大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・フケモンGO・07・じゃ……いきます

2018-04-12 06:22:49 | 小説・2

フケモンGO・07 
 じゃ……いきます


 本物の幽霊というのは怖くない。

 怖くないといっても、幽霊は二人しか知らないんだけどね。

 宇佐軌組の女親分、剛力誠さんとネイサン・オウェン中尉。
 誠女親分は、やくざということと名前から男だと思っていたら美人のオネーサン。ネイサンはカンカン照りの昼下がり、必死でパラシュートのバックルを外そうとしていて、あとで幽霊と分かった。
 最初の印象が強いので「あ、そう言えば幽霊なんだ」って感じで怖くない。

「しばらくはネイサンに付いて行ってくれる?」

 ベッドから起き上がると、立膝で覗き込んでいた那比気芳子さんに頼まれた。
「え、あ、うん……」
 寝ぼけ眼で返事すると、ニッコリ笑って芳子さんは消えてしまった。
 学校がある時はトーストとジュースだけで飛び出すんだけど、夏休みなんでベーコンエッグを乗っけて倍の時間をかけて食べる。
 ジャイアンツのキャップを被って玄関を出るとネイサンが待っている。
「よ、おはよう! ヨシコから聞いてもらったと思うんだけど、捜してもらいたい人たちがいるんだ」
「えと……これで分かるのかな?」
 スマホをヒラヒラさせてみた。
「そうそれ。フケモンGOっていうのかなあ、目標は赤の!マークで出てくるよ」
 あたしはナビ画面の地図をムニューっと指で広げてみた。
「あ、一個だけ出てる」

 
 !マークは市立図書館の駐車場でたそがれていた。

 画面を見ると日本人らしいパイロットがゆったりと立っている。
「あ、君は……」
「君に撃墜されたP51のパイロットさ、ネイサン・オウエン中尉。まず君に会っておかなきゃと思って、こちらのアミに手伝ってもらってきたんだ」
「君は……?」
 何を言っていいか分からないので、スマホを示した。
「えと、これのお蔭で見えるんです、ネイサンも、えと……あなたも」
「君は…………そうか、僕たちを捕まえる力があるようだね」
 幽霊さんのせいか呑み込みが早い。
「えと、捕まえるなんてつもりはないんです、ただ……えと……」
「アミって、どんな字を書くんだい?」
「あ、こんな字です……」
 あたしは空中に自分の名前を指で書いた。
「白瀬亜美さんか、良い名前だね。僕は小暮一馬中尉だ。よろしくね」
 小暮さんは手袋を外して握手してくれた。あたしが終わるとネイサンとも握手。
「一つ聞きたいんだけど、どうして君は体当たりなんか仕掛けてきたんだい?」
「僚機が二機とも墜とされてしまったし、弾もなくなってしまったしね」
「そんなことで体当たりするのかい?」
 ネイサンは「信じられない」という顔をした。
「そのまま帰ったら、ひと月もしないうちに特攻だ。特攻に出たら沖縄にたどり着く前に撃ち落される。それなら目の前を飛んでいる君を食っておこうと思ったんだ。君は、それまでに三機墜として四機目に目を付けていたしね」

 すると、頭の中にイメージが画像のように浮かび上がった。金属バットに翼を付けたようなB29の大編隊を包むようにして飛んでいる護衛の戦闘機、その中の一つがブワーっと大きくなってコクピットにネイサンが居るのが分かった。日本の戦闘機は数えるほど……そのうちの一機がネイサン目がけて突っ込んでいく!

「そうか……納得したわけじゃないけど分かったよ。そうせざるを得なかったんだね」
「ああ、そうだよ」
「でも、弾もなくなったんだったら、小暮さん、死ぬことはなかったんじゃないですか?」
「そう思う?」
「特攻に出たって、百人に一人ぐらいは助かってるんだから」
 平和学習で習った『生き残りの特攻隊員』の話を思い出して、思わず言ってしまった。
「目の前に敵が居たら、まずそっちだよ。でもありがとう、僕の命を惜しんでくれるんだね」
 小暮さんは優しい目になった。

「じゃ、僕をそのケージで捕まえてもらおうか」

 しばらく話をした後、小暮さんはあっさりと言った。
「じゃ……いきます」
 あたしは画面の中のケージを指ではじいた。

 四つ目のケージが満たされた……。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・41『わたしはブキッチョ』

2018-04-11 11:58:39 | 小説3

通学道中膝栗毛・41

『わたしはブキッチョ』       

 

 

 簡単に見えることほど難しい。

 

 この真理を三分かからずに実感した。

 プレステ3のコントローラーの修理、問題点は分かっている。

 R3・L3のグリグリの根元にある接点が鈍感になっているので、接点復活スプレーを噴霧すればいい。

 実際アラレちゃんことモナミがサラリとやってのけるのを見た。途中解説が入りながらだったけど、ほんの五分ほどで完了した。

 わたしは五分経っても裏ブタを外すところまでも行っていない。

――ああ、それ、手前のとこにフックが付いてるから、下の方をベコッて押えてやれば一発だよ――

 スマホで連絡を取ると、簡単な答えが返って来た。

「……う……やっぱ、外れてくれないよ~!」

――じゃ、実演するから、ちょっと見てて――

 カメラを固定すると、慣れた手つきでカチャカチャ、なんと三十秒余りで裏ブタを外してしまった。

「な、なるほど!」

 真似してやってみるが、なかなかできない。十分近くやって、なんとか裏ブタが外れる。スマホの画面の中でパチパチ拍手してくれるモナミ。わたしも久々の達成感。

――じゃ、バッテリーをそーっと……そうそう、ケーブルを切らないように……外せたら、まずお掃除ね――

 外観はきれいなコントローラーだけど、基板や本体の裏側には溜まっているものなんだ、ゴミってか垢ってかが。爪楊枝でコシコシ、綿棒でフキフキと作業に合わせたオノマトペを画面の中で口ずさむ、むろんモナミがね。わたしの額にははウッスラと汗が浮かんでくる。

――おーし、そいじゃR3とL3のグリグリを……そっと外して――

「う、うん」

 チラ見したスマホの画面にはアケミさんも、やっと首が正常に付いたようで拳を握って応援してくれている。

「取れた!」

――じゃ、接点復活スプレーを……かけ過ぎちゃダメだよ――

「う、うん」

 ブシュー!

「あ!?」

 思いのほかいっぱい出てしまい、ちょっとビチャビチャ。

「わ、どーしよう!?」

――ティッシュと綿棒で拭き取って――

「う、うん……」

 そして、元通りに組み立てるところでひと騒動。

 コントローラーのボタンはグリグリも含めて六つある。それが裏ブタを閉める時に、どれかが外れてしまい、キチンと収まらない。無理やりやると、R1とかL1とかが沈んだままになって押しても動かなくなる。

「む、むずい……」

――こういうのは慣れだから……R1とかはボタンの上にポッチがあって、ポッチを……――

 モナミは、その都度パーツを見せて実演してくれるんだけど、自分でやってみるとなかなかできない。

 何分たったんだろうか、額の汗が顎のにまで滴るようになってきて、もうアセアセになってくる。

「あ、目に……」

 目に汗が入ってきてプチパニック。

「じっとしていてください」

 優しい声が聞こえてきて、ハンカチで汗を拭いてくれる。

「ありが……え?」

 驚いて顔を上げるとアケミさんがメイド服で正座していて汗を拭いてくれている。でもって、手元のコントローラーが消えてなくなり、首を巡らせるとアラレちゃんファッションのモナミが、あっという間にコントローラーを組み立ててしまった。

「え、え、どうして?」

「もたもたしてっから来ちゃったのよ!」

「はい、お母様が招じ入れてくださいまして、さっきから栞さまの手元を見ておりましたのよ」

「え、あ、そうだったんだ💦」

 

 こんなに集中して物事に取り組んだのは初めてかも。

 ちょっと感動!

 コントローラーは無事に蘇った。

「えと、じゃ、帰るね」

 コントローラーの復活を確認すると「お茶でも」の声にも応えずに階段を下りていく。慌てて追いかけると、もう家の前に停めてあった車に乗り込むところだ。

「こちらこそありがとうございました、お嬢様が外に出るなんて、もうずいぶん久しぶりだったんです」

 ロボットとは思えない優しい笑顔でお礼を言うと運転席に収まるアケミさん。

 

 静かに車が発信し、夜空にはおぼろ月が優しく見下ろしておりました……。

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高校ライトノベル・フケモンGO・06・男のくせにネイサン

2018-04-11 06:45:16 | 小説5

高校ライトノベル・フケモンGO 06 
 男のくせにネイサン



 パイロットはブロンドのイケメンだ。

 画面のケージを指ではじけば捕獲できるんだけど、あたしはためらった。
 パイロットはしゃがみ込んで、なにやら自分のお腹を叩いている。それって変だよね?

 だから、あたしは捕獲しないで声を掛けた。
「なにしてるんですか?」
 あとで思えば、日本語が通じるのは不思議なんだけど、ま、あっさり通じた。
「え、あ、ああ、パラシュートのバックルが外れなくて……」
 こちらを見ることも無く、パイロットは返事だけして、相変わらずお腹のあたりのバックルを叩いている。彼の後ろには巨大な風船が萎んだようにパラシュートがウネウネしている。
「そのパラシュートで降りて来たんですか?」
「あ、うん……こいつが外れないんで身動きがとれなくてね」
「えと……よかったら手伝いましょうか?」
 いつものあたしだったら、こんな気楽に声を掛けられなかった。でも、そのパイロットが必死でバックルを外そうとしている姿がね……なんていうか、とても無心というか、遊びに熱中している無垢な子どもみたいで、ひょいと声かけちゃったんだよね。

「え……じゃ、頼もうかな」

 ちょっとビックリしたみたいだけど、パイロットは、あっさり向き直ってお腹のバックルを示した。
「えーーーと、ここを叩けばいいのね?」
 あたしは何をやらせても不器用なので自信なんかないんだけど、陽気すぎる真夏の日差しのせいか、自転車の鍵を開けて上げるくらいの気楽さでバックルを叩いた。

 カチャ

 クリアな音がして、バックルは一発で外れた。
「うそ……」
 あまりの鮮やかさに、そう呟いてしまった。
「すごいよ! 71年やってても絶対外れなかったんだぜ! きみは女神さまだ!」
「キャ!」
 パイロットは、かがんだ姿勢のままあたしにハグしてきた。
「ありがとう、これでカンザスに帰れるよ」
「あの、いま71年て言った?」
「え……あ、そうだ……71年もたってしまったんだ……」

 パイロットは立ち上がると、額に右の掌をあて、呆然とあたりを見渡した。

「一面の焼け野原だったのに……これは……俺は……たぶん死んでしまったんだろうなあ……」
 すると、パイロットの後ろで萎びていたパラシュートが、ゆっくりと消えて行った。
「あ、俺ネイサン・オウェン中尉。君の名前は?」
「あ、白瀬亜美。高校二年です」
「オウ、ハイスクールの二年生!? てことはseventeen!?」
「え、あ、そう」
「elevenくらいかと思った!」
「11歳!?」
「あ、それほどキュートだってことさ。17ってことはカンザスの妹と同い年だ」

 男のくせにネイサンというアメリカ人の幽霊と親しくなる予感がした……。

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高校ライトノベル・フケモンGO・05・ジャイアンツのキャップを被って

2018-04-10 06:39:33 | 小説5

フケモンGO 05 
 ジャイアンツのキャップを被って



 スマホの中のケージが三つになった。

 女生徒の那比気芳子、ライブのチケット、宇佐軌組の誠女親分。
 ケージをクリックするとアイコンに変わる。ダブルクリックすると3Dの画像になって、指を使って回転させたり拡大することができる。
 チケットは回転させても拡大しても面白くないが、人間は少し面白い。
 芳子はクラシックなセーラー服。セーラー服と言うのは体の線が分からない造りになっているけど、彼女は姿勢がいいので胸のところがツンとしている。見えている膝下の細さと相まって、かなりスタイルが良いことが分かる。で、顔は癪に障るほど可愛いかったりする。
 誠女親分も美人でスタイルもいいんだけど、たくましい。よく見ると、なんだかオリンピック選手みたいだ。
 そういうことが分かるのも、クルクル回転させたり拡大したりできるからだろう。

 どういう仕掛けか、芳子だけが勝手に現れて、要らないことを言う。

「いつまで寝てんの!」「メールだよ」「食パンキレてるから買いにいこう」「お母さん遅くなるって」「あ、午後から雨だよ」「今日はプラゴミの日だよ」「鼻毛伸びてるわよ」「洗濯物とりいれよう」など色々。
 二日ほどは面白かったけど、三日目には煩わしくなってきた。だってお母さんよりも口うるさいんだから!

「暑いからヤダーーー!」

 朝から三回も「外に出よう!」と言うので、四回目にはキレてしまった。
 夏休みは冷房の効いた家の中に居て、ウダウダやっているところに値打ちがある。夏期講習だって一日も休まずに通ったんだから、あたし的には大手を振ってウダウダしていていいと思っている。
『でももう丸々四日外に出てないんだよ、腐れ女子高生になっちゃうよ』
「腐ってもいい、昼まで寝るんだからあ」
 頭から夏布団をひっかぶる。
「ん……なんか臭う?」
『スマホ見てごらん』
「ん……?」
 枕もとののスマホを手繰り寄せる。
「……なにこれ?」
 眠い目をこすると、画面は一面のお餅の表面みたいだ。真ん中に小さなくぼみがある。
『寝返りうってごらん』
「ん、こう?」
 素直にうつ伏せになる……すると画面は同じお餅の表面なんだけど、小さなくぼみは無くなっていて、下の方に行くに従って少し隆起しているような気がする。
「なんだこりゃあ……」
 無意識にスクロールすると隆起の下が谷間になって来た。

「これって……ウッ……やだ、お尻じゃないの!」

『亜美のお尻だよ』
「ゲ、なによ!?」
 身体をよじると、画面の体も同じようによじれた。
『三回クリックしてみ』
「ン……」
 こういうところは従順なので、言われた通り三回クリックする。
「こ、これは……(-_-;)」
『四日目の……便秘』

 芳子は便秘体操を教えてくれて、なんとかスッキリすると、ジャイアンツのキャップを被って外に出た。

 いつもの習慣で公園を斜めに通り駅前に。それだけで汗みずくになるので、用事もないのに、やってきた準急に乗る。
 十分も乗ると汗が引いていき、ニ十分を過ぎると寒くなってきて降りた。
「この駅は初めてだなあ……」
 人間の体と言うのは勝手なもので、冷房で冷えた体に暑さが心地い。

 駅前のロータリーまで出るとスマホが振動した。

「あ、なんか居る!」
 画面のナビに!マークが震えている。
 ナビに従って三つ角を曲がると居た。

 パラシュートを引きずった外人のパイロットが……。
 

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高校ライトノベル・フケモンGO・04・あ、ああー!

2018-04-09 06:29:39 | 小説5

高校ライトノベル・フケモノGO 04 
 あ、ああー!



 直観でヤバいものだと思った。

 ピストルは、誰が見たってヤバイものなんだけど、もっと深い意味で。
 だって、あたしのスマホに「フケモンGO」なんてふざけたアプリが入ってて、それに従って校庭の隅までいったらマジもんのピストルを見つけたなんて……人には言えない。

「せ、先生……助けて! 校庭の隅で足を……動けません!」

 電話で椿本先生にかました。

「大丈夫、白瀬さん!?」
 直ぐに先生は駆けつけてくれた。
「すみません、足をグネってしまって……」
「さ、先生の肩につかまって」
「あ、はい、すみません……ウ、グギ!」
 わざとらしくならない感じで倒れこむ。で、その拍子にピストルを蹴り出す。
「え、なにこれ……?」

「「ピ、ピストル!!」」

 狙い通り第一発見者は椿本先生になった。
 都知事選挙や他の事件に隠れて目立たなかったけど、三日前に、学校から500メートルほど離れたところで暴力団の組長が撃たれて死ぬという事件があった。剛力誠というマッチョな名前だったので、事件だけは覚えていた。
 犯人は、巧みに監視カメラを逃れて、手がかりは無かった。
 で、もう分かったと思うんだけど、その組長を撃ったのが、このピストルというわけ。
 犯人は、巧みに逃れて、外の道路から学校の校庭にピストルを投げ込んだの。

 このピストルから足がついて、三日後に犯人はスピード逮捕。

 第一発見者である先生は、警察やマスコミに追われ、可愛そうだけどライブに行くこともできなかった。
 むろん、ピストルの発見は、生徒(って、あたしのこと)が校庭で怪我したのを救けたから。

「終わったー!」

 夏期講習最後の日、校門を出て駅に向かっているとスマホが反応した。
「ん…………?」
 画面には、白い夏物のスーツを着たキャリアっぽいオネーサンが映っている。むろん「フケモンGO」らしくアニメ風だけど。
「あなたは?」
「ありがとう、あなたのお蔭で犯人が捕まったわ。一言お礼が言いたくて」
「え……?」
「宇佐軌組(うさぎぐみ)組長……剛力誠よ」

 え……てっきりマッチョなオッサンだと思っていた。

「そ、それに発見したのは、椿本先生です!」
「フフフ、白瀬さんが仕組んだことぐらいは分かってるわ。幽霊はなんでもお見通し……」
 そう言って誠さんは、あたしのスマホの画面を、スッと指で触った。
「あ、ああー!」
 画面の中のケージが、フワリと跳んで誠女親分を捕獲してしまった。

『いずれ、この恩返しはさせてもらうわね』
 画面の中で芳子さんと並んだ誠女親分が、手を振りながら、にこやかに言った。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・40『結果オーライ』

2018-04-08 16:08:17 | 小説3

通学道中膝栗毛・40

『結果オーライ        

 

 

 モナミで覚えてくれたら嬉しい。

 

 ルイゼ、アケミ、コマツの三人(三台?)のロボットと共に見送ってくれて、カラリとアラレちゃんは言った。

「あ、そうだね。なんだか、イメージがまんまだから、あやうくアラレちゃんで覚えてしまうところだった」

「大久保萌奈美というのが戸籍上の名前、でも画数多すぎだからモナミ。ちおう番号の交換とかしといていいかなあ?」

「うん、もちろん」

 スマホとパソコンのアドレスを交換して門を出ようとした。

「タロウとハナコも紹介したいんだけど」

「ロボット?」

「うちの番犬、慣れておいた方がいいし」

「モナミさま、二頭ともメンテですが」

「栞さまのことでしたら、あとで情報を並列化しておきますが」

「うん、犬の方は、それでいいんだけど、栞にも慣れておいてもらったほうがいいし」

「そうですか、それでは……」

 アケミさんがこめかみに手をやる。通信するときの姿勢のようだ。

 やがて、日本家屋の方からガチャガチャと音が近づいてきた。

 

「わ!?」

 

 動きは普通の中型犬なんだけど、前進金属のスケルトン、でもってコアになってる頭は歯がむき出しで、正直おぞましい。

 ワンワンワンワン!

 スケルトンが犬がましく尻尾を振るのも、ちょっと不気味。

「今日は外皮のメンテなもので……日ごろは、ちゃんと毛皮を着ておりますので」

 カチャカチャカチャ……。

 二頭のスケルトンがプリンターのような音をさせながら口から紙を吐き出した。

「えと……」

「あら、新機能。名刺みたい、受け取ってあげて」

 二頭はソレソレというふうに首振って促すので、恐る恐る受け取る。

「わ、ホログラム!?」

 ちゃんと毛皮を装着した姿が3Dで浮かび上がる、二頭とも秋田犬のようで、尻尾がクルリンと巻いて立ち上がっているサマなど、今日からでも渋谷の駅前で銅像になれそうだ。

 

 岡持ち持って芋清に戻ると、オイチャンもオバチャンもちょっと済まなさそうな顔をしている。

 

「楽しかった、夏鈴が居なくなって、ちょっぴり寂しかったけど、近所でいい友だちができたって感じ!」

 そう答えると、二人とも正直にホッとした笑顔になる。

 どうも、この出前は二人に仕込まれたような気がした。

 でも、結果オーライ。

 いそいそと家に帰ると、さっそくプレステ3のコントローラーの修理にかかるのであった。

 

 

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高校ライトノベル・フケモンGO・03・え……!?

2018-04-08 06:47:11 | 小説5

高校ライトノベル・フケモンGO 03 
 え……!?


 どうやら無くしたものを見つけるアプリのようだ。

 フケル=逃げる、姿をくらます、てな意味が検索すると出てくる。

 だから、フケモノとは無くなったものと理解することができる。椿本先生が無くしたチケットが出てきたのは、そういうことなんだ。
―― んーーーーま、今はそう言う理解で良いわ ――
 スマホの中から那比気芳子が声だけで答えた。
「わ、無精ね、声だけ?」
―― バッテリー切れかけ! ――
 なるほど、画面に出ている電池のマークがエンプティーになっている。

 教室のコンセントに充電器を差し込んで、とりあえず十分ほど充電した。

 もっと充電したかった亜美だが、冷房が切られた教室にそれ以上いると熱中症になってしまいそうだったのだ。
 いつもなら教室横の階段を下りて昇降口にいくのだが、少しでも涼みながら帰ろうと、亜美は渡り廊下に出た。
 四階部分の渡り廊下は吹きっさらしになっていて心地よい。
「あ~蒸れる~」
 夏期講習中の放課後で、学校には人気が無い。亜美はスカートを摘まんでパカパカした。

「お……!」

 という声が足許からした。これから試合にいくらしい野球部のメンバーが地上から見上げている。
「むーーーー」
 一声唸って、亜美は昇降口下りる階段に駆け込んだ。
―― だいじょうぶ、お日様が眩しくてスカートの中までは見えてないから ―― 
「だって……」
―― これごらんなさいよ ――
 スマホの画面に、下から見上げた亜美が映っている。たしかにスカートの中は暗くて分からない。
「でも、操作したら見えちゃうんじゃないの……てか、なによ、この映像は!?」
―― あの野球部たちポケモンGOをやりながら歩いてたのよ。で、亜美の気配でカメラモードにしたのね ――
「や、やだー!」
―― 大丈夫よ、このスマホに映ってるということは無くなってる。つまり消去済み。キャプテンの子が気づいて消去させたのよ ――
「そ、そうなんだ(^_^;)」

 下足に履き替え、昇降口の外に出るとスマホが振動した。

 画面はナビモードになっていて、学校の敷地が地図になって映っている。校庭の隅に!マークが震えている。
「……なんだろう?」
 校庭に進んでいくとカメラモードになり、校庭隅の草むらで等身大の!マークが跳ねている。
「これは……」
 亜美は!マークが跳ねているあたりの草むらをかき分けた。

「え……!?」

 そこには黒光りするピストルが落ちていた……。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・39『足止めを食う・3』

2018-04-07 15:08:49 | 小説3

通学道中膝栗毛・39

『足止めを食う・2        

 

 

 モニターの一つに親近感が湧いた。

 

 プレステ3のメニュー画面になっているんだけど、ツールアイコンがチラチラと動きまくっている。

「あー、これ?」

 わたしの視線に気づいたアラレちゃんは、兎みたくジャンプしてコントローラーを三つもつかんだ。

「プレステ3が三つも?」

「あ、一個はVitaテレビ、コントローラーはP3と共通だから……えと、これだな」

 一つを選ぶとカチャカチャとやり出した。

「アニキに貸してたんだけどね、あいつタバコ吸うし部屋は汚いし、すぐ、こうなっちゃうんだよね」

「そうなると直らないでしょ?」

「直るよ、たいてい」

「え、そうなの!?」

 自分のプレステ3も同じ症状なので声が弾んでしまった。

「そういう反応する人には面白いかも、ちょっと直してみるね!」

 アラレちゃんは「んちゃ!」一声言うと、コントローラーをでんぐり返して五本あるネジをスルスル外した。

「開けちゃって大丈夫なの?」

「ダイジョ-ブダイジョーブ、ほらね、パカッと開けてバッテリーと基盤を出して……ほら、R3とL3のグリグリ……ここにホコリやらナンヤラが……」

「毛が絡みついてる」

「犬飼ってるから、冬毛が抜ける時期はこまめにブラシ掛けなきゃ……おーし」

 器用にホコリや抜け毛を取り去ると手製っぽいポンプを出す。

 

 シュッ シュッ

 

「自転車の空気入れみたいな音」

「みたいじゃなく自転車の空気入れ。ピンポイントでホコリ取るには最適なんだよ……でもって」

 こんどは極細ノズルの缶スプレー。

「油差すの?」

「まさか、これは接点復活スプレー。ホコリとか錆とかで鈍感になったスイッチとかを劇的に回復させんの」

 R3とL3のグリグリにほんの少しスプレーし、グリグリを馴染ませ、裏ブタをカチャ、ネジをキュッキュッ。

「ほら、直った!」

 モニターのメニュー画面は劇的に落ち着きを取り戻した。

「うわー、直った直った!」

「その感動の仕方は、あなたのとこにもP3があって、同じような症状で、こりゃコントローラーの買い直しだと思っていたんじゃない?」

「う、うん、当たり!」

「こういう電子機器ってのは意外に丈夫でね、ちょっとしたことで直せたりするんだ。この部屋の機材って、ほとんどジャンク品だったんだよ。このP3は……ほら」

 本体をひっくり返して、付けたままの値札を示してくれる。

「え、五百円!?」

「うん、クリーニングして、適当にいじってやると復活する。栞ちゃんもやってみな、使いさしだけど接点復活あげるから」

「いいの?」

「うん、満タンでも千円しない。ま、二百円分ほどしか残ってないし」

「ありがとう、チャレンジしてみる!」

 足止めを食ったけど、得難い収穫だ。

 

「再起動しました」

 

 声にビックリして振り返ると、首なしのルイゼがすぐそばに! あやうく気絶するところだ!

 

「ヘッドなしでも起動するようになったんだ!」

「PCのバックアップエンジンで動いています」

「あ、そっか、レストアするときにバックアップとったんだっけ」

 

 にこやかに邂逅を喜ぶ主従ってとこなんだけど、アラレちゃんと首なしメイドさんのツーショットは、やっぱシュールだ。

 

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高校ライトノベル・フケモンGO・02・予感がした

2018-04-07 06:35:12 | 小説5

高校ライトノベル・フケモンGO 02 
 予感がした


 補講を終えたばかりの椿本先生が、困った顔で教室に戻って来た。

 いつもだったら「どーしたんですか先生?」と、ノッチとか気のいい誰かが声を掛けるんだろう。
 でも、そこは夏休み中の進学補講。
 みんな帰ってから遊ぶことやバイトのことなんかに気を取られていて、気にかける者もいない。
 
 水が引くように、みんな帰ってしまい、ワケあってグズグズ残っているあたしは先生と二人っきりになってしまった。
「……ないわねえ……どこいったのかしら……」
 椿本先生は、教卓まわりを探し終え、生徒机の列の中に入り机の中や下も探し始めた。

「あの、なにか探してるんですか?」

 シカトするのも気まずいので声を掛けてしまった。
「わっ!」
 どうやらあたしの存在には気づいていなかったようで、先生は電気ショックを受けたように驚いた。
「びっくりした! 誰も居ないかと思ってたから!」
「あ、えと、先週掃除当番やらなかったんで、今日やるんです」
「あ、そうだった」

 とたんに、先生の目に隠せないサゲスミの色が浮かんだ。

 先週は放課後にカッ飛びの用事があったのでノッチに掃除当番を替わってもらったんだけど、頼まれたノッチはあっさり忘れてしまい、結果的にはあたしが掃除をサボったことになってしまった。事情を説明すればよかったんだけど、すっかり頼まれた事さえ忘れてしまっているノッチの顔を見ると、ことを荒立てるのも面倒で「サボりは来週一人でね」のお仕置きをあっさり受けていたんだ。
「で、なにを探してるんですか?」
 いつまでもサゲスミの目で見られてはかなわないので、話題を戻す。
「定型の茶封筒、中にライブのチケットが入ってるの」
 そう言いながら、次の机の中を探す先生。
 大事なチケットなんだろうけど、生徒の机の中を探すってどうなんだろう。先生は補講の間教壇からは下りなかったんだから。
 ま、考えても仕方ないので、掃除用具ロッカーから箒を出して掃除にかかる。
 真ん中の列を掃いている時に先生とすれ違う。先生は必死で、あたしは眼中にはないようだ。
 窓側の最後の机を探し終えて「ハーーーーーー」盛大なため息をついて教室を出て行った。
 本当は机の上を雑巾がけしなきゃいけないんだけど、アホ臭いのでおしまいにする。
「さてと……」
 箒を治そうとして掃除用具ロッカーを再び開ける。

 オワーーーーー!!

 後ろに二メートルほどぶっ飛んで尻餅をついてしまった。
「オッス!」
 なんと掃除用具ロッカーの中に、あの那比気芳子がニコニコ顔で立っている!
「な、なによあんた!?」
「あ、だからフケモンGO第一番目のキャラ那比気芳子! アミでいいわよ!」
 那比気芳子は無駄に元気だ。
「わたしってチュートリアル兼ねてるから、さっそくやってみよう! スマホ出して!」
 勢いに呑まれて素直にスマホを出してしまう。
「画面を見て。学校の見取り図が出てるでしょう」
「え、あ、うん」
「?のアイコンがピョンピョン撥ねてるでしょ」
 指摘の通り本館二階の真ん中で?マークが陽気に撥ねている。

 画面を見ながら二階に……ガラガラと戸を開ける……?のアイコンはすぐ間近……画面の下にケージと指マークが現れ「ここ打てワンワン」になる。素直に指ではじくとケージは?マークに飛んでいき確保。?マークは茶封筒に変わった。

「あ、ここだ!」
 あたしは積み上げたノートの下になっている茶封筒を発見した。
「あ、白瀬さん?」
 後ろから椿本先生の声がした。

「先生、これですね!………え?」

 あたしはスマホのナビに夢中になっていて、職員室の先生の机の前まで来ていることに気づかなかった。

 あたしはフケモンGOから抜け出せなくなる予感がした。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・38『足止めを食う・2』

2018-04-06 13:05:59 | 小説3

通学道中膝栗毛・38

『足止めを食う・2        

 

 

 アラレちゃんみたいなナリはしているが淹れてくれたお茶は絶品だ。

 

 わたしもメイド喫茶でバイトをするようになってから多少は分かる。

 カップを事前に温めることや、お茶ッパを入れる時にも二人分であるにもかかわらず三杯入れる。

 呪文のように小さく呟いているのが――one for you. one for me. one for the pot.――であると知れる。

「家の者は、紅茶にはスコーンだって言うんだけど、わたし的には芋清さんの……おお!」

 アラレちゃんは芋清の紙袋を開けて目を丸くする。

「すごい! ほんとにじゃがバター始めたんだ!」

「気に入って頂けたらうれしいです」

 変な子だと思っていたけど、芋清のお芋を素直に喜ぶ様子はアドバンテージだ。

 部屋は十二畳ほどだけど、コンピューターやモニター、イコライザーみたくフェーダーが一杯ついたのやら、電子機器としか、わたしの知識では分からないものが中心に、小さな旋盤ボール盤、3Dプリンタと思しき機材。棚や机の上にはゲーム機が二三十台、天井まであるラックにはゲームやフィギュアやロボット。

 ソファーの周囲だけはカーペットが見えているが、それ以外のところは黒いケーブルが縦横無尽に走り回っている。ハッキリ言って超ド級のオタク部屋だ。全てのモニターが起動していて、テレビスタジオの副調整室みたい、一つのモニターで四つの動画を流しているものもあり、SNSの画面になっているもの、テレビ画面になっているもの、たくさん点いているいるので目がチラチラしてしまうが、ゲームの中継らしいものにおのずと行ってしまうのは、ライトではあるけど、わたしも同類の証かな?

 部屋の様子に気を取られていると、アラレちゃんはタブレットになにやら打ち込んでいる。

「おいちゃんにメール打っといた、ルイザがバグってあなたが出られなくなっちゃったって」

「どうもありがとう」

 おいちゃんと呼ぶのはお馴染みさんの証拠だ、ということは外に出かけることもあるのかなあ……少なくとも商店街の芋清にはいくんだろう。いや、それもずっと前のことで、いまは引きこもってるんだろうか?

「いろいろ興味を持ってくれたみたいね栞ちゃん」

「え?」

 わたしのこと知ってるんだ。

 ちょっと不気味になってきた……。

 

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高校ライトノベル・フケモンGO・01・捕獲第一号で~す!

2018-04-06 06:50:41 | 小説5

高校ライトノベル・フケモンGO 01 捕獲第一号です!

 あたし白瀬亜美はスマホゲームに興味はない。

 だからポケモンGOのゲームアプリをスマホに入れたりはしない。それが…………なんでー!!

 メールをチェックしようとしたら入っていた。

 ポケモンGO……ん?……フケモンGO?

 夕べのニュースで「ポケモンGO」の紛い物が出回っていて、へたにインストールなどするとえらい目に遭うと注意していた。
 だから、朝食のトーストを齧りながら削除した。
「よいせっと」
 朝食の食器を重ね、ガチャリと流し台へ、右へ一歩蟹さん歩きして冷蔵庫に貼りつけた百均の鏡。玄関から外に出て恥ずかしくない顔になっていることを0・5秒で確認。通学カバンをつかんで玄関。
「ってきまーす!」
「ってらっしゃーい!」
 左手でドア開けて、同時に右手でカバンを肩に。

 走れ光速の~帝国華撃団♪ 唸れ衝撃の~帝国華撃団♪
 
 ここのところマイブームの「サクラ大戦」のサビを口ずさみながら五歩で四つ辻、市道の通勤通学路の流れに乗る。
 さすがに「サクラ大戦」はハミングにトーンダウン。
「おっとぉー!」
「………………」
 前を歩いていたサラリーマン風が急に立ち止まるのでぶつかってしまう。勢いがついているので、もろに我が美乳がサラリーマン風の背中に当たった……のに、そいつは無言でアサッテの方角に。

 歩きスマホはダメなんだからー!

 一睨みすると、そいつは、画面見たままガッツポーズ。あーポケモンGOだ。

 角を二つ曲がったところで公園を斜め横断。駅へのショートカット。
 そこで、ポケットのスマホがブルブルと振動。こんな朝から誰が電話してく……え!?

 スマホはカメラモードになっていて、公園の一角を映していた。
 で、画面の桜の木の下に、今時学習院か女学館でしかお目にかかれないようなセーラー服の女生徒が立っている。
 それも、ゲームかアニメに出てくるコミック風。
――あ、見つかっちゃった!――
 女生徒は口に手をあて内股のままジャンプ。まるでアニメのワンシーン。

 で、画面から顔を上げると、桜の木の下に画面のコミック風をリアルにしたような女生徒が立っていた。

「わたし那比気芳子(なびげよしこ)。記念すべきフケモンGOの捕獲第一号で~す! よろし……」

 あたしは発作的にスマホの電源を落とした。すると、目の前の女生徒も消えた。

 でも、あたしのフケモンGO生活は始まってしまったのだった……。 
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・37『足止めを食う』

2018-04-05 15:35:04 | 小説3

通学道中膝栗毛・37

『足止めを食う        

 

 

 あーやっぱダメかあ。

 

 残念そうな声が近づいてきて、あやうく気絶しそうなわたしは立直った。

 文字通り立ち直ったわけで、放っておいたら首なしゴスロリ少女に覆いかぶさって意識を失っていただろう。

「あ、あ……」

「こっち側なら付くんだけどなあ……」

 その子は少女の首をボディーに付け直すが、前後逆のでシュールすぎる。

「ま、しばらくこれで休んでなさい」

『はい、モナミ』

 美少女は前後逆の首のまま壁際の椅子に掛けて大人しくなった。

 その子、たぶん人間だと思うんだけど、栗色のセミロングに野球帽、目はクリクリしていて活発そうな女の子。ナリはTシャツにサロペット。これで「んちゃ」とか言ったらアラレちゃん。

「ごめんね、まだ試作品なもんで」

「え、あ、いや……」

 余計なことを言ったらこの状況が悪化しそうなので、事務的なことだけ言って早々に退散しようと思うんだけど、言葉が出てこない。

「ありがとう芋清さん、下で明美から聞いたと思うんだけど、お代はお店の口座に振り込まれるから、中身はテーブルの上に置いてくれる?」

「あ、はい、毎度ありがとうございます……」

 オタオタしながら岡持ちを開けるが、肝心のテーブルの上はコードや電子部品や何かのパーツみたいなものが一杯でスペースがない。

「あ、ごめんごめん」

 アラレちゃんはテーブルの脇に段ボール箱を置くと、手でワイプするように机上のモロモロを箱の中に落下させた。

 焼き芋の入ったパッケージを置くと「ありがとうございました」の一言だけ言ってドアに向かった。

 

 あ、あれ?

 

 ドアがロックされてしまってビクともしない。

「あ……ヤバいなあ、ルイザがインタフェイスになってるから、起動させなきゃドア開かない」

「え、あ、えと……」

「ルイザは、この試作品の事でね、この子が部屋のアレコレ管理してんの……でもチェックしてからでないと、今度は首が落ちるだけじゃ済まないかもしれない……そうだ、緊急用の縄梯子ならあるけど!」

「え、あ、いや」

 制服のスカートで縄梯子を使う勇気はない。

「じゃ、ちょっと待ってくれる。クールダウンさせてモジュールチェックしたら開けたげるから、それまで座って待っててくれる? あ、そうだ、わたしも休憩しちゃえばいいんだ。そこ、掛けて、いまお茶淹れるから!」

「あ、お構いなく……」

「ま、いいからいいから」

 わたしは妙なところで足止めを食うハメになってしまった……。

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・36『ゴスロリの美少女』

2018-04-03 14:32:29 | 小説3

通学道中膝栗毛・36

『ゴスロリの美少女        

 

 

 ひょっとしてと思ったら大当たり。

 

 駅向こうのお屋敷と岡持ちを渡された時に、あのお屋敷が目に浮かんだ。

 ほら、先週の放課後、駅向こうを探検していて見つけたお屋敷。

 学校のグラウンドくらいの敷地に、それだけでもお屋敷って感じの建物が三つも建っている。

 その一つが洋館で、そこの窓から女の子が覗いていて、目が合うとプイと姿を消す。居合わせた小学生が「あれ窓女なんだぜ、あいつと目が合うと死んじゃうんだぜ」とか言ってた。

 やっぱ、ここだったんだ……だけど、例の窓に女の子の姿は見えなかった。

「芋清の出前お持ちしました」

 インタホンに来意を告げると無言のまま門が開いた。開いたと言っても、それだけで学校の正門かという方じゃなくて、脇の小さな方。

 いちおう「おじゃましまーす」と言って潜り戸に入る。

 

『いらっしゃいませ、こちらにお進みください』

 

 なんと、ロボットがいて、器用な両手で洋館を指示した。

 ロボットは、スマホショップに居るのに似ているが、ちゃんと二本の足で歩いている。声は合成音声なんだろうけど、違和感のない男性の声だ。

「えと、出前もってきただけなんですけど」

『お代は芋清さんの口座に振り込まれます、お嬢様はお屋敷からお出ましにはなりませんので、どうぞお部屋までお持ちになってください』

 小さく会釈しながらロボットはラビリンスかと思うくらい入り組んだ生け垣の路地をエスコートする。

 洋館にの前の車寄せを静々と進む。観音開きのドアが開いた中には同じようなロボットが居て、ほんの二秒ほどピポパポとロボット同士で交信する。

『どうぞ、お屋敷の中はわたしがご案内いたします』

 屋内用が女性の声で引き継ぐ。ロボット相手に四の五の言っても仕方がないので、大人しく後を付いていく。

 緩やかな階段を上がって奥の部屋に案内される。

『芋清さんをお連れしました』

 ロボットが告げると、ドアが開いて、ゴスロリって言うんだろうか、フリフリのエプロンドレスに黒髪の美少女が立っていた。

「ようこそ、中へ」

 そのまま映画のヒロインが務まりそうな美少女がにこやかに部屋の奥を指し示す。あまりの優雅さに緊張して忘れていたお辞儀を勢いよくやった。

「わ、わたし芋清の……!」

 ゴッツン! 

 目から火が出た。タイミングよく頭を下げた美少女の頭としたたかにぶつかった。

「す、すみません!」

「いえいえ、気になさらずに」の声が足許でした。

「え? えええええええ!?」

 

 なんと、目の前には首のもげた美少女! 

 でもって、首は足許に転がってにこやかな笑みを浮かべているではないか!?

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・35『芋清の新メニュー』

2018-04-02 14:25:56 | 小説3

通学道中膝栗毛・35

『芋清の新メニュー        

 

 

 充実した夜を過ごせていないと、あくる日は朝から意気が上がらない。

 

 えと、夜と言っても何割の人たちが想像するようなことではありません、お片づけです

 仕事のスランプからお片づけハイになったお母さんに「少しは片づけたら~」と言われ、平和主義のわたしは上っ面だけどやったわけ。冬物衣料を袋に突っ込んで、ゲームのあれこれつっこんだ箱とコーナーに取り掛かったら収拾がつかなくなって(プレステ3のコントローラーが壊れたことがそもそもなんだけど)かえってグシャグシャ。で、グシャグシャになったとこをお母さんに怖い目で見られる。

 でもね、そのまま寝たんじゃ台無しなんで、冬物衣料を自転車のカゴにぶち込んでクリーニング屋さんを目指したわけです。

 そしたらクリーニング屋さんが休み~なのよね!

 わたしの平和主義は見事に裏切られたわけなんです! 

 で、朝の商店街をノタクラ歩いて駅を目指しております。商店街はゆる~く「く」の字になっていて、その「く」の字の折れ曲がったとこに差し掛かって芋清の前に軽トラックが停まっているのに出くわす。

 おいちゃんとおばちゃんがお芋の袋を搬入している。

 芋清と言えば焼き芋なのでサツマイモ……と思いきやジャガイモの袋が混じっているのに気が付く。

「やあ、シーちゃんお早う!」

「あ、それジャガイモですよね?」

「うん、実験的にジャガイモもやってみようと思ってね」

「あ、フライドポテト!?」

「いや、実はね……」

「それは出来てのお楽しみ、帰りにまた寄っとくれよ、サービスするから」

「あ、はい、じゃ、帰りに!」

 

 これだけのことで機嫌が戻っちゃうわたしってどうなんだろ?

 ま、期せずして験なおし。それからは足取りも軽く春の通学路を学校に向かった。

 

 ジャガイモの新メニューって? 放課後まで想像を巡らせて帰りの改札を出た。

 芋清の前は数人のお客さんが並んでいる。

 お店の雰囲気から混雑のピークを過ぎて、最後のお客さんの相手をしているんだろうと思う。

「おう、シーちゃん。バカ売れで、久々にアイドルタイムにしようと思ったとこだよ」

 おいちゃんがお芋を包み、おばちゃんがお勘定をしながらお芋をお客さんに……その包みから見えているのは焼き芋ではなかった!

「それって!?」

「そう、じゃがバター。ここにあるだけ売ったらおしまい」

「どうも、ありがとうございました!」

 最後のお客さんにお芋の袋を渡して、おいちゃんは店頭の札を準備中に替えた。

 

 形の崩れたのしか残ってないけど、ま、試供品だ。一つつまんでよ」

 お店に招じ入れられ、ホイルに包まれたじゃがバターを頂く。形は崩れているけど、コーンとバターの風味ですっごく美味しい!

「型崩れが二割ほど出るんで、まだまだ研究の余地ありなんだけど。いや、意外な人気で驚いちゃったよ!」

 おいちゃんが他人事のようにいう。

「繁盛するのはいいんだけど、今日は腰にきてしまってさ」

 笑顔なんだけど、おばちゃんの腰は辛そうだ。

 夏鈴と食べたらもっと美味しい……夏鈴を思い出すのは食べ物がキッカケになることが多い。

 

 プルルルル~プルルルル~とお店の電話が鳴った。

 

「はい、毎度ありがとうございます、芋清です」

 腰の痛いおばちゃんの頭越しに受話器を取ったおいちゃん。

「あ、はい、はい……少々おまちください」

 送話口を手で押さえ、おばちゃんを一瞥してからわたしを見るおいちゃん。

「シーちゃん、よかったら出前頼めないかな、ばあさんこのとおりだから」

「あんた、シーちゃんに頼むなんて……」

「重々承知なんだが、大久保さんだからなあ」

「わたし行くよ、おいちゃん」

「済まねえなあ……」

 

 わたしは岡持ち持って駅向こうの大久保さんを目指すことになった。

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・34『少しは片づけたら~』

2018-04-01 15:22:03 | 小説3

通学道中膝栗毛・34

『少しは片づけたら~        

 

 

 

 少しは片づけたら~

 

 お母さんが言う。

 ちょっと自分が片付けしたもんだから娘にも押し付けてくる。

 お母さんのお片づけは仕事が行き詰まった時の儀式なんだ。十六年も親子をやっていたら分かるよ。

 文筆業というのはテンションを保つのが難しい、だから同業の人は、いろんなやり方でテンションを保っている。

 お酒を飲みに行く人、買い物に行く人、カラオケに行く人、お料理をやる人、トイレに籠る人、ご近所の散歩に行く人……。

 

 元来お母さんは、冬の間はお散歩派だ。

 

 寒いくらいの戸外をサッサか歩くと、身も心も引き締まって――書くぞ!――という気持ちにもなるし、時にはアイデアが浮かんだりするそうだ。

 それが、春になると、心地よいを通り越して暑くなってしまってダメらしい。

 それは、歳をとったので、寒暖の差を感じるセンサーの順応が悪くなって暑く感じてるだけなんだけど、それは言わない。

 

 で、お片づけハイになったお母さんは、仕事に取り掛かるだけでは飽き足らず、わざわざ、わたしの部屋まで来て「少しは片づけたら~」とおっしゃるわけだ。

 っるさいなあ~というのが本音なんだけど、もめ事は嫌いだ。

「うん、そーだね」と返事して部屋を見渡すくらいのことはする。

 たしかに、出しっぱなしの冬物衣料、プレステ3のコントローラーの不調から、あれこれ出しっぱなしのゲームのあれこれ。

 この二つをやっつければ家庭平和が持続する……決心して立ち上がると、背後のお母さんの安堵が気配で分かる。

 クリーニングに出さなきゃいけないのでビニール袋に入れて完了、所用時間は三十秒ほど。

 さて、ゲームグッズ……で、手が停まってしまった。

 出すまでは、キチンと収まっていた収納ボックスが溢れてしまう。ま、しばらくプレステ3はやってなかったもんね。

 

 収納ボックスの中身を出して入れ直してみるが、やっぱ収まらない。

 無理に突っ込んだら、そこから出してゲームをやろうという気にはならないだろう。

 いっそ、大規模にゲーム関係の整理をしてみるか!

 

 で、あれこれやって、もう一度プレステ3を立ち上げて、コントローラーの様子を見てみる。

 見てみたから直るというもんじゃないことは分かってるんだけどねえ~………やっぱダメ!

 触りもしないのにカーソルが動く……だけじゃなくて、メニュー画面がチラチラフラフラして末期的症状。

「こりゃ、オシャカだなあ……」

 ゲーム機本体は大丈夫そうだからコントローラーを買い直さなきゃならない。

 ネットでコントローラーの値段を確かめてみる。

 

 う~ん、思ったより安くない。

 

 中古ならあるんだけど、人が触りまくったものはクリーニングしてあっても気になる。

 無線でないのもあって少しは安いんだけど……イジイジしてしまう。

 

「あら、ちっとも片付いてないじゃん!」

 

 開け放したドアにお母さん、声が尖がっている。この瞬間だけを見て言わないで欲しいんですけど……。

 

 

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