鳴かぬなら 信長転生記
一息つくと、うなだれたまま桃太郎は語り始めた。
「バケツ谷で鬼をやっつけた。鶴ちゃん(桃太郎は、まだ俺のことを鶴姫だと思っている)にはずいぶん世話になって、お礼を言わなきゃって、ずっと思ってた」
「ああ、ずいぶんなお礼だったがな」
「鬼になってしまったからなぁ……」
「なんで、桃太郎が鬼になるんだ」
「バケツ谷のあと、鬼たちの宝物を持って帰って、爺ちゃん婆ちゃんに渡したんだ」
「ああ、その宝物を元手に村のインフラを整えたんだな、田畑も村の家々も立派になっていたぞ」
「鶴ちゃん、村には行ってみたのか?」
「ああ、爺さん婆さん、村の者たち、みんな困っていたぞ」
「なにか気づかなかったか?」
「うん?」
――おお――
――あ、そう言えば――
勾玉の思金と草薙の剣のアッチャンが声に出しそうになるのを、胸と柄を押えて制止する。
ここは、俺ひとりで相手にしなければややこしくなる。
「村に子供や若い者の姿が見えなかったか……?」
俺を出迎えたのは桃拾いのジジババとオッサンオバハンばかりだったぞ。
「村が豊かになると、若い奴らはよそに行っちまう。昔は、一家で三人四人と子供がいたが、晩婚化が進んで出生率も、やっと1.2だ。これじゃ、50年もすれば人が居なくなっちまう」
「しかし、金太郎と浦島太郎がいたぞ。というか、おまえ金太郎の首を切ってしまっただろ!?」
「あいつは金太郎飴だ、切れば、いくらでも新しい金太郎が出てくる、進歩も成長もしないバカだ」
「浦島太郎は?」
「あれは、竜宮城とか言ってるけど、ようはよそに行って、行った先で引きこもっていたバカだ」
「容赦ないな、おまえ(-_-;)」
「容赦なくなんかないぞ! ちゃんとオニカシマに収容して鍛え直すとこだ」
「みんな逃げちまったけどな」
「鶴ちゃんが暴れるからだ」
「おまえは、なんで鬼になって村を荒らした。田んぼなんか青田刈りされてメチャクチャだったぞ」
「そこだよ!」
グッと顔を押し付けてくる、間近で見ると、こんなに暑苦しい顔も無い。
「な、なんだ(;'∀')」
「やっぱり、桃太郎とかあてにしないで、自分の村は自分で守るって気概が必要なんだ。いつまでも桃太郎に頼っているようじゃダメなんだ!」
「だからって、おまえが鬼になってしまうこともないだろ。せっかく貸間に浦島太郎を住まわせても、嫌がらせや城の兵隊にしてるだけじゃ実りが無いだろ、みんな逃げちまってるし」
「オレにはオレの考えがあったんだ……」
「おまえ、バケツ谷の時もむちゃくちゃだったけど、なにか突き抜けてたぞ。真っ直ぐ突き抜けてた。いまのおまえ、グニャグニャにこじれて……」
「うるさい!」
「桃太郎……」
「だ、だから、それは鶴ちゃんがああ!」
ノドチンコを震わせ顔中口にして迫ってくる桃太郎!
『『ダメだ!』』
二人の神が叫ぶのと、桃太郎の口がトンネルのように広がるのが同時だった!
パク!!
危うく呑み込まれそうになり、辛くも二人の神に引っ張られ宙を飛んだ。
強烈なGがかかってブラックアウトとホワイトアウトを繰り返し、意識が飛ぶ寸前に着地した。
ドスン!
狭まった視野の中に星がとびまくり、荒い呼吸を数十回繰り返して、ようやく視界が戻る。
傍らで思金が畏まり、あっちゃんは草薙の剣になって芝の上に静もっている。
芝は百坪ほどの広がりがあって、真ん中には頭ほどの石が座っている……どうやら御山に戻ってきた。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)