大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・032『紫陽花の季節』

2023-06-08 15:29:09 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

032『紫陽花の季節』   

 

 

 入学してから、今日で二か月。

 

 カレンダーが二回改まって、六月の第二週に入ろうとしている。

 商店街を抜けて学校までの家々の前や植え込みに紫陽花があるのに気付く。

 花をつける前の紫陽花は、ただの葉っぱの塊で、ツツジやさつき、バラに隠れてまるで存在感が無い。

 バラが古文の先生が余談で話してくれた卒塔婆小町(百歳の小野小町)のように茶色く萎びたころに、紫陽花の花は姿を現す。最初は地味で小振りな和菓子のようなのが、あっという間に豚まん、メロンパンくらいの大きさになって、梅雨本番。

 紫陽花だって名前の通り花なんだから、赤とか黄色とか青とかに染まればいいんだけど、ここらへんの紫陽花は、薄々緑か薄々紫。花言葉は『移り気』だから、そのうち変わらないかなあと、通学時のささやかな楽しみにしている。

「紫陽花の色って、土壌で決まるって言いますからね、ここいらは関東ローム層ですからね、リン酸系の肥料をたくさんやらなきゃまともに育ちませんよ」

 ロコは、情の無い説明でささやかな楽しみを萎ませてくれる。

 

 さて、二か月目の一年五組。

 

 最初は一時間目の予鈴が鳴るころには全員が教室に揃っていたんだけど、近ごろは本鈴が鳴っても空いている席がある。小中学校みたいに朝礼をやらないもんだから、だんだん横着になって来る。

 近ごろじゃ、先生たちも二三分遅れて授業にやってくる。「早く来ても、揃ってないだろ」という先生には、少々呆れた。生徒に規律を守らせるのは先生だ。守らせると言っても説教や嫌味を言うことじゃない。先生たちが時間を守ればいいだけの話だ。

「朝礼ぐらいやればいいのに」

 朝の無秩序に、ちょっとグチが出る。

「先生たちの朝礼が無いんだ、生徒に朝礼なんて無理だろうな」

 そう言いながら、委員長の高峰君は黒板の脇、日付と日直の名前を書く。いつもは、担任の藤田先生が前の日に書いておくんだけど、今日は忘れているんだ。

 で、今日の日直は時司……って、わたしのことじゃん!

 慌てて学級日誌をとりに行こうと廊下に出たら、ちょうど先生がやってくるところ。

 仕方ない、日誌は一時間目終わってから……て、一時間目は数学のはずなのに、やって来るのは古文の先生。

 古文は6時間目だぞ。

「ええと、話し通ってるよな、委員長?」

 わたしの疑問に気づいたのか、委員長に振るんだけど、先生が顔を向けているのは10円男の方だ。

 委員長の高峰君も不審に思って10円男に首を巡らす。

「あ、すみません、委員長に言ってる暇なかったんで、ちょっと代理でやりました」

 しゃーしゃーとぬかす10円男。

「しょうがないなあ、ま、そういういわけで、一時間目はわたしの古文だ」

 え、じゃ6時間目は? それって? ヒソヒソ声が上がる。

「先生休みで、カットカット」

 10円男が言うと、クラスの大半は紫陽花の花がいっぺんに色を変えたように喜んでいる。

 ボサボサの髪を搔きながらガハハと笑う10円男。

 高峰君はポーカーフェイスで古文の教科書とノートを出している。ポーカーフェイスだけど、あれは怒ってるよ。

 

 その日、五時間目で終わって帰り道、いつもの道に水たまり。一つ向こうの道から商店街に入ったら、須之内写真館の前。フラワーポットの紫陽花はきれいな赤色の花をつけていた。

「赤の紫陽花は『元気な女性』が花ことばです!」

 ロコが博識ぶりを発揮。わたしを元気づけてくれたのかもしれないけど、わたしは写真館のオネエサンの顔が浮かんだ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

  

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RE・かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4』

2023-06-08 06:16:26 | 時かける少女

RE・

121『四号戦車試乗会・4』ブリュンヒルデ  

 

 

 

 四号戦車試乗会はヘルム文化フェスティバルになってしまい、プログラムが進むうちにアイデアが出て、ますます賑やかになってきた。

 大道芸人友の会のパフォーマンスが終わると『大声コンテスト』になり、二十四人が手を挙げて声を競った。

 ウオーー! ガオーー! 猛獣のような叫び声をあげる者もいれば、バカヤローー!とうっ憤を晴らす者、愛してるーー!と叫んで、誰を愛してるんだーー!? と聴衆に迫られ、とうとうその場でプロポーズをさせられてしまう者まで現れた。

 子どもたちもなにかやりたい! ということで、ハングライダークラブが紙飛行機コンテストを始めた。丘の上には麓から上昇気流が噴き上がってきているので、どの紙飛行機も大空高く飛び上がり、優勝した紙飛行機は、とうとう姿が見えなくなるまで飛んでしまい「素晴らしい! 五年ぶりの視界没が出ました!」と盛り上がった。

 ……という段取りで。

 わたしがMCをやっている間に乗員たちと出し物グループとの話がついて、ハングライダーグループが子どもたちを連れて体験飛行をやり、それと並行して四号の主砲で花火を打ち上げることになった。

「わたしも参加する!」

 宣言したのはユーリアだ。

 いつの間にかハーネスを付けてヘルメットにゴーグルの姿。飛ぶ気満々の出で立ちになっている。

「ユーリアは先月までうちのクラブにいたんですよ(^▽^)」

 グループのリーダーが準備を手伝いながらニコニコしている。ユーリアはなかなかの腕のようだ。

「花火のタイミングは、わたしが出すからね」

 ユーリアと無線のチェックをする。

「自分も飛ぼうかなあ」

 見ていたヤコブもその気になるが「体重減らしてからに……」とリーダーに言われて諦めた。

 ブラバンが『ペガサスマーチ』を奏でる中、ハングライダーチームは次々と空に舞った。

 子どもたちを抱えている者はゆるゆると安全飛行を心がけたが、単独で飛んでいる者は華麗にターンや宙返りなどのパフォーマンスを繰り広げ、丘の上で見物している者たちから喝さいを浴びた。

 

 それは、リーダーとユーリアがコンビでパラレルターンを決めた直後だった。

 

 ―― 花火! ――

 ユーリアの無線。テルにキッカケを出して四号は最大仰角に上げた主砲から立て続けに花火が打ち上げられた!

 三発上げたところで、山々にユーリアの声が木霊した。無線がビッグバンドのスピーカーにリンクしていたのだ。

―― 今から向かいまーす! ――

 どこへ?

―― これから、ヤマタの神のもとに行きまーーす! だいじょーーぶ! ちゃんと役目は果たしまーす! さよならお兄ちゃん! ありがとう四号のみなさーん! 行ってきまーーす! ヘルムのみなさーーん! ――

 そこまで言い切ると、サッとターンして、ハングライダーとは思えぬスピードで東を目指して飛んでいく。

 やられた、この漆黒の姫騎士までも、まんまとたばかりおった!

「乗員は四号に乗れ!」

「どうすんの、戦車じゃ追えないよ!?」

 ケイトが当然の疑問をぶつける。

「見くびるな! ユーリアは漆黒の姫騎士の心に火をつけおったぞ!……いくぞ! 四号発進!」

 ゴーーーー!!

 我が意を受けた四号は、唸りを上げて浮揚し始めた……

 

☆ ステータス

 HP:12000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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