くノ一その一今のうち
商店街に出て、西に下った四辻、昆布屋の角にポストと並んで纏(まとい)が立っている。
神田祭で神輿が担げない子どもたちが持つような小さな纏で、見通すと、商店街の辻々に立っているようで、おそらくは商店街振興のマスコットのようだ。
「うわあ、かわいい(^▽^)!」
今や顔文字と並んで世界共通言語であるJK語で賛美の声を上げる。これさえ言っておけば、シゲシゲ見ようが写真に撮ろうが怪しまれることはない。
『先っぽに付いているのは千成瓢箪です』
えいちゃんがチェックしてくれる。
パッと見には鈴なりのジャガイモだが、ちょっと身を引いてみて見るとたしかに千成瓢箪。
『やっぱり太閤秀吉との関りを大事にしてるんですねえ』
それだけではない、ポストと纏の後ろに石碑がある。
――旧町名継承碑――
碑にはめ込まれた石板には、このあたり現在は谷町7丁目だけれど、昔は南空堀町と表記されていたとある。
これがもう一つの鍵かもしれない!
動画を撮るふりをしながら、もう一度観察。
あ……( ゚Д゚)!
千成瓢箪は真ん中に大きな瓢箪が逆立ちしていて、その周りを小さな瓢箪が取り巻いているんだけど、後ろの方、取り巻き瓢箪の一つが欠落している。
これには意味があるはず。
困った時の風魔の魔石。
これまでも、草原の国やら甲府城の地下やらで、わたしを救ってくれた。
――南無八幡魔石大明神、我に、このからくりの秘密を解かせたまえ――
密やかに念じる……んだけど、魔石は沈黙したまま。
むむむ……魔石は謎解きとかの頭脳戦には向いていないのかもしれない。
『あ、お札の方が!』
えいちゃんに促されてポケットのお札に触れると、ほんのりと暖かい。
――お願い、大和大納言さま、教えてください――
念ずると、住居表示の『谷町七丁目』の七が微妙に浮かび上がって来る。
『あれですかね!』
えいちゃんに促されて、七に触れてみるが何事も起こらない。
あ、そうか、七はヒントだ……今度は瓢箪が欠落したところが薄く光る。
ゲームだったら、ここに来るまでにキーアイテムの瓢箪を手に入れていて、ここではめ込む的なフラグが立つんだけど、持ってないから……そうだ!
瓢箪列の欠けたところから七つ目の瓢箪をグリっと回してみる。
カク
ポンプの時と同じ手応え。
一歩引いて見ると、横のポストの集配扉がわずかに開いている。
ここだ!
一瞬、周囲に気を飛ばし、人が見ていないことを確認、同時にポストの扉を全開にする。
ポストの中は、薄暗く、地下に向かって消防士が出動で使うようなステンレスのバーが降りている。
セイ!
飛び込むと同時にバーを掴んで滑り降りる。
カチャ
同時に頭上の扉が閉まる音がする。
『キャ』
「大丈夫、人には見られていない」
感覚的には三階分ほど下って、足が石畳を認識する。
目を凝らすと、商店街の真下を通っている地下道のようで、横方向にいくつかの枝道が伸びて、立派な地下通路になっていた。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟