大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・165『再会』

2023-06-16 16:30:03 | 小説4

・165

『再会』緒方未来 

 

 

 骨折3名 銃創2名 ショック性発熱3名 おまけに突発性電脳障害2名 それと検死報告1

 

 合計10名のカルテと検死報告書を整理して、使用薬品とメディカルストックのチェックと発注。

 えと……メディカルストックの発注はミスがあってはいけないので、明日点検してからやる。

「あ、手ぇ抜いたなぁ」

「うるさい!」

 ボス…………ポトン

 投げたボールは器用に躱されて、背後の壁にめり込んで、人を馬鹿にしたようにポタリと床に落ちる。

 医務室は休憩室の一画にあって、床や壁は休憩室と同じ低反発の樹脂で被覆してある。

 少々暴れたりケンカが起きても怪我をしないようにという配慮で改装してある。

 にもかかわらず、10名の怪我人と運の悪い死者が出て、とうとうベースに帰ることもできずに医務室に泊まり込むことになった。

 診療所の女医を一人で残しておくこともまずいというので、所長の依頼を受けた署長の命令で護衛の三等軍曹が付いている。

 

「え、おま……」

「ゲ……」

 

 臨場してぶったまげた……お互いに。

 最初こそ分屯署の軍警が8人も臨場してくれていたんだけど、現場検証が終わると交代でやってきた三等軍曹を置いて引き上げていった。診療所の車検切れは、ちょうど鉱山の入り口でエンスト、帰るころには直ってるだろうと期待を見事に裏切って採掘所のゲートで『月社会のインフラの貧弱さ』を現すオブジェになり果てている。

「診療所の薮医者ってミクのことだったのか!?」

「なによ、この三等兵!」

「三等兵じゃねえ、三等軍曹だ!」

 お互い三年ぶりなんだから、もう少し言いようもあるんだろうけど、聞くと見るとは大違いの配属先。そして幼なじみだからこそ、素直に再会の喜びを現せない。いや、自分の方が不運だと思うポテンシャルのために――こいつは自分よりは楽してる――と思ってしまう心の貧しさ。

「おまえ、ロボットの電脳までいじったのか」

「仕方ないじゃん、この採掘所、ロクター(ロボット用ドクター)もいないんだから。知らんふりして暴走されたら困るでしょ」

 ほっとけよ、そんなの……とは言わない。

 ダッシュも、まだ真っ直ぐなものを失うところまではきていないようだ。

「噂じゃ、ピタゴラスの奉行所勤務になったって聞いてたぞ」

「一瞬、話はあったんだけどね、老中の孫娘だからって、そんなのイヤじゃん。ダッシュこそ、連合国の交換留学生でコペルニクスのムーンフォースに行ったって」

「コペルニクス的展開という奴なんだろ、西ノ島紛争からこっち、地球も月も、どこか緩んでる」

「……ああ、なんか計算合わない」

「人生の計算なんて、そうそう合うもんじゃねーだろ」

「違うのよ、メディカルストックの支出と残金が合わないのよ」

「ちょっと見ていいか?」

「あ、うん」

 本当は部外秘なんだけど、ダッシュの声の響きは昔通り、見せてもいいと思った。

「……これは、部外者が見ても首をひねるなぁ……桁が合わねえ」

「こんど、交代のドクターが来たら奉行所まで行ってくる」

「それがいい」

 賛成してくれてからメモをくれた。

 メモには――念のためスクショを撮っておけ――とあった。

 

 あくる日、シャトルバスで帰る前に確認したら、メディカルストックの会計の数字は――正しく――書き換えられていた。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

  

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RE・かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

2023-06-16 06:25:40 | 時かける少女

RE・

129『灌木林の中に美容院!』テル  

 

 

 スプラッシュテール!

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!

 

 数十回繰り返すと、ヒルデのスプラッシュテールは磨きがかかってきた。力を前方向に集中できるようになって啓開が効率的になってきたのだ。

 最初は灌木林の天井を残すのみで、横方向には4メートルあまりもあって、我々三人とポチが通るには広すぎた。タングリスとわたしは、ソードや鉈で刈り残された足元の草木を刈る。ポチに至ってはすることが無くなって、三人の肩や背中に停まって「フレーフレー!」とか「ガーンバレ!」と応援するだけ。

 啓開された道の断面は凸の字を逆さにした形で、横方向の出っ張りが無駄だった。

 それが、前方向に集中できるようになって、横方向には1.5メートルに収まり、その分前方向に深く進めるようになってきた。

 

 努力の甲斐あって開けたところに出てきた。

 

「もう、髪がビチョビチョのネチャネチャーーー!」

  ヒルデの髪は獰猛な植物たちの樹液に染まって薄っすらと緑色。その水分で重くなって、ぶん回すことを止めると大雨に降られたライオンのタテガミのようになった。

「よく頑張られました、すこし休憩しましょう。姫、シャンプーさせていただきます」

「こんなところでシャンプーできるのか?」

「回復アイテムの中にシャンプーがあります……」

 タングリスがホルダーにタッチすると、美容院のシャンプー台が出てきた。

「立派なのが出てきた!」

 それだけではなかった、シャンプー台の周囲がムクムクと変化して本格的な美容院になった。

「おお、すごい!」

「なんと! ここまでのものとは思いませんでした!」

「ドライシャンプーくらいのものかと思っていた」

「あはは、これはいい! 一瞬の魔法でやるよりもリラックスできるし!」

 グルグルグル(^▽^)/

 腰掛けたスタイリングチェアをグルグル回して喜ぶヒルデ。

 なんだか四五歳の幼児のようで、出会った頃のヒルデが懐かしい。

 オーディンの姫騎士として、時に頼もしくもクソ生意気に見えることもあるが、ヒルデの本性は遊びたい盛りの少女なのかもしれない。

「美容師までは付いていないようだな」

「セルフサービスだよ、この方が面白いかも!」

「テル、姫が済んだら、わたしたちもやろう、気分転換になるぞ」

「あたしもやりたい!」

 ポチも手をあげて交代でシャンプーすることにした。

「わたしは最後でいいぞ」

 ヒルデが似合わぬ遠慮をする。

「そうですか、それではポチからやってやろう」

 女と言うのは髪をいじるのが大好きだ。人をシャンプーしてやることも十分癒しになる。

 ヒルデが遠慮したのが意外だったが、最後にやってみて分かった。

「なんで、こんなに長いんだあ!」

 リラックスしたヒルデの髪は五メートルほどの長さになった。まるでラプンツェルだ。

「ふだんは短くしているのだ、フン!」

 気合いを入れると普段の長さに縮む。

「おもしろーい!」

 ポチが面白がって髪を体に巻き付ける。フンッ! ホー フンッ! ホー オッサンがメタボの腹をペコペコさせるように気合いに加減をくわえると、ヒルデの髪はピュルピュルと伸び縮みを繰り返す。夏祭りや縁日で売っている『ふきもどし』にそっくりだ……ん? なんで見たこともない『ふきもどし』を知っているんだ?

 時どきおこるデジャブに思考をとられていると、周囲の様子が変わってきた。

 美容院の床や壁がグニャグニャに波打ったかと思うと、美容院は袋状になって急速に縮みながら蠕動運動を始めた。

「しまった、罠だ!」

 タングリスが叫んだ時には、いっそう激しく蠕動、グニャグニャはグチュグチュになり、ポッカリ穴の開いた床に全員揃って飲み込まれてしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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