大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:174『目覚めた男女神』

2021-03-05 09:58:32 | 小説5

かの世界この世界:174

目覚めた男女神語り手:テル(光子)    

 

 

 あの二人はテルが起こせ。

 

 霞の向こうにイザナギ・イザナミの姿が見えてくると、急にホバリングしてヒルデが言う。

 勢いで追い越してしまい。大きくUターンして戻ってみると、ヴァルキリアの姫騎士は腕組みして考えている。

「どうした、ヒルデ?」

「いや、な、ここは日本神話の世界だ。なにかの因縁で出てきてしまったが、ここは日本人のテルが声をかけるべきだ。このアメノヌホコは、この神話を……どこまで続いているかは分からないが、偉大な出発点だろ。異民族のわたしがしゃしゃり出るべきではない」

「それは気にしなくてもいいよ」

「神話とは神聖なものだろう」

「そうなのか?」

「日本は、あまり、そういうことにはこだわらないと思う」

 そもそもの始まりは、冴子と神楽舞の巫女をやったことが始まり。

 神楽舞の巫女は十三歳の女の子が一生に一回だけやるものと定められているけど、わたしも冴子も十七歳になってもやっていた。

「そうか、それなら……」

 再び前に進もうとしたら、わたしらの騒ぎで目覚めたのだろう、イザナギ・イザナミが飛んできた。

「いやあ、あなたたちが取り返してくれたんですか!」

「はい、これが無ければ始まりませんから」

「どうも、生まれたばかりで、わたしもイザナミも血圧が低くて。イザナミ、おまえからもお礼を言いなさい」

「どうも、ありがとうございます。謹んでお礼申し上げます」

 丁寧に頭を下げる男女神。

「本来なら、わたしどもが澱の神どもを追って、自分の手で取り返さなければならないところでしたが……そちらは異国の神でいらっしゃいますか?」

「あ、ああ。北欧の主神オーディンの娘でブリュンヒルデと言う。ヴァルキリアの戦士の束ねをしている。ヒルデと呼んでくれればいい。よろしくな」

「それはそれは勇ましいことで、そのように戎装(武装)されていなければ、さぞや美しい姫様であられましょうに……」

「あ、ああ」

 ちょっと上から目線?

「イザナミ、まずは、国生みをしなければ、時間が無いぞ」

「では、わたしたちは、これで」

「お二人は雲の上でおくつろぎになってください。国生みが終わったら、お礼の宴をひらきたいと思います。ぜひ加わってください」

「え、国生みをお見せするんですか!?」

「ああ、目出度いことだ。目出度いことは、みんなで祝うのがいいだろ」

「え、ええ、あなたがおっしゃるなら」

 ちょっと、この夫婦には温度差があるような気がするけど、好奇心が――見ていけ――と言っているのに付き合うことにする。

 ヒルデはポーカーフェイスを決め込んでいるけども、イザナミの物言いに、ちょっとカチンときている。そのカチンから見届けてやろうという気になっているようだ。

 アメノヌホコは、ほとんど衝動で取り返しに行ったんだけど、この異世界に放り出されたのは意味があるはずだ。

 ヒルデといっしょに二人の国生みがよく見える、フワフワの雲の上に落ち着いた。

 

「それでは始めます」

 

 折り目正しくお辞儀をしたイザナギはイザナミを促して、二人で矛の柄を握った。

「お、結婚式のウェディングケーキに入刀するのに似ているなあ、『初めての共同作業』とか言うんだよな。そうか、これが起源だったのか!」

「ちょ、スマホで写真なんか撮っちゃダメよ」

「そうか、じゃ、キャンドルサービスの時にでも」

「いや、だから、結婚式じゃないから(^_^;)」

 バカを言っていると、二人が手にしたアメノヌホコはヌルヌルと伸びていき、はるか下方で割りたての玉子のようにドロドロしているところに下りて行った……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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らいと古典『わたしの徒然草19第三十九段・睡にをかされて』

2021-03-05 06:34:22 | 自己紹介

わたしの徒然草・19

 『第三十九段 睡にをかされて』  

 

 

 或人、法然上人に、「念仏の時、睡にをかされて、行を怠り侍る事、いかがして、この障りを止め侍らん」と申しければ、「目の覚めたらんほど、念仏し給へ」と答へられたりける、いと尊かりけり。
 また「往生は、一定と思へば一定、不定と思えば不定なり」と言はれけり。これも尊し。
 また「疑ひながらも、念仏すれば、往生す」とも言はれけり。これもまた尊し。

 ちょっとコムツカシイが仏教の話であります。
 法然上人(ほうねんしょうにん)の話から入ります。

 ザックリ言って、日本の仏教の総元締めは、比叡山延暦寺であります。

 延暦寺の天台宗は、平安時代に最澄が空海と前後して遣唐使の船に乗り込み、唐と言われた中国から、輸入してきた、当時の新仏教であります。
 空海は天才でありました。わずか数年の間に仏教の神髄をきわめ、自分の頭の中に取り込んで日本に帰り、真言宗を始めました。本山は高野山にあります。
 真言宗では、空海一人が極めた(解脱した)ので、後輩たちは、一生懸命にそれに追いつくしかなかありませんでした。つまり目標は空海その人、そのものであります。

 最澄は、ちょっと違います。天才ではなくただの秀才なのです。

 天才は直感で、物事の本質をつかみ取ってしまいます。
 分かり易いところで、坂本龍馬が同じ人種であると言えます。龍馬は、あまり真面目に勉強した様子がありませんが、民主主義や株式会社の有りようを直感で理解していました。だから倒幕して国民国家を創らなければならないことも分かっていたし、海援隊という株式会社の運営にも成功しています。

 仏教=宗教というものは形而上の問題であり、龍馬が海援隊を創ったような「儲かる」というような目に見えるカタチでは分かりません。だから、空海の弟子達は今でも苦労されておられます。
 最澄は、自分では分からないけれど、中国にあった仏教のあれこれを持ち帰りました。空海のように正式な留学僧ではない最澄は、時間的にも経済的にも空海ほど恵まれてはおらず、必要と思った全てを持ち帰るわけにもいかず、帰朝後、空海に教本を借りにいったりしています。
 最澄は、それでも、持ち帰った教典の全てを極めることができず、後身に、それをゆだねました。
 法華経も、座禅も、阿弥陀経(念仏)も、その後の日本の仏教の大きなエッセンスがその中にありました。比叡山というのは、そういう点で総合大学に似ています。

 鎌倉時代に比叡山にいた法然は、その天台宗の中にある阿弥陀経をエモーションとして持ち出して浄土宗を始めました。
 エモーションということが大事なのだと思います。
 コムツカシイ教典の理解や、修行は全て捨てました。

「南無阿弥陀仏」が全てであります。

 南無は、サンスクリット語で呼びかけの「ナーム」であります。呼びかけるからには目的がある。目的は「タスケテホシイ」であります。「タスケ」とは極楽往生することであります。
「極楽」とは、どういうところかというと「わしは、行ったことがないから、ようわからん」と法然は答えます。
 そんなアホな……と、凡夫のわたしは今でも、そう思っているところがあります。見たことも、行ったこともないものを信じろというのは、現代の感覚では分かりにくいですね。

 南無阿弥陀仏の六字で書けば、もっともらしい感じですが訳せば「おーい、阿弥陀様、助けてちょうだい!」だけですからね。
「詐欺師やんけ」とも受け止められかねない。
 わたしの家は、長らく、この法然さんの浄土宗でありましたが、父の死をきっかけに浄土真宗に鞍替えしました。
 理由は簡単。母方の親類が、みな浄土真宗の坊主であるからであります。葬儀の導師は従兄弟に頼みました。安くあがるというだけではなく、親類の気安さと、浄土宗以上の簡明さがあったからです。ややこしいので、浄土宗も浄土真宗も念仏宗と括っておきます。
 法然さんは、こうもおっしゃっています。
「ほんまかいな……と、疑って念仏しても往生できる」
 すさまじい信念です。浅学非才なわたしには、正直、まだ完全には分かりません。

 今のところ、こう置き換えています。
「ゼロの概念」です。ゼロとは、何もないことで、質量も大きさも色も匂いもありません。
 でも、世間の人は、軽々とゼロの概念を信じていますね。1-1=0と言われて「0とはなんだ?」と聞く人はいません。0とは何もないことだ。何もないことが、どうして認識できるんだ? ゼロを見せろ。0? これは0を現す記号だ。記号ではなく、本物のゼロを見せろ。いや、だから……(^_^;)

 これに似ていると思います。ゼロも仏教もともにインドで発見(発明)されました。

 世の中には、憲法に平和だと書いておけば平和が保たれるものだと信じている人が、かなりいます。なんだか宗教じみているようにさえ思えます。
 それに比べれば、浄土はある(らしい) 仏の力(絶対他力)により、人はそこに行ける。このほうが、よっぽど信頼が持てるように感じます。

 そういうことに気づいていた兼好というのは、我々より、よほど近代人のように思えてきます。

 南無阿弥陀仏……。

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真凡プレジデント・12《似顔絵付きになった》

2021-03-05 06:00:31 | 小説3

プレジデント・12

  《似顔絵付きになった》     

 

 

 選挙ポスターに、とんでもないものを付け加えることになった。

 

 もし最初から決まっていたら立候補なんかしなかった!

 だって、ポスターに顔写真付けるんだよ!

 んなの嫌に決まってるじゃん!

 

「どうも、選挙が盛り上がらない。選挙ポスターの前を、みんな素通りしてる!」

 

 不満を漏らしたのは中谷先生だ。

 先生自身生徒会選挙なんて興味なかったんだけど、ポスターを描いたのは先生なんだ。

 デザインの学校を出ているらしく、ポップな書体や垢ぬけた構成は、先生自身気に入っていて、みんなに見られることにワクワクしていた。

 それが、ポスターの前を通る生徒は、ちっとも見ない。

 そりゃそうだよね、少々出来が良くてもお役所のポスターなんて見向きもされないよね。

 一般の生徒にとって、生徒会なんて役所と同じくらい縁が薄いんだ。候補者にとっては一世一代の大事業だけども、一般生徒には小学校から何度も経験した、たぶん年に二回はあるルーチンワーク。

 

「じゃ、似顔絵か写真付けよう!」

 

 中谷先生は漫研の顧問でもあるので、部員を総動員して(と言っても三人しかいない)似顔絵を描かせることにした。

 漫研の子たちは、わりにキチンとしていて、事前にアポを取って候補者の都合のいい時間・場所を確保してくれる。

 静かなところがいい。

 注文を付けると、応接室になった。なつきと北白川さんが付き添ってくれている。

「……こんなのでどうでしょ?」

 仕上げたラフスケッチを見せてくれる。

「こ、これは……」

「「どれどれ……」」二人の付き添いも首を突っ込んでくる。

「めっちゃかわいい~~~!」

 なつきが無邪気に反応する。

 確かに可愛い。なんちゅうか……『俺の妹がこんない可愛いわけがない』の新垣あやせみたいだ。

「はい、真面目な清楚系でまとめてみました!」

 漫研は自信たっぷりの笑顔だ……たしかによく描けてはいるんだけど、これは選挙ポスターと言うよりは、漫研さんの作品だ。わたしに似ているところと言えば制服とヘアスタイルだけ。これじゃ実物を見たら「詐欺!」と言われかねない。

「そっか、じゃ描きなおします」

 漫研は嫌な顔一つせずにペンタブをリセットした。

「はい、描けました」

「「「おおおおおお」」」

 わたしも付き添いも歓声を上げた、確かによく似ている。

 似てはいるんだけど、これって、モブというかNPCと言うかその他大勢と言うか……特徴が無い。

 目は黒ゴマかというくらいの、ただの楕円で、鼻も、ただの〇。口は鼻の〇を横倒しにして伸ばした感じで、あいまいにボンヤリと開いている。

「もうちょっと笑顔にしたら?」

 なつきが提案してくれる。

「笑顔ですか……こんな感じ?」

「「「ああ…………⤵」」」

 笑顔にしたとたん、らしくなくなる。

 わたしって、笑顔の似合わない女なんだ、お姉ちゃんとちがってね。

 漫研さんは、その後も懲りずに五枚も描いてくれた……ますます遠くなる。漫研さんも、これ以上は描きようがないという感じに眉毛がヘタレる。さっきのあやせにしとけばよかったけど、今さら言えない。

「じゃ、こうしない?」

 

 北白川さんが涼し気に提案する。

 

 実物の写真込みで六枚前部を載せるというアイデアだ。

 なつきも北白川さんも決まり!という顔をしている。

「でも……写真は……」

 漫研さんが異を唱える。

「こうしません? 当選なさったら写真付きで、改めて掲示させてください」

「終わってから?」

「はい、どれが一番現物のイメージに近いか投票してもらいます」

 気は進まないが、柳沢琢磨が対立候補なのだ、わたしの当選は、まずあり得ない。だから簡単に「はい、いいですよ」と返事をした。

 じっさい、あとで仕上がった候補者たちの似顔絵や写真を見ていると、みんなラノベの表紙を飾れるくらいにカッコいい。

 柳沢琢磨は似顔絵と写真の二本立て。

 なんでも「わたしの力では先輩の魅力は表現しきれません! どうか写真と二本立てで出させてください」ということになったかららしい。

 わたしのは、タッチの違う六枚の名刺大のイラスト。他の候補者のポスターと並ぶと、柳沢琢磨が主役で、他の候補者が主な登場人物。わたしのは、その他大勢のモブキャラ紹介(^_^;)

 どうも、わたしの負けは選挙本番を前に確定してしまいそうだ……

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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