大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・033『アルテミス三号』

2021-03-02 16:22:29 | 小説4

・033

『アルテミス三号』ダッシュ   

 

 

 火星までは72時間の旅だ。

 火星までの有人飛行が可能になった200年前は300日あまりだったから、100倍の速さになった。

 72時間というと丸三日なんだけど、日の出や日の入りがあるわけじゃないから、うっかりしていると時間の感覚が無くなってしまい、体に変調をきたす。

 学園艦くらい大きな船になると、船内照明を調節して疑似的な時間経過を感じさせる。なんでも、昔の潜水艦の工夫が役に立っているということらしい。

 しかし、ファルコンZにはそれが無い。

「特別に居住区というのがあるわけじゃないから、室内照明で調節してね」

 同じことをミナホもコスモスも言う。72時間くらいならファルコンZのクルーは眠らないでもやっていけるらしい。

「だいじょうぶっすよ、俺たち火星の原始人っすから(^▽^)/」

「そう、じゃ、わたしの目を見て」

 言われて、コスモスの目を見ると、コスモスの瞳に俺の顔が浮かんでくる。

 やべえ、目の下のクマがハンパない。

「分かったら、お部屋に戻って照明を落として横になりましょう」

「あ、分かりました。でも、クルーは休まないんですか?」

「フフ、みんな、この船が好きだから」

 はぐらかされた。

「ラウンジに行くとキャビンとは仕様の違うレプリケーターがあるから、リラックス効果のあるソフトドリンクでも飲むといいわ。さっき宮さまにご説明したところだから、きっと、楽しくアドバイスしていただけると思うわよ」

「はい、そうします」

「じゃあ」

 そう言うと、コスモスは、障害物競走のコースみたいな通路を器用に通って機関室の方へ降りて行った。

「おや、ダッシュくんも眠れないのかい?」

 宮さまが気軽に声をかけてくれる。

「あ、はい。ここで、よく眠れるソフトドリンクがあるって、コスモスに……」

「あ、それなら、これだ……」

 そういうと、宮さまは画面の二か所を同時にタッチ。すぐにシュワワと音がして、紙コップが実体化してドリンクが現れた。

「紙コップなんですね!」

「船長のこだわりだろうね」

「これ、なんてドリンクなんですか?」

「アルテミス三号。ま、飲んでみ」

「あ……炭酸きついっすね」

 かえって眼が冴える気がする。

「ジェットコースターみたいなもので、そのあと、ゆっくりと眠りに誘われるらしいよ」

「三号ってことは、一号とか二号とかも?」

「ぼくも、そう思ってコスモスに聞いてみた」

「あるんですか?」

「三号ってつけとくと、一号とか二号とかあるような期待感があるでしょうって、船長の命名らしいよ」

「アハハ」

「いや、いろいろ楽しそうな船だよ(*^▽^*)」

 ピチャ

 半分ほど残っているアルテミス三号が跳ねた。

「増速しましたね」

「船長は眠気覚ましなのかな?」

 残りのアルテミス三号を飲み干すと、ラウンジの照明がゆっくりと落ちていく。

「宵っ張りの僕たちに就寝勧告なのかなあ」

「え、あ……いや、これは……」

 照明は絞るどころか、レベルゼロまで落ちてしまい、非常灯だけになってしまう。

 それに、体で感じるくらいに急な減速が掛かりだした。

 飲み干していなければアルテミス三号をこぼしていたかもしれない。

『緊急連絡、緊急連絡、乗員乗客、乗員乗客、こちら船長。総員ただちにブリッジへ、ただちにブリッジへ』

 船長の声で緊急招集がかかった!

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

 

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滅鬼の刃・16『組み立て付録』

2021-03-02 09:13:19 | エッセー

 エッセーノベル    

16・『組み立て付録』       

 

 

 始まりは、月間少年雑誌の組み立て付録でした。

 

『少年クラブ』とか『少年画報』の付録がよかったですねえ。

 米空母エンタープライズの洋上模型は一メートルほどの大きさがありました。シャーマン戦車や潜水艦、忍者屋敷や東京タワーなど、今なら、単独のペーパークラフトとして売っても十分商売になるレベルのものが、定価150円ほどの雑誌についているんですから、毎月楽しみでした。

 親に買ってもらえるのは『少年』だけでしたので、付録は貸本屋さんに買いに行きます。一つ三十円から五十円くらいだったと思います。雑誌の発売日には、近所の少年たちの取り合いになります。友だちの家に行って先を越されているのを発見した時は悔しかったですねえ。

 作って飾ってお終いではなく、使えるものもありました。

 ソノシートが付いたレコードプレーヤーなんてのもありました。

 厚紙のアームの先にペン先のような針が付いていて、ソノシートの端っこに割りピンを差し込んでクルクル回しますと、アームに張ってあるセロハンだったかが振動してかそけき音を奏でます。むかしの蓄音機というのは、こういう感じだったのかと子ども心にもワクワクしました。

 幻灯機というのがあって、セロハンのフィルムが付いていて、自分で調達した電球を仕込んで壁に映します。友だちを呼んで、暑いさ中「オオーー( ゚Д゚)!」と歓声をあげたものです。いまのLEDと違って白熱電球なので、セロハンのフィルムは数回でパリパリになって使い物になりません。幻灯機そのものも茶色く焼けてきて、今なら、絶対売れない、売ってはいけない代物でした。

 1/2000の連合艦隊、こいつは戦艦、空母だけでなく駆逐艦や潜水艦も付いていて、雑誌本体についている輪形陣の図などに並べてみると六畳の間一杯になりました。

 工作が苦手な子もいて(体育が得意な子は工作がヘタだったような記憶がありますが、偏見かもしれません)上手く作ると尊敬されました。

 勉強が苦手なわたしは、こういう工作系でアドバンテージをとっていました。当時は、たとえ勉強ができなくても、なにか一つできると一目置いてもらえるところがあって、まさに滅鬼の刃でしたねえ。そういう点では、いい時代でした。

 だから、運動オンチで付き合い下手なわたしでしたが、イジメにあうことはありませんでした。

 

 組み立て付録は、やがて、ゴム動力の飛行機、木製模型(プラモデルのタミヤが、まだ田宮模型で木製の艦船模型を出していました)、プラモデルに広がっていきます。

 校区の外に安い模型屋さんがあると聞くと、自転車に乗って遠征したもので、いつも四五軒の模型屋さんをハシゴしていました。

 オッサンになってからペーパークラフトをやるようになりました。組み立て付録の延長線ですね。

 プラモデルやソリッドモデルだと十万くらいになるスケールのものが一万円以内で買えます。

 手間暇は、並みのプラモデルの数倍から十倍以上ですが、処分するときはグシャリと潰して燃えるゴミで出せます。ペーパークラフト(紙模型とも言いますが)は軽いので、壊滅的な壊れ方はなかなかしません。いきおい、そのつど修理するので、本当に処分したものは地震によるクラッシュや、中にゴキブリが住み着いたもの以外はありません。

 写真は、1/200の戦艦扶桑です。ポーランド製で通販で6000円ほどでした。

 キットは冊子の形になっていて、数十枚のシートでできています。

 正直、表紙の絵は上手くないのですが、ポーランド製なら間違いないとポチリました。

 実は、日本海軍の研究は日本ではなくポーランドが一番だと思います。

 意外に思われるかもしれませんが、ポーランドは日露戦争以来、大の親日国であります。第一次大戦でポーランドの戦災孤児たちが行く先を失った時も日本は数千人の孤児たちを引き受け、あちこち、移住先が決まるまでお世話をしました。

 だから、紙模型も、ひょっとしたら日本製を超えていると予想したら、そのとおりでした。

 

       

 

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らいと古典『わたしの徒然草38・第三十八段 名利に使はれて』

2021-03-02 06:55:33 | 自己紹介

わたしの徒然草・18

第三十八段 名利に使はれて』    

 

 副題にするには長いので端折りましたが、きちんと書くと以下のようです。

 名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむるこそ、愚かなれ。

 名誉や利益(欲)に縛られて、忙しく過ごして一生苦しむのは愚かなことだぜ。


 これは、ちょっと意訳がいりますね。単なる世捨て人の決まり文句ではないだろうと思います。
俗な世捨て人は、世俗を捨てることによって、なにか悟りを開けるようなことを言いますが、実は、単なる現実からの逃避であることが多い。それを言い当てたような格言があります。
「小人閑居して不善をなす」
 つまり、つまらん世捨て人は、一人すまし顔で暮らしていても、ろくな事はしない。という意味であります。へんなブログや、ツィッターで、ろくでもないことを書いたり、呟いたり。したり顔して同窓会などで、晴耕雨読を気取ってみたりする。

 石原莞爾(いしはらかんじ)という軍人が居ました。

 世界最終戦争論を唱えて東条英機らと対立し、開戦と前後して予備役に編入されて、日米戦の段階に突入した大東亜戦争には無縁の将軍でした。

 彼の来歴や活動を述べる力量はありませんので、彼の戦後について少し触れたいと思います。

 搭乗ともかかわりの深かった石原は、他の将官たちと同様にGHQに度々呼び出され、時には東京裁判の法廷にも呼び出されました。

 GHQは、証言を得るに当たって「いまは、どのように過ごしていますか?」と質問します。

 これに対する将官たちの答えは「晴耕雨読」の四文字と決まっておりました。

 晴れた日には畑を耕し、雨の日は家の中で本を読んでいるという、いわば慣用句ですね。

 GHQは「では、手を見せてください」と将官たちの手を取ります。

 たいていの将官たちの手は白く柔らかい手をしておりました。「なるほど……」と呟いて担当のGHQは『こいつは噓つきだ』という印象を持ったそうです。

 ところが、石原の手は日焼けしてゴツゴツしていて鍬を握ったタコができていました。

 石原は、庄内の西山農場でほんとうに百姓をやっていました。

 亡くなった友人が石原寛治が好きで、様々に本を読んで、ぐうたらなわたしが行くと白洲次郎のことなどと合わせて話をしてくれたもので、よく本を貸してくれました。

 三回は読まなければ理解できないと言われた本を一回読んだところで友人は逝ってしまいました。

 今手に取ると、十ページいったところに栞が挟んであります。

 実は、この友人について「名利に使われて」のことについて書こうと思ったのですが、取りあえず晴耕雨読は難しいという導入でありました。

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真凡プレジデント・9《ちょっと子ども時代に返った》

2021-03-02 05:57:16 | 小説3

プレジデント・9

《ちょっと子ども時代に返った》       

 

 

 勉強しなさい!

 

 もう三回目だ。

 今日も、お好み焼きたちばなの二階で勉強会。

 お好み焼きたちばなと言っても、ここはなつきの家。第3回と4回で書いたからご存じだとは思うんだけど念のため。

 なつきはバカじゃないんだけど、今のように気が散って身が入らないことが欠点。

 本人も分かっているから、こうして定期考査前にはわたしを呼んで勉強会になる。

 

 日ごろから集中力のないなつきが、今日は半分の力も発揮できていない。

 

 それは、例の柳沢琢磨が我がクラスのモテカワ美少女北白川綾乃を訪ねてきたからだ。

 学校一番の……ひょっとして日本一秀才サイコパスな柳沢と美少女が、なにやら険悪。険悪と言うことは、険悪に至るまでには、なんらかの関係があったはずで、そのあたりがクラスの試験どころではない関心を呼び起こしたのだ。

 で、そのミーハー最先端にいるのがなつきだ。

 わたしのお昼を買いに行って二人の衝突ぶりを目にしていないので、余計に興味はマックスになっている。

 だから、現場に居合わせたわたしに聞きたくて仕方がない。

「なつきって週刊文秋の記者とかになったら成功するかもよ」

「え、そっかな(#^.^#)!?」

 嫌味が通じない。ま、好奇心があるというのは悪いことじゃないんだけどね。『好奇心は活力の源』って、まともな頃のお姉ちゃんも言っていた。でも、テスト前の好奇心はなつきには毒だ。

 まだ解けていない練習問題をコツコツと指差して注意喚起。

「ありおりはべりいまそがり……ゴキブリのお呪いだよ( ノД`)シクシク…」

「こういうのは暗記するしか手が無いの『右大将に いまそがり ける藤原の常行と申すいまそがりて、(伊勢物語・七七段)』、百回も言えば覚えるよ」

「でもさ、北白川さんが真凡の応援してくれるってスゴイじゃん!」

「え、あ、うん……」

 そのへんの経緯はなつきには言っていない。なつきの妄想をこれ以上膨らませることもないしね。

 それに、ほんの一時とは言え、立候補を取り下げようとしたことは言わない方がいいと思う。

 

 やっと練習問題が終わったころに、おばさんが一階のお店から上がって来た。

 

「勉強中ごめんなさい、なつき、ちょっと……」

「なに?」

 おばさんは、なつきを廊下まで呼び出して、なにやら頼んでいる。

――え、健二が怪我!?――

 なつきの声が響いて、お店を空けられないおばさんに成り代わって小学校に行くことになった。

 なんでも、野球の練習をしていて足をぐねってしまったようで一人では歩けないらしい。

 

 久しぶりの小学校。

 

 なつきの家からだとJRを跨ぐ橋を渡る。昔は、ここで行き交うJRの電車をボンヤリ見ていたりしたものだ。

 JRは橋の下でカーブしていくので撮り鉄たちのビューポイントにもなっている。

 行きしなは健二のことが心配なので、トットと渡ったが、帰り道は、交代で背負っても重いので、健二を下ろして一休み。

「健二の……X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」

 上り列車の通過に合わせてなつきが叫ぶ。通過の轟音で聞こえやしないが、さすがに姉弟、表情で分かっている。

「健二の短足運動音痴の出べそのコンコンチキの天然バカヤローって言っただろ!?」

「ハハ、それだけじゃないよ……X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」

 続きてきた下り列車の轟音に合わせて、もう一声。

 なんだか楽しくなってきて参加する。

「「「%$#〇△!?%◇X☆彡$!!!X$#〇△!?%◇X☆彡$!!!」」」

 ちょっと子ども時代に帰ったひと時。

 なつきと健二が夕日を浴びてケラケラ笑う。これがドラマなら、この瞬間の主役は、この姉弟だと思うよ。

 勉強はともかく、なつきは、いいお姉ちゃんだ。わたしも、弟か妹がいたらいいなって思う。

 おっと、こんなことしてる場合じゃない、早く戻って勉強の続きしなくっちゃ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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