大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・58『大阪城の空堀と坂道』

2023-06-09 11:07:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

58『大阪城の空堀と坂道』 

 

 

 …………ちょっと違う。

 

 勇んで大阪城に来てみたものの、本丸入り口の桜門の前で立ち止まってしまった。

『へんですね』

 えいちゃんも丸まった上半身をカバンから覗かせて不思議そう。

 桜門を前に見て、左側が空堀。右側の内堀もクニっと北に曲がるところまでは空堀なんだけど、それ以外は内堀も外堀も水の堀。坂道もあるんだけど、それは本丸の東側、ちょうど空堀が水の堀になってしまって――空堀の坂道――という条件からは外れている。

 念のため、入場料を払って西の丸にも入ってみる。空堀の半分は本丸と西の丸の間にあるから。

『アングル考えたら時代劇の撮影に向いてますねえ、ほら、天守が載った石垣を背景に、この御殿風の会議場のとこなんて。石垣が高いから、これをバックに太刀まわりとかもいいですねえ♪』

「あはは、でも、ロケハンに来てるわけじゃないからね」

『あ、すみません、そうでした!』

 それから、本丸東側の坂道。

 堀端の坂道としては東京の九段坂の方が大きくて長いけど、九段坂は自動車道だし北側はビルがいっぱいで、お城の坂道という感じじゃない。

 坂の上に立つ。

 見下ろした坂道は、内堀に沿った一車線ほどの幅で、六車線もある九段坂よりも、お城の中の坂道という風情。

 だけど――空堀の坂道――という条件からは外れている。

『もう、いったいどういうことなんでしょうね!』

 えいちゃんが、ちょっと癇癪気味にグチると、外人観光客の一団がちょっとビックリして、なにごとか喋りながら坂を上って行く。

 古城の坂道で女子高生が腕組みして坂の下を睨んでいる……って、なんか、アニメの名シーンのように感じたのかもしれない。

『ちょっと絵になったかもしれません』

「あんまり不用意に喋らないでね」

『あ、外人さんたちが……』

「え?」

 振り返ると、桜門の向かい側の茂みの中に入って行く。天守閣のある本丸とは逆方向だ。

 行ってみると、大きな石柱があって『豊国神社』と彫られている。

 豊臣秀吉を祀った神社だ。

『空堀の坂道』は空振りだったけど、わたしも鈴木系豊臣のまあや……その家来というわけじゃないけどガードだからね、ご挨拶ぐらいはしておこうか。

 石柱の先は短い参道になっていて、太閤秀吉の銅像に軽く一礼して鳥居を潜る。

 由緒書きを見ると、明治天皇が『大阪の基礎を築いたのは豊臣秀吉なのだから、神社を造って祀ってはどうか』とおっしゃって出来た神社であるらしい。最初は中之島のあたりにあったらしいけど、都市開発や戦災にあったりで、戦後、この大阪城内に移された。

 観光客の人たちに混じってお参り。

 ネットの情報なんだろうか、外人さんたちも、ちゃんと二礼二拍手一礼のお参りをしている。

 お賽銭投げて一礼で済まそうとしていたので、慌てて二礼二拍手一礼。

 頭を上げると、観光客の人たちの姿が無い。

 振り返ると、境内の外は花曇りのように霞んで、淡い結界が張られたようになっている。

 

『よく参ってくれた、どうもありがとう』

 

 直垂(ひたたれ)姿のおじさんがにこやかに立っている。

 これまでの経験が――尋常ならざる者――というアラームを発して反射的に警戒してしまう。えいちゃんも『キャ!』と声を上げてカバンの中に引っ込んでしまった。

『あ、これは、ちょっと驚かせてしまったかな。わたし、この神社に祀られている秀長です』

 秀長?

 なんだ、秀吉と信長の良いとこ取りをしたような名前は?

 パチモンのような名乗りに、さらに一歩引いてしまった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

 

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RE・かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』

2023-06-09 06:52:19 | 時かける少女

RE・

122『四号空を飛ぶ!』テル  

 

 

 

 四号が空を飛んだ!

 
「何かににつかまって振り落とされないようにしろ!」

 タングリスが叫んだ。

 砲手席には手すりが無いので、砲尾の薬莢バスケットの枠を右手で、左手でハッチのハンドルを掴んで耐えた。他の乗員も、それぞれ手近の突起物やレバーに掴まっている。

 ヒルデ一人がコマンダーシートに立ったままで、上半身をキューポラの外に晒している。

 

 その姿で察した。

 

 四号を飛ばしているのはヒルデだ!

「姫の中で何かが覚醒した! しかし不安定だ、どうなるか分からん! しっかり掴まっていろ!」

「「「「ウワーーーーー!!」」」」

 急に降下して一瞬無重力状態になり、すぐに降下した分を取り返すように急上昇。みんなあちこちぶつけたようで悲鳴が上がる。

「ポチ、外に出て様子を見ろ、ふつうに飛べるのは、お前ひとりだ」

「わ、わかった!」

 無線機の上の定位置から、器用に体をくねらせてコマンダーハッチから外へ飛び出していく。

「完全にいっちゃってるよヒルデ! 目が座ってトランス状態だよ!」

 砲手席からはコマンダーシートに立ち上がった脚しか見えないが、その力の入りようからも異常なのが分かる。

 普通、ハッチから上半身を晒していても、腰はハッチの縁に預けてリラックスしている。

 いまのヒルデはシートに接着された等身大のフィギュアのようだ。仁王立ちの姿勢のまま固着している。

 え! ええ( ゚Д゚)?

 よく見ると、シートとブーツの底の間に微弱な火花が散っている……ヒルデの体からエネルギーが出て四号の車体を飛ばしてるんだ!

「みんな無事か?」

 タングリスが、やっと落ち着いた声で聞く。アアとかハイとかの返事が返って来るが、オッサン一人分足りない。

「ヤコブがいない」

 ヤコブはフェンダーの上に居たはずだから、四号が飛び上がった拍子に墜ちてしまったんだろう。

「ポチ、姫の具合はどうだ?」

「こわいよお、目が白目だけになって、髪の毛が逆立ってるよお!」

「姫! 殿下! 聞こえますか!? ブリュンヒルデ姫!!」

 応えは無い、皆の視線がヒルデに集まる。

 

―― 気を付けろ、クリーチャーの群れが現れるぞ ――

 

 ヒルデの声が直接頭の中に響いた。

 ペリスコープで外を確認する。

 前方数百メートルの空間に滲みが現れ、みるみるシミのように大きくなっていく。ハングライダーのユーリアが通るところだけ漂白剤を落としたように開けている。

―― シリンダーの群れだ、みな外に出て戦え! ――

 ええ!?

 簡単に言うな、ここは足場一つないヘルムの空の上なんだぞぉ!

 

☆ ステータス

 HP:12000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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