大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・30『スサノオは岩屋が大好き』

2021-03-16 14:38:52 | 評論

訳日本の神話・30
『スサノオは岩屋が大好き』    

 

 

 娘のスセリヒメが一目ぼれしたオオナムチにスサノオは試練を与えます。

 試練と言うよりは……よく言って嫌がらせ。現代の感覚ではイジメですね。

 オオナムチは、ヒョロッとした優男なので、イジメてやれば逃げ出していくと思っていたのでしょう。

「蛇の岩屋で一晩寝てろ」

 一匹や二匹の蛇ではありません。何千何万という数の蛇です。ひょっとしたら毒蛇も混じっているのかもしれません。その中で寝てろというのは――すぐに目を回して逃げるだろう。いや、言っただけで逃げ出すかもな――ぐらいに舐めていますし、悪意があります。

「はい、わかりました」

 オオナムチは素直に返事します。

 ヤソガミたちに大荷物を持たされても、手間山で赤猪を掴まえてこいと言われても「うん、分かった」と微塵も疑いません。手間山では騙されて真っ赤に焼けた大岩の下敷きになって焼け死んで、母のサシクニワカヒメは気も狂わんばかりに嘆き悲しみますが、当の本人は「あ、生き返った」ぐらいの感覚でした。

 どこか鈍いのか、人がいいのか、この鈍さとも人の好さというものがヤガミヒメにもスセリヒメにも魅力だったのかもしれません。

「ねえ、この領巾(ひれ)を使って」

 スセリヒメは身にまとっていた領巾(ひれ)をオオナムチに渡します。

 領巾(ひれ)とは、古代の女性が首にかけていたマフラーとショールの間ぐらいの装身具の布です。

 これは蛇の領巾で、一振りすれば蛇たちは逃げ出して、オオナムチは何事もなくグッスリと眠れました。

 

「くそ、今度は蜂とムカデがいっぱいの岩屋で寝てろ!」

 

 スサノオは岩屋が好きです。人をイジメるのには岩屋が一番だと思っているようです。

 父のイザナギが死んだイザナミを追っていった黄泉の国の長大な岩屋ですし、姉のアマテラスが籠って地上も天上も真っ暗闇にしたのは、天岩戸という岩屋に籠ったからです。

 どうも、スサノオの深層心理には岩屋=怖いものという図式があったようです。

 昔の子どもは悪さをすると押し入れとか倉とかに閉じ込められました。

 自分から入るぶんには面白い閉鎖空間なのですが、閉じ込められると恐ろしいものです。

 わたしたちが子どものころ、空き地などに壊れた冷蔵庫が捨ててありました。隠れん坊をやっていて、自分から冷蔵庫の中に入って、見つけられることもなく、自分から出ていくこともできずに窒息死してしまうという事故が、時々ありました。

 トイレの花子さんが怖いのも、あの暗くて狭い岩屋のごとき個室に入っているからなのかもしれません。

「うちのお父さんは岩屋しか能がないから、対策は万全よ(^▽^)/」

 そう言って、また別の領巾を貸してくれ、無事に一晩を過ごすことができました。

 古事記には書いていませんが、おそらくは娘が手助けしたことを知ってはいたんでしょうねえ。

 目に入れても痛くない娘ですから、スセリヒメを非難することはしません。

 その代わり、今度は三度目の正直とばかりに、はっきりと殺意を持ってオオナムチに命じます……

 

 

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魔法少女マヂカ・202『常盤橋 ゾワアアアアアアアアアアア』

2021-03-16 09:55:45 | 小説

魔法少女マヂカ・202

『常盤橋 ゾワアアアアアアアアアアア』語り手:マヂカ    

 

 

「二人は、ここで待っていて」

「「う、うん」」

 

 橋を渡り切ると、霧子とノンコを残し、ブリンダと二人で偵察に向かう。

 不穏なのだ。

 なにか禍々しいものが蟠っているような、空気が粘ってまとわりついてくるような不穏さがあるのだ。二人にはぼかしてあるが、単に震災痕が危険と言うだけではないことを肌で感じて頷いてくれた。

「新畑というのは明智小五郎のなりそこないだったんだけどね」

「明智……あの謀反人の子孫か?」

「いや、ただの同姓だ。江戸川乱歩の創作物だけど日本有数の探偵、『D坂殺人事件』で世に出るんだけど、それは団子坂の喫茶店で可能性が無くなったよ」

「作者を始末したのか?」

「言うことが剣呑だな」

「アメリカならそうする。必要とあれば大統領だって始末するぞ」

「ケネディーを殺ったのはブリンダか?」

「まさか」

「新畑自身がやったんだ、霧子はダシに使われた感じがするんだけど、追及すると藪蛇になりそうな気がしてね、わたしとしては観察中よ……」

「Das Kapital」

「マルクスね」

 凌雲閣のドアに挟まっていた紙片は『Das Kapital』、つまり『資本論』の断片だった。

 大正末から昭和の初めは日本においても共産主義の勃興期だ。震災を挟んだこの時期にも明らかになったもの以外にも凄惨な事件やテロが起こっている。

「この時代は、ロシアやヨーロッパの事に目を奪われて日本の事は二の次だったからな」

「そうね、ブリンダもわたしも自分の国には戻れなかった。震災前後の事は書類で知っているだけ……だから、見当がつかない。『Das Kapital』は主義者からの警告か主義者を警戒しろという戒めなのか……どうかした?」

 二丁目の角に差し掛かったところでブリンダが立ち止まった。

―― 来るぞ ――

―― 西と東 ――

 思念を交わすと、ブリンダは東の人形町方向、わたしは西の日銀通り方向に駆けた!

 感じた気配を瞬間で分析、揃って戦うよりも二人分散して戦った方が有利という結論を確認することもなく行動に出た、魔法少女の勘だ。

 禍々しさは秒速で高まってきて、空気の粘度が増していく。

 時間が停まりかけている……第一級の魔物は時間を弄って襲ってくる。二線級は時間を遅らせるだけだが、一級となると完全に時間を停める。時間を停められれば人間の武器は核兵器でも役に立たない。魔法少女が対抗する以外に手は無いのだ。

 ギュイイイイイイイイイイイイイン

 まるで空気が凝固していくような抵抗感、髪の毛や皮膚が後ろに持っていかれそうに突っ張らかる!

 パキーーーーーーーーーーーーーン!

 弾けるような感覚があって体が自由になる。

 音速の壁を超えた感覚に似ている。時間の壁を超えたのだ。

 常盤橋の手前に、まるでフィギュアを並べたように人の列。ほとんどが軍人だ。

 その軍人の列の中ほどに小柄な左官級の軍服。その左官級に将官たちがゾロゾロ……摂政の宮殿下だ。

 平時なら馬か車で移動されるのだろうが、事細かに被災状況を視察するためだろう、徒歩での御視察だ。

 まずい、あまりに無防備。

 ゾワアアアアアアアアアアア!

 常盤橋周辺の地面が鳥肌を立てたように泡立ったかと思うと、鳥肌の一つ一つから無数の黒い影が飛び出して摂政の宮殿下の列に襲い掛かった!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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真凡プレジデント・23《これをやれば体育祭は盛り上がる!》

2021-03-16 06:52:53 | 小説3

レジデント・23

《これをやれば体育祭は盛り上がる!》  

 

 

 

 目立たない格好のつもりらしい。

 

「でしょでしょ(o^-^o)、番組で着てたおシャレなジャージだから、ちょっとだけね、スクールジャージみたく白線とかネームとか入ってないし、狸穴坂46とオソロだし、コンセプトは『書を捨てよ街に出よう』だから、パジャマ、部屋着、ちょっとした外出着にもなってえ、引きこもり応援グッズのベストワンだったしさ、自然に溶け込んで目立たないっしょ」

「喋ったら目立つ!」

 グイグイ引っ張って家に帰る道すがら、姉貴は陽気に言い訳ばかりしている。

 小さいころからのモテカワで、高校と大学のミスコンではずっと一等賞。女子アナになってからは、いっそう磨きがかかり某週刊誌で『恋人にしたい女子アナ!』のナンバーワンになった。いくらジャージ姿でも姉貴は目立つんだ。それに、いくらオシャレでもジャージはジャージ、狸穴坂46だって不振で解散してるし、理由はダサイアイドルだったし、落ちぶれ女子アナ宣伝してるようなもんだし、やっと世間は忘れかけてるっていうのに、ジャージ姿で買い食いなんてあり得ないんだよ!

「ねえ、これだけ買いに行かせてよ~」

 折り込み広告なんかヒラヒラさせんな、ちょ、顔に貼りつけんな!

「……大学芋?」

「そ、コロッケじゃないんだよ! 匂いもしないからさ、これだけ買いに行かせてよ! 行かせてよ真凡ちゃ~ん」

「ウウ……ダメだあ」

「ね、家に帰るまで食べたりしないからさ」

 立ち止まったのが中町公園の前、やっぱ、人がチラチラ見ている。これ以上ことを荒立てたくないわたしは「先に帰ってジッとしとくこと!」チラシをふんだくって商店街に舞い戻る。

 

 で、やっと宿敵の大学芋を買って戻ってみると、公園の一角に人だかり。

 

 買い物帰りのオバサンや、下校途中やらそうでないのやらのガキども、シルバー人材センターご指名の公園整備のお年寄り。

 でもって、その人だかりの真ん中には不肖の姉貴。だれが持ち込んだのかけん玉で賑わっている。

 とても、その輪の中に入っていく気にはなれずに木陰に隠れる。

――やっぱ、腰の入り方! 失敗してもフォームがお見事! 大勢でやると楽しさ倍増! これは延長戦か!? いま、ドキッとした? アハハ、笑顔でやらなくっちゃ何事も~ よーし、じゃ、つぎはみんなで駆けっこだ! 低学年の部と高学年の部と、それ以上に分けまーす!――

 職業柄かよくしゃべる。

 喋るだけじゃなくて、姉貴の喋りは場を盛り上げる。

 

 そーっと木陰から覗いてみると、みんな、姉貴よりもけん玉に夢中になり始めている。

 けん玉くらいで、こんなに人は熱狂はしないだろう。盛り上げたのはジャージの姉貴……。

 

 閃いた! これをやれば体育祭は盛り上がる!

 けん玉大会が終わるのを待って、ジャージ女を引っ張って家に帰る。

「ん? なんか、さっきまでの真凡と違くない?」

 わたしは、なんとか家に帰るまでは耐えるのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

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