大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・167『ピタゴラスゴールデン街・1』

2023-06-29 13:14:40 | 小説4

・167

『ピタゴラスゴールデン街・1』緒方未来 

 

 

 月の勤務は月番になっている。

 月の月番、なんかダジャレっぽいけど、本当のはなし。

 

 昔の江戸幕府は上から下まで月番制だった。

 ほら、時代劇でよく出てくる江戸の町奉行は北町奉行と南町奉行でしょ?

 桜の入れ墨で有名な遠山金四郎は北町奉行、大岡裁きで有名な大岡越前守は南町奉行とかさ。

 江戸の街は広いから、北と南に奉行所が置かれて分担してたように思われてるけど、ぜんぜん違う。

 ひと月交代で奉行が交代する、奉行所ぐるみね。

 奇数月が北だったら、偶数月は南とかね。

 奉行所以外にも、たいていの役職は二つあって交代でやってたんだよ江戸幕府は。

 理由は、二つにして互いにけん制させてサボったり不正なことをさせないため。

 もう一つは、武士の数が多すぎるから。

 戦国時代は武士=軍人だった。戦争では兵隊がいっぱい必要だった。旗本八万騎とか云ってウジャウジャいた。

 平和になると、そんなには要らないんだけど、クビにするわけにもいかず、一つの役職を複数でやらせた。

 月番制でね。

 とうぜん給料は安いんだけど、それでも、不正もせずに黙々とお務めを果たしていた。

「まあ、それが日本人なんだ」

 現役の時に老中まで務めたお祖父ちゃんが加齢臭のする膝に幼児だったわたしを載せて言ってた。

 お父さんの消毒薬の匂いも好きだったけど、お祖父ちゃんの加齢臭も嫌いじゃなかった。

 

 扶桑も幕府の体制をとっているので、月番制がある。

 

 人数が多いからじゃない。

 扶桑は独立前から人手不足で、地球からの入植者を受け入れて、なんとかやってきた。

 開墾、インフラ整備、国境警備、水の生成事業、大気循環管理、教育の充実、やることはいっぱいあって、どの仕事も楽じゃなかった。

 それで、初代将軍の一仁(かずひと)様は「幕府なんだから月番制にしよう」とおっしゃった。

 みんなビックリした。

 江戸幕府とは違って、扶桑幕府は人手不足。

「いや、比較的に穏やかな仕事と、きつい仕事を交代でやるんだよ」

「交代で?」

「そう、交代で。例えば……」

 

 ということで、真っ先に月番制になったのが月面でのあれこれの仕事。

 

 パスカルの診療所勤務を一か月やったわたしは、ピタゴラス医科大学の医局勤務に戻る。

 医局は、月面のあちこちにある病院や診療所への派遣や設備更新の仕事が中心なんだけど、附属病院での診療もあって、江戸時代の月番で言う非番とは違う。

 最前線の現場と職種の中央を交代させることで血の巡りを良くしようという仕組み。

 むろん月番に馴染まない職種もある。学校の先生とか芸能関係、軍人、議員とかね。人によっては交代したくないという人も居て、そういう人までも縛ったりはしない。

 

 パスカルの診療所では考えられなかった5時に仕事を終えて街に出る。

 

 修学旅行で行った東京とは比較にならないけど、ピタゴラスにも羽を伸ばすところはある。

 ピタゴラスゴールデン街

 ご先祖が新宿ゴールデン街で店を持っていたおばちゃんがピタゴラスで居酒屋を始めたのがきっかけで、いろんな人が寄り添うように店を出したのが150年前。

 その後扶桑国が3PA(パスカル、プラトン、ピタゴラス、アルキメデス)の開発権を獲得して再開発され、今では、プラトンの八戸ノ里と並ぶ賑わいを見せている。

 

 三層構造になっているゴールデン街の南半分には大きな吹き抜けになっていて、吹き抜けの底のイベント広場では駆け出しのミュージシャンやアーティストたちが演奏したりパフォーマンスをやっている。

 みんな指向性のマイクを使っているので、その周囲にしか音が漏れなくて、混じり合ってグチャグチャになることはない。気にいればハンベを指向させて、ゴールデン街に居る限り聴き続けることができる。

 ハンベを操作して、お気に入りの『月面宙返り楽団』の演奏を拾って二階のスリッパ書房に向かう。

 

「あ、緒方先生、入ってますよ(^▽^)」

 店に入ると、お父さんと歳の変わらない店主のおじさんが笑顔で迎えてくれる。

「え、ほんと!?」

「復刻版ですけどね、正真正銘の『宇宙戦艦三笠』の初版本」

 復刻版で初版本は笑っちゃうんだけど、こういうやり取りが面白い。

「わ、この紙質、インクの匂いぃ~」

「はい、ちゃんと琥珀の風合いを出して、二百年前の出版された時のままです」

「アハハ、さすが復刻版ですね(^_^;)」

「はい、本物は手に取っただけでバラバラになりますからね」

「ありがとうございます! これで来月の診療所勤務もがんばれます!」

「いやあ、お若いのに先生も大変ですね」

「アハハ、それほどでもぉ」

「いえいえ、こうやって店に出られているのも先生のお蔭です」

「いえいえ、たまたま当直だったからですよ。他の先生でも、ちゃんとやってますから(^_^;)。えと、次の予約していいですかぁ?」

「はい、次は『はるか』ですか?」

「はい、作者初期の単行本です」

「さすがはお目が高い、普通は『まどか』を好まれる方が多いですが『まどか』は本来は『はるか』のスピンオフ。『はるか』から読むのが正当ですよ」

「あ、じゃあ、よろしく」

「承りました」

 

 ペコリと頭を下げて店を出る。

 この歳で「先生」と呼ばれるのは、居心地が悪いんだけど「緒方さんとか未来さんとか呼んでは、こちらが喋れなくなります」と言われては仕方がない。

『月面宙返り楽団』を聴きながら、北半分のコアなピタゴラスゴールデン街に足を向ける。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』

2023-06-29 06:01:33 | 時かける少女

RE・

142『トール元帥のミョルニルハンマー』ブリュンヒルデ 

 

 

 身の丈三十メートルのトール元帥は一個連隊の親衛戦車隊を引き連れている。

 

 親衛戦車隊は空を飛べる。

 日ごろ、ムヘンの警備任務にあたっているのは国防軍で、国防軍の戦車は飛ぶことができない。

 我々の四号は国防軍仕様の四号だ。テルやケイトは羨ましそうな顔をしているが、空飛ぶ戦車は燃費が悪い。飛行していると満タンでもニ十分が限度。それが一個連隊の大編隊で飛べるのはトール元帥が飛行しながら補っているからだ。

 トール元帥の図体が大きいのも、その全身にエネルギーを貯めているからだ。

 かつて、父オーディンから辺境の討伐を命ぜられた時、元帥は父に言った。

「一年や一年半なら、存分に暴れまわって見せましょう。しかし、二年三年となっては、まったく目途が立ちません。それでもやれとおっしゃるなら、オーディンの歴史には書けない非常の手段を用いなければなりませんが。よろしいか?」

 父は、黙って元帥の目を見るばかり。

「…………承知いたしました」

 父はずるい。

 困ったときは、相手の目を見るばかりで、応えは相手に言わせる。

 わたしの時も、そうであった。

 わたしは、そんな父が許せなくてヴァルハラを飛び出してしまった。父は、わたしの討伐を命じたが、トール元帥はムヘンの流刑地に押し込めるだけで済ませてしまった。それも、いずれは、わたしが抜け出し、独自に行動に出ることを見越して……でなければ、こんな風に仲間を募ってヴァルハラを目指すことなどできなかったであろうからな……。

 トール元帥のエネルギーが尽きる時……耐えがたいことが起こる。

 クリーチャーの上空を旋回しながら攻撃のタイミングを見計らっているトール元帥。もう、そのことを覚悟したのだろうか。

 それとも一撃で敵を屠って、エネルギーをリチャージすることなく終わらせる奇策があるというのだろうか。


 おお!?

 
 元帥がミョルニル(聖なる大鉄槌、ミョルニルハンマー)を振りかぶった!

 
 ミョルニルは鬼神であろうとゴジラであろうと大魔神であろうと一撃で粉砕する。その聖なる大鉄槌ミョルニルが巡洋艦を取り込んだクリーチャーのど真ん中に振り下ろされる!

 グヮッシャーーーーーーン!!

 ミョルニルの炸裂にクリーチャーは粉々に粉砕! さすがはトール元帥!

 しかし、本体は粉砕されたものの、破片の多くが独立したクリーチャーになって四方八方に逃げ始めた。

 追え!

 元帥の一言で、一個連隊の戦車隊がクリーチャーを追いかけ、三次元行進間射撃を加える。

 一つも残さず、地の果てまで追いかけてせん滅せよ!

 戦車隊は水平線の彼方までクリーチャーどもを追撃していった。

 

 元帥は、マーメイド号に並んで飛行しながら語り掛けてきた。

 

「姫、パラノキアとクリーチャーは、この元帥にお任せあれ。姫は、ひたすら障害を乗り越えつつヴァルハラを目指されよ」

「元帥!」

「大丈夫、時の女神がそろって目覚めるころにはカタがつきましょう」

「元帥、わたしもお供を!」

 タングリスが手を差し伸べる。分かっている、元帥が立ち上がったのだ、副官であるタングリスは付いていかざるを得ないだろう。過酷な任務と知りながら……でも、こういう時のタングリスって、わたしが見ても震えが出るほどに美しくなる。アンビバレンツな美しさを、わたしは正視出来ないぞ。

「おまえは、姫のお供をしろ。今度の出征にはタングニョーストが付いてくれている、心配するな」

「元帥……」

「テル、ケイト、ロキ、ユーリア、おまえたちにも苦労をかけるが、よろしく頼むぞ」

「元帥、あたしにもお!」

「ポチ、この戦が終わって、姫の旅が成就したら、このトールが新しい名前をつけてやろう。それを楽しみにわたしも戦う。姫も皆も息災でな!」

 ブゥイーーーーン

 身体を捻り、大きく旋回すると、元帥は西の水平線を目指して飛び去ってしまった。

 大丈夫だろうか……空飛ぶ戦車もミョルニルも恐ろしくエネルギーを消費するのだが……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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