大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・3(助けた命 助けられなかった命・2)

2016-11-22 06:50:10 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・3
(助けた命 助けられなかった命・2)



 朝倉真由が通うA女学院は、最寄りの駅から歩いて八分ぐらいの高台の上にある。

 今朝は、この坂道に10分以上かかってしまった。
 ついさっきのことが頭から離れないのである。
 目の前でG高の女生徒が、特急に跳ね飛ばされ大惨事に……なったはずである。
――だめ!――と、反射的に思って目をつぶった。
 そして、目を開けると、G高の女生徒は、何事もなく特急が通過したあとのホームを歩いて、真由と同じ車両の隣のシートに座った。そして、A高の一つ手前の駅で降りて行った。

 坂を上って、学校が近くなり、同じA高の生徒たちの群れに混ざってしまうと、あれは夢だったんだという思いが強くなった。今朝は朝寝坊して少し寝ぼけていた。だから、駅に着いた時も、頭のどこかが眠っていて、幻を見たんだ。真由は、今朝の出来事を、そう結論付けた。そう思わせるに十分な青空が真由の上には広がっている。

 学校では箕作図書館が焼けたことが少し話題になっていたが、ほとんどいつもの学校だった。真由も一時間目の英語の長ったらしい板書を写しているうちに忘れてしまった。

「朝倉さん、いらっしゃいますか?」

 昼休みお弁当を食べ終わると、見知らぬ一年生が、教室の入り口でクラスの生徒に聞いていた。
「真由だったら、窓際」
 そう言われて、その子は、ニコニコ笑顔で、真由たちのブロックに近づいてきた。ブロックの仲間が、一斉に、その子と真由を見比べた――知り合い?――仲間たちは、そういう顔をしていた。
「突然すみません。小野田沙耶っていいます。朝倉さんが一年のとき一緒だった小野田麻耶の妹です」
 そう言えば、どことなく麻耶に似ていた。でも性格は真逆のようで、上級生の教室に入ってきても、ぜんぜん緊張していなかった。真由の知っている姉の麻耶は、教室でも目立たない子で、席が近くだったので、少しは喋るという程度の仲でしかなかった。その妹が何の用だろう。

 南階段の踊り場で話をすることにした。日当たりが良くて、人目を気にせずに話ができるからである。

「今朝、G高の生徒が死にかけましたね」
 真由は、ギョッとした。自分自身やっと白昼夢だと整理したばかりのことであし、誰にも喋っていない。それをこの子はなぜ知っているんだろう。真由はパニック寸前になった。
「落ち着いてください。あのG高の子は死んだんですけど。朝倉さんが助けたんです」
「あ、あたしが? どうやって? どういうこと?」
「一瞬『ダメ!』って思ったでしょ。あれで助けてしまったんです」
「そんな、あたしに魔法が使えるとでも言うの……」
「ええ、今朝から。朝起きた時におでこに血文字が浮き上がっていたでしょ?」
「あれも、本当にあったことなの?」
「夕べ、箕作図書館が焼けました。あれで魔道書の封印が解かれて、朝倉さんの頭に焼き付いたんです。朝倉さんの四代前のお婆さんはイギリスから来た人です。四代が限界なんです……魔道を受け継ぐの。正式な魔法の使い方をお教えしておきます。心の中で『エロイムエッサイム、エロイムエッサイム』と唱えてください。意味は『神よ、悪魔よ』という呼びかけ。コールサインですね。あとは念ずれば、たいていのことは叶います。叶わないのは『この世よなくなれ』と『わたしを殺せ』という内容のことだけです。別に使命を与えられたなんて、安できのラノベみたいに考えなくていいですから。あなたは、魔道継承の適任者だった。それだけですから」
「小野田さん、あなた……」
「真由さん。あなたは死ぬはずだった人間を助けてしまったんです、ただの恐怖心から。帳尻が合いません。代わりにいま喋っている、この子が死にます。でも、気に掛けないでください。この子は明日事故で死ぬはずなんです。それが一日早くなるだけですから。それじゃ」
 それだけ言うと、沙耶は皮肉とも励ましともとれる笑顔を残して、階段を下りて行った。

 そして、五時間目の教室移動の途中で、小野田沙耶は階段を踏み外し、首の骨を折って死んでしまった。

 真由は、死ぬべき人間を助け。たった一日とは言え、生きているはずの人間を殺してしまった……。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・101『ローンサバイバー/ウォルト・ディズニーの約束』

2016-11-22 06:30:08 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・101
『ローンサバイバー/ウォルト・ディズニーの約束』

この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に、身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


ローンサバイバー

“ブラックホーク・ダウン”と同じく、実話です。
タリバンの指導者を狩る作戦で、米軍SEALの偵察隊4名が、現場で出会った村人を解放した為、タリバンに通報されて囲まれる。激戦の中、3名死亡、救出に来たヘリも一機撃墜され、たった一人残った兵士を救ったのは ある村のアフガン人だった。
 何故、アフガンに米軍がいるのか……タリバンがアメリカを憎むのは何故か……この戦争に大義名分はあるのか……ets これらに触れずに本作を語れない。

 しかし、止めます。

 私が「宗教原理主義」を憎悪している事も、アメリカの強引な論理を認めない事も……一切排除して、不屈の男達の物語として語りたい。
 ハリウッドの論理に嵌ったと言われても仕方ないでしょう。確かに、アメリカ人のヤンキー魂に火をつけるストーリー(実話ではあるが、あくまで劇映画)だし、SEALの宣伝と言っても良い……しかし、男達の比類無き勇気と友情に溢れている作品であり、そこに感動が生まれる。
“ブラックホーク・ダウン”では、敵のアフリカ人は単なる野蛮人でしかなかったが、本作ではそのようには描いていない。マーカス・ラトレル兵長を助けてくれるアフガン人がいたと言う事情もある。ハリウッドが表現の論法を変えた(現在、状況を相対的に捉えない作品は陳腐化される)とも言える。
 しかし、作品の裏側にある あらゆる事情を乗り越えて、感動を見る者に伝えてくる。
 本作を見て、嫌悪感しか覚えない人は大勢おられるだろうが、敢えて言いたいのです。これまでの映画では、米軍のSEALといえばスーパーマンの集まりってな風に描かれ、彼らに不可能な作戦は有り得ないように語られる事が多かった。この映画では、確かに筋肉アーマードではあるが、ごく普通の人間として描かれる。
 タイトルロールに重ねて、本物のSEALの選抜シーンが流れる……訓練なんてな範疇には無い、下手をすればどころか殺すつもりの選抜、これを乗り越えるだけで互いに尊敬しあい、絶対の友情が生まれる。そんな男達だから、絶望的な戦況にあっても戦う事を止めない。そんな事が可能なのかと思えるような行動を躊躇なく取る。実話の重みもあって、戦闘する人間の究極の姿がスクリーンに映し出されている。そんな彼らが一皮剥けば 当たり前の人間なんだと言うところに感動がある。
 批判的に見れば“否定”する以外に無い作品ながら(日本人とすれば……本作の意味を問うのはアメリカ人に任せる)ただただ 戦う男達の姿に敬意を覚える。マッチョイズムだとの批判は甘んじて受け入れます。
 しかし、戦う者に敬意を表し、物語を与える(アメリカの国策ですが……)この国が羨ましくもあるのです。ベトナムの反省(帰還兵士を狂人扱いした)も有るのでしょうが、国の為に戦った人間を顕彰するのは至極当たり前な行為であると考えます。


ウォルト・ディズニーの約束

 いやいや、あの“メリー・ポピンズ”にこんなインサイドストーリーがあったとは……確かに、単に楽しいだけのファンタジーじゃないとは思ってはおりました。
 しかし、全く違う解釈をしていました。えっ? どんな解釈かって? ご勘弁を、こんな仕事を始める前の、ほんのガキの感想ですけぇ。
 なる程ねぇ、原作者にはこんな悲しい歴史が有った訳ですか、「ハリー・ポッター」のサーリングが シングルマザーで金も無く、カフェの片隅で粘りながら執筆していたとか、「指輪物語」のトールキンは本気で神話を作るつもりだったとか……こいつは知らなきゃ思い至らない話です。
 原作者のトラバース夫人は、ウルトラ気難しい女性。なんせ、あのディズニーが20年に渡って映画化権交渉しながらも口説き落とせない相手! 一体どんな人なのかと見ていたら……こらぁ あきまへんわ、アタクシでしたら出逢ったその日に匙投げてます。
 しかし、ディズニーが20年かけても映画にしたかった物語、担当者だって真剣にならざるえない。
「メリー・ポピンズ」の脚本担当だったドン・ダグラティはまだ生きていて、ミズ・トラバースとの間に良い思い出がある訳もなく……彼は本作を見て号泣したそうです。
 これからご覧になる方々の感動の邪魔になっちゃいけないんですが、ミズ・トラバースにとって「メリー・ポピンズ」は単なる物語ではなく、子供の時の大切な……美しくも楽しくもあり、かつ悲しい思い出……しかも未だに自分の人生を縛っている出来事が下敷きになっていて、彼女にしてみれば人生そのもの、けっして妥協なんぞ……冗談じゃない。
 話はディズニーがミズ・トラバースの過去を探った所から回り始める。これ以上書くのは愚の骨頂ってもんで、この先は劇場で確かめて下さい。きっと、もう一度「メリー・ポピンズ」を見たくなります。
 エンドロールに実際のミズ・トラバースの声が出てきます。エマ・トンプソンの声かと思いましたわ。名優と言われる人は本間になりきります。私らみたいな付け焼き刃役者には想像もできん世界です。

 てな訳で、本日は実話2連発でした。

 どちらも感動作かつ、どちらも今年のアカデミーノミネート、しかも両方無冠です。 そらそうやろね、ノミネートまではええけんど、この両作品に賞を与えるのは考えもんでしょ。片や、9.11はあったものの大儀に?マーク付きの作品。片や、感動ストーリーながら、本の当事者が社長だった会社の作品……“コマーシャルじゃん”といわれたら否定のしようがない。
 しかし、そんな事情は一切捨てた所から見てみたい作品達でありました。

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