大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・200『ノンコ開眼!』

2021-03-03 10:10:19 | 小説

魔法少女マヂカ・200

『ノンコ開眼!』語り手:ブリンダ    

 

 

 凌雲閣から学校に戻ってくると、ノンコがむくれている。

 

「もー、三人でなんかやってきたやろ!?」

 すっかり板に付いた京都弁が可愛らしい。

「もー、へらへら笑ろてんと、教えなさいよ。なんとなくは分かってんねんよ、礼法室から、どこか面白いとこ行ってきたんでしょうがあ?」

「エ、ナンノコトデスカア?」

「とぼけてもあかんよ、あんたブリンダやろ!?」

 霧子が職員室に呼ばれたのをきっかけに詰め寄ってきた。わたしはマクギャバン米国大使のむすめのブリンダ・ウッズ・マクギャバンという触れ込みになっているけど、ノンコが剣のある声で言ってるブリンダは、オレの真名であるブリンダの方だ。

「ノンコ、カム ウィズ アス(*^▽^*)」

 マヂカといっしょにノンコを連れ出す。

 礼法室と思ったけど、午後の授業で使われるので、三人で音楽準備室に向かう。

「どうやら、気づいたのね」

「うちかて、魔法少女候補生や。それに、今度のタスクでは、うちのこと占い上手な野々村男爵の娘いう設定にしたでしょ。うち、ちょっと才能が開花したみたいやし(n*´ω`*n)」

「これは、話した方がいいな」

「ああ、そこに座れ」

 三人でバスドラムの陰に周る。

「じつは……」

 堀越二郎を救った話をする。堀越二郎なんて、並みの女子高生は知らない名前だ、ましてノンコ、ちょっと、いや、かなり説明がいると思ったら、すぐに納得した。

「ゼロ戦の設計やった人やんか!」

「え、知ってるのか?」

 オレより付き合いの長いマヂカも驚く。

「『風立ちぬ』の主人公やし(^▽^)!」

 そうか、こいつは、そう言う方面のオタクなんだった。

「ゼロ戦だけやないし」

「ああ、戦後は国産初のYS11の設計なんかもやってるしな」

「それだけとちゃうし」

「そうなのか?」

 オレは、ゼロ戦を生み出すために堀越を救いに来たんだ。アメリカをさんざん苦しめたゼロ戦だけど、ゼロ戦が現れなかったら、日米ともに多くの男の運命が変わってくるんだ。

「戦後は、防衛大学の先生をやって、多くの防大出身者に影響を残すし、『宇宙戦艦ヤマト』でもコスモ・ゼロは出てけえへんことになるし、なんちゅうても『風立ちぬ』のアニメは作られへんし、『風立ちぬ』がでけへんかったら、うちみたいに触発されたり影響受けてアニメにハマる人間に影響が出るんよ」

「そ、そうなのか(^_^;)」

「それで、うちを外したんはなんでえ?」

「いや、それはな……」

「ノンコを連れて行くと、四人掛けのシートが埋まってしまって、堀越さんが座れなくなってね、とっさには助けられなくなるからなんだよ(^_^;)」

 事実なんだが、マヂカも腰が引けているような感じだ。

 占いに目覚めたノンコは、ちょっと無敵なのかもしれないぞ。

「そうか……ゼロ戦は三菱だし、三の数字が吉」

 バスドラのドラムヘッド(皮)に『三』をなぞって納得するノンコ。

 なんか、占い師的な貫録が出てきてないか?

 トーーーーン

「任務は、これだけとちゃうね……」

 小さくバスドラムを叩くと、ノンコは顔を向けてきた。

「そうなのか、ブリンダ?」

「ああ、じつはな……」

 いくつか……いや、いくつもあるのだが、とても全部はできない。

 どこまでやるかは、霧子の様子を見ながらマヂカとも相談しようと思っていたところだ。

「緊急性の高いもんからやらんとあかんわねえ……」

「なにを探してるんだ?」

 ノンコは立ち上がると、準備室の楽器たちをチェックし始めた。

「うん、やっぱり、これが間に合いそう……」

 一巡したノンコは元のバスドラムを指さした。

「ちょっと横倒しにしてくれへんやろか」

「大太鼓を横に?」

「そっとね……」

「これでいいか?」

 椅子を二つ並べて、マヂカとバスドラムを差し渡すように横向きに据える。

「ええよ……」

 ポケットから数枚のカルタを出すと、ドラムヘッドの上に並べた。

「いくよ……」

 ドラムのバチを持つと、器用に持ちながらニンジャのような印を結び、オレには分からない呪文を唱えて、ドラムを叩いた。

 ドーーーーーーン!

 皮の上のカルタは生き物のように跳ねて、半分ほどが裏がえしになる。

 裏返ったものを外して、残ったもので、再び叩く。

 ドーーーン

 さっきよりも小さく、しかし慎重に叩くと二枚が残り、さらに繰り返すと、一枚が残る。

「分かった」

「「何が?」」

 ドラムの上に残ったのは、アメリカ人のオレには分からないが、昔の天皇のカルタ札だ。

「9月15日に飛ばんとあかん!」

 震災の二週間後だ。

 なんか、ノンコが開眼してしまったぞ。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

  

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真凡プレジデント・10《立会演説の原稿を考える》

2021-03-03 06:50:32 | 小説3

プレジデント・10

《立会演説の原稿を考える》       

 

 

 

 選挙はテスト明けにあるんだけども、立会演説の原稿は明日が締め切り。

 

 なにを喋ってもいいと思うんだけど、学校は選挙リテラシーとか言う。

 要は事前検閲だ。

 ヘイトとかセクハラとかポリコレとかがうるさいご時世。実際に目を通すのは藤田先生ということもあって、素直に従う。

 

 う~~~~~~~~ん 難しいもんだ。

 

 きっかけは、藤田先生が候補者が集まらず悩んでいるのを目撃して、辞書で引いたら生徒会長というのはプレジデントというカッコいい名称なんだと感激したという、子どもみたいな動機。

 けども、この動機の底には意識しなかった動機がある……と、思う。

 お姉ちゃんみたく才色兼備でもないわたしは、卒業後いっちょまえに生きていくためにはアドバンテージを稼いでおかなくちゃならない。

 単に大学の推薦に有利になるということだけじゃなく(わたしは進学とも就職とも決めてはいない)、世間に出て人交わりしていくにおいて、会って五分もすると「今の子、どんな顔してたっけ?」とか「名前は田中……なんだったけ?」とか、ついさっき見た夢のように印象が薄くなっていくのをなんとかしたい。

 最近の野党は生徒会のようだと言われるように、お気楽なもんだ。揚げ足とりの攻撃ばかりしてりゃいいんだから。でも、わたしは、そこまで恥知らずにはなれない。というか、たいていの意見には「それもそうですねえ」と頷いて、思考停止に陥ってしまう。頷いてしまえば「じゃ、次の人」とか「他に意見は?」とか言われて楽なんだ。そして、次の人とか他の意見とか沈黙とかになって、五秒で、わたしのことなんか忘れられて、忘れられることが楽なんだ。

 そうだよ、思考停止。

 思考停止はいけません! 思考停止をやめましょう!

 わたくし、田中真凡は思考停止と戦うために生徒会長に立候補いたしました!

 う~~~~~~~~~ん

 イケてるようだけど、後が続かない。

 ああ、早く書かなきゃ間に合わない。試験が終わったら、あっという間に立会演説! スケジュールは決まってるんだぞ!

 そう、スケジュール。

 学校は、スケジュールで動いている。

 開校以来の年間スケジュールとマニュアルがデーンとあって、それに従ってこなしていけば立派に任期をこなせる。先生たちを見ていても思うんだけど、無事にスケジュールをこなすことが、人間というか組織の目的なんだよね。今の執行部も、スケジュールをこなす以外には何もやってなかったよね。

 新入生歓迎会 美化運動(ポスター描いたり、制服姿で学校周辺のゴミ拾いしたり) 文化祭 体育祭の取り組み 募金活動(赤い羽根とか青い羽根とか) 近隣の高校との交流(互いに訪問して話を聞いたり喋ったり的な) 予算案を作る 決算報告する 

 どれも、まあこんなもんだって前例がある。前例に沿ってスケジュールをこなしていけば無事に任期はこなせる。

 要は、会議とか集会とかできちんと喋れさえすればいいわけだし、わたしは、そういうコミニケーション能力を付けることが狙い……的な。

 でも、なんだかなあ……他人様に「これなんです!」と訴えかけるには本音過ぎるというか、散漫というか、弱いよねえ。

 

 散漫なままには書けない。

 

 やっぱ、世のため人のため学校のためということを打ち出さなければだめだろう。

 柳沢はどんなこと書いてるんだろう……思ってみても、対立候補、藤田先生が見せてくれるはずもない。

「なんか用?」

 晩御飯食べていたら、いつの間にかお姉ちゃんの視線。

 辞めたとはいえ、東大出の女子アナ。演説の草稿なんてお茶の子さいさい……という気持ちがある。

 いかんいかん、自分で考えなきゃ。

「ひょっとして立会演説……とか?」

「ウ……」

「図星だな、立候補したはいいけど、大勢の前でなんか喋ったことないもんね、真凡は」

「あ、当たったからっていい気にならないでよね。わたしは自分で考えるんだから」

「さすが姉妹、真凡も美姫の気持ち読めない? 放送局辞めてからなに考えてんだか、親でも分からないからね」

 お父さんのご飯をつぎながらお母さん。

「まあ、人生いろいろあるさ」

 軽く受け流すお父さん、心情は分かるんだけど、両親ともお姉ちゃんには無力だ。

 

「狙い目はトラッドだよ」

 

 お姉ちゃんは言い方がうまい。

 ズバッと言うけど、肝心の中身は短くて難しい言葉を使う。難しくとも短い言葉だから聞き直す。この場合お母さん。

「トラッドってなに?」

「伝統よ、革新とか革命とかじゃ、今の世の中人は付いてこないよ。学校のトラッド、それを今の学校に合うように変えることを提案する」

「抽象的ね……?」

 これもお姉ちゃんの手だ。二つくらいのキーワードを言って、ポンと結論を持ってくる。いわば、ホップ・ステップ・ジャンプ。

「たとえばさ、部活。学校は入学の時から勧めてるでしょ? でも、いろいろ条件は厳しい……そこいらへんをね。それから、案外、生徒みんなが良い学習環境を持ってない」

「学習環境?」

「うん、みんなが自分の部屋持ってるわけじゃないし、家庭事情とか、いろいろね。ま、あとは自分で考えな。ごちそうさま」

  やっぱ、東大出の女子アナは伊達じゃない。

 

 部活と学習環境というキーワードがインプットされてしまったよ

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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