前部鈴木クンのもの!?
「まあ、派手なことはでけへんけど、地道に、ボチボチと……」
あたしは、大学に行って鈴木君のことなんか、すっかり忘れてしまった。もっと面白い美味しいことや人間が一杯だったから。周りの男どももチヤホヤ。就職も大手の出版社。もう天狗だった。
ある企画で女編集長と衝突。それで辞めてからはさっぱりだ。さっき車を降りて劇的な再開「会いたかったカモ」だった。
「今日終わったらさ……」
二度目の粉を振ろうとしたら、ホールの方から声がした。
「お父さーん!」
なんと、昔のあたしと同じ制服着た女の子が走ってきた……。
〔会いたかったカモ〕
「え、うそ……」
女子高生みたいな言葉しか出てこなかった。
「……水本さん」
鈴木クンは、一瞬遅れて、わたしに気が付いた。
隣同士駐車したコインパーキング、国産車と外車の違いがあったので、ちょうど車二台挟んで18年ぶりの再会だった。
すぐに手にしたパンフで分かった。
『浪速高等学校演劇研究大会』二日目の朝だった。
あたしは、フリ-のライターと言えば聞こえはいいが、要はアルバイトのゴーストライター。
最近人気のあるパフォーマンス系の部活の取材。編集はダンスや軽音なんかを提案してきたが、あたしは、あえて演劇部を主張してきた。ダンスや軽音は、いわばメジャーで、もういくつも各紙で特集が組まれている。「演劇部こそステージパフォーマンスの王道なんです!」適当な理由を、それらしく押し出して認めさせた。
でも、初日の昨日観に来て愕然だった。あたしたちの頃は加盟校130、コンクール参加校でも100校近くあった。それが参加校は80まで落ちていた。会場は1200も入るホールに、やっと三分の入り。まあ二階席を閉鎖していたので、一階席にいるかぎり、そんなに少ないとは感じない……一般客には。でも、こういう仕事をしていると、ざっと見ただけで観客の数ぐらい分かる。芝居は「熱意が伝わってくる」という表現しかできないシロモノばかりだった。今日こそは、突き抜けた作品を観せて欲しいものだと、諦め半分の気持ちで来た。
「ふうん、そうなんや」鈴木クンは、昔と同じ機嫌の良さで聞いてくれた。
鈴木クンは、自意識が強い演劇部の中ではくすんでいた。見かけはいいんだけど、芝居は花丸のヘタクソ。体育なんかもできない。そもそも演劇部に入ってきたのも、ガタイだけで判断して引っ張り込んだバスケが引導を渡したから。女子が多い演劇部では、芝居ができなくても力仕事は一杯ある。照明や、道具作り、立て込みやバラシ。そんな陰の仕事を楽しそうにやっていた。
あたしは、ませた子だったので、こういう男の子が、案外大人になると堅実な家庭人になることや、可愛げのある堅実さは、社会に出たら強い武器になることを見抜いていた。そして、彼が地元の名家の次男坊であることも承知していた。将来を見据えてカモの一人ぐらいの認識で接していた。
遠足で、宝塚遊園の現地解散になったとき、鈴木君の期待に応えて二時間近くいっしょに遊んだ。ジェットコースターで彼の熱気を隣で感じて、あたしは太知真央みたいにはしゃいで、鈴木君の気持ちをくすぐったりした。ジェットコースターから降りるとき意識的に手を伸ばした。
「いま、どうしてんの?」
ホールの屋根が見えたころに粉を振った。
「兄貴がアメリカで独立したんで、ボクが家の跡を継いでんねん」
ということは、駅前の鈴木ビルとかの不動産や株とか、前部鈴木クンのもの!?
「まあ、派手なことはでけへんけど、地道に、ボチボチと……」
あたしは、大学に行って鈴木君のことなんか、すっかり忘れてしまった。もっと面白い美味しいことや人間が一杯だったから。周りの男どももチヤホヤ。就職も大手の出版社。もう天狗だった。
ある企画で女編集長と衝突。それで辞めてからはさっぱりだ。さっき車を降りて劇的な再開「会いたかったカモ」だった。
「今日終わったらさ……」
二度目の粉を振ろうとしたら、ホールの方から声がした。
「お父さーん!」
なんと、昔のあたしと同じ制服着た女の子が走ってきた……。