魔法少女マヂカ・200
凌雲閣から学校に戻ってくると、ノンコがむくれている。
「もー、三人でなんかやってきたやろ!?」
すっかり板に付いた京都弁が可愛らしい。
「もー、へらへら笑ろてんと、教えなさいよ。なんとなくは分かってんねんよ、礼法室から、どこか面白いとこ行ってきたんでしょうがあ?」
「エ、ナンノコトデスカア?」
「とぼけてもあかんよ、あんたブリンダやろ!?」
霧子が職員室に呼ばれたのをきっかけに詰め寄ってきた。わたしはマクギャバン米国大使のむすめのブリンダ・ウッズ・マクギャバンという触れ込みになっているけど、ノンコが剣のある声で言ってるブリンダは、オレの真名であるブリンダの方だ。
「ノンコ、カム ウィズ アス(*^▽^*)」
マヂカといっしょにノンコを連れ出す。
礼法室と思ったけど、午後の授業で使われるので、三人で音楽準備室に向かう。
「どうやら、気づいたのね」
「うちかて、魔法少女候補生や。それに、今度のタスクでは、うちのこと占い上手な野々村男爵の娘いう設定にしたでしょ。うち、ちょっと才能が開花したみたいやし(n*´ω`*n)」
「これは、話した方がいいな」
「ああ、そこに座れ」
三人でバスドラムの陰に周る。
「じつは……」
堀越二郎を救った話をする。堀越二郎なんて、並みの女子高生は知らない名前だ、ましてノンコ、ちょっと、いや、かなり説明がいると思ったら、すぐに納得した。
「ゼロ戦の設計やった人やんか!」
「え、知ってるのか?」
オレより付き合いの長いマヂカも驚く。
「『風立ちぬ』の主人公やし(^▽^)!」
そうか、こいつは、そう言う方面のオタクなんだった。
「ゼロ戦だけやないし」
「ああ、戦後は国産初のYS11の設計なんかもやってるしな」
「それだけとちゃうし」
「そうなのか?」
オレは、ゼロ戦を生み出すために堀越を救いに来たんだ。アメリカをさんざん苦しめたゼロ戦だけど、ゼロ戦が現れなかったら、日米ともに多くの男の運命が変わってくるんだ。
「戦後は、防衛大学の先生をやって、多くの防大出身者に影響を残すし、『宇宙戦艦ヤマト』でもコスモ・ゼロは出てけえへんことになるし、なんちゅうても『風立ちぬ』のアニメは作られへんし、『風立ちぬ』がでけへんかったら、うちみたいに触発されたり影響受けてアニメにハマる人間に影響が出るんよ」
「そ、そうなのか(^_^;)」
「それで、うちを外したんはなんでえ?」
「いや、それはな……」
「ノンコを連れて行くと、四人掛けのシートが埋まってしまって、堀越さんが座れなくなってね、とっさには助けられなくなるからなんだよ(^_^;)」
事実なんだが、マヂカも腰が引けているような感じだ。
占いに目覚めたノンコは、ちょっと無敵なのかもしれないぞ。
「そうか……ゼロ戦は三菱だし、三の数字が吉」
バスドラのドラムヘッド(皮)に『三』をなぞって納得するノンコ。
なんか、占い師的な貫録が出てきてないか?
トーーーーン
「任務は、これだけとちゃうね……」
小さくバスドラムを叩くと、ノンコは顔を向けてきた。
「そうなのか、ブリンダ?」
「ああ、じつはな……」
いくつか……いや、いくつもあるのだが、とても全部はできない。
どこまでやるかは、霧子の様子を見ながらマヂカとも相談しようと思っていたところだ。
「緊急性の高いもんからやらんとあかんわねえ……」
「なにを探してるんだ?」
ノンコは立ち上がると、準備室の楽器たちをチェックし始めた。
「うん、やっぱり、これが間に合いそう……」
一巡したノンコは元のバスドラムを指さした。
「ちょっと横倒しにしてくれへんやろか」
「大太鼓を横に?」
「そっとね……」
「これでいいか?」
椅子を二つ並べて、マヂカとバスドラムを差し渡すように横向きに据える。
「ええよ……」
ポケットから数枚のカルタを出すと、ドラムヘッドの上に並べた。
「いくよ……」
ドラムのバチを持つと、器用に持ちながらニンジャのような印を結び、オレには分からない呪文を唱えて、ドラムを叩いた。
ドーーーーーーン!
皮の上のカルタは生き物のように跳ねて、半分ほどが裏がえしになる。
裏返ったものを外して、残ったもので、再び叩く。
ドーーーン
さっきよりも小さく、しかし慎重に叩くと二枚が残り、さらに繰り返すと、一枚が残る。
「分かった」
「「何が?」」
ドラムの上に残ったのは、アメリカ人のオレには分からないが、昔の天皇のカルタ札だ。
「9月15日に飛ばんとあかん!」
震災の二週間後だ。
なんか、ノンコが開眼してしまったぞ。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手