大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・5・窓を開けるクララ

2024-10-10 16:48:42 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




5 窓を開けるクララ 

時   ある日
所     クララの部屋
人物    クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)







 窓を開けるクララ。いつしか曲は止まって鳥のさえずりが聞こえる。


クララ:あ、ピーちゃんだ! 

 あれ、見える!? 見えてる!? 

 時々この窓辺にもやってくるのよ。鳥のことはよくわかんないけど多分インコ……おいでピーちゃん、こっちだよこっち。ほら、エサあげるから、ピーちゃん!

 ……行っちゃった……アルムのハイジのとこじゃ、牧場で、手をのばすだけで小鳥がやってきたものよ……うん、分かってるわ。

 あのピーちゃんは「あなたの方こそ外に出てらっしゃい」って言ってるの。

 ……わたし、ハイジとアルムの自然のおかげで、こうやって歩けるようになった。ほら、もうスキップだってできるわ。

 去年の体育祭じゃリレーだって出たのよ。フフ、信じられないでしょ。人を抜くことは、さすがにできなかったけど、順位を落とすようなことはなかったわ。持久走だってこなしたし、ランナーズハイてのも体験したわ……あれって、走り始めて三十分くらいたたないとやってこないのよね。最初の三十分までは「なんでぇ……」ってくらいきついんだけど、それ過ぎると、どこまでも、いつまでも走っていけそうな爽快感。

 そのくらいにクララは回復したの……人生も同じよね、ランナーズハイがある。

 アルムから帰って、三年くらいはそうだった……でも気づいたの。リレーとかで走るのは、ゴールがはっきりしている。でもでも、人生のゴールって自分で見つけなくっちゃいけないのよね。

 わたしたちにはそれが無いのよ……こないだね、アンがやってきたの。

 知ってる? アン・バーリー……あ、結婚する前はアン・シャーリー。そう『赤毛のアン』のアン。もう歳だけどね。わたし、娘さんのリラのほうが仲がいいの。ほら、この写真。こっちの娘さんのほうがリラ、かわいいでしょ。こっちのキリっとしてるおばさんがアン。長いこと学校の先生をやってたの。

 わたしもね、学校の先生になろうって思ったことがあるのよ……だってステキじゃない。いつまでも若い子達の弾むような感性の中で泣いたり笑ったりできるなんて、それこそ永遠の青春! 

 わたしはハイジじゃないからね。アルプスの自然から立ち上がる力は、もらえたけど。あそこはハイジの世界。

 わたしの世界は自分で見つけなくっちゃ。アンは言ってた「わたしは、いい時代に先生がやれて幸せだったって……雲が流れていくわ……アルムじゃね、あの雲はハイジを待ってくれるの……この街じゃ、あの雲はわたしを待ってはくれない。知らん顔して、流れていくだけ……え、あのハイジのブランコはどれくらいの長さがあるかしらって……フフフ、わたしも考えたわ。うん、ハイジの真似をしてみたの……ハイジって、なんでも知りたがって、くちぐせは「おしえて」だったものね……で、わたし、計算したの。振り子の周期から、あのブランコの長さは三十七・八メートルだって。で、ハイジに教えてあげたの。きっと驚くだろうって思って「わー、クララってすごい!」って言ってくれるだろうって……ハイジはなんて言ったと思う……不思議そうな顔をしてね「なんで、そんなこと計算するの?」……ハハハ……ハイジはね、ただブランコに乗ってみたかっただけなの、流れる雲の上に寝そべってみたかっただけなの。雲がハイジを待ってくれている。その感動を表したのが「おしえて」。

 わたしは、その「おしえて」を勘違いしていた。

 だから、いっそうハイジの「おしえて」がうらやましい……え……うん、大丈夫。なんでも聞いて。

 ……アハハ、遠慮してたの?……アナタって、デリカシーありすぎ。気疲れするでしょ、いつもそんなじゃ……イジメにあったことがあるかって? あなたは……あ、わたしから話さなくっちゃいけないわよね。

 イジメはないわ。ハイジに会うまでは学校にもいけなかったし。ウフフ、ロッテンマイヤーさんにはしょっちゅう叱られてたけどね。あの人はただ注意してるつもりなんだけど、口調がきついのね(かすかにクシャミ聞こえる)ウフフ、根はいい人よ……学校に行ってからは……うん、あんまりお友達はできなかったな。だれもがハイジみたいに心を開いてくれるわけじゃないし、だれでもハイジに対するように心を開けるわけじゃない。でも、その代わりイジメられるようなこともなかった。

 こんな言い方ダメかもしれないけど、イジメって、根本のとこでは、相手に対する興味の現れだと思う……ね、わたしのいたずらも同じよ。ロッテンマイヤーさんとかが反応してくれるからやってんの……アナタはぁ?

 ……いいのよ、言いたくなった時に聞かせてくれたら。

 ……あ、もう雲流れていっちゃった。さっきヒツジさんみたいな雲があったんだけどね……あれかなあ……トドみたいになっちゃったけど……わたしたちの心も雲みたいね。あっという間に流れて変わっちゃう。アルムの雲だって流れるんだけどね、ハイジは、雲がハイジを待ってくれてるように思えるわけ。

 ……あの感性にはまいっちゃう。なかなかあんなふうにはね……フフ、落ち込んでなんかいないわよ。ただ、「ちがうんだ」って思っただけ。で、わたしは、わたし自身の「おしえて」を持てばいい。そう思い直したの。

 だからこれ……この本たち。まあ、大半は図書館から借りてくるんだけどね……それにしてもすごい量? 

 う~ん……でも二千冊くらいよ。服とかも多いから。あんまり、お部屋の中ゴチャゴチャにしときたくないの。ゴチャゴチャは、頭の中だけで十分。

 ……アナタの部屋って、よく見るとステキじゃない……ううん、そんなことない。ベッドの枕のほうに机があって、パソコンとかモニターとかすぐ側なんでしょ。床に一見散らかってるように見えてる服も、ベッドの足下から、キャミとか下着、ブラウスにベスト……あ、そのジャケットとると鏡なんだ。

 起きたら順番に着て、最後は鏡で確認して出かけられる。機能的じゃない! あなたって、印象よりも合理的な人なんだ……あ、今なに隠したの!?……だめ、見ちゃったんだから、ちゃんと見せなさいよ。

 ……ステキ……それってダンスかなにかの衣装?……そうか、さっき言ってたの、そうなんだ! 言ってたじゃない、演劇部の後に入ったクラブがあるって……そうなんだ、ダンス部だったんだ!

 ……え、部員がみんなやめちゃってアナタ一人に……そう、それでもがんばろうとしたんだ……先生も忙しいもんね……授業と会議とパソコンばっかだもんね……え、IDカード……先生が首からぶらさげてる……わたしも、あれキライ。なんだかスーパーとかコンビニの商品の品質表示みたいでしょ……え、バーコード? ナイショだけど、ロッテンマイヤーさんの彼もバーコードよ(ロッテンマイヤーのくしゃみ)……頭じゃなくって、IDカードに……え、時々産地偽装してるみたいな先生も……アナタってウィットの感覚いいわよ。もっと本とか読んで感覚磨くと……アハハハ、わかった、わかったって。もうお説教みたいなこと言わないからさ……ね、ダンスのレパートリーどんなのがあるの?

 ……あ、それわたしも知ってる。ユーチューブで覚えた! ね、いっしょに踊ってみようよ……すごーいもう、コスに着替えたの!?……うん、とてもステキよ。待って、シンクロさせるから……よし、いいわよ!

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やくもあやかし物語2・076『魔王子トバル』

2024-10-10 14:38:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
076『魔王子トバル』 




「魔王女トバリの弟、魔王子トバルだ。見知りおけ」

 姉のトバリそっくりのニクソイ笑顔でマウントをとりに来る。

「あなたたち双子なの?」

「ああ、そうだよ。でも、戦い方は違うよ。トバリは結界を張って地霊どもを従えて戦うけど、ぼくは、こうやって戦うんだ……」

 顔の前で腕をXに組んだかと思うと、トバルの体はボンヤリと滲んで6:4くらいに分裂。そして、ふたたびハッキリしてきたと思ったら、6の方がメイソンに4の方がわたしソックリになった!

「ええ!?」

 シャキーーン

「こいつは、相手ソックリに擬態して戦うんだ……トオオオ!」

 剣を構えると、最後まで言い切らずに打ちかかるメイソン! トバルメイソンも同時に打ちかかって来る。なんだか、左右を逆に映す鏡みたいだ。

 トオーー!

 安心してはいられない、わたしにソックリなトバルヤクモの方は先手を取って討ちかかってきたよ(''◇'')!

 右手に思い槍、左手にミチビキ鉛筆を持って、トバルヤクモの攻撃を受け止める!

 ガシ!

 互いに同じ武器、同じ力なんだから打ち消し合う……と思ったら、ジリジリと押し込まれる。

 ええ、なんでぇ( >Д<)?

「相手は高い位置からダッシュしてきて勢いがついてるからだ! 少し踏みとどまればチャンスも見えてくる!」

 自分も苦しい戦いをしているのに、ちゃんとアドバイスをしてくれるメイソン。ノブリスオブリージュ! 貴族の息子だけのことはある!

 カシーン! ブンブン! ジャキーン! ガシガシ!

 メイソンは、攻撃をいなして相手の隙を誘っては攻撃を加えるけど、やっぱり同じスキルなのでラチが明かない。助けて欲しいけど、どうも無理っぽい。

 グヌヌヌ("皿″)……グギギギ(>皿<)……歯を食いしばって押し込まれないようにがんばるけど、こっちは互いに運動神経が悪いので、ひたすら押し合うだけだよ。

 ズズ……ズズズ……ズズ……

「まずい……」

 変な音がするのでなんだろうと思っていたら、メイソンの方が気づいた。

「トバリが結界をすぼめてきている、結界がすぼまると、こいつの力が増していくみたいだ!」

「ええ!? あ、ほんとだぁ……(''◇'')」

 押し込まれる力が微妙に強くなってきている」

「ほかの子たちはどうしてるんだろッ……」

 ほんとは「なにをしてんのよ!」なんだけど、優しく言ってみる。

「力を使い果たしたんだろ、もう気配がしない……」

「そんなぁ」

「僕も、そろそろ危ないかもしれない……」

「あ、ちょ……メイソン!」


 ああ、絶体絶命……と思ったら、ポケットから御息所がフワフワ浮き出て来た。


「「なんだ、おまえは?」」

 トバルヤクモとトバルメイソンが同時に声を上げる。

 そうか、御息所はコピーできていないんだ。でも、御息所の力ってたかが知れてるっぽい。

『妾は六条の御息所じゃ、畏れ多くも先の東宮殿下の妻である。見知りおけ』

 おお、バリバリのお局言葉! これは勝算があるのかも!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!26『AKR最初のレッスン』

2024-10-10 08:07:22 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
26『AKR最初のレッスン』 




 その週末、AKRの最初のレッスンの日がやってきたぜ!

 約束じゃ、体は拓美に貸して魔界で補修なんだけどな、今日は特別に憑いてる。

 姿勢と歩き方の練習だけで二時間。そのあと発声とボイストレ-ニング。昼食を挟んで、ストレッチをやってダンスレッスン。まるで体操部みてえなことばっかりやらされる。ダンスの基本だと聞いてなかったら五分ももたなかったぜ。

 その合間にスマイルの練習。

 要はニコニコ微笑む練習で、これが案外むつかしい。オーディションのときは、緊張しながらも、みなハイテンションだったんで自然な笑顔になったけどよぉ、なんにもねえのに微笑むってのはむつかしいぜ。

「はい、笑って!」

 と、いきなり言われても、なかなか出来るもんじゃねえ。中には虫歯が痛いのをこらえているような顔になるやつもいやがった。

「あなたたちは、アイドルなんだからね。どんなに疲れていても落ち込んでいても、一瞬で笑顔になれなきゃダメ!」

 前世紀末にアイドルの頂点にいたインストラクターの指導は厳しかった。

「ダメよ、3分やそこらで引きつってしまうようじゃ。いい、笑顔ってのは、ホッペのところに笑筋というのがあって、ここを鍛えるの。日本人が一番苦手な表情筋。今から、またダンスのアップダウンやるけど、その間、笑顔を絶やさないように。前の鏡を見ながら、チェックして、ハイ一時間!」

 で、一時間すると、知井子を始め、大半のやつの笑筋は笑顔のまま引きつるか、ケイレンしてしまったぜ。

 落ちこぼれ天使の雅部利恵はろくでもねえやつだけど、この笑顔の関してだけはエライと思っちまったぜ。あいつ、怒る時も居眠りする時も必殺技くらわせてくるときも笑顔だもんな(^△^;)。

 知井子もケイレン組だけどよ、楽しそうなんでマユは嬉しかった。リーダーの大石クララは、さすがに、ダンスのアップダウンも笑顔もこなしてやがる。

 最年長の服部八重もできてやがって。知井子は「負けた」と感じてやがったけど、ヘタレ眉になりながらも爽快な顔をしてやがる。

 爽快とヘタレってのは相反するんだけど、知井子のはなんか微笑ましくってよ「いちばん個性的よ!」とインストラクターにも褒められて、みんなも拍手なんかしやがってよ、マユも自分のことみてえに嬉しくなったぜ。

 知井子の人生は、負けっ放しでヘコンでばかりだった。

 でも、今はちがう。近いうちに必ず自分もできるんだという気持ちが湧いてきてやがる。それに、だれもできないことを笑ったりバカにしたりしねえ。みんな同じ目標を持ってるからかな。

 沙耶や里衣沙も数少ない友だちだったけど、このAKR47は、知井子が今まで経験したことがないような仲間になってきたぜ。


「じゃ、取りあえずプロモ用の写真撮るからね。一か月限定で流すAKR初のプロモだよ」


 全員の集合写真と個別の写真。ディレクターから多少の注文はつくけど、基本は本人たちの生(き)のままだ。

 ほとんどのやつが、ぎこちなかったけど、黒羽Dは、あえてそのままにした。成長するアイドルの第一歩だとか言ってよ。

 その中に、大石クララと並んで自然なハツラツさで撮れた者がいた。

 マユだ。

 正確にはマユが体を借してやってる幽霊の拓美。拓美のマユは、午前のレッスンから際だっていた。休憩中には、できねえやつに付いてやって、リーダーシップさえ発揮していやがった。

 拓美がマユの魔法で、みんなの記憶から消えてしまった(ただ、大石クララだけは知っている)んで、サブリーダーが居なかったんで、サブリーダーは不在のままだった。

「マユ、サブリーダーやってくれないか」

 レッスンの最後に黒羽ディレクターから頼まれた。


 その明くる日、マユは目覚めてびっくりした。自分の中から拓美が出ていかねえんだ。


――ちょっと、約束が違うじゃねえか。平日はマユだろうが――

――ごめん、レッスンが終わったら、出て行けなくなっちゃって――

――ええ、困るよ。マユ二重人格になっちまうじゃねえか!――

――ほんとうにごめん。平日は大人しくしているから――

――もうヽ(`Д´#)ノ !――

 マユは、初めて、やっかいな幽霊を引き受けてしまったことを後悔したぞ。

 キリキリキリ……

 とたんに戒めのカチューシャが頭を締め付けてきやがる。

「「イテ……!」」

 マユの悲鳴はステレオになっちまった……。




☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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