大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

連載戯曲・クララ ハイジを待ちながら・1 クララの秘密

2024-10-03 17:18:21 | 戯曲
クララ  ハイジを待ちながら    

大橋むつお 
 
※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます




1 クララの秘密

時   ある日
所     クララの部屋
人物  クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)



 ヨーデル明るく流れる中、幕が上がる。中央にクララの椅子。あとの道具は全て無対象。クララがヨーデルに合わせ鼻歌を口ずさみながら取り散らかした衣装を片づけている。やがて点けっぱなしにしていたパソコンのモニターの大画面(客席)に気づく。


クララ:あ、点けっぱなし(スイッチを切ろうとして)あ、そっちも点けてたのね。やだぁ、わたしってこんなに散らかしっぱなしで……え、アナタも似たようなものなの? カメラ回してよ……アハハ、ほんとだあ。似たもの同士ね。もう一カ月……え、三週間? まだそんなものかなあ……「ニコプンサイト」で知り合ってぇ、チャット始めてぇ、すぐにボイチャ。カメラ付けたのは三日前……かな?(この間、ノックの音が数回するが、クララは気づかない)


 このとき下手からメイド服のシャルロッテがやってくる。


シャルロッテ:失礼します、お嬢さま……あ、お手伝いいたしましょうか?


クララ:あ、いいのよいいのよ、いつもこうなんだから。

シャルロッテ:でも……あ、チャットやってらしたんですか?

クララ:ああ! ナイショナイショ!

シャルロッテ:あ、はい。はいです……フフフ。

クララ:フフフ……ま、見られたんじゃ、しようがないか。あ、この子、先週うちにやってきたばかりのシャルちゃん。メイド服、初々しいでしょ!

シャルロッテ:(モニターに向かって)あ、えと……わ、わたし、先週からここでお世話になっている新入りのメイドです。お嬢さまはシャルって縮めておっしゃいますけど。い、いちおう、そういうことでご承知おきくださいませ。

クララ:ほんとはシャルロッテさん。

シャルロッテ:あ……。

クララ:で、シャルちゃん。わたし、ちゃんと人には敬称つけるんだからね。よくお笑いタレントさんたちのことを呼び捨てにする人いるけど、わたしはキライよ。人を粗末にすることは自分も粗末にすることなんですもんね。クララの人生リテラシー!

シャルロッテ:あ、あの、お嬢さま、チャットでリアルネームは……。

クララ:わたし、きちんとしたいの。むろん相手によりけりよ。この人は信じていい人。だから、リアルネーム。でもむろんファミリーネームは非公開。住所とかもね、わたし個人の信条でやってることだから。

シャルロッテ:この方のハンドルネームはぁ?

クララ:アナタ。

シャルロッテ:アナタ?

クララ:穴ぼこの穴に田んぼの田。

シャルロッテ:アハハ、おもしろいハンドルネームですね。

クララ:ウソウソ、普通の三人称のアナタ。わたしがそう決めたの。ほんとは別のハンドルネーム使ってらしたんだけど。わたしが、そう提案したの。もう元のハンドルネーム忘れちゃった……いいのよ。今さら言ってもらわなくても。もし、いつかリアルネーム教えてもらえたら、そのときはね。

ロッテンマイヤー:(声) シャルロッテ、お嬢様のおじゃまをしてはいけません。

シャルロッテ:はい、ロッテン……。

ロッテンマイヤー:どうかしたの?

シャルロッテ:いいえ、すぐにまいります。

ロッテンマイヤー:そうしてちょうだい。今夜は旦那様がお客様をお連れになってこられるんだから、ゼーゼマン家として恥ずかしくない準備をしなくてはならないんですからね。

二人:あ……!

ロッテンマイヤー:ゼーゼマン家は、この街でも由緒正しい……なにかございまして、お嬢様?

クララ:ううん、なんでも(シャルロッテをインタホンから遠ざけて)チャイルドロック外して、チャットやってんのはロッテンマイヤーさんにはナイショだからね。

シャルロッテ:はい、承知しました。

クララ:あの人に知られたら、お父様には百倍くらいに誇張して言いつけられちゃうから。バレたら、クララはパソコン取り上げられるし、シャルちゃんはここに居られないかもよ。

シャルロッテ:は、はい、お嬢さま!

ロッテンマイヤー:シャルロッテ!

シャルロッテ:はい。今まいります! じゃ、お嬢さま。わたしで役に立つことがございましたら、いつでもどうぞ(モニターに)アナタ様も、お嬢さまのことどうぞよろしく。で、さっきのおばさんの声は聞こえなかったってことで……(下手に去る)
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銀河太平記・251『ペシペシと頬を叩く劉宏』

2024-10-03 11:26:50 | 小説4
・251

『ペシペシと頬を叩く劉宏』 劉宏元帥 




 青銅の騎士は超小型の核融合エンジンを動力とし、チタン合金の装甲で全身を覆ったロボット騎兵だ。

 二十三世紀の今日、兵器に限らず、世界の動力はパルスエンジンが標準なのだが、ロシアは艦船や大型の航空機以外は核融合エンジンに頼っている。
 小型化などの技術が未発達なのだ。民生品は輸入のパルスエンジンを使っているが、軍用品には使えない。輸入品はどこで外国の軍隊や諜報機関と結びついているか分からず、情報が筒抜けで、いざというところでロシアの支配を離れてコントロールされてしまうかもしれない。また、アンチパルス化された空間ではパルスエンジンは使えない。

 我が漢明軍も同様なのだが、燃料はパルスバッテリーを使っている。エンジンではなく動力源なのでアンチパルスの影響を受けることも無く、ロシアのそれよりも出力は二倍から三倍になる。

 漢明軍が本気で乗りだせば、互角に戦えるロシア兵は青銅の騎士ぐらいしかいない。

 数において十分とは言えない青銅の騎士は、我が軍と渡り合えば、各個撃破される。じっさい、目の前でモンゴル騎兵がその身を犠牲にしながらも十騎あまりの青銅の騎士を撃破している。

 第二次大戦におけるドイツのタイガー戦車の運命に似ている。1対4までなら怖れる敵のいないタイガーだが、連合軍は5両以上の戦車で対処することでタイガーを仕留めていった。我が軍には、青銅の騎士を5騎以上で対処するだけの兵が準備されている。

 他にも厄介な問題がある。

 ロシアは、いざとなれば人の命など、たとえ自国民であっても考慮しない国なのだ。第二次大戦でロシア人は三千万も人命を失ったが政権が倒れることは無かった。

 ロシアは、いざとなれば無尽蔵と言っていい兵力を繰り出せる。

 どのように優れた兵器と優秀な軍隊を持つ国でも、ロシアと事を構えるのは二の足を踏む。

 ……どうも、こと軍事のことになると、劉宏の思考になってしまって王春華の姿には似つかわしくない言葉になってしまう(-_-;)。


 ペシペシ


 両手で頬を叩くと、近くの兵たちがクスリと笑う。

 テヘペロまではカマさないが、十分にクールダウンできた。

 と、肩の力を抜いたら、その努力を踏みにじる者が現れた。

「朱准将が突出していきます!」

 副官が叫んで、わたしは馬の上で跳びあがってしまった!

「胡盛媛中尉が追っております」

 だめだ、すぐに国境を超えてしまう!

「引き止めろ!」

 一声で十分。

 旅団長が手を挙げると、スイッチが入ったように前衛のうちの一個分隊が飛び出していく。

 しかし遅かった。

 分隊があと数十メートルというところで朱元尚は国境を跨いでしまい、次の瞬間には青銅の騎士を先頭に十数騎のロシア兵が二人に向かってきたのだ!



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!19『知井子の悩み・9』

2024-10-03 08:27:28 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
19『知井子の悩み・9』 




 グニュゥゥゥ……グニュ……グニュゥゥ……

 空間がマーブル模様にねじれて渦を巻いていやがるぜ!

 その渦の真ん中に向かって浅野拓美はゆっくりと落ちていきやがる。

 渦になっちまってるところはよく分からねえけど、外側はまだ完全に渦には成りきってねえ……よく見ると、それは拓美の十数年の思い出たちだ。

 今まで受けたオーディションの数々……「いいかげんにしろよ」と叱りながら、心の中では応援してくれていたお父さん……「残念だったわね」と、落ちたオーディションを慰めてくれた親友が、心の中ではせせら笑っていたこと……シカトするように何も言わない友だちが、痛々しそうに思って心を痛めていたこと……あるアイドルユニットのデビューに胸ときめかせ、人生の目標にした中学生だったころの拓美……音楽の実技テスト、思いがけず拍手をもらい、いい気になっている拓美……「拓美ちゃんすごい!」……先生もクラスメートも、この時は素直に喜んでくれていた……保育所の生活発表会、拓美は、音程の合わない子を懸命に教えていた。お母さんがお迎えに来ているのに、この子たちみんなと楽しく歌いたいと思っていた純な拓美……よちよち歩きだったころ、公園に連れていってもらい、吹く風に歌を感じ、まわらない舌で、そよぐお花といっしょに歌っていた……「ねえ、この子ったら、お歌、唄ってる!」「ほんとかよ!?」拓美を抱き上げて、心から嬉しそうにしている若いお母さんとお父さん……そこで、マーブル模様は渦のまま止まっちまった。

 渦の中心はほの暗く、台風の目のように揺らいでいる。

 多分あそこまでいけば、あっちの世界に行ってしまうんだろう……拓美は、そう感じて覚悟を決めた……でも、渦は、それ以上には動こうとはしねえ。


 おまえ、本当に唄うことが好きだったんだな。


 う……うん……


 渦に呑み込まれ、先の方しか見えてねえ右手の先が返事をするみてえにピクリとしたぜ。

 すると、急速にマーブル模様は逆回転しはじめ、あっと言う間に、もとの小会議室に戻っちまった。

「拓美……おまえ、歌を唄うために生まれてきたような子だったんだ……」

「うん……そうみたい……」

「でも、死んじまった」

「…………」

「……半日だけ、生きていることにしよう」

「え……」

 手にしたA4の白紙が本当の合格通知に変わった。

 ちょうど、えらそうな(でも、実はペーペーの)スタッフがヤケクソで配電盤に拳をくらわせやがったんで、その拍子で電源が戻ったことにした。

「え、お、オレの根性で電源戻ったってか!?」
 
「では、再開しまーす!」

 ディレクターの声がとんだ。

 ん?

 審査委員長のジジイは、受験者のファイルが微妙に厚くなったような気がしたけど、フロアーになだれ込んできた受験者どもの熱気ですぐに忘れちまった。

「審査は番号順ではなく、ランダムに出てきた番号で行います。いつ自分の番になってもいけるように」

 スタッフがそう言うと。ビンゴゲームのガラガラが出てきて、HIKARIプロの売り出し中のアイドルが、にこやかにガラガラを回しやがった。

「あの子の笑顔、小悪魔に見える……」

 知井子が呟いて、本物の小悪魔は思わず笑いそうになっちまったぜ。

 知井子は、びくびくしながらも「一番になれぇ!」と、思ってやがる。学校では見せたことがない闘争心だぜ。

「受験番号47番!」

 47は知井子の番号だ。

「え!?」

 ビックリはしたけども、知井子はおどおどとはしてねえ。

 知井子、大進歩だぞ!

 思わずこぶしを握るマユだったぜぇ(^_^;)。

 知井子は、オハコの「ギンガミチェック」を元気いっぱいに歌い上げやがった。振りはコピーじゃなくて、自分で考えたオリジナル。ちょっとタコ踊りみてえだけどイケテル……ここまでイケテルとは、マユは予想もしていなかったぜ。

 おあいそじゃねえ拍手を受けて、知井子はステージを降りた。

 次のやつは、知井子に呑まれちまった。といっても、ここまで勝ち進んできたやつだ、萎縮することはなかったけど、どこか力みすぎ、知井子みてえに自然なノリにはなってねえ。

 マユは、お付き合いのつもりで適当にやっておくつもりだった。

 けどよ、知井子が作った空気は、みんなに伝染しちまって、マユもつい本気になっちまったぞ(^〇^;)。


 そして、拓美の番がまわってきた。


 受験番号は現実には存在しねえ48番だ。


 マユは、改めて魔法をかけ直した。審査が終わったら、関係者一同の記憶、ビデオやパソコン、カメラの記録も消さなきゃならねえ……おちこぼれ小悪魔には、少し荷の重い魔法だぜ。

 拓美がステージに上がった。

 おおぉ…………

 審査員、受験者たち、フロアーに居た全員からため息がもれたぞ。

 あ、あれ( ゚Д゚)?

 思わず自分が魅力増進の魔法をかけちまったのかとビビっちまった。それほど拓美は輝いていたぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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