大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・29『この人と結婚する!』

2021-03-10 09:12:33 | 評論

訳日本の神話・29
『この人と結婚する!』    

 

 

 スサノオは気に入りません。

 なんせ、一人娘が、どこの馬の骨とも知れない男と結婚したいと言うのです!

 男は、スサノオから数えて五代目(六代目?)の子孫ではありますが、父親にとって娘が好きな男と言うのはカタキ同然ですなあ。

「お父さんはな、そんな下衆な気持ちで言ってるんじゃないぞ。このオオナムチという若造は主体性がないくせに、女には目の無いスケベエ野郎だからだ!」

「ひどいわ、お父さん! なんで、会ったばかりのオオナムチを悪く言うのよ!」

「お、おまえ、こいつは、たった今、うちの家の前に来たばかりの奴だぞ」

「そうよ、でも、わたしには分かるのよ、女の直感。お父さんこそ、会ったばかりのオオナムチをひどく言わないで!」

「俺は経験から言っとる、こいつはやめとけ」

「なんでよ!」

「こいつは外面いいだけの優男だ。言い寄って来る女ならなんでもありにくっついてしまうヒッツキ虫みたいなやつだ、苦労するのは目に見えている。やめとけやめとけ!」

「ひどい、なにを根拠に!?」

「おい、アシハラノシコオ」

「そんな名前で呼ばないで、この人の名前はオオナムチよ!」

「こいつがオオナムチならオマエハムチだ! よっく聞けよ、こいつには、すでにヤマガミヒメって嫁さんがいるんだ。ヤマガミヒメは兄のヤソガミどもを袖にして『わたしの夫は、この人です』って惚れ方だったんだぞ、その新婚間もないヤマガミヒメをほったらかしてくるような奴を信用できるか!」

「あ、お言葉ですけど……」

「なんだアシハラノシコオ!?」

「おれ、兄貴たちに殺されそうになって、てか、殺されたんすよ。お袋のサシクニワカヒメが一生懸命祈ってくれて、なんとか生き返って、そいで、これはヤバイってんで木の国に逃げたんすけど、しつこい兄貴たちは、すぐに追いついて来て、木の国のオホヤビコの神が、この堅州国(かたすくに)に逃げろって、そういう指示に従って、やってきたら、このスセリヒメさんが……ね、これって……」

「そ、運命よねえ(n*´ω`*n)」

「あのなあ、そのダラダラした喋り方も気に入らねえが、その主体性のない人任せってところが、父親としては、めっちゃ心配なんだよ」

「お、お父さんの主体性って、ただのやんちゃ坊主の我がままだったじゃない! 高天原メチャクチャにして、アマテラスの伯母さんこぼしてたわよ!」

「そんな、昔の事を引き合いに出すな」

「お父さんだって、無茶やってきて、人の事言えないってゆーのよ!」

「そうだろうけど、オレは、ヤマタノオロチとかやっつけて、試練を潜り抜けて帳尻は合わせてきたぞ」

「オオナムチだって、ヤソガミたちの試練を潜り抜けて……」

「そんなもん、ほんの序の口……そうだ、このスサノオが試練を与えてやる。それを乗り越えられたら……考えてやらんこともないぞ」

「お父さん、目が怖いよ……」

「どうだ、アシハラノシコオ……」

「あ、いいっすよ」

「ちょ、オオナムチ!?」

 オオナムチの試練が始まった……。

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真凡プレジデント・17《最初の決断》

2021-03-10 06:29:10 | 小説3

プレジデント・17

《最初の決断》  

 

 

 

 女子と言うのは気持ちが傾斜してしまうものなんだ。

 

 嫌いと思うと、相手の全てが許せない。そいつの言動ばかりじゃなくて、歩き方から息の仕方まで気に入らなくなる。

 逆に、好きになってしまうと、そいつがやることなすこと全てが素敵で肯定的なことのように思える。

 

「わたしで良ければやるわよ」

 

 この世の終わりみたいな気持ちで教室に戻ると、北白川さんが「なんかあった?」と聞いてくれ、ドーナツ型座布団(カバーがかかってるから普通の座布団に見える)に注意深く座りながら書記と会計の話をすると、ポンと胸を叩いて引き受けてくれた。

「なになに?」

 その時教室に戻って来たなつきも「橘さんもやってよ!」と、北白川さんに言われ、詳しく聞く前に引き受けてくれた。

「そんな、いっしょにお昼食べるみたいなノリで」

「お昼なら買ってきたよ、中谷先生に呼び出されてたみたいだったから」

 購買のレジ袋をデンと置いてくれるなつき。

「あ、ありがとう!」

 もう遠慮なんかいらない! スキーのジャンプ台みたいに傾斜した善意のスロープを滑り降りる。

 しかし、着地点を間違えた。

 うっかり隣の席に腰かけたものだから、断末魔のニワトリみたいな悲鳴が出てしまった。

 ギョエーーーー!!

 

 決まってしまってから悩んだ。

 

 書記の加藤さんと会計の吉田さんは居なくなったが、副会長の福島みずきさんが居る。

 わが一組とは正反対の校舎の端っこ、六組の人だ。

 同じ校舎でも生活圏は階段に寄って分かれる。二つ階段を隔てた六組とは、ほとんど行き来が無い。

 立候補を決めてから二度ほど顔を合わせたけど、あいさつ程度のやりとりしかない。わたしも彼女も自分のことで精いっぱいということもあるんだろうけど……、中谷先生が「会長が職務権限で欠員補充の者を指名」と言ったし、ありがたいことに北白川さんとなつきが前のめりに引き受けてくれたので飛んでしまっていた。

 福島さんにも相談すべきだった。最低でも声はかけるべきだったろう……。

 グズグズしているうちに放課後になってしまった。

 終礼もそこそこに六組にいこうと思ったが、認証式の時間が迫っている。二人もやる気満々なので、気後れしているうちに階段を下りて校長室に向かった。

「あ、田中さん」

 なんと、福島さんの方から声をかけてきてくれた。

「あ、あの……」

「そちらが書記さんと会計さんね」

「はい、わたしが書記の北白川。こちらが会計の橘さんです」

「どうぞよろしく。先生から聞いた時はビックリして、そいで、急きょ書記と会計を決めなきゃならない田中さんを気の毒に思って……正直、わたしが会長だったら、こんな急には対応できなかった。さすがプレジデントに相応しい人だと思った」

 福島さんの視線は、手に盛った座布団のPRESIDENTの刺繍を向いている。

「そうだ、わたし、こういうの好きだから、みんなの座布団作っていいかな?」

 

 新執行部の最初の決定事項は、おそろいの座布団を作ることになったのだ。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

 

 

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