やくもあやかし物語・19
けっきょく風邪をひいた。
ほら、土砂降りの雨の日。
もう、学校を休もうかと思ったら、お婆ちゃんがお母さんの赤い長靴出してきて、それ履いて学校に行ったでしょ。
いろいろあったけど、足は濡れずに済んだ。
だけどね、足以外はビチャビチャの濡れネズミ。
帰ってすぐに熱いお風呂にでも入れば良かったんだけど、図書室当番だったんだ。
一度代わってあげたことのある小桜さんに頼もうかと、昼休みに小桜さんの教室に行った。
すると、廊下で友達三人に囲まれて、帰ったらみんなで遊ぶ話をしていた。で、頼めずに、下校時間まで図書当番やって帰った。
急いで家に帰って風呂掃除。
「お爺ちゃん、今日は先に入っていい?」
掃除終わって、お爺ちゃんに頼んだら「ちょっと、待て」と言って、お爺ちゃんは、わたしのオデコに手を当てた。
「すごい熱だ、お風呂どころじゃないよ!」
そのまま抱きかかえられた。
「服が濡れてるじゃないか!?」
「あ、うん、着替えるの面倒で……」
お爺ちゃんは、抱っこしてくれたままで部屋まで運んでくれて、ベッドに寝かせてくれた。
「やっぱり、着替えなきゃだめだ」
そうだろ、このまま寝たらお布団まで湿ってしまう。
「うん、着替え……」
ノロノロと体を起こし、ベストを脱いでリボンを外してスカートのホックに手を掛けたところで力尽きる。
「お爺ちゃん……着替えさせて……」
「あ、ああ……」
着替えを出して枕もとに置いてくれたところで手が止まった。
「婆さんでも居ればなあ……」
お爺ちゃんは、わたしの服を脱がせるのに迷っているんだ。
「……そだね……うん、自分でできる……えと……ちょっとの間出ててくれる?」
「あ、そうだな」
アタフタと部屋を出ていくお爺ちゃんを精一杯の笑顔で送る……送ったところで部屋が横倒しになる……いや、わたしが倒れたんだ。
早く着替えなきゃ、お爺ちゃんに心配かける。でも、目の前の着替えに手が届かない。
意識が飛びそう……誰かが心配そうにのぞき込んでるような気がする。
誰か……なにかが……うん、部屋……家全体が包み込むようにして見てるような……。
気が付くと枕もとにお爺ちゃん。手探りすると、ちゃんと着替え終わってる。
自分で着替えた記憶はない、お爺ちゃん? いや、この純情シニアは、さっきの様子からも、女子中学生を着替えさせて平然とはしていられないだろう。
すると、さっきの何かが――よかったよかった――と呟いたような気がした。
次に目が覚めると、お医者さんが来ていて、お婆ちゃんとお母さんが後ろで心配顔。
「いやあ、先輩に頼まれちゃ仕方がないですなあ」
お医者さんが汗を拭いている。どうやらお爺ちゃんが無理を言って引っ張ってきたお医者さんのようだ。
ぶっとい注射を一本打たれると、落ちるようにして眠ってしまった。