大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 030『生麦事件・2』

2024-10-29 15:40:29 | 自己紹介
勇者路歴程

030『生麦事件・2』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 瞬時に判断した。


 男一人は袈裟懸けに切られて落馬している。こいつは助からない。

 別の男は女性に「Run awey!(逃げなさい!)」と叫び、女性は馬首を巡らせて疾走していく。残った二人はあちこち切られながらも女性が逃げた反対方向に走っていく。女性を追わせないためだろう、わめきながら行列の注意を一身に集めている。

「ビクニ、おまえは侍たちを足止めしろ! スクナは付いて来てくれ!」

「了解!」「お、おお!」

 ビクニは後ろ向きの空中二回転ジャンプで侍たちの前に着地、 少佐の姿だし、なんとか時間を稼いでくれるだろう。

 わたしはスクナといっしょに駆ける! 

 小柄な上にナース服なので、オンブしてやらなければ……と、思ったが、なかなか、ちゃんと付いて来ている。

「スクナ、ガマンメンタムで治せるかい?」

「まかしといて! ガマンメンタムも効くけど、スクナの治癒魔法はレベル99だからね!」

「おお、それは頼もしい。あ、あれだ!」

 一里塚を過ぎたっところで、馬と一体化した男の姿が見えた。

 馬と一体化と言ってもケンタウロスというわけではない。出血が多いのだろう、馬の首にすがるように伏せて動かなくなっている。もう一人は、なんとか逃げおおせたのだろう、姿が見えない。よし、この男を助けよう!

「あ、落ちる!」

 スクナと同時にダッシュして、落馬寸前の男を抱えて杉木立の後ろに運ぶ。

「き、君たちは……?」

 苦しい息の中、わたしたちのことを訊ねる男。意識はあるんだ、助かるだろう。

「通りがかりの者です。まず、止血をします……」

 男のシャツを破って止血帯にしようと思ったが、スクナが包帯を出してくれる。

「じっとして、回復魔法をかけるから……大地に満ちたる命の息吹、この者の傷を癒し、命の火を繋ぎ留めよ……」

 詠唱とともに両手で〇を作ると、〇の中から光が出て、男の傷を照らして、みるみる傷口を塞いでいく。

「君は……ナースかと思ったら、魔術師なのか?」

「もう少しで、失血した血も復活するから、大人しくして……」

 ヤガミヒメの館からこっちの印象と違って、ものすごく真剣な様子に、ちょっと感動する。
 そう言えば、エプロンを取れば黒を基調としたナース服は修道女に通じるものがある。 

「……よし、これで、八割がた戻った」

「全部戻さなくてもいいのか?」

「あとは、ちゃんと食べて寝て、自然に直した方が体にいい」

 おお、やっぱりしっかりしている。

「あ、ありがとう、もうここで死ぬんだと覚悟したところだった……あ、女性の方は!?」

「だいじょうぶ。もうひとり仲間が助けに行っている。女性は無事に逃げたと思う。男性の一人は傷は負っているが助かると思う。落馬した一人は残念だが……」

「そうか……いや、ほんとうにありがとう。あやうく、この世界線で死ぬところだった」

 世界線?

 わたしもスクナも手が停まった。この時代の人間に世界線の概念などあるはずがない。

「君たちも違う世界線から来たんだろ? 君は円卓の騎士のようなナリだし、このお嬢さんはナースのナリはしているけど、魔術師のようだ」

「あなたは?」

「ジョン・タイター」

「え……ジョン・タイター!?」

 スクナは「え?」という顔だが、わたしは包帯を巻く手が停まってしまった。

 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • ビクニ        八百比丘尼  タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • スクナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!45『シーシュポスの岩みてえだ!』

2024-10-29 08:59:44 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
45『シーシュポスの岩みてえだ!』 




「このままじゃ、終わらないよ……」


 言葉の意味は、すぐに分かっぜ。

 あたりに、ウヨウヨとサメが集まってカジキマグロを狙い始めやがった!


 サンチャゴは、モリを構えて立ち上がった。


 波に揺れるボートの上で仁王立ちになり、獲物を狙うサメたちを寄せ付けまいと必死の形相だ。
 普通の人間なら、あの揺れるボートに立っていることすらできねえだろう。それをサンチャゴはサーファー顔負けのバランス感覚で立ってやがる。

 立っているだけじゃねえ、カジキマグロに寄ってくるサメのやつらを追い払ってやがる! 

 ガシ! ガシ! ドガ!

 最初の三匹は、急所の鼻面を一撃にして仕留めたけど多勢に無勢。一騒ぎ終わったころには、カジキマグロは半分近く食いちぎられていたぜ。

「こういうことなんだな……」

 マユは、小悪魔らしからぬ気弱さで呟いちまった。

「まだまだ、これからよ(-_-#)」

 ミファは怒りと闘志のみなぎった声で言うと、船縁をギュッとつかんだ。

「これが夢でなきゃ、魔法で助けてやれるんだけどな……」

「これは夢だけど、サンチャゴじいちゃんが言っていた最後の漁よ」

「……じゃ、これはドキュメンタリーなのか」

「うん。なにもかもサンチャゴじいちゃんの話のとおりだもん……ほら」

 また、サメの一群が来やがった。

 ガブガブ! ガシ! ガシ! ドガ! ガブ! ガシ! ガブガブ!

 カジキマグロは半分以上食われちまったぜ!

「まだまだサメは襲ってくるよ」

 ミファの予想どおり、サメはもう二回やってきて、とうとうカジキマグロを骨だけにしてしちまいやがった。

 しかし、サンチャゴは最後までサメと戦ったぞ。

 カジキマグロが骨だけになっちまって、サメも寄ってこなくなると、サンチャゴは、くたびれ果てて船縁に頬を乗せるようにしてくずおれちまった。

 え……?

 船べりに顎を載せながらも、サンチャゴは海の様子を窺ってやがる……また獲物の気配がして……え、これってループするんじゃね?

 あ、また竿を持ちやがった!


 シーシュポスの岩を思い出したぜ。


 二度まで神を欺いたシーシュポスは神に「そこの岩を山の上まで持ち上げろ」って言われるんだけど、山の上まで持ち上げた岩は、あくる日には音もなく麓まで降りてきてやがる。シーシュポスはまた岩を持ち上げて、また降りてきてを無限に繰り返すって、鬼みてえな罰だ。

 鬼は、こんなことはやらせねえ「鬼差別だ!」って怒ってやがったくれえだ。

 シーシュポスは心が折れて、死んだ魚みてえな目になって、今でも岩を運んでやがるけど、 サンチャゴジジイ、ここで無限に獲物を獲ってはサメに食われるやがるんだ!

 魔法は使えねえけど、見ることはできるぞ。小悪魔の目であたりを探ってみる……。

「あ、水平線に抜け道があるみてえだぞ!」

 ゲームの中のヒントみてえにピカピカしてるのが見えたぞ。きっと、別ルートにちげえねえ!

「あ、あそこはダメ」

「なんでダメなんだ?」

「あっちは、よその国の漁場なんだよ。うちの島はね、むかし大きな戦争に巻き込まれたの……で、負けちゃったから、漁場をひどく制限されて……頭の回る大人たちは、よその島に行って雇われ漁師をやっている。うちの島の漁師は優秀だから、どこでも重宝がられてる。あとは、ちょこっとした観光やら、葉たばこ作ったり……だから、島は、年寄りと女子どもだけになってしまったんだ」

「サンチャゴは、そういうのは出来ねえたちなんだなぁ……でも、もう一つの方は?」

「あっちは……(-_-;)」

「あっちは?」

 俯いてしまいやがる。

「ミファまでタソガレてどうすんだよ……」

「…………」

 言っても仕方がねえ感じなんで、ひとことグチっただけにする。

「それでも、サンチャゴじいちゃんは漁に出た。こうやってリアルに見ちゃうと、こっちまで折れちゃう……」

「でもよ、なんで、サンチャゴを眠らせつづけておくんだ? こんな夢を見続けるのはシーシュポス以上の拷問だぜ」

「そうだよね……」

 なんでだよ!? 

 ノドチンコのとこまで出てきたけど、マユはもう一回吞み込んだぜ。

 見てっかぁ、デーモン先生。マユも辛抱強くなっただろうが。

 ここは、もう出口がねえ。もう戻るぞ( ' ^ ' #) 。


 キリキリキリ

 カチューシャが閉まってきやがる!


 わ、分かった、もうちょっとだけ居てやっから(>皿<)!

 コツン

 そのときボートの舳先が、なにかに当たった。

「ん、なんだろう……?」

 なにかの先には、まだ海が続いているけど、ゲームのエリア限界にきたように前に進めなくなっちまった。

 しかし、サンチャゴのボートは二人のボートを残して、その先に進んでいく。

 ジャジャーーン!

 すると、目の前に大きなアラームが映し出された。


 この先Z指定! CEROレーティング(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)


「なに、これ……?」

 ミファが首をひねった。

「だれだか知らねえけど、この夢に介入してるみてえだな」

「Z指定だったら、あたしたち入れないよ」

「フフ、こんなもの……」

 マユが、指を一振りすると、アラームは簡単に消えてしまった。

「え……どうやったの?」

 ミファは、マユに聞こうとしたが、マユの姿は見えねえ。

「マユ、どこに行ったの……海に落ちた?」

 ミファは船縁から海を見た。すると……。


 海面に映っていたのは、ミファでもマユでもない三十過ぎの女だったぜ。


 なかなかの美人みてえだ。

 ミファは驚いて、後ろを見て、もう一度海面を見た。その美人は紛れもなく、ミファ。

「……これって、あたし?」

――でもあるし、マユでもある――

 自分の頭の中で、マユの声がした。

「マユ!?」

――なんだか無意識にやっちまったぁ。マユとミファを足したみてえだな。すると、こういう三十過ぎのイケたおねえさんになる。三十過ぎだからZ指定は関係なしだ……ちょ、ちょっと、どこ触ってやがんだ(''◇'')!?――

「あたしって、こんなに胸大きくなるんだ!」

――ま、二人分足した姿だからな。どっちの要素で、こうなったか分からねえ。ま、体はミファが動かせ。考える方は、マユがやるから――

「で、とりあえず、どうしたらいいの。もうサンチャゴじいちゃんのボート見えないよ」

――足もとにコントローラーがあるだろ――

「あ、これ……ワイヤレスじゃないの?」

――首からぶら下げんだ。この夢に介入したやつは、ゲーム仕様にしたみたいだから。△ボタンを押してみ――

「あ……!」

 水平線に▼マークが現れた。

――その方角にサンチャゴがいる。R2ボタンがアクセル。L3のグリグリが舵だから、がんばれ。ボートが見えたらロックオンの※が出るから、R3で合わせて、押し込む。すると自動追尾になるからな――

「よっしゃー!」

 気安く引き受けたミファだったけど、ロックオンまで二時間もかかるとは思わなかった。R2ボタンを押している人差し指がケイレンをおこしかていたぜ(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • 狼男
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする