大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・18『我が街のことから』

2021-03-14 09:32:26 | エッセー

 エッセーノベル    

18・『我が街のことから』   

 

 

 阪神大震災の前の年に所帯を持って今の家に越してきました。

 

 行政区分で言うと、大阪府八尾市の高安あたりになります。

 俗な言い方をしますと河内のど真ん中です。ちょっと距離のある近所に中河内最大の前方後円墳である心合寺山古墳がありますから、古代から河内のマンナカなのでしょう。

 全国的な評判で言いますと、荒っぽいと言うか元気がいいと言いましょうか、平たく言いますと、日本でも有数のガラの悪い地域と認識されていましたし、今でもそういうイメージをお持ちの方が居られるでしょう。

 じっさい、心合寺山古墳よりはるかに近い近所に近東光が和尚をやっていたお寺がありますし、街ぐるみ今東光の『悪名』の舞台であったりします。

 軍鶏と書く勇ましい鶏がいます。肉にもしますが、河内では格闘用に飼育される鶏で、まさに軍隊の兵隊のように闘います。網で囲った輪の中に二羽の軍鶏を放って闘わせます。むろん、ただ闘わせるのではなくてお金を賭けます。闘鶏といいます。娯楽と博打を兼ねた河内の文化でもありました。『悪名』も、この闘鶏の描写から始まっていたように思います。河内のあちこちで行われていましたが、今はもう伝説になっていると思います。映画の『悪名』の他はNHKの『新日本紀行』の映像で見たきりです。

 大学生のころ、所用で、その近所のS女子高の先生を訪ねに行ったことがあります。その女子高は東光和尚に「嫁さんにするんやったら、S高校の卒業生やろなあ」と言わしめた学校です。

 訪ねた時間帯は、放課後をちょっと過ぎた時間帯で、下校する生徒の流れに逆らって歩きます。道は玉櫛川の沿道で、道幅は三メートルもありません。部活の用事で他校を訪れることはしばしばだったのですが、他校とは違う圧を感じたことを憶えています。制服も頭髪もきちんとしていて普通なのですが、吸って吐く空気の量が多い感じで、マンガ的大げさで言うと、彼女らに空気をとられて狭い道は摂津の優男には息苦しいという感じなのです。

 学校に着くと、先生の居られる化学準備室を訪ねます。

 ちょうど掃除当番が終わったところで、数人の生徒が掃除完了の報告に来ました。

「お、男!?」

「こら」と先生。

「せん、掃除終わったし」

「ごみほりやったか?」

「え、まだええんちゃうん?」

「半分でも溜まってたらほりに行く」

「はーい(横の相棒に)、ちょ、おまえ付き合え」

「え、あしも?」

「ったりまえじゃ、当番やろがあ」

「せん、また、なんか奢ってなあ(^▽^)/」

「駅前にケーキ屋できたしい」

「期末でオール5取れたらなあ」

「いやあ、死んでも無理!」

「いっぺん死んでこい」

「きっつー!」

「もう、さっさと行け」

「「「「失礼しました」」」」

 バタン(ドアが閉まる)。

 ドアの向こうでワイワイ賑やか「で、あの男なんやろなあ」「おまえ、趣味かあ」「おお?」的なお喋りがフェードアウトしていく。

 文字に起こすと乱暴なのですが、圧はあっても威圧感はありません。先生に喋る時も「あ、男!?」と感心を持つときも、しっかり対象物に目線が向いています。

 ちなみに「せん」と言うのは「先生」のことです。言っている本人は「先生」と言っているつもりなのですが、知らない人には「せん」と聞こえます。落ち着いている時は「せんせ」、甘える時は「せんせえ」と言います。

「あし」は「あたし」の意味で、時に「わし」になります。本人は「あたし」「わたし」と言っているつもりで、地元の人間が聞くとちゃんと「あたし」「わたし」と聞こえています。

 司馬遼太郎さんがエッセーで書いておられました。

 司馬さんは八尾の北方の八戸ノ里にお住まいでした。高安からは二つほど北隣の街になります。

 散歩の途中、近所の若奥さんに「こんにちは」とご挨拶された時の事です。

「河内に落ちてまいりましたが、近頃は……」

 と、最近は慣れてきたという話をされました。この若奥さんは東京あたりから来られた人で、河内の風土は、ちょっと堪えた風がありました。思わず「落ちた」という表現をなさいましたが、この人が感じたカルチャーショックを現すもので、司馬さんはそのショックのおかしさを愛でておられたように思います。

 まあ、他の地方から見れば荒々しい気風であると思われて敬遠される風がありましたし、イメージとしては、まだそのままなのかもしれません。

 わたしは、河内に隣接する摂津の出身ですので、先述の若奥さんのようなショックを受けることはありませんでした。

 駅前には『美人館』という散髪屋さんがあります。ちょっと意表を突く屋号ですが、これは東光和尚が、店の女主人に頼まれて半世紀以上前につけたままです。

 悪名の主人公朝吉のモデルのおっさんは、この街が地元です。友人が地元の府立高校に通っていたのですが、ある日学校行事の講演会にやってきた爺さんが、このモデル氏だと分かって、生徒は男子も女子も大感激であったそうです。

 我が街の昔の空気から、現在(いま)を書いてみたいのですが、書き出すと、いろいろ出てきます。

 次回に続きます。

 

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らいと古典・わたしの徒然草46『強盗法印』

2021-03-14 06:15:48 | 自己紹介

わたしの然草・46
『強盗法印』     



徒然草 第四十六段

 柳原の辺に、強盗法印と号する僧ありけり。度々強盗にあひたるゆゑに、この名をつけにけるとぞ。

 上京区の柳原のあたりに、強盗法印と、あだ名を付けられた坊主がいる。度々強盗に遭うため、こんなあだ名が付いたそうだ。

 口語訳するとこれだけであります。

 いろんな人が意訳しておれれます。この坊さんは優しい人で、貧しい人を見れば、放っておけず、身ぐるみ脱いで与えてしまう。寺にかえって「どうなさったんですか!?」と、聞かれると、「いや、そこで強盗に遭っちゃってさ……」と、はにかみながら誤魔化していた、という人情話めいたものから、しょっちゅう強盗に遭っている不用心な間抜けな坊主である。というものまで。

 この段は、前の四十五段と対になっており、あだ名のおもしろさを言っているのだと思います。四十五段の「榎木の僧正」が、気短で了見の狭い坊主のことを言っているので、この「強盗の法印」は逆のイメージの坊主のことを言っていると受け止めるとバランスがとれるのですが、たった二行では、まったくの想像にしかなりません。

 あだ名については、前号で書いたので、ここでは話を広げて名前について、タワムレに考えてみたいと思います。

 中宮定子は、学校では「ていし」と習いました。もう五十年前の話です。そのころNHKの歴史教養番組で、「さだこ」と読んだ説が有力であると聞いて、教育実習で「さだこ」という説もあると言って、担当の先生に叱られました。
 今は「~子」と書いて「~し」ではなく「~こ」と読むのが主流になりつつあるようで、その後制作されたNHKの大河ドラマ『平清盛』では、女性の名前を「~こ」と呼んでいました。
 NHKの大河ドラマは、第一作『花の生涯』から観ています。実に六十年間……日本史の教師になろうと思ったのが、この番組ですので、わたしには意義深い番組であります。
 歴代の大河ドラマの中で、固有名詞の言い方が変わってきました。パッと思いつくもので、秀吉のカミサンの名前が「ねね」から「おね」に変わりました。浅井長政が「あさい」から「あざい」になりましたし。記憶は定かではないのですが「定子」のたぐいは再び「ていし」と呼んでいたような気がします。

 平安時代からは千年ほどもたってしまったので、当時の日本語でドラマをやるわけにはいきません。ちなみに、平安時代は濁音の前には「ん」が入ります。ゆうべは「ゆんべ」 そうだは「そうんだ」になり、前半分の「そう」が弱くなり「んだ」になる。勘のいい人はお分かりになるでしょうが、東北弁にこの音則が残っています。東北弁こそが、原日本語の姿を多く残していると言われるのです。そのせいか、東北弁を聞くと、なぜか心がゆったりとくつろいできます。『スゥイングガールズ』は、この東北弁でなければ、あれだけの人気は出なかったでしょう。また『三丁目の夕日』のロクちゃんの堀北真希は、東北弁であったればこその存在感でした。実際彼女がこの役に抜擢されたのは東北弁に堪能であったからだそうです。

 話がそれています。要は「定子」を「ていし」と読む感覚です。この読み方は、古くは本居宣長あたりに由来すると思うのですが、それをそのまま二百年以上、そのままに受け継いできた学者先生の感覚は、普通の日本人の感覚からはズレているように思います。古典に関しては素人のわたしなので、いわゆる有職読みの規則は分かりません。しかし分からないことは強いことでもあります。飛躍するようですが、分からなかったこそ、学校で唯物史観を刷り込まれることもありませんでした。だから、日の丸、君が代には、優等生的な偏見がありません。

 名前でいうと、西郷隆盛の名前は隆盛ではありません。「隆永」というのが本当の諱です。明治になって戸籍が新しく作られるとき、西郷さんは忙しいので友人に役所に行ってもらいました。で、江戸生まれの戸籍係は、こう聞きました。
「西郷さんの諱(いみな=普段使わない本名)はなんですか?」
「セゴどんの 諱なあ……隆盛じゃっどん」
 と、うろ覚えで答えました。 諱などは、めったに使いません。西郷どんは通称吉之介で、日ごろは『吉之介さー』と呼ばれています。
「おいの 諱は隆永じゃっど。隆盛は祖父様の諱じゃ。アハハ」
 で、すんでしまいました。弟の従道にいたっては、もっと傑作です。
「では、西郷さんの弟君の諱は、なんと申されますか?」
「あれは、隆道(たかみち)じゃっどん」
 これが江戸っ子の役人には聞き取れません。で、役人は聞き返しました。
「音読みするれば、リュウドウじゃ」
 役人は、これをジュウドウと聞き間違え「従道」と、なりました。
 以上は、司馬遼太郎さんの文章を読んで覚えたことですが、日本人の名前に対する感覚が象徴的に現れていると思うので紹介しました。

 話が、飛んで申し訳ありませんが、いまの子たちのムツカイ名前はなんとかならないでしょうか。

 寿里亜(じゅりあ)はまだしも、穣(じょ-) 星菜(せれな) 稀星(きらら)などはお手上げ。昔も読みにくい名前はありましたが、ファッション性ではなく、親の子どもへの思いがこもっていました。
 西条八十(さいじょうやそ)などは、生まれた子に苦(九)がないようにとつけられたそうです。

 

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真凡プレジデント・21《柳沢に10%、綾乃に90%》

2021-03-14 05:44:49 | 小説3

レジデント・21

《柳沢に10%、綾乃に90%》   

 

 

 

 ゴンはひどいんだ!

 

 小さな声だが、吐き捨てるように言った。

 見かけは大人しそうな小学生が「あ、ぺス!」と叫ぶと、上目遣いでわたしに訴える。

 柳沢に押し付けられた子犬を抱いて、三丁目の畑中さんちに来ている。

 ドアホンに用件を伝えると、おずおずと出て来たのがこの小学生。畑中さんちの子なんだろうけど、子供らしからぬ憎しみが籠っている。

「ペスっていうんだね、この子。えと、うちの学校の生徒についてきちゃってね……」

 付いてきたとはいえ、よそ様の飼い犬だ、事情は話さなきゃいけないと切り出した。

 

「事情は分かってるよ、あのニイチャン、ゴンを投げ落として、事故を防いだんだよね」

 

 基本分かっているようなので、話は早いと思った。さっさと子犬を渡して帰ろう。

「ちょ、来てよ、こっちこっち……」

 男の子は隣の家を警戒しながら、隣の家からは陰になる庭に、わたしたちを誘った。

「大きな声じゃ言えないんだけどね、ゴンはペスをイジメるんだ。ほら、あちこちに傷跡があるでしょ、みんなゴンにやられたんだ」

「え、そうなの!?」

 四人とも驚いたんだけど、男の子はみずきとなつきの顔を交互に見ている。

「ペスも分かってるんだ、あのニイチャンがゴンをやっつけてくれたこと。だから、うちの前を通りかかった時、嬉しくって道路に飛び出していったんだ」

「え、ほんと!?」

 なつきは、こういう話には弱い。そういう同調的なリアクションのせいか、男の子は、ますますなつきとみずきにすり寄って、肝心のペスを抱いたわたしをシカトする。

「ゴンが入院してる間に、ペスを知り合いに預けようって出たところだったから」

「そっか、じゃあ、これから、その知り合いに預けに行くんだ」

 はっきり声を掛けたのに、ガキは聞こえないフリをする。

 いいんだけどね、他の女子と一緒にいると九分九厘、わたしは注目されない。いいんだよ、それは、慣れっこだから。でもね、わたしはプレジデントで、当のペスを抱っこしてるんだよ!

 

 あ、居たあ!

 

 道路の方で声がした。振り返ると生け垣の向こうに綾乃と柳沢。

「あ、ニイチャ……と……美、美少女だあ( ゚#Д#゚)!」

 ガキは完全に柳沢に10%、綾乃に90%の関心を奪われ、瞳孔と口を開きっぱなしにしやがった!

 それからは、なつきもみずきもシカトされ、柳沢と綾乃を相手に話が進む。

「そうか、偶然とは言え、俺はペスの敵を討ったというわけか……」

 腕組みしながら感心する柳沢は綾乃と共に、その場の主役になってしまう。なつきとみずきも脇役で、わたしは舞台の書き割り以下に成り下がる。

 その後帰って来たガキの母親が加わり「そんなに懐いているんだったらぜひ預かってもらえないでしょうか?」という話に発展、犬嫌いの柳沢は目の前に壁を塗るようにして拒絶したが、綾乃の親切だか意地悪だか分からないトークによって引き受けざるを得なくなった。

「柳沢君、気持ちの表現がメチャクチャ苦手なんですけど、ペスの事はすっごく嬉しいはずです、責任もってお預かりします(*^▽^*)」

 ドラマの締めくくりみたく笑顔でお辞儀する綾乃。エキストラのわたしたちは、ただただ調子を合わせるのみ。

 ああ、こういう時に前に出なきゃプレジデントの意義はない。

 ま、なったばかりのプレジデント。

 次回、いずれの機会には挽回しよう!

 とりあえず、このニュース、お姉ちゃんには『伝えない自由』を行使することにする。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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