大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・2・クララのいたずら

2024-10-04 14:19:29 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




2 クララのいたずら

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)


クララ:聞こえちゃった……でしょうね。聞いちゃったもの仕方ないわよね……そう、わたしはクララ・ゼーゼマンよ……え、知らない!?(ズッコケる) 
 あなた、『アルプスの少女ハイジ』知らないの? ハイジは知ってるけど、クララは知らない……って? 
 ほら、ハイジがフランクフルトの街でゼーゼマンて、わたしんちだけど、そこにわたしの話し相手にって連れてこられて……そうそう、ハイジが夢遊病になったり、ペーターのお祖母さんに白いパンを持って行こうとして叱られたり、わたしが『七匹の子ヤギ』の話で、ハイジを慰めたり……うん、ハイジにアルムの山に連れて行ってもらって、歩けるようになった……なんだ、知ってるんじゃないの。
 え……でも、その子がクララだってことは忘れてた? ううん、いいのよ、わたしって脇役だものね……でもね、あなたも引きこもってるんなら、もうちょっと勉強したほうがいいわよ。
 だって、時間は腐るほどあるけど、人生の長さって、引きこもっていようが、ハイジみたいに飛び回っていようが変わりはないんだからさ。本くらい読みなさいよ。
 図書館くらいいけるでしょ……え、コンビニには行くけど図書館なんか行ったことない……図書館って税金で出来てるんだから、行って少しは取り戻さなきゃ損よ……税金なんて払ってない? 
 そんなことないわよ。あなたが使ってるパソコンだとかネットの使用料だとか、スマホとかパケットとか、それこそ着てる服とか、吸ってる空気にだって税金かかってるんだから……ごめん、責めてるつもりじゃないのよ。
 わたしって銀行員の娘だから、そういうとこシビアなの(本をとりにいく)ほら、これなんかいいわよ『西の魔女が死んだ』わたしたちと同じ引きこもりの子の本なんだけど、とても……なんてのかなぁ、ファンタジーなの。
 最後なんか泣けちゃって、ジーンときちゃって……だめだめ、中味は自分で読みなさい。検索しなさいよ、どこの図書館にもあるわよ(かすかに電話の鳴る音)
 あ、それから、赤川次郎。これもいいわよ。ちょっとブルーな時でも軽く読めちゃって元気でるから。『三毛猫ホームズシリーズ』とか『三姉妹探偵団シリーズ』とか、古いとこじゃ、『探偵物語』『セーラー服と機関銃』とかおすすめよ。『シリーズ』なんかもいいわよ。年に一回出るんだけど、主人公が毎年歳をとっていくの。爽香が十五歳で始まって、今は四十前後……

 え、電話? 

 ハハハ……あれ鳴りやまないの。ちょっとね……それからね……(本を探す)えーと……これこれ、谷崎潤一郎、ちょっとハマっちゃったけど、出てくる女の人みんなマゾなんだもんね。たまに行った学校で「好き」って言ったら、みんなにどん引きされちゃった。
 え、アナタも知らない……じゃあ、これなんかどう『魔女の宅急便』。ううん、アニメじゃないの、原作よ原作。角野栄子さんの本でね、全六巻あるの。キキが結婚して子供たちが、旅立つまで、二十四年もかかってんの。なんか、爽香シリーズに似てるでしょ。もっとすごいの、エド・マクベインの八十七分署シリーズ。五十年も続いたのよ……う~ん、イマイチ……じゃあ『ワンピース』のお話でも……。

ロッテンマイヤー:お嬢様ですね、このいたずらは!?

クララ:さすが、ロッテンマイヤーさん。もう気がついた!?

ロッテンマイヤー:二回もひっかかりませんよ!

クララ:え、わたしって、もうやっちゃってたっけ?

ロッテンマイヤー:ええ、三カ月と三日前。

クララ:よく覚えてたわね?

ロッテンマイヤー:ええ、わたしの誕生日でしたから。

クララ:ああ、五十歳の……。

ロッテンマイヤー:いいえ四十九歳でございます!

クララ:同じようなもんじゃない。

ロッテンマイヤー:いいえ、ものごとは正確に記憶しなければなりません。

クララ:はいはい。

ロッテンマイヤー:「はい」のお返事は一回でけっこうでございます。

クララ:は~い。

ロッテンマイヤー:お嬢様!

クララ:はい!

ロッテンマイヤー:あ、そうそう、今のお電話、お父様からでございました。

クララ:え、お父様!?

ロッテンマイヤー:お客様がおいでになるけれど、ハイジとか、お友達が来られたら、遠慮せずに遊びにいきなさいって、おっしゃっておいででした。

クララ:はい。

ロッテンマイヤー:わたしも、そう望んでおりますので。では。

クララ:はい……はい(モニターに向かって)?……え、今のいたずらアナタも覚えてた? わたし、話したんだっけ?
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馬鹿に付ける薬 019・ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』

2024-10-04 12:15:11 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・4『ケルベロス・1』 




 グガアアアア!

 三人が身構えると同時にケルベロスは飛びかかってきた!

 三つの首は跳躍するまでは、それぞれ三人を睨み据えていたが、跳躍の頂点に差し掛かったときは揃ってメイジのベロナに牙を剥いて襲い掛かった。

 ズサ! ビシ! ハッ!

 プルートの斬撃! アルテミスの弓! ベロナのホーリーブレス!

 三つが同時にヒット! ケルベロスはすんでのところで身を躱し右の薮の中に逃げ込む。

「まだ来るぞ!」

 プルートが叫び、ベロナもアルテミスも得物を構え直す。

「思ったほど強い攻撃じゃなかったわ(;'∀')」

「あたしの矢もちゃんと突き立ったぞ(;'▭')」

「来るぞ!」

 グガアアアア! 

 ズサ! ビシ! ハッ!

 二撃目も危なかったが、自分たちの反撃に手ごたえを感じる三人。

 ザザザザザザザ ザザザザザザザ ザザザザザザザ

 三度薮の中を右に左に駆けまわるケルベロス! その後、三度、合計五回の攻撃をしてくるが、三人の冒険服に爪がかかる程度で、一つもまともにはヒットしていない。
 加えて冒険者三人は、防御にも攻撃にも慣れて、次の攻撃ではケルベロスに致命傷を与えられる気がした。

「くそぉ……」「もう一回……」「ちょっと待て……」

 微妙に異なるテンションの呟きがして、十数メートルの距離を開けて三つ頭の犬が姿を現した。微妙に息が上がって、たぎらせている闘気はハッタリのように感じられる。

「なんだ、もうおしまいかぁ……」

 そう言いながらも、大剣を中段に構え直すプルート。ベロナもアルテミスもそれに倣って弓と杖を構えた。

「待て待てぇ」「やるか!」「逸るな!」「痛い、勝手に首振るな!」「なにを!」「こっち見んな!」「まあまあ」「なあなあで済ますな!」「なあなあじゃねえ、まあまあって言ったんだ」「なにを!」

 三つの頭はさらに意見が合わなくなってきて、頭同士でもめ始める。

「あはは……ほっといて先に行きますか(^_^;)」

「そうだな、こんなのを相手にしても仕方がない」

「リンゴの匂いが強くなってきたし」


 さらに森の奥を進むと、やがて下草を刈って手入れの行き届いたリンゴ畑が見えてきた。


「おや?」

 リンゴ畑はテニスコート三面分ほどの広さがあって、数十本の普通のリンゴの木に取り囲まれて倍ほどの高さのが青々と葉を茂らせていた。

「あの大きいのが黄金のリンゴの木だ」

「でも、プルート、実がなっていないぞ」

「他のは、ちゃんと赤い実を付けているのに」

「おかしい、夕べ偵察した時にはちゃんと実がなっていたんだぞ。それに……」

 プルートが言うまでもなく、ベロナとアルテミスにも分かった。

 禁断の森の主、百の首を持つ蛇の化物ヒュドラの姿が見えないのだ。

「あいつ、ひょっとして早く目が覚めてしまったか……」

 そう言って、プルートは剣を抜き、ベロナとアルテミスも半身に構えてヒュドラの襲撃に備えるのだった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!20『知井子の悩み・10』

2024-10-04 09:20:28 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
20『知井子の悩み・10』 




 オーディションは審査に入って、受験者たちは控え室にもどったぞ。


 この審査が長引きやがる。

 オーディション終了直後は静かな興奮だったぜ。

 化粧前に座ってボ-っとしてるやつ。スマホや携帯を出して親や友だちに連絡を入れるやつ。やたらにスポーツドリンクを飲み始めるやつ。
 色々だけど、みんなどこかで、知井子と拓美を意識してやがる。話しかけてくるやつやジッと見たりってことはねえけど、みんな――あの子たちすごかったね――って思ってやがる。

 学年の始まりにルリ子が目立ちやがったのに似てるけど、あいつは性格悪そうで、ビビられたり敬遠されてだった。

 利恵も絶世の美少女だから、こんな感じで注目されてたけど、あいつは天使だ。「天使のままの姿形は反則だろが!」って言ってやったら「神さまは、あるがままであることを尊ばれるのよ」って涼しい顔で返して来やがった。まあ、ブスも美人も三日で慣れるって言葉の通りだったけどよ。

 知井子と拓美はミテクレじゃなくて、スキルとかタレント性だ。そんで、芸能界っちゅうかアイドルの世界は競争だからな、もし受かったら、ずっとこんな視線の中にいることになるんだ。てえへんだろうなと思ったぜ。

 でもよ、当の本人の知井子と拓美は気づいてねえ。全力を出し切って、呆然としてやがる。

 まあ、こういう景色も面白れぇもんだ。

 けどよ、ちょっと気にかかった。

 ここに来てから魔法の使いっぱなし。時間を限ってだけど拓美に命を与えたりしたのは、もう完全にA級魔法だぜ。

 でも、カチューシャが締め付けてくることもねえし、デーモン先生の文句も聞こえてこねえ。

 ちょっとヤバくねえかぁ?

 そのとき、戒めのカチューシャから、マユの頭の中にメッセージが入ってきた。

――黒きことは白きこと、白きことは黒きこと――

 え?

 声はルシファー。悪魔の親分でマユを人間界に落とした張本人。普段はサタンていうんだけど、たまにルシファーの名前で現れやがる。べつに名札とかIDとかが付いてるわけじゃねえ。出てきた瞬間のイメージでそう思っちまう。ちょっと難儀な魔界のボスで悪魔学院の校長でもありやがる。

「ありがとう、気持ちよく唄えたわ。もう思い残すこともない……送ってくれてもいいわよ」

 拓美が、目を潤ませ、しかし、しっかり覚悟のできた声で、横顔のまま言ってきやがる。

「わたしは半日って言ったのよ。まだ時間は十分あるわ、審査結果を聞いてからでいいわよ」

「う、うん……ありがと」

 うつむいた拓美の表情は分からなかったけど、膝に落ちた涙で、気持ちは分かった。

 知井子が、そっとハンカチを差し出しやがった。


 ノックがして、スタッフのオニイサンが入ってきた。


 ( ゚Д゚)!!


 それだけで控え室のみんなの神経は尖って、女の子たちの視線がオニイサンに集中したぜ。

「あ、あのぉ、お弁当なんだけど、ちょっと待ってて……審査発表まで、ちょっと時間かかるんで」

 お弁当は人数分しかねえ。つまり、本来は居ないはずの拓美の分で足りなくなってしまって、オニイサンは微妙にパニック。

 廊下にキャスターに載せられたお弁当の山が感じられた。

 お弁当は段ボールの箱に入ってるけど、パッケージは白のと黒のとがあって――白と黒がありますが、中身は同じです――ってメモが付いている。大量注文だったんで、パッケージが間に合わなかったんだ。

 で、まじめなオニイサンは配る前に数えたら一個足りねえことに気が付いた。それでアタフタしてるわけだ。

「お弁当のパッケージが白と黒があるけど、審査の当落とはぜんぜん関係ありません。お弁当屋さんのパッケージが切れただけで……あ、切れたって、あ、そういう意味じゃなくて(;゚Д゚)、とにかく、もうちょっと待っててください」

 オニイサンの慌てぶりに、みんなから笑いが起こる。

 マユは、急いで魔法をかけた。

 廊下のお弁当に魔法をかけ、足りなくなったお弁当の一つを二つにした。見かけだけを二つにしたので、味は半分になっている。食べたやつは、自分が味覚障害になったかと思うだろう。並の悪魔なら、全部のお弁当のエッセンスから均等に取って一個のお弁当を作る。マユはまだまだおちこぼれ、イタシカタナイ……。

 オニイサンは先輩のスタッフを連れてきて「もう一回数えてみよう」ということになって、二度数え直しても「ちゃんとあるじゃないか」ということになって、無事にお弁当が配られた。

 餌が配られて、控え室のみんなはやっと年頃の女の子らしくなってきたぜ。

 あちこちにグル-プができて、年齢にふさわしい賑やかさになってきた。マユは、知井子と拓美と三人でお弁当を食べたぞ。
 その三人の小グル-プの中でも、知井子はお喋りの中心になった。マユはホッと胸をなでおろし、知井子は、この数か月で伸びた身長以上に大きく頼もしくなったような気がしたぜ。

 お弁当を食べ終えるのを見計らっていたのか、一人の女の子が近寄ってきた。

 胸には受験番号①のプレートが付いていた。

「わたし、大石クララって言います……」

 その子は、見かけの可愛さの裏に、男らしいと言っても良いような清々しい心映えを感じさせたぞ

 大石クララが、ペコリと頭を下げた。

――不味い!  なんだよ、この味のうすさは!――
 
 同時に、味半分のお弁当を口にしたスタッフの思念が飛び込んできて、ちょっと慌てたマユだったぜ。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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