大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい 番外・003『総集編・1・総集編の変な訳』

2024-10-01 16:36:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
003『総集編・1・総集編の変な訳』さくら 




『いまどき総集編なんだってね、だいじょうぶなのかい?』

 相野さんからメールが来た。

 相野さんといっしょにやらせてもろてる秋アニメ『オメシグ〔泣いてもω(オメガ)笑ってもΣ(シグマ)〕』が二週連続で総集編になってしもた。

お祖父ちゃん:「なんや、いつのまに最終回やってんなあ?」

 オメシグのファンになってくれてるお祖父ちゃんが不思議な顔をする。

テイ兄ちゃん:「お祖父ちゃん、アニメの総集編いうのはなぁ……」

 そろそろ三十路やいうのに、若者文化にドップリのテイ兄ちゃんが説明する。

 お祖父ちゃんはNHKのドラマの感覚なんや。

 総集編いうのは番組がめでたく最終回を迎えて――あの感動をもう一度!――ちゅうノリで放送する特別番組。大河ドラマなんかは、総集編というだけで年末の気ぜわしさとお正月の予感がするめでたいもんや。

お祖父ちゃん:「ええ、放送に間に合わんから、しょーことなしにやってんのんか!?」

 うちもテイ兄ちゃんも「「あははは(^◇^;)」」と笑うしかないねんけど、お祖父ちゃんは、うちが主役の妹の役をやってるんで、ちゃんと観てくれる。ありがたい。


留美:「あれねぇ、動画さんからNGが出たんだって」


 遅くに帰ってきた留美ちゃんが報告してくれる。

 留美ちゃんは終電に間に合うようなら、たとえ明くる朝にとんぼ返りになっても家に帰って来る。オメシグにもちょっとだけ出てくれてるしね。

留美:「原画の酒巻さん、ちょっとひどいらしいよ」

さくら:「ええ、なんでえ?」

 オメシグは江戸川アニメが元請けの秋アニメ。なんか事情はよう分からへんねんけど、他の会社が請けられんようになって、江戸川が急きょ引き受けることになった作品。

留美:「コ▢ナからこっち、アニメって全話完納じゃない」

さくら:「ていうか、それしか知らんかった」

留美:「大人の事情で、社長が引き受けてきて、ムリクリ割り込ませたから無理が出てるっぽいよ」

さくら:「そうなんや……」

留美:「酒巻さんて、すごくていねいな仕事する人でしょ」

さくら:「ああ、うん……」

 声優の仕事をしてるのは江戸川アニメがあったればこそ。もとはと言えば先輩の百武真鈴(ももたけまりん)のたくらみやったけど。この仕事に生きがいを感じてるうちには、真鈴先輩は神さまだか悪魔だかのお使いで、江戸川アニメは第二の故郷っぽい。

 高校生やった(いまでも、まだ三年生やねんけど)わたしを、陰になり日向になって見守ってくれたのが江戸川の人たち。監督は、いたってどんぶり勘定やけど、それを支えているのがスタッフのみなさん。

 とくに酒巻さんは「ていねいにやっていたら、必ず見えてくるものがあるわよ」と、つい監督にのせられてやっつけの勢いで行こうとするのを諌めてくれはった。

留美:「絵コンテのあがりも遅かったんでしょうねぇ……」

 そう言いながら、タブレットにオメシグの公式サイトを出す留美ちゃん。監督を筆頭に数十人の名前がスクロールされていく。

さくら:「第一原画の里中智満子って、誰やのん?」

 偉大な少女漫画家と似すぎてる名前にひっかかる。所帯の小さい江戸川アニメ、ほぼ全員を知ってるうちには聞き慣れへん名前や。

 酒巻さんは第二原画なんで、第一原画さんが描いた第一原画に引っ張られてる。

 監督の遅筆がそもそもの原因やろねんけど、この第一原画にもちょっとむかついた。

 思わず伸ばした手ぇは虚しく空を掴む。

 ああ……空しく手ぇは空気をモフる。

 あれから二月……まだダミアロスには慣れへんさくらでした。


 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 酒巻栞(原画) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!17『知井子の悩み・7』

2024-10-01 08:39:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
17『知井子の悩み・7』 




 選考会場のHIKARIシアターに全員が集められたぜ。


 会場は、いかにもプロダクションのスタッフってやつらで一杯だ……偉そうなおっさんがマイクを持って舞台に現れやがったぞ。

「簡単に、注意事項を言っておきます。携帯やスマホは持ち込み禁止。持ってる人がいたら直ぐに控え室のロッカーに入れにいくこと。全員の選考が終わるまでは、ここは出られません。選考委員はこの会場のどこかにいますが、受験生の君たちには秘密です。ここにいる関係者全てを選考委員、いや、観客のつもりでやってください。それから……」

 マユには分かったぜ。スタッフのみんなが審査用のファイルを持ってやがるけど、大半はフェイク。

 サーチの感度を上げると五人が本物だと分かった。黒羽Dはメガネにキャップ、腰にはがち袋を下げて道具のスタッフに化けてやがる。

 そして、驚いたことに選考委員長は、あの会場整理のしょぼくれたおっさん……いや、よく見るとジジイ。なんか、仕事に生きがい感じまくりで、実年齢よりも若く見えやがる。

「それから、もう一点。二次選考で、演技中に怪我をする人が四人もいました。気合いが入ることは結構だけども、くれぐれも怪我のないように注意するように」

 受験生たちから、密かなどよめきが起こった。半分以上のやつが、その事故を目にしてるみてえだ。

「知井子、あがり性だから気を付けろよ」

「う、うん(;'∀')」

 もう、あがってやがる(^_^;)。


「じゃあ、一番の人から」


 プツン……


 一番のやつが舞台に上がったとき、照明と音響が落ちて非常灯だけになって。スタッフが慌てて駆け回りやがる。

 照明と音響のチーフが、お手上げのサイン。

 しばらくは復旧しねえ。マユが、魔法で照明と音響の電源を落としてやったんだからな。

 消えかけの炎みてえな非常灯だけになった会場はいい雰囲気だぜ。受験者のやつらを微妙に不安にさせてよ。なんだか地獄の入り口で審問を待ってる亡者どもみてえで、ちょっと懐かしい。地獄の番犬ケルベロスがいつもニヤニヤしてやがったのはこういう感じなのかもしれねえと思ったぞ。

「ちょっとトラブルのようなので、しばらく、そのまま……いや、控え室で待機して。復旧しだい再開します」

 偉そうなおっさんが、本来の小心さに戻ってうろたえてやがる。

 言っとくけどな、マユは意地悪でやったんじゃねえ。微妙に邪悪な気配を感じたんで電源を落としてやったんだぜ。


 控え室に向かう受験者の一人に声をかける。

「浅野さん、ちょっと」

 ヒ

 優しくやったんだけどびっくりさせちまう。

 マユも慣れてねえのかもな。

 優しく言うとかやるとかはな、猫が二本足で立つようなもんでよ、ちょっと不自然でしんどいんだ。けどな、いっちょまえの悪魔なら、これくらいはやれなくちゃならねえ。

――わたしに付いてこ……きて――

 マユは前を向いたまま唇も動かさず優しく言ったぜ。

「マユ、どこにいくのよ?」

「ちょっと用足し。すぐに戻るから控え室で待ってて」

 知井子は、一人にされて不安そうだったけど、大人しく控え室に向かった。

 そして……知井子には一人で、廊下を歩いていくマユしか見えていなかった……。


「さ、ここがよろしげだわ」


 マユが、ヒョイと指を動かすと、施錠された小会議室のドアが、カチャリと開いた。

「どうやって……( ゚Д゚)?」

 浅野という子は、目を点にして驚きやがった。

「早く入って、ドアを閉めてちょうだいませください」

 ああ、優しくってのは慣れねえぜ(-_-;)

 浅野という子は驚いた。部屋の椅子や机が勝手に動き、ちょうど二人が向き合って話しをするのに都合いい配置になったからで、むろんマユの魔法だ。

 驚く方に気がいって、マユのへんてこ丁寧語は気にならねえみてえで助かる。

「あ、あなたって……魔法少女だったりして?」

 浅野という子は、洒落っぽく言うことで怯えを隠した。

「座ってませください……ウウ……わたしはマユ。でもって悪魔、小悪魔だけどね。だから、おまえの、貴様の、あなたのことが見えるんじゃ、です」

「あ、悪魔……」

「で、浅野さん。あなたは、もう死んでるのよ」

 やっと、短いけど丁寧語で通せると、浅野という子の顔は、困惑に満ちてきた……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野さん     オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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