大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:177『最初の子は流された』

2021-03-25 09:27:09 | 小説5

かの世界この世界:177

『最初の子は流された』語り手:テル(光子)    

 

 

 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 オノコロジマの産屋にイザナミの悲鳴が響き渡った。

「なにごとだ!?」

 岩陰に移って、最初に生まれるのは「男の子かなあ(^_^;)女の子かなあ(^o^;)」と心待ちにしていたわたしとヒルデは反射的に剣の柄に手をかけて産屋の窓の下に駆けつけた。

「あ……あれは!?」

 イザナミの足元には、まだへその緒が付いたままの……ちょっと表現するのも憚られるものが転がっている。

「ふ、二つか……?」

 さすがはヴァルキリアの姫戦士、それを見ても動じることは無かったが、どうにも判断しかねているようなのだ。

「一体は、手足も目鼻もない……もう一体は……」

 わたしも言葉にはできない。

 イメージとして浮かんだのは、まるで祖父が酒のつまみに好んでいた『いかの塩辛』だ。

 バラバラの体が粘液の中でグニャグニャと動いている。

 イザナギは妻の肩を抱くと、冷静に優しく諭した。

『女の方から声をかけたのが良くなかったんじゃないかなあ……』

『ナ、ナギ君……』

『ごめん、こういうことは男がリードしなきゃなあぁ、オレが気が回らずにナミに辛い思いをさせてしまったな』

『ごめんは、わたしの方よ、ちょっと焦ってしまって』

『よし、またやり直そう。とりあえず……まずは、この子たちだ』

 

「お、なにかやり始めたぞ!」

「声が大きい」

 

 あやうく気づかれそうになり、ヒルデの頭を押さえて身をかがめる。

 イザナギはアメノミハシラの葉っぱで洗面器ほどのボートを作ると、二人の赤ん坊を載せて海岸に向かった。

「この子はヒルコ、こっちはアハシマだ。海の向こうで幸せになってくれよな……」

「ごめんね、ヒルコ、アハシマ」

 葉っぱの船は、そよそよ、ゆらゆらと沖に向かって流れていく。イザナギ、イザナミは抱き合ってその行方を見えなくなるまで見送った。

「あれでいいのか……?」

「ちょっと待って」

 スマホで検索してみる。

「ああ、このあと、二人はアメノミハシラを巡って、子作りをやり直すことになる」

「流された子供が気になる……ちょっと、行くぞ」

「分かった」

 

 波打ち際に向かって助走し、ジャンプすると海鳥のように飛べた。

 

「あ、あれか?」

「あれは!」

 五カイリも飛んだだろうか、海は凪いでいるんだけども、そこだけ海面が泡立っていて、海の中で何かが暴れているような感じなのだ。

「上がってくる!」

 シュババーーーーーーーン!

 二つ飛び出してきた。

 一つは、ヒルコとアハシマが合体したモンスター、もう一つ、いや一人は……

「「ケイト!?」」

 それは、向こうの世界で別れて以来のケイトだ。

「トリャアアアアアアアア!」

 海中から打ち出されたミサイルのように上空まで飛び上がったケイトは弓をつがえていて、水の抵抗が無くなるのを待ち構えていたんだろう、気合いと共に矢を放つ。

 矢は過たず、哀れなクリーチャーとなり果てた神の子を射抜いた。

 グオオオオオオオオオ

 口の無い体のどこから出てくるんだと言う悲鳴を上げて、神の子は海上に落ちてしまった。

「トドメだあああああああ!」

 ケイトは弓をタガーに変換し、両手で構えると、自分を一本の銛にしたようにダイブアタックをかけた。

「待てええええ!」

「テル!」

 わたしは、反射的に剣を構えるとケイトのタガーに打ちかかっていった。

 ガキーーーン!

 火花が散る。

 なんとかケイトのアタックをキャンセルする。

「何をする!」

「おちつけ、ケイト、わたしだ! テルだ!」

「テ、テル!?」

「ああ、テルだ! 見ろ、ヒルデもいるよ!」

「ケイト、無事だったか!」

「ヒルデ! テル! さ、探したよおお! 寂しかったよおおおおおお!」

 懐かしさのあまり三人でハグすると、団子になって、そのまま海に墜ちてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草53『仁和寺の法師つづき』

2021-03-25 06:49:38 | 自己紹介

わたしの然草・53
『仁和寺の法師のつづき』   




徒然草 第五十三段

 これも仁和寺の法師のことです。

 童の法師にならんとする名残とて、おのおのあそぶ事ありけるに、酔ひて興に入る余り、傍なる足鼎を取りて、頭に被きたれば、詰るやうにするを、鼻をおし平めて顔をさし入れて、舞い出でたるに、満座興に入る事限りなし。

 仁和寺とは、京都市右京区御室にある、真言宗御室派の総本山。遅咲きの八重桜などが有名で、よくドラマのロケにも使われています。あまり知られていませんが世界文化遺産だったりもします。
 この仁和寺の法師の話は前段のほうが有名なのですが、この段も面白い。
 仁和寺のお稚児さんが目出度く正規のお坊さんになれるので、知り合いの仁和寺の坊主たちが集まって祝賀会を開きました。そのうち酔っぱらった坊主が、足鼎(三つ足の鍋みたいなの)を頭に被って踊り出します。  
  

 当時のお稚児さんというのは、かわいいもので、坊主たちは、しばしば女の子のように、そういう対象にしていました。この坊主もそんなお稚児さんの気をひきたかったのかもしれません。
 で、酔いが覚めて、その鼎を外そうとしても、顎や鼻が引っかかって外れなません(;゚Д゚)。むりやり引っこ抜くと、鼻ももげて、傷だらけになったという笑い話。
 しかし、よく考えると、鼎というのは口が広く、底の浅いものなのである。なんたって鍋のようなモノであります。被っても鼻のあたりまでくるぐらいのもので、口が広いので、被って抜けないということはあり得ません。

 要は、坊主の与太話なのだと思います。針小棒大というか、宴会で坊主がハメを外して鼎を被った話が大きくなっただけのもの。今風に言えば都市伝説でしょうね(^_^;)。

 こんな都市伝説があります。

 前世紀の末、まだ携帯電話が普及していなかったころの話です。あるタレントAさんが車でテレビ局に向かう途中、渋滞に巻き込まれてしまいました。とても本番には間に合いそうにない。そこで、車を降りて、公衆電話で放送局に電話をしました。
「ごめん、道路が渋滞でさ、ちょっと間に合わないよ……」
 渋滞と言っても、車の流れは少しずつ動いています。後続の車からクラクションを鳴らされ、このタレントさんは、早口で事情だけを話して、車にもどります。

 で、この早口がアダとなりました。

 電話を受けたテレビ局のオネエサンは、彼の早口と、興奮が憑りうつってしまい、担当のADに内線で、こう伝えました。
「Aさん、交通渋滞で間に合いません!」
 で、これが、伝言ゲームのようにディレクターの耳に入るころには、こうなります。
「Aさん、交通事故で重体で……」
「なんだって!?」
 警察に問い合わせたり、代役の手配、報道部では「Aさん、交通事故で重体!」のニュース原稿まで用意しました。
 で、大騒ぎの真っ最中、当の本人がひょっこりスタジオに姿を現し、みんなびっくりしたり、笑ったり。マネージャーも連れずに、名前のあるタレントが一人で放送局にくることなど、まず考えられず。これは仁和寺の法師の話と同列でしょう。

 こんな話もあります。

 ある高校生が夏休みに免許をとり、うれしくなって親父の車を借りて街に出ました。携帯で仲間を呼び、同乗者が増えた。五人になったところで困ってしまった。運転している高校生を入れると六人になり、乗り切れない。そこで、一人は車のトランクに入った。体の硬いやつで、みんなに手伝ってもらって、やっとトランクに収まった。

 これを近くで見ていた人が勘違いした。

 ――あ、拉致されてる!

 で、その人は警察に通報しました。パトカー五台と、ヘリコプターまで出動するという大騒ぎになってしまいました。一時は、府警本部の記者クラブまで話がいき、夕方のトップニュースになるところでありました。
 幸い、免許取り立てのヘナチョコ運転、すぐにパトカーに捕まり、ことの真相が明らかになりました。
 明くる日、担任の教師共々警察にお詫びに行って、お灸を据えられただけで、メデタシメデタシ。
 これ、都市伝説ではありません。わたしが現職だったころ、実際に起こった事件なのです(^_^;)。
 しかし、これを読んだあなたが、だれかに話し、そのだれかさんが、また他のだれかさんに話すころには、いろんな尾ひれが付いて、立派な都市伝説に成長しているかもしれません。

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真凡プレジデント・32《うちの学校の一大事・2》

2021-03-25 06:32:34 | 小説3

レジデント・32

《うちの学校の一大事・2》  

 

 

 

 いろんなことが重なった。

 

 その子は、入試が終わって、あそこどうだった? そこはどう? と入試の手ごたえを友だちと話し合った。

 その手応えで合格間違いなし! そう思ったら落ちてしまった。

 それで、答案の開示を学校に求めたところ採点ミスが一か所あった。ただ、そこを正解にして加点しても、その子は合格圏に入ることは無かった。

 それで一度は納得しかけたんだけど、国語の問題で正解と思って書いた答えが間違いにされていた。

「え……うそ?」

 おかしいと思って、その子は塾の先生に問題を見てもらったところ「君の答えでも正解だよ」との返事を得た。

 学校は教育委員会が制作した問題で、採点も教育委員会の模範解答と採点の方針に従っていて、その点で間違いはない。

 

「全員の答案を見直してください!」

 

 その子の申し入れがあって、学校は時間をかけて全員の答案を見直しにかかった。

 塾の先生は、広く塾の連盟や大学の教授などにも問題の鑑定を依頼して、その子の解答が間違いでない確証を得た。

 だけど、一度出てしまった結果を覆すのは時間がかかる。

 一年以上たった先月。学校と教育委員会は間違いを認めて謝罪したらしい。

「ひどいよね、これ!」

 なつきが机を叩いて会計のプレートがでんぐり返りそうになる。

「お茶淹れるとこだから、あまり興奮しないでね(^0^;)」

「ポテチが出てきちゃう(^_^;)」

 書記の綾乃が置きかけた急須を胸の高さまで上げて、みずきがポテチをかき集める。

「この子、うちの学校に入れるべきだよ!」

 自分もギリギリの成績で入っているので、なつきは義憤を感じているんだ。

「まあ、それは、この子の気持ち次第だろうね」

「そうね、もう一年もたっちゃってるから、その子も、今の学校に馴染んでるだろうし……もう、お茶淹れていいかなあ?」

「あ、ごめんごめん」

「じゃ、学校訪問の総括を……」

 わたしは、議案の話題に舵を切りなおした。

 学校にとっては不名誉なことだけども、それは、先生や教育委員会の問題で、生徒会にとっては休憩時間の茶飲み話にすぎないからね。

 

 でも、その後の展開で、とんだ副産物が出てきた。

 

 なんと、合格した生徒の中で、その子の代わりに不合格になってしまう者が出てきてしまったのだ!

 もう、一年以上も中町高校の生徒としてやってきているので、今さら「君は不合格なんだ」とは言えずうやむやにしてきたのが、ネット社会の恐ろしさ、外部に漏れてしまった。

  そして、その本来なら不合格になっていた生徒が……義憤を感じて机を叩いた橘なつき自身だったのだ。

「わたし……やっぱバカだから」

 見る影もなくなつきは落ち込んでしまい、わたしは親友としてもプレジデントとしても放っておけなくなった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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