大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい 番外・004『総集編・2・中割り』

2024-10-02 10:48:25 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
004『総集編・2・中割り』さくら 




 アニメいうのは、ザックリいうと、監督の絵コンテから始まる。

 絵コンテいうのは、アニメのキャラクターの動きや構図なども含めてシーンごとにカット割りの絵にしたもの。

 これができてないと、ほかの作業がいっさいでけへん。

 大手は専業のコンテマンがいたりするけど、零細企業の江戸川アニメは監督が絵コンテを描く? 書く?

 A4の紙の左側が五つにコマワリされてて、そこにワンシーンずつのおおよその絵が描かれる。まあ、5コマ漫画みたいなもん。右側には、セリフとか注釈が書かれてて、 その絵コンテをもとにいろんな作業が始まるわけ。

 いろんな作業の始まりで、いちばん重要なんが原画。

 原画は……そう、たとえば人物がジャンプするシーンやったとする。原画マンは、①ジャンプする直前 ②ジャンプの途中 ③着地したとこ。最低この三つ。たいていは、その間にもう二コマほどの絵を入れて描く。

 原画マンには、ザックリした第一原画ときちんと描いた第二原画がある。まあ、ラフと清書いう感じやね。

 その第二原画が動画さんとこに周って、じっさいの撮影に使われる動画を描く。ジャンプが三コマとか五コマでは間に合えへんから、動画さんは原画の間を繋いで中割りと呼ばれる絵をたくさん描く。

 原画がええかげんやと、絵と絵の間がうまく繋がれへんで、場合によってはグチャグチャな作画崩壊ということになってしまう。

 ひどい場合は「中割が描けない!」っちゅうことで突き返されることがある。

 酒巻さんは、まさに、この突き返しにあったわけやねん。酒巻さんは第二原画やから、第一原画の里中智満子がヘボやったんやと思う。

 
 目玉焼きにかける醤油をとろうとしたら、醤油さしをくれながら留美ちゃんが言う。

「里中智満子って、酒巻さんの別名なんだって」

「え?」

「酒巻さん、第一原画も第二原画もやってたんだよ」

「そんなぁ」

 留美ちゃんは、夕べあれから江戸川の知り合いにスマホで連絡をとってたんや。分かれへんこと、心配なことにはソッコーで対応する。ズボラなうちにはでけへん能力の高さ。中学の頃は、しょっちゅう立ち止まってばっかりの子やったけど、どうも抜かされてしもたみたい(^_^;)。

「でも、今日からはよそから助っ人が入るみたいで、来週は総集編にしなくてすみそうだって」

「そうなんや……」

「あ、お醤油!」

「あ、あわわわ!」

 かけすぎた醤油はご飯にかけて、さっさと食べると、二人で学校に向かった。

 
 二人とも五日ぶりの学校。


 むろん出席日数が足りひんようなことはないけど、ちょっとね。

「がんばろうね」

 吊革につかまって、相棒は見透かしたように一人ごちる。

「第二原画みたいな登校しかできてないんだからね」

「せやなぁ、中割でけへんようなことにはならんように」

「気を付けようね」


 学校に着くと、教室のあちこちに島ができて盛り上がってる。


 え、なんやろ?

 横目で覗くと、みんなスマホの写真でキャーキャー言うてる。

 あ、せや。先週の金曜日は高校最後の遠足やったんや!

 せやさかい、みんな思い出をいっぱいつくってきたんや。

 そう気づいたら、ちょっとみんなの中には入っていきにくくなってしまう。

 ああ、中割がでけへん(^_^;)。

 しゃあない、自分の人生、原画も中割も自分でせんとあけへんしね。

 そんなウチに合わせてくれたわけやないんやろけど、窓から吹いてくる風は、まだ夏の匂いと熱を残してた。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 酒巻栞(原画) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!18『知井子の悩み・8』

2024-10-02 08:25:57 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
18『知井子の悩み・8』 




 浅野さんはうつむきやがったが、マユはたたみかけたぜ。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」

「それは他のだれかが間違えているのよ。スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」

「ん……ああ、やっぱり」

 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だった。


 エアコンの音だけが静かに際だったぜ。


「……これは、ただの白紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えてるんだ」

「だ、だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」

「拓美、あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えてないの。無いものだってあるように見えているだけ……」

「そんな……ありえない……(◎_◎;)」
 
 浅野拓美の目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきやがったんだ。

 ゴオオオオオオ! ガチャガチャガチャ!!

 部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「ああ、こんなにしちまってぇ……」

「……わたしじゃない、わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」

「かなり重症だな。とりあえず片づけよ」

 マユが指を動かすと、部屋はあっと言う間に元の姿に戻った。

「あ、あなたって……やっぱり魔法少女?」

「悪魔だ! 小悪魔だけどな。もう一度、落ち着いて書類を見ろ」

「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」

「何もしてねえ、おめえにも、本当のことが見えてきたんだ」

 ガタ ガタガタガタ……

 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で拓美の霊力を封じたぜ。

「拓美に自覚はねえんだろうけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたんだ。だから、最初にスッタッフのおっさんが注意していただろ」

「わ、わたしは……」

「そう、そんなつもりも、自覚もねえ。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちにやっちまったんだ」

 それでも飲み込むこめねえで、頭を抱えてやがる。

「仕方ねえな……」

 ガラガラ!

 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、拓美にオイデオイデをした。

「外に……?」

 窓ぎわに来た、マユは拓美の脚をヒョイとひっかけ、背中を押した。

「キャー!」

 悲鳴を残して、拓美は、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。


「……わたし、いったい?」


 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いてやがる。

「見てろぉ!」

 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってき驚く拓美。

 そして、その直後、マユは頭を下にして、真っ逆さまに落ちてやった。地面につく直前に一回転して、体操の選手みてえな決めポーズで着地したぜ。

「す、すごい……すごい、超能力!」

「おめえだって、今やったじゃねえか。マユは悪魔だから、おめえは幽霊だから怪我一つしねえんだ。周りのやつらを見てみろ。だれも、マユ達に無関心だろ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのによ」

「どうして……」

「ほら、今、男がおめえの体をすり抜けていくぞ……」

 拓美は、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男は彼女の体をすり抜けていった。

「あ、あの人って、幽霊?」

「幽霊はおめえだ!」

「で、でも……」

「まだ、分からねえ? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃねえ。戻ると思えば、それでいい」

「え、あ……」

「さっさと思え!」

「は、はい!」

 一瞬で部屋に戻った。

「わたし、やっぱり……」

「やっと分かったかぁ(-_-;)」

 もとの部屋に戻って、拓美は萎れた朝顔みてえになっちまった。

「……一次選考のあと交通事故があった。わたしはすんでのところで……」

「助かったんじゃねえ、死んだんだ。可愛そうだけど、それが真実だ」

「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」

「そうやって、おめえが居れば、おめえは無意識のうちに、人に怪我を……いいや、今日は殺してしまうかもしれねえ。それだけ、おめえは危険な存在なんだ」

「……じゃ、どうすれば」

「もう、あっちの世界に行っちまえ」

「あっちって……?」

「死者の世界だ」


 拓美は目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリしやがった。

「マユが、送ってやるよ」

「うん。仕方……ないのよね」

「じゃ、いくぞ。目を閉じろ」

「うん……」

「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念してひとまわり小さくなる拓美。その姿は、ハンパな小悪魔には、ちょっと心の痛む姿だったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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