大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・68『春一番お化け』

2021-03-13 09:30:35 | ライトノベルセレクト

物語・68

春一番お化け』    

 

 

 春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく。

 イギリスの格言なんだけど、これって、春の風のことなんだよね。

 日本では『春一番』というんだよ。

 今週、その何番目かの『春一番』が吹き荒れている。

 日本海の低気圧が影響しているって天気予報で言ってた。去年は、この日本海低気圧だかが発達し損ねたのか春一番は無かったらしい。

 それを挽回しているのか、今週に入ってからの『春一番』は元気と言うか質が悪い。

 ボッ ボオオオオオオオオ!

 まるで、オートバイの急発進みたいな音をさせて、突然襲ってくる。

 キャアアアア キャ ウワアアアアア

 通学路のあちこちで、女の子の悲鳴が上がる。

 吹きっぱなしの風なら対応の仕様もあるんだけど、突然、暴走族の急発進みたく襲われるのは対処の仕様が無い。

「昔は、スリップとか下に着てたからねえ」

 お婆ちゃんが昔を懐かしむ。

「そうそう、あれはタイトだったから、スカートみたいに翻らないのよ」

 お母さんが同意する。

「あれはあれで色っぽかったぞ(n*´ω`*n)」

 お爺ちゃんがまぜっかえす。

「そうそう、清水みえこって言い回しがありましたよ」

「なに、それ?」

 わたしの知らない世界だ。

「むかしのむかしは、スリップをシミーズって、言ってね……」

「ああ、スカートの裾から出ちゃう子がいたんですよね」

「そうそう、そういうのを後ろから注意してあげるのに『清水みえこさん』なんて言ったげたものよ」

「ああ、あれはあれで、色っぽかったなあ(#ω#)」

「昭介さん、孫娘の前ですよ!」

「ああ、すまんすまん」

 思い当たった。

 アニメとかで、スカートの下にフリフリの付いた白のアンダースカートみたいなのがあるんだけど、きっと、それの反映なんだ。

 

 そういう一家だんらんの会話があったから、あくる日は注意して学校に向かった。

 途中、何度か突風が吹いてきて、何人かの女の子は犠牲になったけど、わたしは大丈夫だった。

 安心したところを、ボッっとガスが点いたみたいに突風。

「キャ」

 かろうじて、手で庇う。

「あ、おは……」

 すぐ横を杉野君が足早に追い越していく。怒ったように赤い顔して返事もしないで行ってしまう。

 見られたかなあ……

 

 角を曲がったら校門が見えてくる、あとちょっとというところで、何度目かの突風。

 五人くらいの女の子が風にやられる。

「あれ?」

 ひとりの女の子にビックリした。

 翻ったスカートの中は、膝から上が無い。

 よく見ると、少しめくれたセーラーの上とスカートの間にも体が無くって、向こうの景色がスリットで覗いたみたいに見えている。CGの人間に、こういうのあるよね。見えるところは作られてるけど、見えないところはポリゴン節約するために作られてないの。でも、わたしが見ているのはCGなんかじゃない。

 妖だ。

 女生徒に化けて学校に入ろうとしているんだ。

 リボンを直すふりをして、セーラーの上から勾玉を掴む。

 ボッ ボオオオオオオオオ!

 ひときわ強いのが吹いてきた!

 そいつは、首、両手、腰、両足に分解して、それが紙風船かなんかだったみたいに軽々と飛ばされて行ってしまった。

 飛ばされる寸前、そいつの顔がこっち向いて、とっても恨めしい目で睨んできた。

 口もパクパクしていて、なにか呪をかけられたのかもしれないけど、勾玉のお蔭で声にはならなかった。

 ああ、よかった。

 昇降口で再び杉野君を見かける。

 今度は、お早うと言ってくれる。恥ずかしそうだったけどね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

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らいと古典『わたしの徒然草・45榎木僧正』

2021-03-13 07:52:06 | 自己紹介

わたしの然草・45
『榎木僧正』     



 徒然草 第四十五段

 公世の二位のせうと(兄弟)に、良覚僧正と聞えしは、極めて腹あしき(気短な)人なりけり。
 坊の傍に、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正」とぞ言ひける。この名然るべからずとて、かの木を伐られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池僧正」とぞ言ひける。

 これはあだ名の話です。公世(きんよ)の二位という人の兄弟で、良覚僧正という気短な坊主がいたのですが、この坊主の住まいの近くに大きな榎の木があって、世間のみなさんは「榎木僧正」と呼んでいました。
 ところが、御本人は気に入らず、この木を切ってしまいました。で、根っこだけ残ったので「きりくひの僧正」と呼び変えました。
 で、この坊さんは、その根っこも掘り返して、そこには大きな穴が開いてしまいました。世間の人たちは坊さんを「堀池僧正」と呼ぶようになりました。

 ここには、三つのあだ名が出てきます。その変わり具合と、良覚僧正の気短な反応が面白くて、兼好さんは書いたのであります。特に感想は書かれていません。

 しかし、よく読むと、最初のあだ名と、あとの二つではニュアンスが違います。
「榎木僧正」は、ただ榎木の近くに住んでいる坊さんというだけで、坊さん自体への皮肉や批判めいたニュアンスはありません。
 しかし「きりくひの僧正」「堀池僧正」には、坊さんがやったことへの皮肉がこもっているように思います。
 要は、つまらないことに腹を立てて、皮肉めいたあだ名になったことの面白さを書いたのだろうと思います。兼好の人の可笑しさを見る目と温もりを感じさせる段ですね。

 現場を離れて十年以上になりますので、今の高校生を始め、若い人たちが身の回りの人たちにどんなあだ名を付けているかは、よくは分かりません。わたしの経験では、たいてい氏名の上か下か、またはそのモジリで済ませてしまうことが多かったように思います。カヤナ、カリン、ユノキなどで、おおむね生徒同士だと名前。先生には苗字の呼び捨て、ただし、下に「ちゃん」「センセイ」がつくと親近感と敬意がこめられています。
 AKB48でも、トモチン、アッチャン、タカミナ、マリコ様など、名前を転訛させたものが多いですね。しかしよく調べるとガチャピン(見た感じから) アイドルサイボーグ(あまりのラシサから)などというものもありやや工夫が感じられます。

 わたしが高校生だったころに、あだ名付けの名人が何人かいました。
 トンボコーロギ……見た目の印象。しかし、曰く言い難い印象はトンボコーロギはぴったりでした。
 国防婦人会……押し出しと、声のはり方、決めつけ、思いこみの強さから。
 チョ-ビゲンタム……原田武という名前の先生だったがチョビ髭を生やしていたので、チョビ髭と名前を音読みしてくっつけ、メンソレータムの音にあやかった。
 八重桜……雅やかなあだ名ですが、これは凝っています。八重桜はハナより先にメが出る。で、お分かりいただけるでしょうか。ただし、後年、このあだ名はさる文学作品からの盗用であることが分かりましたが、その作品を読んでいただけでも名付け名人を尊敬しました。

 わたしは、子どものころは睦夫のモジリでムッチャンでした。ムッチャンというのは、睦子とか睦美とか、女の子の名前のニックネームである場合がほとんどで、男の子がムッチャンとよばれることは希で、正直、気恥ずかしかった。

 明治天皇の諱が睦仁です。大人になってから気づきました。明治大帝をムッチャンとは畏れ多いのですが(^_^;)。生前の父に聞いたところ明治天皇の諱に関係があるらしいのですが、長くなるので、別の機会に書きたいと思います。

 長じて、大橋さんと、ごく当たり前によばれるようになったが、大阪弁では、これが縮まってオハッサン。さらに縮まるとオッサンになります。
 しかし、大橋さんが縮まったオッサンと、ただのオッサンでは微妙に響きが違うのは、言われた本人にしか分かりません(^_^;)。

 先日、新聞で『あだ名禁止』の中学校が現れたという記事がありました。

 差別的なあだ名が人を傷つけるからというのが理由です。

 間違っていますね。問題は差別的な意識なのです。たとえ『大橋さん』とか『大橋君』とか呼んでも、侮蔑的な意識があればあだ名で呼ぶよりも差別です。さっき書いた『オッサン』などがそれですね。

 教員採用試験の面接で聞かれたのが、履歴に「非常勤講師」とあったせいでしょうか「生徒からあだ名をつけられていますか?」でした。面接の先生は、そのへんの機微をご承知だったのかもしれません。

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真凡プレジデント・20《走り終えたアンカーのように》

2021-03-13 06:29:42 | 小説3

プレジデント・20

《走り終えたアンカーのように》   

 

 

  柳沢が犬に追いかけられている。

 

 一瞬困っているんだろうかと思ったんだけど、どうも様子が変だ。

 犬に詳しくないんで犬種までは分からない、尻尾が巻いているから日本犬の一種なんだろうけど、千切れんばかりに尻尾を振っているところを見ると、柳沢に敵意があるんじゃなくて、どちらかと言うと懐いている?

 むろん柳沢は嫌がっていて、グラウンドを逃げ回っているんだけど、犬は巧妙に柳沢の進路を塞いでいるように思える。

「お、おい、君たち、こいつを何とかしてくれええええ!」

 もうヘゲヘゲという感じで助けを求める。

「これは見ものだわあ(・∀・)」

 綾乃は意地悪くニヤニヤ、まあ、微笑ましいとも思える状況なので、すぐには動かない。

「やれやれ……」

 やがて、なつきが揉み手しながら柳沢と犬の間に入って、グラウンドを半周するうちに捕まえてしまった。

 家が食べ物屋なので飼うことはできないけど、かなりの動物好きなのだ。

 

「いやあ、助かったあ、ありがとう…………」

 

 両手を膝の上に置いてゼーゼー言ってる柳沢。

 もう全身汗みずくで、喘いでいるんだけど、この男は、こういう時でもカッコいい。箱根駅伝をトップで走り終えたアンカーのように、滴り落ちる汗までが健康美のエフェクトになっている。

「しかし、どうしたんですか?」

 とりあえず事情を聴く、なんというか、こういう状況では事情を聴くのが常識だと思うからね。会長になったからには、そいう心配りも必要だと思うのよ。

「犬の飼い主にお詫びに行こうと思ってさ、ずっと拘留されてたから、まずは、そこからと思って」

 柳沢が投げ落とした犬は、後足と肋骨を骨折して動物病院に入院しているのがSNSに投稿されていて、痛ましくも可愛い姿に、世の犬ファンや愛好家から数千の〔いいね〕を獲得している。

「ところが、その飼い主の家の近くまでいくと、隣の家から、そいつが飛び出して来てさ」

「追いかけられて、ここまで?」

「あ、ああ。俺、基本的には犬が苦手でさあ」

「ああ、この子、あちこちに噛まれた跡があるよ!」

 犬を抱っこしていたなつきが犬を捧げるようにしてみんなに見せた。確かに治りかけてはいるが痛々しい傷跡がうかがえる。

「とにかく、それじゃ不審尋問されかねないでしょ、体育科に行ってシャワー借りれるようにしますから、サッパリしてはいかがですか?」

 ようやく笑いが収まったみずきが提案する。

「あ、そうだな。ロッカーから着替えを取ってくるよ」

「じゃ、それまで犬は預かっています」

「甘えるようで悪いんだけど、三丁目の畑中さんて家なんだ、返しに行ってくれるとありがたい」

「え……あ、分かりました」

 ちょっと怯んだなつきだが、わたしが目配せすると、コクンと頷いた。

「じゃ、さっそくみんなで……あれ、みずき?」

  いつのまにかみずきの姿が消えていた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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