大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・201『憲兵大尉』

2021-03-09 09:48:52 | 小説

魔法少女マヂカ・201

『憲兵大尉』語り手:マヂカ    

 

 

 礼法室の階上から凌雲閣の地下に下りた。

 凌雲閣は震災で大破して、陸軍の工兵隊の手によって爆破処理されて、震災の明くる年である大正13年には影も形も残っていない。しかし、爆破のショックで時空にずれが出来たせいか、地下部分が女子学習院礼法室と繋がってしまったのだ。

 むろん、誰でもが行けるわけではなく、魔法少女の他は普通の人間では高坂霧子だけだ。

「どうやら、このドアだな」

 エレベーターを取り巻くようにして並んでいるドアから、ブリンダは四番のドアを選んだ。

 エレベーターを含む地下部分は米国式なので、ブリンダの勘が冴えるのだ。

「ん……ちょっと重いな」

「鍵がかかっているんじゃないのか?」

「いや、そんな気配は無い」

 ブリンダと二人で押したり引いたりしてみるが、ドアはビクともしない。

「あ、なにか挟まってるわ」

 ノンコが蝶番のあたりを指さす。

「どこどこ?」

 霧子が覗き込むが、ちょっと分からないようだ。

「呪(しゅ)がかかってる、人には見えへんねやわ」

「だったら、ノンコが取ってやれば」

「うーーーーーん……見習いの力では取れへんみたい」

「どいてみろ……紙切れが挟まってる……たしかに呪がかかってるな。マヂカ、手伝え」

「うん、わたしは下からやるよ」

 ブリンダと二人蝶番の上下から解呪の魔法をかける。

「……よし、取れた」

「本のページだな」

「英語?」

 「Das Kapital」  

「ダス カピタル」

「マヂカの英語訛ってるで」

「英語じゃない、ドイツ語だよ」

「あ……」

「心当たりがあるのか、霧子?」

「ううん」

「ま、開いたんだ。行くぞ」

 ブリンダに続いて、四人で向かったドアの向こうは震災後の9月15日のようだった。

「どこらへんやろか?」

 ノンコがキョロキョロする。

 あたり一面瓦礫の山で、火災こそ収まっているけど、煙の臭いが濃く、死臭や腐臭が混じっている。

「二人とも、ハンカチで口を押えて」

「う、うん……」

 わたしとブリンダは平気だろうが、霧子とノンコはたまらないだろう。

「神田か日本橋のあたりだと思うわ」

 霧子が、焼け残っている建物や市電の軌道から見当をつけた。

 人の行き来はまばらで、たまに見かける人影は、大荷物を背負っていたり、大八車を曳いていたりしている。

「みんな、あちこちに避難してるんだわ。やっと戒厳令が解かれたころ……上野公園あたりは人で一杯のはずよ」

「上野に行ってみる?」

「とりあえず」

 瓦礫の角を曲がると緩い坂道の向こうに日本橋の狛犬が見えてきた。

「高速道路が走ってない日本橋って新鮮やなあ」

「高速道路?」

「何十年かすると、橋の上を自動車専用の道路が走って橋の上は薄暗なってしまうんよ」

「へえ、そうなんだ」

 狛犬の歯並びまで分かるようになったころ、後ろから声をかけられた。

「君たち、どこへ行くんだね?」

 え?

 振り返ると、漆黒の襟章を付けた将校が立っている。

 漆黒の襟章は憲兵、階級章は大尉だ。目深にかぶった軍帽のツバのせいで表情が読めない。

 戦前の憲兵は怖い、さすがの霧子も顔が強張っている。

「わたしたち、女子学習院の生徒なんです。被災者救護補助の為に上野公園に向かうところです」

 我ながら、スラスラと嘘が出てくる。

「そうか、それは感心なことだ。しかし、もうじき摂政殿下が御視察の為にここを通られる。規制が入るから、早く立ち退きなさい」

「はい、承知いたしました」

「お役目、ご苦労様です」

 四人揃ってお辞儀をすると、憲兵大尉は綺麗に敬礼を決めて、わたしたちを追い越していく。

「……あなたは!?」

 霧子が声を漏らすと、橋に差し掛かった憲兵大尉がゆっくりと振り返った。

「見破られてしまったかな……」

 軍帽を気障に脱いで見せた顔には見覚えがある。

「新畑さん!」

 あ、あの団子坂! インバネスの男だ!

「摂政殿下がお通りになるのは本当だよ、気を付けなさいということもね」

 そう言うと、再び憲兵大尉に戻って、足早に橋を渡っていった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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らいと古典『わたしの徒然草・42 気の上る病ありて』

2021-03-09 06:10:14 | 自己紹介

わたしの徒然草・42
『第四十二段 気の上る病ありて』   



 唐橋中将といふ人の子に、行雅僧都とて、教相の人の師する僧ありけり。気の上る病ありて、年のやうやう闌くる程に、鼻の中ふたがりて、息も出で難かりければ、さまざまにつくろひけれど、わづらはしくなりて、目・眉・額なども腫れまどひて、うちおほひければ、物も見えず、二の舞の面のやうに見えけるが、ただ恐ろしく、鬼の顔になりて、目は頂の方につき、額のほど鼻になりなどして、後は、坊の内の人にも見えず籠りゐて、年久しくありて、なほわづらはしくなりて、死ににけり。
 かかる病もある事にこそありけれ。

 これは一見、週刊誌の都市伝説記事のようであります。
 それもトップ記事ではなく。余った紙面の埋め草のような記事ですねえ。

 唐橋中将という、ちょっと偉い貴族の息子で行雅僧都(僧都とは、偉い坊さんのこと)という気の短い人がいて、歳をとるにつれて顔面が腫れ崩れる病気を患った。
 しまいには鬼のような顔になり、人目を避けて暮らしていたが、間もなく亡くなってしまった。
 世の中にはケッタイな病気もあるもんだね。

 あっさり読むと、これだけのことであります。しかし還暦を来年にひかえたわたしには違った意味にとれる。
 わたしは子どものころから自分の容貌(スガタカタチ)には自信がありませんでした。ヒョロリと背だけが(子どもとしては)高く、筋肉がほとんど無く、同年配の男の子に比べ、あきらかに貧弱でありました。
 おまけに顔が良くない。目は、よく言えば「彫りが深い」 有り体にいえば落ちくぼんで、目の下にはいつもクマが出ていて、徹夜明けのようなご面相。
 小学校の高学年のころ母が、三面鏡を買いました。そして、生まれて初めて自分の横顔を見た、見てしまいました(;゚Д゚)!
 人類の顔だとは思えませんでした。額の下はフランケンシュタインのように落ちくぼみ……そう言えば、思い出しました。五年生のころクラスのアクタレに「フランケン」というあだ名で呼ばれていたことを。
――このことだったのか……!?
 鼻から下は、野坂昭如に似ている。野坂氏には申し訳ないが、人前に出るのが嫌になりました。
そのせいで、このころのわたしの写真は、クラスの集合写真ぐらいしか残っていません。極端な写真ギライでありました。
 目の落ちくぼみと同時に発見したのが、チョー絶壁の後頭部。つむじのあたりから、切り落としたように頭が無いのです。
 今、そのころの数少ない写真を見ると、気にするほどじゃないと思います。
 だれでも、思春期のころは変わりゆく自分のスガタカタチの欠点ばかり目につこものです。で、ここまでは笑って済まされることです。

 大人になって、芝居をするようになると、自分の顔がどうやったらマシに見えるか気が付きました。少し斜めに構えた笑顔がいいことに気づき、舞台での顔の向け方、表情の作り方を工夫するようになりました。
 三十代になってからは、このアングル、表情を利用して見合用の写真を何十枚も撮った。「え、大橋さんですか?」
 見合いの冒頭に相手の女性に言われることもありました(^_^;)。しかし、教師と役者の二足のワラジであったので、喋ることや、相手から話を聞き出すことはたくみで、その縁で今のカミサンといっしょになりました。

 さて、笑って済まされない本題であります。
 わたしは五十を過ぎてから鬱病を患いました。五年のあいだ通院とカウンセリングと休職をくり返しました。人と接触することもひどく苦手になり、とうとう鏡で自分の顔を見ることもできなくなりました。
 退職前の三年間が特に重篤で、家人がいない時は電話線も抜いていておりました。
 そして退職を決意し、その書類を整え、退職が決まると、快方に向かいました。名実共に退職が決定した年の三月末日に床屋に行きました。実に五年ぶりの床屋です。

 ……そこで五年ぶりに自分の顔を見た、見てしまいました。 行雅僧都ほどではありませんが、自分の変貌ぶりに唖然としました。そこには知っている自分より十歳は歳を食った顔がありました。顔の肉が垂れ下がり、頬齢線(ほうれいせん)は深く、あちこちに老化によるシミの兆しさえあります。何よりも目に光がありません。
 
 その後、縁あってT高校の演劇部のコーチをやりました。もう、表情は使い分けられるようになっていました。
 ある日、稽古中に役者の生徒が一人いなくなりました。トイレかな……と、思っていたら、あとで顧問の先生に言われましたた。
「大橋先生の目が怖くて、稽古場におられません……やて」
 

 いやはや…………

 

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真凡プレジデント・16《ドーナツ型の座布団》

2021-03-09 05:37:14 | 小説3

プレジデント・16

《ドーナツ型の座布団》  

 

 

 朝の食卓、わたしの定位置に座布団が置いてある、それもドーナツ型。

 

「え、なんで?」

 両親は揃って出張なので、置いたのは、起き抜けのスッピンでもわたしよりの美人の美姫お姉ちゃんだ。

「そのまま座ったらオケツ痛いから」

「そ、そう、ありがと……おお」

 なるほど尾てい骨が穴に収まって、とても具合がいい。

「ちょこっとだけ政治部にいた時、先輩にもらったの。いやあ、仕舞い込んでたから探しちゃった。ほら、もう一個紙袋にも入ってるから、学校で使いな」

「学校で使うの?」

「学校の生徒机って、尾てい骨骨折すること前提に作られてないから」

「でも、なんかなあ……」

「真凡、今朝座ったのはトイレの便座だけだろ、試しに、そこ座ってみな」

 お姉ちゃんが指差した、いつもならお父さんが座ってるところに腰を下ろす。

「ヒエーーーー!!」

 お尻を抑えて跳び上がってしまった。

「ね、お姉ちゃんの言ったとおりだろう(^▽^)/」

 嬉しそうに言わないでほしい。

 

 学校で使う方は座布団カバーが掛けてあった。

 一見しただけでは普通の座布団で、ドーナツの穴の部分が見えないようになっている。

 

「へーー、会長になると座布団が付くんだあ!」

 なつきが、あどけなく感心してくれる。北白川さんは、知ってか知らでかニッコリ笑うだけ。

 椅子にセットして気づいた、座布団カバーにはPRESIDENTと刺繍がされている。失業中とはいえお姉ちゃんも暇なやつだ。

 今日は放課後に生徒会新役員の認証式がある。

 認証式は二回あって、最初のが、今日行われる校長先生からの。二度目は、後日全校生徒の前で行われる。ま、二度目は一般生徒に生徒会の存在を自覚させるためのセレモニーだ。

 むろん新執行部による生徒会活動は、今日の認証式から始まる。

 

―― 二年一組の田中真凡さん、職員室中谷のところまで来てください、繰り返します…… ――

 

 なつきと食堂に行こうと思った昼休み、中谷先生に呼び出された。

「実は、書記の加藤さんと会計の吉田さんが事情で辞退なの」

「え、選挙やったばかりで?」

 二人は立会演説でも、わたしよりも強い意気込みで立派な演説をしていた。それが、どうして? 

「二人とも急な家庭事情で引っ越すらしいの、今朝早くに電話があって、むろん電話で『はいそうですか』というわけにはいかないから、担任と藤田先生が家まで行ってるんだけどね、もう、引っ越した後で行方も分からないって」

「二人そろってですか?」

「うん、ここだけの話だけど、二人は苗字は違うけど姉妹なの、深い事情は私にも分からない。藤田先生は、もう少し調べてからとおっしゃるんだけど、生徒会を開店休業にしておくわけにもいかないからね」

「それで、わたしに?」

「生徒会規約48条に、任期中に執行部に欠員が生じた場合は、会長が職務権限で欠員補充の者を指名できるとあるの」

「それって……?」

「そこでお願い、放課後までに、あなたの知り合いでやってもらえそうな人、連れてきてくれないかな」

「え、ええ!?」

「声大きい、詰めて話したい……この椅子に座って」

 先生は、ガラガラと空いている椅子を据えた。わたしはチョー真面目にまなじりを上げ一文字に口を結んで椅子に掛けた。

  ウグ……!

 さすがに声を上げることは無かったが、痛さのあまり、みるみる目に涙がうかんできた。

「ごめん、田中あー、負担かけるけど、よろしく頼むわ~」

 痛みに耐えきれず、少しでも早くお尻を浮かせたい一心でコクコク頷くしかないわたしだった……。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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