大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・32『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』

2021-03-29 09:18:30 | 評論

訳日本の神話・32
『やっぱり、こいつは大っ嫌いだ』    

 

 

 スサノオの意地悪の三回目の続きです。

 

 一回は蛇の岩屋、二回目はムカデの岩屋に放り込みますが、オオナムチはスセリヒメが機転を利かせて事なきを得ました。

 三回目は、自慢の強弓で鏑矢を撃って、それを取りに行ってこいとオオナムチに命じます。

 弓矢の射程距離はせいぜい400メートルですから、小学校の外周を一周するほどの距離。

 ひとっ走り行ってこようと張り切るオオナムチですが、スサノオの矢は見渡す限りの草原の中に落ちてしまっています。

 草はオオナムチの腰の高さほどに繁茂していて、容易に見つけることができません。

「ええと……どこに落ちたかなあ……」

 オオナムチという若者は、言われたこと、命ぜられたことに疑問を持ちません。

 白兎のところでも兄のヤソガミたちに言われるままで、怒るということがありません。

 手間山の赤猪と偽って真っ赤に焼けた岩に押しつぶされ……これは一度死んでいます。体を押しつぶされたうえに、石焼き芋のように焼かれてしまいますが怒った様子がありません。

 スサノオの二度のいじめに遭っても、翌朝には「おはようございます」と挨拶しているようなありさまです。

「こいつ、どんな神経しとんじゃ!?」

 スサノオは、逆に切れやすいオッサンです。

 感情の量が大きい男です。

 子どものころは母親のイザナギが居ないと言っては手足をジタバタさせてしょっちゅう地震を起こしていましたし、高天原でも姉のアマテラスがブチギレて天岩戸に隠れるほどの悪さをします。

 そもそも、高天原に行ったのもスサノオの乱暴を持て余したイザナギに「お姉ちゃんのアマテラスには母の面影がある」と父に言われ、矢も楯もたまらなくなったからです。その勢いは凄まじく、アマテラスは「バカ弟が攻めてきた!」と、高天原の軍勢を引き連れて出撃したほどです。

 ヤマタノオロチを退治した時は、痛快な働きをしますが、その原動力は彼の大きすぎる感情量です。

 古事記を素材にした東映アニメに『わんぱく皇子のオロチ退治』がありますが、ここでのスサノオはオロチをやっつけるため神話世界第一の名馬と言われたアメノフチコマを乗りこなします。

 アメノフチコマは「あんたを乗せてやってもいいけど、あたしの走りっぷりを〇十分(時間は忘れました)瞬きせずに見てんのよ!」と言われ、一度も瞬きせずに見極め、見事自分の乗馬にしています。

 こういう激しく感情量の多いオッサンは、何を考えているか分からない、感情の揺らめきさえ見えないオオナムチは、たまらなくイライラする若造なんでしょう。まして、愛娘のスセリヒメがぞっこんなのですから、いらだちはマックスなのです。

 スサノオは、オオナムチが正直に鏑矢を探している草原に火矢を射かけて焼き殺そうとします。

 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 スセリヒメはムンクの『叫び』のような悲鳴をあげます。

 草原は一晩燃え続け、とてもオオナムチは生きていないだろうと思われました。手間山の赤猪の時も、オオナムチはちゃんと焼け死んでいますから。

「いいか、ああいうなまっちろいクソ男は、こういう死に方をするんだ。目を覚ませスセリヒメ!」

 理不尽な説教を垂れる父親にスセリヒメは言葉もありません。

 すると、ブスブス煙る焼け跡の向こうから声がします。

―― おとうさーーーん、ありましたよーーーーー ――

 呑気な表情で焦げた鏑矢を掲げてノンビリと歩いてきます。

「!?」

「オオナムチ!」

 スセリヒメはピョンピョン飛んで喜びます。

 スサノオは苦虫を嚙み潰したような顔をして思いました。

―― やっぱり、こいつは大っ嫌いだ ――

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らいと古典・わたしの徒然草・57『かたはらいたく、聞きにくし』

2021-03-29 06:41:26 | 自己紹介

わたしの然草・57
『かたはらいたく、聞きにくし』  



徒然草 第五十七段

 人の語り出でたる歌物語の、歌のわろきこそ、本意なけれ。少しその道知らん人は、いみじと思ひては語らじ。すべて、いとも知らぬ道の物語したる、かたはらいたく、聞きにくし。

 中途半端な知識や経験で、あれこれウンチクをたれるのはウザイだよなあ……。
 これを、兼好のオッチャンは、自分の専門の和歌に例えて言っています。

「歌詠みは下手こそよけれ天地(あめつち)の動きいだしてたまるものかは」
 宿屋飯盛の狂歌を思い出します。
 これは古今和歌集の序、「力をもいれずして天地を動かし…」をもじったものであると言われています。
 この狂歌は、宿屋飯盛の意図を超え、中途半端を超えて専門家さえ疑ってかかれ。と言う風に聞こえます。

 子どもの頃、社会主義や共産主義の国が世界の半分あって、なかなか捨てたもんじゃない。と教えられました。唯物論の初歩を教えられ、遠回しではあるが、マルクス・レーニンの考えと、それを理念として、当時現実に存在していた国々は正しいとも教えられました。
 しかし前世紀末にそういう国々は地上から姿を消しました。子どもの頃、朝日新聞の天声人語で入江徳郎氏がアジア某国に行き、その国を礼賛したものを読んだことを思いだします。

――ホテルから見える街は清潔で、労働者たちが隊列を組んで合唱しながら整然と職場から帰る姿に、この国のすばらしさを感じた。そういう内容でした。
 中国の文化大革命を頼もしく思っていた時期がありました。
 高三のとき『誰も書かなかったソ連』という本を読みました。あまりに習ったこととかけ離れたことが書かれていたので、先生に聞いてみました。
「アメリカはもっと矛盾に満ちた国だ」と答えられました。
 その『誰も書かなかったソ連』の姿が現実であることは、ソ連が崩壊してから知ったし、もっと矛盾に満ちたアメリカが健在であることで、わたしは先生や著名人の言うことを鵜呑みにはしないニイチャンになりました。

 わたしは、高校二年を二回やりました。つまり落第なのですが、専門用語では原級留置と警察のお世話になるような言い方をします、高校生のスラングではダブリと申します。
 わたしは落ちた時に先生達から、こう言われました。
「オマエが落ちるとは思わんかった……」余韻の部分には軽蔑と非難のニュアンスがありました。
 わたしは、いわゆる品行方正な生徒で、留年が決定する、ほんの二週間前には在校生代表として、卒業式で送辞を読んでおりました。
「前代未聞だ!」と東京帝大卒の先生ななじられました。
「送辞を読んだ在校生代表が原級留置になるなんて、聞いたことがない」と続きます。
 純真だったわたしは自分を責めました。しかし現場の先生になって気づきました。
 留年する生徒には、成績面はもちろんのこと、出欠状況にも前兆があります。わたしは留年した年二十日ほどの欠席がありました。当時の生徒の出欠管理などいいかげんなもので、現実には三十日は欠席しています。わたし が教師になったときは、成績、出欠ともに担任、教科担当は厳格に掌握していて、一学期末から本人への指導はもちろんなこと、保護者への連絡と連携指導は当たり前のことでした。
「オマエが落ちるとは思わんかった……」は、教師と学校の怠慢でしかありません。今こんな言葉を留年決定時にい言えば、学校は指導の責任を問われます。

 目出度く三年に進級したとき驚きました。学年の落第生が三人同じクラスになっていました。落第など学年に一人いるかいないかの学校だったので、落第三人組は喜びました。
「わあ、大橋君と○○君もいっしょや!」
 落第女子がそう言って笑いました。無邪気なものです。
 学年の他の担任の先生も「卒業できるようにがんばれ!」と、励ましてくださいました。
 現職になって分かったことですが、留年などの問題を抱えた生徒は、どの担任も持ちたがりません。で、キャリアや分掌の仕事などを考え、話し合って、そういう生徒は分担して受け持つのが普通です。
 わたしたち落第三人組を引き受けたのは、カバさんでした。
 むろんあだ名です。
 お顔と動きの緩慢さから付いたあだ名で、学年主任の先生であられました。担任会で引き受けてのない三人組を主任の責任で、お引き受けになったのであろうと思います。いわゆる貧乏くじ。
「がんばれよ!」と励ましてくれた他の先生たちは、留年生の受け持ちにはなりたくなかったのだと思います。学校とは社会の縮図、それも一時代遅れの縮図です。わたしが高校で教わった教養は美術の他は、ただ一つ。
「反面教師」の四文字でありました。

 どうもいけません、かたはらいたくから脱線して終わってしまいます。

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真凡プレジデント・36《琢磨の膝カックン》

2021-03-29 06:17:47 | 小説3

レジデント・36

《琢磨の膝カックン》      

 

 

 俺は世間の高校三年生よりはできる男だと思う。

 勉強はもちろん、身体的能力も、物事への洞察力も忍耐力もリーダーシップも表現力も、他にいろんなこともな。

 でも、スターになったり、将来政界に打って出て総理大臣を目指したり、そんなことは考えていない。

 さしあたり、平穏な高校生活を全うし、とりあえず大学に入れればいいと思っている。

 ちょっと前、テレビ局の企画に乗って司法試験の過去問をやった。

 ひょんなことで、ネット上、現役の国会議員にして弁護士で国務大臣経験者の某氏と論戦になり、絡んできたテレビ局の陰謀に乗ってしまったからだ。

 

 結果的に、俺は合格、某氏は落第の点数だった。

 

 高校生に負ける弁護士ってどうなんだ!

 野党が勢いづいて、あちこちで某氏を揶揄し、嘲笑った。

「今度は、ぜひ、野党の○○さんとやりたいですね」

 学校までやってきた記者に言ってやった。

 もと検事の女性議員の名を上げておいたが、野党を貶めることはご法度のようで、みごとに無視された。

 

 まあ、それもいい。政治には興味ないし、俺は、俺の周囲が平穏で、程よく活気づいていれば、それでいいんだ。

 

 今回は二年前の入試に不手際があり、本来合格していたはずの女の子が落とされたという事実が発覚した。

 その子は、入試の開示請求をおこない、採点ミスで落とされたことを知ったのだ。

 それ自体は去年の話なんだけど、学校も教育委員会も初期対応をあやまり、その子はへそを曲げてしまった。

 その子なりに調べてネットでも評判になりかけたころ、その子とは逆に、落ちていたはずの子が受かっていることに気が付いた。

 それが、橘なつきだ。

 生徒会会計にして我が天敵北白川綾乃のクラスメート。生徒会選挙に絡んだ一連の事件で俺の意識圏の中に入ってきた田中真凡の親友でもある。

 ここまでの展開が気になったら、ちょっと手間だが読み返してほしい。一つ一つは平凡な日常だが、とっても非日常的な、世界がひっくり返りそうな出来事が起こりそうな予感がすると思うぜ。『ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす』的な展開がな。まだまだ萌芽と言っていい段階だが……まあ、あまり煽るような言動は慎もう。

 ともかく、なつきに罪は無いし、その子もなつきを貶めるつもりはない。

 ただ、面白いから世間もテレビ局も騒いだ。俺が予感しているようなことではなく、単に視聴率が稼げそうな面白さ。そいつのために連日学校を取り巻いては、あることないこと取材していく。

 もちろん学校名は伏せているが、そんなものは建前だけで、登下校の生徒にインタビューを求めたり、コメンテーターに好き放題なことを言わせては視聴率を稼いでいる。

「今日も○○高校前に来ております。二度目の取材を申し入れてありますが、断られてしまいましたので、やむなく学校の裏手の一般道からお送りいたしています。視聴者の皆さまからは学校名の公表など望む声が上がっておりますが、わたしたちは一般生徒の皆さんの平穏を侵したくはありませんので、このような隔靴搔痒のような取材方法をとっております」

 わざとらしく電柱の所番地表記にモザイクを掛けて収録の真っ最中。

 

 カックン

 

 正義の味方ヅラの放送記者に膝カックンを食らわせるところから始めてみた。

「わ、わ、なにを!?」

 オタオタする放送記者は、間抜けた阿呆面で俺を確認すると、媚びた顔で迫って来た。

「あ、キミは列車事故を未然に防いだ柳沢琢磨くん!」

 先月までは付けていたサイコパスの称号を外して、友だちのような笑顔を振りまいてきやがった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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