大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・164『恐るべし劉宏』

2023-06-10 17:12:49 | 小説4

・164

『恐るべし劉宏』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 心肺停止!?

 

 長年、幾百幾千と人の死に立ち会ってきたので一瞬で分かる。

 熊が小鹿に担がれるようにしてプールサイドに引き上げられる。熊を下ろすと、直ぐに小鹿は熊に馬乗りになって蘇生措置を施す。

 熊は劉宏大統領、小鹿は大統領秘書官の王春華。

 春華の蘇生措置が冷静なので、森の小鹿が寝坊の熊親父を優しく起こしているように見える。

 有能なレスキューは、沈着だが、けして周囲をパニックに陥らせない。

 士官と学生と救急係りの看護師が同時にAEDを持ってきたが、士官と学生には待機を指示し救急係りのを使用する。

 救急係りのAEDが最新でメンテナンスも行き届いているせいなのか、後々、救急係りが要らぬ責任追及をさせられないためか、あるいはその両方か。

 そして、人工呼吸の間に女性下士官に呉麗花を保護するように目配せする。

 まだ小学六年生の呉麗花は、まるで自分が心肺停止にしてしまったように怯えて口に手を当てたまま動けないでいる。

 会場の全員が瀕死の大統領から目を離せない状況の中、よく気づくものだ。

 女性下士官が抱きしめて、その場から出そうとするが、責任感からなのだろう、麗花は震えながらも大統領の蘇生を祈っている。

 AEDが三回試され、蘇生措置は10分を超えた。

 心臓マッサージを続けながらも、王春華は会場の救護担当の医師と、来賓で来ていた軍医総監を呼んで、二言三言言葉を交わす。

 医師は軍医総監の表情を窺ってから、首を縦に振り、軍医総監は王春華の肩をたたくことで同意の意思を示した。

 

 春華は両手で大統領のこめかみを挟んだ。

 

 PI(パーフェクトインストール)をやるんだ!

 

 小文字のpiも大文字のPIも、その施術姿勢は変わらないが緊張感が違う。

 劉宏と王春華は度々PIをやっている。北大街大酒店での日漢秘密会談で確信した。

 漢明の技術が進んでいるのか、劉宏が並外れた耐性を持っているのか、これまでも幾度か繰り返されていると、わたしは読んだ。しかし、それは、何時間かの後に再び劉宏のソウルを劉宏の身体に戻すことが前提だった。いわば、鍵穴一つ残したPIで、危険とは言え復帰前提のPIだったはずだ。

 二十余年前、マンチュリアの丘でJQにやらせたことを思い出す。

 いま、王春華がやろうとしているのは、その鍵穴さえもサルベージしてしまう、史上二番目、究極のPIだ。

 瞬間、劉宏の身体が、ほんの皮一枚分縮んだように見えて、同時に王春華が劉宏の胸に崩折れた。

 失敗か!?

 会場に居る全員が息をするのを忘れて固唾をのんだ。成功例は二十余年前のわたしとJQの例しかないのだ!

 

 数秒後、数回瞬きをして王春華がゆっくりと立ち上がった。

 

「会場の諸君、中継を見ている全国、全世界のみなさん。たった今、劉宏は史上二番目のパーフェクトインストールを成し遂げました!」

 オオオオオオオオオオオ!

 どよめきを制止て、王春華、いや劉宏は続ける。

「医師団の尽力によりほぼ体力と健康を取り戻したと思い、少し無茶をし過ぎたようです。古い体を失ったのは、あくまでわたし劉宏の勇み足によるもの、ほかの誰の責任でもありません。むろん、そこで涙を浮かべて見守ってくれている麗花のせいでもありません」

 そう言うと、劉宏は笑顔で麗花を差し招いた。

「だ、大統領閣下!」

 飛び込んできた麗花の髪をくしゃくしゃにして劉宏は言葉を続けた。

「アハハ、いつもの劉爺ちゃんでいいさ」

「え、あ、でも……」

 あの姿かたちで「爺ちゃん」は言いにくいだろう。

「公務以外では春華姉ちゃんでもいいか」

「はい」

「じゃあ、古い体を見送らなくちゃ。いっしょに付いて来てくれるかい?」

「はい!」

 学生たちが持ってきたストレッチャーにさっきまで劉宏だった体を載せると、春華の体の劉宏と麗花は手を繋いで会場を出ようとした。

 

「おっと、ドンケツ大会は始まったばかり、大いに励んでくれたまえ!」

 

 ウオオオオオオオオ!

 

 割れんばかりの歓声が上がって、劉宏は公明正大に、そして、今まで以上の信頼を勝ち得た。

 士官食堂で中継を観ていた、こちらの兵たちも、ほとんどが胸を熱くしている。

 

 恐るべし劉宏。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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RE・かの世界この世界:123『対シリンダー戦』

2023-06-10 06:50:00 | 時かける少女

RE・

123対シリンダー戦』テル  

 

 

 空を埋め尽くすほどのシリンダーの群れだ!

 
 全てを相手にすることは出来ない、群れの薄いところを集中的に攻めて穴が開いたところから突破するしかない。

 時間をかけていると融合体になってしまって手が付けられなくなる。

―― 三式弾だ、三時の方向が薄くなっている、撃ったら突撃する! ――

「三式弾ヨーイ!」

「ラジャー!!」

 ヒルデが命じ、ロキが弾を込める。

 三式弾とは一種のクラスター弾で、目標に最接近したところで炸裂し、打ち上げ花火のように幾百の子弾をまき散らす。

 シリンダーの群れに穴が開いたところを一気に突き抜けようと言う作戦なのだが簡単ではない。一撃で致命傷を与えられるのは炸裂の中心から半径十メートルほどがせいぜいだ。
 傷ついたシリンダーは直ぐに融合して、その名も融合体となって難儀なクリーチャーに変異する。 
 これまではなんとかしのいできたが、ヘルムのシリンダーは初めてだ。いや、ヘルムにはこれまでクリーチャーが出現したという記録すら無いのだ。見かけは同じシリンダーでも油断はできない。

 三発試したが、穴は四号がたどり着くまでに閉じてしまう。

 三発目の結果を見てヒルデが命じる。

「先に加速してから撃つぞ!」

「大丈夫か?」

「これしかない。ギリギリまで上昇して加速と同時に落下させる。呼吸を合わせろ!」

 四号は螺旋を描いて上昇、真地旋回して車体が45度下を向いたところで加速!

 ギュィーン!

 落下と加速で重力が消失、一瞬身体が浮く。

「テーーー!!」

 ズガーーン!!

 やった!

 突入と同時に穴が閉じ始める。

 ビチャ ビチャ ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャ!

 破片になっても生きているシリンダーが粘液をまき散らしながら四号の車体に貼り付いてくる!

「くそ、粘っこいやつらだ!」

 貼り付いたシリンダーが四号の行き脚を鈍らせる、タングリスは負けじとアクセルを踏み込むがエンジンは息絶え絶えになり、速度計の針は急速にゼロに近くなる。

 えい! えい! えいえいえい!

 可愛い気合いが聞こえる。

「ポチががんばってるぞ!」

 ペリスコープから覗くと密集したシリンダーの砕けの中でポチが戦っている。

「ケイト、行くぞ!」

「おお!」

 ハッチの隙間から剣と弓を出し、邪魔になるシリンダーをぶちのめしつつ外に出る。

 出た途端に貼り付くシリンダーの砕け、左手で顔に貼り付かれるのを防ぎながら剣を振り回す。ケイトも同じように弓を振り回している。ケイトの弓も進化していてライトセーバーのように光って、振り回す旅にブンブンと頼もしい音がしている。

「げ、限界だ……高度が保てん!」

 ヒルデが唸る、ハッチの縁を掴む手がブルブルと震えはじめた。

 グィーーーン ズザザザザザザザ! ザーーー!

 四号はほとんど墜落の勢いで着地していった。

 

 見上げる空にはシリンダーの群れがわだかまっているが、降りてくる気配は無く、大きく旋回すると北に向かって方向を変える、変えた先には胡麻粒ほどの大きさになってなお北進していくユーリアが視界没になっていく。

 視線を落とすと、身の丈ほどの灌木林。所々に獣道なのだろうか下草が疎らになっているところがあるきりで、日ごろ人の出入りが無いことが偲ばれる。鳥か獣か、はたまたクリーチャーか分からぬものの気配と鳴き声。砲塔の上に身を乗り出すと灌木林の木の間隠れに鬱蒼としたジャングル、さらに向こうには急峻な山岳が見えて、この先の進撃が困難なことが伺える。

 ん?

 分からぬものたちの鳴き声が止んだ。灌木林からは幾百の鳥たちが一斉に飛び立つ、いや何かを恐れて飛び立っていく。

 なにか来る……。

 
 ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーー!!

 
 地響きがしたかと思うと、大地が鳴動して、目の前の灌木林がユサユサと揺れる。

 ギシ ギシ ギシ

 四号のサスペンションが軋んで車体が揺れる。

 ゴゴゴゴゴゴゴーードドドーーーーン!!!

 地震だ! 震度7ほどもある!

 25トンある四号の車体がオモチャのように揺れる!

 さすがに乗り慣れた乗員たちなので、車内のフックや取っ手に掴まって揺れをしのぐ、悲鳴を上げる者もいない。

 十数秒だったろうか、やっと揺れが収まって四方を見渡す。

「みんな、後ろを見ろ……」

 ヒルデの差す四号の後方を見ると、地面が陥没して海の水が流れ込んでくる。

 四号の背後数メートルのところから地面が無くなって、ヘルムの島は二つに分裂してしまっていた。

 
☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・90 マップ:9 金の針:0 所持金:6500ギル(リボ払い残高27000ギル)
 装備:剣士の装備レベル35(トールソード) 弓兵の装備レベル30(ソードボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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