大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・166『パスカルからピタゴラスへ』

2023-06-24 11:50:31 | 小説4

・166

『パスカルからピタゴラスへ』緒方未来 

 

 

 月は地球に近いこともあって南極と同様に国際管理ということになっている。

 

 南極と同様の国際管理……と言っても、モデルになった南極大陸は21世紀の末に南極条約がなし崩しになって『国際社会のための有効活用』の美名のもとで乱開発されてしまったので押して知るべしなんだけど。

 地球と火星の大国が、あちこちにベースを作って、そこから地下資源を掘り出してはそれぞれの母国に送っている。

 月には大気が無いので火星のように地球化することができないので、地表に都市や国家が作れない。

 大きさも見てくれもドーム球場に似た街や施設はあるけど、月面全部合わせても100に満たない。

 ベースのほとんどは地下に作られている。資源の採掘、秘匿、防衛のためには地下に潜った方が有効なんだ。

 

 その中で数少ない露天掘りの採掘場が、このパスカル鉱山。

 

 扶桑第一の月面都市(月面と言っても大方は地下にある、さっきも言ったけど)はピタゴラスにある。

 それ以外に、プラトンとアルキメデスが扶桑のベースで、いずれもクレーターの中にある。

 

「助かる、乗せてってよ!」

 

 採掘場のドクターに引き継いでシャトルバスに乗るつもりでいたら、ダッシュがピタゴラスの基地まで戻ると言うので乗せてもらう。

 お互い、鉱山施設しかないパスカルよりも、扶桑第二の月面都市の方がいいに決まってる。

「オレは休暇じゃねえんだぞ。連隊で勤務が待ってる」

「残念、わたしは一カ月ぶりの休暇」

「一度、診療所に戻らなくていいのか?」

「昨日から交代のドクターが来てる。ちゃんと引き継ぎ規則は守ってるんだぞ」

「そうか、まあ、オレも連隊に戻れば原則的に週一回の休みはある。マス桜が五分咲きだっていうから観に行かないか?」

「ああ……うん、疲れの取れ具合でね」

「だな……ピタゴラスに近くなったら起こしてやるから、少し寝とけ」

「うん、ごめん」

 ウィーーン

 シートがパズルのように移動して後部に周る。

 ダッシュが気をきかせてくれたんだ。幼なじみでも寝顔を見られるのは恥ずかしい。

「照明落そうか?」

「このままでいい……無駄話でいいから、喋ってて、返事しなくなったら寝たと思って」

「ああ、それでいいなら」

「ほんと、パスカル勤務ってのは疲れるよねえ……」

「穴掘りの荒くればっかりだからな」

「信じられないよ、たかがゲームの得点で死人まで出るんだもんねえ。夕べので四回目だよ死体検案書書いたのぉ」

「西之島紛争からこっち、月でも地球でも荒れてるっぽいからな」

「ああ……うん……」

 

 西之島紛争は漢明の劉宏大統領がPI(パーフェクトインストール)したことで様相が変わってしまった。

 

 それまでは関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛けたようなお爺ちゃんだったけど、王春華にPIさせてからは漢明は武断的政策を引っ込め融和的な方向に向きを変えた。

 西之島に侵攻していた部隊を引き上げさせただけではなく、引き上げ命令に従わない部隊には攻撃さえ加えた。元々中央の意思に従わない軍閥の暴発という体裁をとっていたけど、味方にも厳しい劉宏のやり方は、おおむね賞賛された。

 でも、関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛け、見てくれは虞美人か楊貴妃か。

 世界の半分は騙された。

 ううん、騙されたフリをした。たとえ表面的にせよ、世界は平和を指向するものなんだ。

 実際には劉宏の息のかかった財閥、あるいは外国資本を迂回させた財閥、当面の利害を共にする外国資本。そういうのを通じて、軍事力を伴わないという意味において『平和的』に権益を拡大させつつあるんだけどね。

 そういう空気の中で、パージされた武断派や役人、表面上の穏やかさに業を煮やした荒くれや没落知識人、技術者たちが地下に潜った。

 その何割かが、地球を離れ月や火星に当面の息継ぎの場所を求めたんだ。そのしわ寄せが、そこに最初の任地を与えられたわたしやダッシュに来ている。

 まあ、苦労は若いうちにと割り切ってはいるんだけど、取りあえずは疲れたぁ(;゚Д゚)。

 

 あれ?

 

 やっと眠気がさして、ピタゴラスまで5キロというところで背中に伝わる感触が変わってきた。

「気が付いたか?」

「なんか、修学旅行で乗り回したアナログ車の感じなんですけど!」

「パルスギで人口重力を作った実験線だ」

「おお、まるで地球の道路を走ってるみたい!」

「だろ、これになぁ……」

 ダッシュがコンソールにタッチすると景色が一変した。

「ウワア、東京の湾岸線だ!」

「ああ、重力を変えると、ホログラムでも完ぺきにリアルになる」

「すごい発明だね!」

「だろ、これを作ったの、テルだ」

「え、ええ(# ゚Д゚#)!?」

 

 ビックリして懐かしくなって、とても感動して、涙が溢れてきた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』

2023-06-24 06:53:39 | 時かける少女

RE・

137『時の女神ヴェルサンディ』ブリュンヒルデ  

 

 

 右も左も 上も下も 遠いも近いも 重いも軽いも 前も後も 表も裏も 明るいも暗いも 太いも細いも 短いも長いも じゃがいも さつまいも

 
 全ての標(しるべ)がグチャグチャになった。

 全てのものが存在して目には見えるが秩序が無くなり、本来あるべき状態では認識できなくなってきている。

 これはわたしか? わたしはそれか? それはあれか? あれがそれかも? あれはどれかも? どれはそれかも? どれはだれか? だれはどれだ? いったい いったいだれなんだ!?

 目をつぶるしかなかった。

 目を開けていては、三半規管どころか全ての感覚がおかしくなって気が狂ってしまう。

 気が狂ったブリュンヒルデなんて、ムヘンの流刑地に生息していたヒルのようなもんだ。ヌメヌメとナメクジのようにイヤらしく、ポタリと落ちて来ては人や動物の血を吸っうしか能がない軟体動物。ムヘンの流刑地に眠ったまま飛ばされて、ト-ル元帥に、その名で起こされた時は――我が名からブリュンとデを取ればヒルになる――そんな自嘲的なギャグを思いついた時よりも鬱になる。

 しっかりしろ!

 ペシペシ…………ビシバシ!…………ガツン!ゴツン!

 鼻血が出るほどに自分の頬を殴ると、やっとそれが功を奏して、ゆっくりと感覚が戻ってきた。

 

 右と左 上と下 遠と近 軽と重 前と後 表と裏 明と暗 太いと細い 長と短 じゃがとさつま そして、さっきは意識さえしていなかった自他の区別もついてきた。

「姫、大丈夫ですか!?」

 真っ先にタングリスが飛んできた。

「ああ、他の者は?」

 見回すと、テルもケイトを抱き起し、ロキは自分の背中に乗っているのにも気づかず、キョロキョロとポチを探している。ポチは、まだ少しボケているようで、自分が乗っているのがロキの背中だとは気づかずにキョロキョロ……まあ、いつもの光景だ。

「どうも、動けるのはわたしたちだけのようです。ヘルムの住人は、まだフリーズしたままです」

「ポチ、ちょっと空を飛んで様子を見ろ」

「ラジャー('◇')ゞ!」

 飛び上がると、自分が乗っていたのがロキの背中であったことに気づいて「ロキ!」「ポチ!」と、二人でハグ。命じたことは瞬間で忘れている。まあ、ざっと見て四号の乗員以外は、ピクリとも動かない。呼吸している気配さえないが死んでいるのではない、わたしの直感が、そう言っている。

 直観? なぜだ、なぜ自分の直観を信じるんだ?

 考え続けられるほどには回復してはいない。

「姫、ユーリアが……」

 テーブルで伏せていたユーリアがゆっくりと上体を起こした。続いて立ち上がると、立った姿勢のまま薄っすらと光って人の背丈ほどの空中に浮きあがった。

 

「……わたしは、時を司るノルン三姉妹の次女ヴェルサンディです。ヘルムのヤマタから託されて時間を回復しました」

 

「ヴェルサンディ……ユーリアは時の女神がったのか?」

「いいえ、ユーリアの体を借りているだけです。自分の姿を現すほどの力がありません……そう長く、こうもしていられません。要点だけになりますが聞いてください」

 穏やかな中にも凛とした響きがあるので、我々は居住まいを正した。

「時の女神は三人です。姉のウルズは過去の時間を司ります。わたしは現在の時を、妹のスクルドは未来の時間を司ります。姉と妹は眠っているので、回復できるのは、今の、この瞬間だけなのです」

「それで、他の人たちは……」

「過去も未来も止まったままなので、動くことはありません。姉と妹が眠っているのは世界樹の力が弱っているからです。ヤマタも力を失ったいま、完全な時の摂理を回復することはできません。そこで、あなたがたにお願いがあるのです。世界樹の勢いを取り戻すために、この閉じられた時間の中に湧きだす不条理を正してください。正しつつ世界樹をを目指してください。それと……わたしが借りてしまったために、わたしが去ればユーリアはあなたたち同様になります」

「同様とは?」

「ユーリアは、この停止した現在に覚醒しています。ひとり、このヘルムに置いておくのは不憫です。姉と妹が目覚め、過去と未来が回復するまで行動を共にしてやってください、それから……ああ、もう戻らなければなりません……ユーリアを……世界樹をよろしく……」

 フッと力が抜けるようにヴェルサンディが消えると、ユーリアの体はドサリと落ちてしまった。

「あいた!」

 お尻から落ちたユーリアは、痛さのあまり口がきけない。

「大丈夫か!?」

 一番近くのロキが声をかけて、テルとケイトが介抱する。

 その間、わたしとタングリスは考えた。定員いっぱいに乗っている四号に、どうやってユーリアを乗せたらいいのかと……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする