巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
最初はフェイクだと思った。
あるでしょ、SNSって、時どきウソが混じってる。
地震で動物園のライオンが逃げ出したとか、コロナのころのあれこれとか、スーパーからトイレットペーパーが消えたとか。
質の悪いのは、発信者が突き止められて逮捕されたりしている。これも、そうだと思った。
名古屋で不発弾発見!
もう、戦争から何年たってるって言いたいよ。
……78年だよ! ちょっと計算に時間がかかるくらいたってる。
でも、本当だった!
先月の22日に発見されて、昨日の30日に撤去作業が行われた。
道路工事やってる歩道と車道の境目辺りに錆びだらけのガスボンベみたいなのが顔を覗かせている。
250キロ爆弾だって!
こんな錆々のが爆発すんのかなあと思ったけど、カメラが切り替わると、家の高さほどに土嚢が積まれて、半径300メートル以内にいる人たちが避難してた。
『はやく取り除いて日常の生活にもどしてほしいですねぇ』
マイクを向けられた小母さんが、意外に穏やかな表情で言ってる。
外国で戦争が起こって感想を求められたみたいな穏やかさ。
自衛隊とかの処理を信頼しているからなんだろうけど、なんか他人事。
「日本人はね、目の前で身内が亡くなっても、こんな感じのことが多いのよ。生の感情をぶつけたりしないのよ」
お祖母ちゃんが言う。
こないだ、希望が丘で出会った小母さんもそうだった。
旦那さんが亡くなって、結婚式を挙げた思い出の公民館にやってきて。その手に旦那さんの写真が無かったら、ちょっとトイレ休憩に車を停めましたって感じだった。
お年だから、病気で亡くなられたのかと思ったら、先月不慮の事故で亡くなられたんだった。
バン
「ちょ、なにすんの、お祖母ちゃん!」
いきなり背中をどやされて、ムカっとする。
「しみじみしてると、伝染っちゃうわよ」
「え、お祖母ちゃんが死ぬとか?」
「勝手に殺すな」
「イテ」
トドメの空手チョップをもらうと、スマホが鳴った。
ピピピ ピピピ
防犯アラームだ。
「え……ほんとうになった!?」
アラームは――寿町三丁目で不発弾が発見されました――というものだった。
自転車に乗って、春以来足を向けていない学校の方に走る。
高校じゃないよ、中学。
正確には中学と小学校の間の、通称学校道。ここいらが寿町三丁目。
現場に着くと、すでにパトカーと消防が来ていて規制線が張られている。
――校内に居る人は、ただちに学校の外に出てください――
――校内の生徒、教職員の人はすぐに校外に退避してください――
小学校と中学から同じ内容の校内放送が流れている。
『申し訳ありません、不発弾の確認作業をやっていますので、交通規制をやっています。路線バスも通れません。警察官の指示に従って迂回してください』
パトカーから丁寧な案内がされる。
べつに警察のせいじゃないのに、日本というのは、みんな腰が低い。
わけが分かってない後輩たちが正門から出てくるが、お巡りさんに注意されてる。
バカな中学生にも、ちゃんと対応するお巡りさんはえらい。
見覚えのある先生が出てきて「裏門から出ろ!」と追い返している。小学校の二階からは、これまた、わたしのころから居る教頭先生が両手で大きな○を作って、お巡りさんに示している。お巡りさんは敬礼しながらお辞儀。
他には騒ぐ者も居なくて、アラームの割には穏やかだ。
ピピピ ピピピ
また、アラームが鳴る。
――不発弾は、○○○○爆弾と判明。爆発の危険はありませんが、処理が終わるまでは規制が続きます――
読み飛ばしたので、もう一度○○○○爆弾に目を戻す。
ゲゲ!!
読み返したそれは、模擬原子爆弾とあった( ゚Д゚)!
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。