大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:178『期待に胸を膨らませ』

2021-03-31 09:29:05 | 小説5

かの世界この世界:178

『期待に胸を膨らませ』語り手:テル(光子)    

 

 

 積もる話は山ほどあるんだけど、取りあえずはイザナギ・イザナミのこと。

 

 海に潜ったヒルコとアハシマにも気持ちは残ったけど、三羽のカモメのように並んでオノコロジマに戻った。

「すごい大木!」

「ほんとうは、アメノミハシラという柱だ」

 沖に出て戦っているうちにアメノミハシラの周囲はさらに緑が深くなっていて、わたしたちは、ミハシラの下の方が、程よい洞になっているところに落ち着いた。

「あちこち芽吹いて大木のようになっているけどね、この世界の生命の根源だ」

「この世界? えと……オーディンとかヴァルハラとかの世界じゃなくて」

「あちらからすると異世界だけど、わたしの世界の神話世界だと思う」

「というと、日本の?」

「そうよ、どんな力が働いているのか分からないけど、ここからやり直せということなんだと思う」

「や、やり直し……」

「わたしはワクワクしている。とりあえず、ここではラグナロク(最終戦争)は起こらずに済みそうだからな」

「ヒルデも、嫌だったの?」

「ロキ達を世界樹の女神に送った後は、真っ直ぐ父の主城ヴァルハラだ。そこで父は命ずる『ラグナロクの準備をしろ』とな……」

 ヒルデは言いよどんでしまう。テルにしても、あそこまで付き合った旅だから、十分聞く資格はあると思うんだけど、いまは触れるべきじゃないと思う。

「予感がするよ」

 ちょっと眉根にしわを寄せて返した。

「あ、今の表情可愛いぞ」

「よ、よしてよヒルデ(^_^;)」

 冷やかされて思い出した、冴子に「それは反則だ」と言われたわたしの癖だ。

 話がマジになり過ぎたり、話をここまでにしておきたいときに出てくる子供のころからの癖。

 話を打ち止めにするだけじゃなくて、半ば無意識に自分の可愛さをアピールしてしまう。ちょっと、際どい卑しさがある。

「ここはさ、たぶん日本神話の世界。それも一番最初の国生み神話のころだと思う」

「ラグナロクにはならないの?」

「無いと思う。日本神話はキチンと習ったことが無いけど、そう言うのは無かったはずだ」

「えと……だったら、観てればいいだけ? 人のゲーム動画みたくにさ!?」

「それは、どうかな。ここに来て、いくらも経っていないけど、もう二回も戦っているぞ。一度は、ついさっきだ、テルもいっしょに戦っただろうが」

「あ、そうなんだ」

「今回はスマホが使えるようで、一応の流れは分かるんだけども、どこでどの程度干渉することになるか分からない」

「まあ、気楽に行こうではないか。テルも戻ってきたし、このまま進んで行けば、他のメンバーも戻って来るような気がするぞ」

「そうね、取りあえず、あの二人を見守らなくっちゃ……」

 ゴソゴソゴソ

 三人並んで、斥候のような気分になって洞の淵に茂っている草をかき分ける。

 男女神は生まれたままの姿で、背を向けてミハシラを周っている。

 二人とも、さっきの失敗を取り戻す意気込みと、互いへの興味で、この高さから見てもハッキリわかるくらいに赤くなって、再びの出会いに期待を膨らませている。

 一種の吊り橋効果だな。

「膨らんでいるのは期待だけかぁ?」

「なんか、いやらしいっす」

「なにがイヤラシイ、わたしは胸の事を言ったんだ、期待に胸を膨らませって言うだろうが」

「あ、なんかごまかした」

「い、いやらしいって言う方がいやらしいんだぞ」

「ヒルデ、なんか息、荒くないっすか?」

「そ、そんなことは無いぞ、そういうケイトの方が赤いぞ」

「ち、違うっす(#'0'#)」

「二人とも静かに」

「テルは落ち着いてるっすね」

「こいつは、ムッツリなだけなんだろ(#'∀'#)」

「う、うるさい、ほら、二人がまた出会うわよ!」

 イザナギ・イザナミの二神は、学校の円形校舎ほどの太さになったミハシラを周って、二度目の出会いを果たそうというところだった……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

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らいと古典・わたしの徒然草58『道心あらば』

2021-03-31 06:54:44 | 自己紹介

わたしの然草・58
『道心あらば』     



徒然草 第五十八段

「道心あらば、住む所にしもよらじ。家にあり、人に交はるとも、後世を願はんに難かるべきかは」と言ふは、さらに、後世知らぬ人なり。げには、この世をはかなみ、必ず、生死を出でんと思はんに、何の興ありてか、朝夕君に仕へ、家を願みる営みのいさましからん。心は縁にひかれて移るものなれば、閑かならでは、道は行じ難し(以下略)


 仏の道を学び、生死の迷いを捨て去ろうとするならば、坊主になって出家すべきだ!
 トチ狂った兼好の余計なお世話であります。略した後半では「死を見つめない者は畜生と変わる所あるのか」とまでのお節介ぶりです。

 兼好自身、坊主のナリはしていますが、都の中に身を置き、俗世間との付き合いにまみれてよく言えたものですねえ。真偽のほどは定かではありませんが、足利氏の重臣高師直(こうのもろなお)のラブレターの代筆をやったり、祭りや宴会などにも喜んで顔を出したりしています。

 まあ、そういう自分を振り返って、かくあらまほし(こうであったらいいなあ)の話なんでしょうね。

 なので、「かくあらまほし」の話しをしたいと思います。

 わたしは、子どものころは画家になりたかった。なぜか……他に取り柄が無いからです。小学校のころ、算数などは、一年遅れで理解していました。ローマ字がまともに書けるようになったのは中学になってから。音符が読めないので音楽の授業も嫌いでした。運動神経が鈍く体育も敬遠。高校に入ってからは、絵と芝居ばかりやっていました。昨年演劇部の同窓会で、後輩にこう言われました。
「大橋さん、学校に勉強しにきてはったんとちゃうでしょ」
「そうや、絵描くのんと、芝居だけしに行ってた」
 美術の授業は好きだった。先生は和気史郎というプロの油絵の先生で、梅原猛氏、瀬戸内寂聴氏は和気先生を『狂気と正気の間の芸術家』と賛辞したほどの人であります。学校で、ちゃんと進路を見据えて生徒扱いしてくれた唯一の先生でもあります。ある日、先生がおっしゃいました。
「大橋君、きみ美術の学校にいかないか」
 大人から、初めてかけられた「かくあれかし」の言葉でした。大げさにではなく身が震えて、そして担任に相談しました。
「美術の大学行きたいんですけど……和気先生にすすめられ……」
 担任は椅子に座って背中のまま、顔も見ないでこう言いました。
「美術の大学は、実技の他にも試験があるねんぞ」
 で……お終いになってしまいました。
 わたしは後年教師になりましたが、生徒が相談に来たときは、必ず正対して顔を見て話すことを心がけました。

 和気先生は、卒業記念の湯飲みの原画を無料で描いて下さいました。生徒たちも和気先生を単なる美術の講師ではなく、人間的な師と仰いでいるようなところがありました。先生は無心に絵を描く生徒には実に優しく、美術室は施錠されることが無く、好きな時に好きなだけ絵を描かせてくださった。逆にいい加減な態度で授業に臨む生徒には厳しく、授業中抜けて食堂に行っていた生徒には作品を取り上げ本気で怒鳴っておられました。怒鳴られた生徒の中には、コワモテの学園紛争の闘士も混ざっていて、他の先生は、そういう生徒には一歩引いた物言いしかしませんでした。この歳になるまでいろんな人間の怒鳴り声を聞きましたが、和気先生の怒気を超えるものを聞いたことがありません。
 担任は、その卒業記念の原画に、和気先生の落款をもらおうとして断られました。落款があれば作品となり、それだけで途方もない値打ちが付く。生徒たちは、密かに、担任を軽蔑しました。
 和気先生は、わたしが卒業したあと、正規の教員(担任業務などの校務ができる)が欲しい管理職に申し渡され、退職されました。
 そのころも、今でも、学校は間違った選択をしたと思っています。
「かくあらまほし」ということを、きちんと言える大人は少ない。
「かくあれかし」ということを、きちんと心に刻める若者も少ない。

 それからのわたしは芝居だけでありました。わたしが人がましく見てもらえるものは絵と芝居しか無かったので、消去法で芝居が残りました。
 消去法ではありましたが、いま振り返ると頑張っていましたね。早朝から学校に行き、演技の基礎練習をやって、昼休み、放課後は部室で何かしら演劇的な試行錯誤をくり返していました。自然とエチュ-ドが有効であることに気づき、哀れな後輩を捕まえては相手をさせていました。
 青春とは臆病なもので、何か、誰かに後押ししてもらわなければ前に進めないものです。結局、芝居も一歩腰が引け、アマチュア劇団、高校演劇の世界の中で「ま、いいか」で五十年が過ぎてしまいました。人間はNHKの朝の連ドラのようには成長しませんね。
 
 今、和気先生の晩年の歳に近くなってきて、若い人に「かくあらまほしき」と言えるだけのものは、わたしの中にはまだありません。しかし、若者たちがやっていることで「これは違う」と思うことが気になりだしました。ポジティブに「かくあれかし」とはなかなか言えないことがもどかしい。
 いつだったか、電車の中で初任校の卒業生に声をかけられた。聞くと、社会科の教師になっていました。
「先生の授業聞いてて、社会の教師になろと思たんです」
 わたしが教師になった理由は不純です。教員採用試験を受けることをプータロウでいることの言い訳にしていました。で、五回目の試験を受ける半年前に父が病気で仕事を辞めました。
 これに受からなければ、我が家は食っていけない。それで、人生で初めて食うための勉強をして、なんとか通りました。
 教師になってからは、教えてもらった先生達を頭に浮かべ、あんな教師にはならないでおこうと思ってやってきました。とても和気先生のように人格で圧倒できるような教師ではありませんでした。
 くだんの卒業生、ひょっとしたら「大橋のような教師にはなりたくない」と思ったのかもしれませんねえ。世の中には、わたしたちの世代が好んだ「反面教師」という言葉があります。

「かくあらまほし」というものは難儀なもんですなあ、兼好さん。

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真凡プレジデント・38《琢磨の本気の本気》

2021-03-31 06:33:18 | 小説3

レジデント・38

《琢磨の本気の本気》      

 

 

 ここだけの話だが、俺はハッカーだった。

 

 小六の時にアメリカの国防総省や中国国務院や日本の防衛省のCPに侵入した。

 侵入するだけで、特段の悪さはしない。

 ただ一度だけ、主民党政府の震災や原発への対応のまずさ、一ドル八十円の円高、この円高で親父の仕事はかなりきつかった。その他いろいろ子ども心にも許せなくて霞が関一体のPCを混乱させたことがある。

 詳しくは言えないが、俺の介入が無ければ、主民党の政権は、もう半年は続いていたと思う。

 しかし、他にいろんなことに興味のあった俺は、子どもらしいミスを犯してしまった。

 霞が関の公的機関すべてをマヒに追い込んだんだけど、うっかり霞ケ浦管理事務所のPCをダウンさせてしまって、霞ケ浦の水利・水質管理に多大な支障をきたしてしまった。

 以来、ハッカー活動は止めていたんだけど、今度の件では、いささか頭に来てやってしまった。

 

 取材中の記者とディレクターの過去を洗い出すのは簡単だった。

 

 人の不正行為にはトコトン厳しいが、自分には甘いのがマスメディアだ。

 記者は酒を飲ませたあげくに女性に乱暴を働いていたこと、ディレクターはタレントの薬物使用をスクープするために、血のにじむ思いで薬物から遠のいていたタレントに大麻を吸引させた。その二件を調べ上げて事に及んだ。

 中継の現場で逮捕されてしまったので、テレビ局としても庇いようがなく、二人は即刻クビになった。

 しかし、学校への取材そのものは止まなかった。

 入試の採点ミスで不合格になった女子が訴えてきたことが発端であるが、マスメディアは、この子を焚きつけた。

――法的には、原状回復を訴えるのがスジだよ――

――え、原状回復って?――

――キミの合格と入学を認めさせることだよ――

――そんなことできるの?――

――できるよ、というか、そうしないと『遺憾の意』を表されておしまいになるよ――

――イカンノイ?――

――『ごめんなさい』と発表して、あとは何も変わらない。世間は三日で忘れるよ――

――それはヤダ――

――だからね、合格と入学を認めさせることだよ。そうしないと学校も教育委員会も懲りない――

――う、うん、分かった――

 そう誘導したのだが、調子に乗る奴は、いつでもどこにでもいるもので、こういう奴が出てきた。

――だったら、間違って合格したやつを辞めさせるべきだ――

――そいつの合格を取り消せ!――

 

 先日までは、それは可哀そうだというのが多数だったが、テレビ局の巻き返しの中で息を吹き返してきた。

 真凡たちの努力で、間違って入学したそいつ……橘なつきへの風当たりは再び強くなってきた。

 なつきが、もうちょっと勉強できたらなあ……。

 偶然を装ってコンビニで出会ったなつきに、そう思ったが、なつきには、それを補って余りある善良さがある。

 この梅雨時にフードをスッポリかぶってスナック菓子を買いに来たなつきに声をかけるのもはばかられ、俺は次のステップを踏むことを決意したのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

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