くノ一その一今のうち
地味ですが秀吉の弟です(^_^;)。
直垂のおじさんが頭を掻く。
『あ、ああ!?』
えいちゃんが思い当たったのか、声を上げたかと思うと、カバンから顔だけ出した。
『「木村長門守」って映画を撮ったんですけど、誰かの台詞にありました「ご舎弟大和大納言様御在世でありせば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」って。秀長さんてお名前では出てこなかったので、すみません、直ぐには気づきませんでした。あ、わたし帝国キネマで、こちらの風魔そのさんの付き人をやっております、長瀬映子と申します』
「いえいえ、わたしこそ、東京で鈴木まあやの付き人をやっています(^_^;)」
『鈴木とは……あの鈴木ですか?』
「え、あ、はい、秀頼公のあとに分かれた御双家の一つです」
『そうですか、それはお世話になっております』
『豊国神社は太閤秀吉さんが祀られているんだと思っていました』
えいちゃんが太閤秀吉の銅像に目をやる。
『兄の他に、わたしと甥の秀頼が祀られています』
『太閤さんと……ちょっと雰囲気が違いますねえ』
女優志望だけあって、えいちゃんは貪欲に観察している。
『兄とは父親が違うのです。わたしは兄が家出した後、母が再婚して生まれたものですから。あ、家康さんの後妻に入った旭はすぐ下の妹です』
そうだったんだ。
「ひとつお伺いしたいんですが」
『はい、なんでしょう?』
「実は……」
ここに至ったいきさつをかいつまんで説明する。木下家と鈴木家が争っていることには顔を曇らせる秀長さんだが、面倒がらずに口下手なわたしの話を聞いてくださる。「ご舎弟大納言様御在世であれば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」という台詞がむべなるかなと思われる。
『この大阪城は、兄の大坂城を埋めて作られた徳川の城。それに、豊国神社はここに遷されて日も浅く、神社以外のことはよく分からないのですが、大阪の地理のことなら少しは分かります。その空堀の坂というのは、この城の空堀ではなく、兄の大坂城の空堀を指しているのではないでしょうか?』
「秀吉さんの大坂城……」
『はい、規模は、この四倍以上もあって、城の南の備えとして南の方に大規模な総構を築造しました』
「そうがまえ?」
『外堀のさらに外の構えです、そう、様式は空堀……たしか、今でも商店街の名前で残っています』
『あ、空堀商店街!』
えいちゃんが思いつく。
「え、そんなのがあるの!?」
『はい、地下鉄の谷町六丁目です!』
「そっちだ! ありがとうございます!」
『いや、役に立ったのなら幸いです。これを持って行ってください、ここのお守りです』
「ありがとうございます!」
『あ、谷六なら、大手門を出て南です!』
「おっと」
来た時同様、玉造口から森ノ宮に出ようとしたら反対方向を示される。
『キャー』
踵を返すと、その勢いでえいちゃんがカバンから出てしまう。
危うく、風にさらわれそうになったえいちゃんをクルクル丸めると、リレーのバトンのように握って空堀商店街を目指した!
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟