ちょっと見てくれるかな
化学の先生という感じの鑑識主任に呼ばれて、演劇部の四人は恐る恐るブルーシートの囲いの中に入った。
「結論から言うと、これは作り物だよ」
化学の先生という感じの鑑識主任に呼ばれて、演劇部の四人は恐る恐るブルーシートの囲いの中に入った。
「結論から言うと、これは作り物だよ」
え!?
四人は一瞬混乱した。
視界に入らないようにしていても目に飛び込んでくるトランクの中身は、飴色のミイラ化した死体。
そして、囲いの中に充満している強烈な腐敗臭。
五感で感じる情報は、トランクの中身が本物だと強烈に主張している。
「作り物って……?」
死体はミイラ化しているので、単純に病死とか殺された死体ではなく、死後に加工されたという意味に感じて疑問形になってしまう。
「手の込んだ舞台道具のようなんだ」
鑑識主任の説明は、ほんとうに化学の先生のように明確だ。
「ウレタン樹脂の芯の上からシリコンゴムが掛けられている。髪の毛は市販のウィッグ、頭部はプラスチックの頭蓋骨の上から、同様にシリコンゴムで作られている。精巧な舞台道具という感じなんだ」
「でも、この臭いは?」
最年長だけあって、口を押えながらも須磨が質問する。
作り物だと言われても、この腐敗臭いは納得できない。
「臭いの元は、これだよ」
主任はトランクの底の方を示した。
底の方には、ミイラから剥がれ落ちた皮膚のようなものが散らばっている。
「これはスルメと魚の干物を砕いたものさ。かなり古いものなんで、臭いがほとんど腐敗臭のようになっているんだ」
そう言いながら主任は四人の顔を見た。いつのまにか、刑事らしいオジサンも混じっている。
「君らは見覚えないねんな?」
「は、はい。なんせ古い部室なんで、ゴミみたいな古道具ばっかりで確認もしてないんです。解体といっしょに処分してもらお思てたもんですから」
「そうか、心当たりはないねんな」
一拍置いてから、刑事が念を押した。
どうやら、人騒がせな舞台道具が啓介たち現役の部員たちの仕業かどうかを確認したかったようだ。
答えの内容よりは、答え方で真贋を確かめるという感じだった。
早とちりというか誤解から生まれた騒ぎなのだが、警察の鑑識まで出てくる大騒ぎになったので、警察としては、事の顛末を明らかにしておかなければならないのだろう。
「今年一番の大騒ぎになったなあ」
千歳が入れてくれているコーヒーのドリップ音にホッとため息をつく啓介。
そして、囲いの中に充満している強烈な腐敗臭。
五感で感じる情報は、トランクの中身が本物だと強烈に主張している。
「作り物って……?」
死体はミイラ化しているので、単純に病死とか殺された死体ではなく、死後に加工されたという意味に感じて疑問形になってしまう。
「手の込んだ舞台道具のようなんだ」
鑑識主任の説明は、ほんとうに化学の先生のように明確だ。
「ウレタン樹脂の芯の上からシリコンゴムが掛けられている。髪の毛は市販のウィッグ、頭部はプラスチックの頭蓋骨の上から、同様にシリコンゴムで作られている。精巧な舞台道具という感じなんだ」
「でも、この臭いは?」
最年長だけあって、口を押えながらも須磨が質問する。
作り物だと言われても、この腐敗臭いは納得できない。
「臭いの元は、これだよ」
主任はトランクの底の方を示した。
底の方には、ミイラから剥がれ落ちた皮膚のようなものが散らばっている。
「これはスルメと魚の干物を砕いたものさ。かなり古いものなんで、臭いがほとんど腐敗臭のようになっているんだ」
そう言いながら主任は四人の顔を見た。いつのまにか、刑事らしいオジサンも混じっている。
「君らは見覚えないねんな?」
「は、はい。なんせ古い部室なんで、ゴミみたいな古道具ばっかりで確認もしてないんです。解体といっしょに処分してもらお思てたもんですから」
「そうか、心当たりはないねんな」
一拍置いてから、刑事が念を押した。
どうやら、人騒がせな舞台道具が啓介たち現役の部員たちの仕業かどうかを確認したかったようだ。
答えの内容よりは、答え方で真贋を確かめるという感じだった。
早とちりというか誤解から生まれた騒ぎなのだが、警察の鑑識まで出てくる大騒ぎになったので、警察としては、事の顛末を明らかにしておかなければならないのだろう。
「今年一番の大騒ぎになったなあ」
千歳が入れてくれているコーヒーのドリップ音にホッとため息をつく啓介。
「車いすの千歳が入部したこと、部室棟が文化財やて分かったこと、ミリーがSNSで一躍有名になったこと……」
「ニュースにはならなかったけど、害虫が湧きまくったこととかね」
「そもそも、それが始りやったわねえ」
「そう言えば、五人規定で潰されそうになったこともあったなあ」
「あれは感謝してます、須磨先輩」
「よしてよ、あたしはただ安息の地が欲しかっただけなんだから」
「……あ、もうネットに出てる」
千歳がスマホの画面を示す。
「空堀高校ミイラ発見……ミイラ騒動……今度はオカルト……アミューズメントパーク空堀高校……」
「いろんなタイトルがつくもんねー」
「あ、これ……」
千歳が指差した画面には薬局のオッチャンが映っていた……。
「ニュースにはならなかったけど、害虫が湧きまくったこととかね」
「そもそも、それが始りやったわねえ」
「そう言えば、五人規定で潰されそうになったこともあったなあ」
「あれは感謝してます、須磨先輩」
「よしてよ、あたしはただ安息の地が欲しかっただけなんだから」
「……あ、もうネットに出てる」
千歳がスマホの画面を示す。
「空堀高校ミイラ発見……ミイラ騒動……今度はオカルト……アミューズメントパーク空堀高校……」
「いろんなタイトルがつくもんねー」
「あ、これ……」
千歳が指差した画面には薬局のオッチャンが映っていた……。