大宜都比売(オオゲツヒメ)をブチ殺した後のスサノオは様子が変わります。
それまでの乱暴者は影を潜めて、普通のヒーローになっていきます。
普通と書いたのは個人的な趣味です。読んでいる限りでは高天原までのスサノオの方が断然面白いと思います。
スサノオは、出雲の国のトリカミという所にやってきます。何気に川に目をやると上流から箸が流れてきます。
「……箸が流れてくるということは、この上流に人が住んでいるんだなあ(^▽^)/」
人恋しいスサノオは、エッチラオッチラ川に沿って歩いて行きます。
一軒の家から爺さん婆さんの泣き声が聞こえてきました。
年寄りが泣いているのを見過ごせるスサノオではありません。キャラ変してしまったようですが先に進みます。
「通りがかりのもんだけど、年寄り二人が泣いているのはただ事じゃないぜ、いったいどうした……」
そこまで言って、言葉が止まってしまうスサノオ。
「か、かわいい……(#´ω`*#)」
えと、婆さんを見て「かわいい」のではないのです。
爺さん婆さんに挟まれて美少女が悄然と俯いているのです。
「なにから申し上げましょう……わたしは手摩霊(テナヅチ)、婆さんの方を足摩霊(アシナヅチ)と申します。で、これは、わたしどもの娘で櫛稲田(クシナダ)姫と申します」
テナヅチというのは手で撫でる。アシナヅチは足で撫でるという意味で、要は撫でまくりたいほどに娘を可愛がっているという意味になります。
「それが、どうして泣いてるんだい?」
「はい、ここいらには八岐大蛇(やまたのおろち)という頭が八つもある蛇の化け物がおります。その八岐大蛇が毎年かわいい女の子を一人生贄に寄越せと申します。生贄を渡さなければオロチは大暴れをして、住民みんなを困らせます」
「チョ-我儘なヘビ野郎だな!」
高天原でのことは棚に上げて老夫婦を慰めます。スサノオというのはなかなかの神経をしております。
でも、キャラ変したのだから仕方ありません。
「八人の娘がおりましたが、毎年生贄に取られてしまって、とうとう、このクシナダ一人になってしまいました」
「そうだったのか……いや、お二人が涙にくれるのももっともだぜ……よし、では、このオレ様がオロチから護ってやろうではないか」
「ほんとうでございますか!?」
「そ、そうおっしゃるあなた様は?」
「あ、スサノオって言うんだ。よろしくな」
高天原の事には触れてほしくないので、名前だけをサラッと言います。
「ス、スサノオノミコトと言えばイザナギ・イザナミのご子息で、高天原をしろしめす天照大神さまの弟君ではありませんか!?」
「ドッヒャー! チョーセレブなお坊ちゃんではないですか! サインもらわなきゃ!」
「握手じゃ! 写メじゃ!」
三人並んで写メをとります。
「えーーあのーーちょっと違うんじゃ……」
クシナダが遠慮気味に言います。
「そーだそ-だ、いっそクシナダを嫁に差し上げます!」
「え、オレの嫁? いいの、嫁さんにもらっちゃって!?」
「はい、助けていただけるんなら、いえ、助ける力のあることに疑いは有りません。どーぞ、もらってやってくださいまし~!」
「そ、そーか、そーか、そーであるか、ならば、無くしちゃいけないから、こうしよう!」
スサノオが指を一振りするとクシナダは小振りな櫛になってしまいます。そして、その櫛を髪に差しますととっておきの作戦を披露するのでありました。