大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 129『天照の焼きプリン』

2023-06-30 11:16:25 | ノベル2

ら 信長転生記

129『天照の焼きプリン信長 

 

 

 …………今日のところは帰るか。

 

 素戔嗚の化身たる桃太郎は、やっつけたが、なんとも後味が悪い。

 再び現れた鬼を退治してみたら、その中から出てきたのは荒んだ桃太郎だった。

 恨めし気に理屈を並べ立て、そのいくつかは――なるほど――と思わせないでもなかったが、結局は桃が鬼に入れ替わっただけの、いわば桃太郎のマイナーチェンジ、劣化版。

 口には出さなかったが、奴には分かったんだろう、最後は赤い口を開けて飛びかかる事しかできなかった。

 

 しかし、桃太郎は退治した、退かせ丸く治めた。退かせて治めたのだから退治には違いなかろう。

 文句は言わせん。

 

 しかし遅い。

 

 丸く治めて、御山に戻ってきたと言うのに、天照は姿を見せん。

 思金(おもいかね)は蹲踞したままだし、あっちゃんは草薙剣のままダンマリを通している。

 

 いい匂いがしてきた。焼きプリンの匂いだ。

 

 そうか、美味しいプリンに挑戦するとか言っていたな。

 その場しのぎの言い訳かと半分疑ったが、どうやら本気で作っているようだ。

 カラメルだかメイプルシロップだかが香ばしく焦げる匂い。

 思金も思わず腰を浮かせている、今度こそ会心の焼きプリンにお目にかかれる。

 そう思うと、幼いころの市のように唾が湧いてきたぞ。

 

 ドッカーーーーーーン!

 

 神域中央の石が、発射と同時に失敗したロケットのように吹飛んだ!

 

 ゲホ! ゲホ! ゲホ!

 

 煙にむせかえっていると、髪も装束もボロボロになった天照が現れた。

 

「いやあ、上総之介を労ってやろうと焼きプリンを作っていたのだがな、どうも、また失敗してしまった」

「…………(-_-;)」

「まあ、そう怒るな、素戔嗚をやっつけるのと同じくらい難しいんだぞ、天照の焼きプリンは。思金、とりあえず、このありさまをなんとかしてくれ」

「ハ、ただいま」

 そう言うと、思金は勾玉の姿になって、光ながら天照の周りを、足もとから頭に向けてクルクル周る。

 胸から上に至ると、速度を増し、キラキラとエフェクトが入って、いつも以上にきらびやかな天照になった。

 

「さて、約束通り、茶姫の傾向と対策を教えてやることにしよう」

 

「うむ、待っていたぞ」

「茶姫も素戔嗚に負けず劣らずこじらせておる」

「うむ」

「こじらせの主因は兄の曹操。曹操は己のためならば、たとえ主であろうと我が子であろうと恩人であろうと容赦のない強欲のサイコパスだ。こいつを乗り越えなければ、茶姫は三国志においては身の置き所が無い」

「三国志に戻れと言うか?」

「この扶桑に居てもしばらくの安寧は保証されるだろうが、長続きはしない。根本の問題を解決してやらなければな」

「しかし、曹操の目は三国志全域に広がっている。この扶桑に亡命してからは、いっそう警備の目は厳しいぞ」

「しかし、それしかない。一日伸ばしにしていては、こちらで根が張り、扶桑の災いの種にもなりかねない。真っ直ぐでいいやつだが、曹操の妹だ。ひとたび動き出せば容赦はない」

「三国志に戻って曹操を倒すしかないのだな……」

「ああ、それも茶姫一人では為し難い。上総之介、そなたと市が付いてやらねばならないだろう。おまえたち兄妹は、もう十分過ぎるくらい、茶姫とは縁で結ばれている」

 改めて言われると、事の重さに息苦しくなる。

「息苦しいと思えるほどには成長したんだ」

「俺のことはいい」

「そうだな。向こうに行ったら、その三人でも危うい」

「ああ、だからこそ皆虎からは一目散に逃げてきた」

「ここから見ていたぞ、いたずらに固まらないで二手に分けての逃避行を選べたのはさすがに上総之介。朝倉攻めの退き戦以上に秀逸であった」

「褒めるのはいい、これからのことを言ってくれ。三人で三国志に戻って、それからの手立ては?」

「蜀の孔明、呉の大橋(だいきょう)と連携することだ。特に曹操と対峙する時に、この二人は欠かせない」

「……で、あるか」

「そこで締めくくるな。この二人の助力は妙薬だが、同時に毒でもある。その覚悟は持っておけ、覚悟さえあれば、その場、その時に至っても道は開ける。上総之介のイマジネーションは……この天照が言うのもなんだが神がかっておる」

「フフ……」

「なにが可笑しい?」

「褒めるのはいい、天照の誉め言葉は『そこから先はお前次第、責任は持たぬ』と言っているように聞こえる」

「ああ、バレてた(^_^;)?」

「バレてた」

「テヘペロ(ノ≧ڡ≦)」

 若者言葉としては古いが神様としては新しい……ので、スルー。作り笑いが出来るほどには、まだ修業ができていない。ちょっとサルが羨ましくなった。

「えと……じゃ、これがお土産だぞ」

「え、不二家のペコポコボックス?」

 すかさず意表を突かれた。

「かわいいから、余計に貰っておいたの」

「アンナミラーズのがよかった……」

「とっくに閉店したぞ。上総之介も古~い」

「で、中身は?」

「焼く前の焼きプリン」

「ク……」

「じゃ、がんばってねぇ、今度はシホンケーキに挑戦するから~」

「それも言うなら『シフォンケーキ』だ!」

 

 ダメを出したら、もう姿が無い。

 

 思金も蹲踞ではなく退去してるし、腰が軽いと思ったら草薙剣も消えて、俺は学校の制服に戻っていたぞ。

 

 焼きプリンの焼き加減を考えながら御山を下りて家に帰った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

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RE・かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

2023-06-30 06:19:41 | 時かける少女

RE・

143『ユグドラシルを目指して・1』タングリス 

 

 

 

 ロキの元気がない。

 
 ひとり、船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。

 ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの十メートルほどで立ち消えているのだが、見てさえいればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。

 
 トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくださったので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。

 
 しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。

 島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。

 過去を司る長女のウルズ  現在を司る次女のヴェルサンディ  未来を司るスクルド

  ヘルムの守護神ヤマタが力を失って、それを補うためにヴェルサンディだけは姿を現したが、ウルズ、スクルドは消息不明だ。

 
 だからロキに聞いてみた。

 
 ロキはウルズの子どもなのだ。この旅の目的の一つがロキを母親の元に帰すことだった。先の大戦で戦災孤児になったロキはシュタインドルフの孤児院に従弟妹のフレイ・フレイア共々預けられていた。狭い四号に三人は乗せられないので、とりあえずロキ一人を預かったのだ。

 しかし、ロキが母親とはぐれたのは、ほんの幼児のころだ。

「うん、ユグドラシルというのはね、大きな泉があって、お母さんや叔母さんが水を汲んではユグドラシルの樹にやるんだ。空気は澄んで、小鳥たちは夜明けとともに囀りだして、オレたちに『早く遊びに出ておいで』って呼びかけるんだ。お母さんは長女だから、一番ユグドラシルの幹に近いところに住んでいて、ユグドラシルに水をあげたあとは、オレの事を抱っこして、ゆっくりユグドラシルの見回りをするんだ。所々に休憩するところがあって、遅れてやって来る叔母さんたちと待ち合わせ、その日一日の予定を話し合ったりしてね、ブルーベリ-とかストロベリーとかが実っていたりしたらジュースにして飲ませてくれたりしたんだ(^▽^)」

 楽し気に話してはくれるのだが、では、そこに行くにはどこを通ればいいのか?

「えと……えと……それはね……(-_-;)」 

 肝心なことを聞くと、ロキは答えられない。

 ヴァィゼンハオスで、フレイとフレイアと喋っているうちに故郷ユグドラシルの思い出が出来あがってしまったのではないだろうか。バイゼンハオスに引き取られたのはほんの赤ちゃんのころだ。

 毎日話しているうちに、ほんとうにそうであったかのように思い込んでしまい。行き方や詳しい様子を聞いてみると詰まってしまって、なにも答えられなくなる。

 そして、自分は何も知らないことに気づいて、落ち込んで、短すぎるウェーキを見ているというわけだ。

 

「でも、世界樹っていうくらい大きいんだったら、かなり遠くからでも見えるんじゃない?」

 

 ケイトが気楽に言う。

 ちょっと唖然だ。

「ユグドラシルというのはよほど近くに寄らなければ目には見えないものなのだぞ」

「そうなの?」

「それに島はね、世界樹ユグドラシルの根が絡まったもので出来ていて浮かんでいるだけのものだから、ヘルムの島のように一定のところには居ないのよ」

 ユーリアが補足してくれる。

 姫とわたしは――そういうものだろう――とイメージが湧くのだが、テルとケイトは少し置いてけぼりを食った表情をしている。

「世界の中心はオーディンの住むブァルハラとかじゃないの?」

「世界の軸がもう一本あるということなのか?」

 思い出した、ケイトとテルは異世界の住人なのだ。この数か月の旅で完全に仲間になってしまったのだが、この世界では微妙に常識が違うはずだ。

 はてさて、取りあえずはチームワークの醸成であろうか。

 気づくと、ポチが寄り添って元気づけてくれている。

 日が暮れることのない航海だが、夕飯までには元気になってくれるだろう。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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