大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

らいと古典・わたしの徒然草・54『あまりに興あらんとする事は』

2021-03-26 06:04:23 | 自己紹介

わたしの然草・54
あまりに興あらんとする事は』   

 



徒然草 第五十四段 御室にいみじき児

 御室にいみじき児のありけるを、いかで誘ひ出して遊ばんと企む法師どもありて、能あるあそび法師どもなどかたらひて、風流の破子やうの物、ねんごろにいとなみ出でて、箱風情の物にしたため入れて、双の岡の便よき所に埋み置きて、紅葉散らしかけなど、思ひ寄らぬさまにして、御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。
 うれしと思ひて、ここ・かしこ遊び廻りて、ありつる苔のむしろに並み居て、「いたうこそ困じにたれ」「あはれ、紅葉を焼かん人もがな」「験あらん僧達、祈り試みられよ」など言ひしろひて、埋みつる木の下に向きて、数珠おし摩り、印ことことしく結び出でなどして、いらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。所の違ひたるにやとて、掘らぬ所もなく山をあされども、なかりけり。埋みけるを人の見置きて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。法師ども、言の葉なくて、聞きにくいいさかひ、腹立ちて帰りにけり。あまりに興あらんとする事は、必ずあいなきものなり。


 ちょっと訳します。

 御室(みむろ)とは、法皇さま(天皇さまが引退して坊主になったの)のいる寺。ここでは例の仁和寺を指すらしい。そこにメッチャ可愛い稚児(坊主見習いの少年。ま、十歳ぐらいか)がいるので、仁和寺の坊主たちが、この子を誘い出して、双岡(ならびがおか=仁和寺の近所、京都大学のあたり)でピクニックをやろうと計画。で、あらかじめ稚児が喜びそうなプレゼントを適当な場所に隠しておき、稚児を連れ出した。
 そうして、自分たちの法力で、あらら摩訶不思議。地中からプレゼントが出現! そう企んだ。
 そして、いざ、印を結んだり、経を唱えたり、もったいつけて、その場所を掘り返した。
 ところが……出てこない。で、いい歳こいた坊主ドモが「場所間違えたんとちゃうんか!?」などと、ネタバレバレバレに言い騒いだ。どうやら埋めるところを見ていて盗んだやつがいるらしい。
「なんや、このオッチャンら」と、稚児はドッチラケ。
 あまりに凝りすぎると、ろくな事にはならないぞ……というお話。

 わたしは、むかし見合い魔でありました。

 二十代から、三十代前半にかけて手ひどい失恋を三回やりました。そこで、アトクサレが無く、精神的なダメージがない見合いに賭けてみたというわけです。友人知人に声を掛け、その手の会社にも登録をして、見合いを重ねました。だいたい月に三回ぐらいのペースで、延べ五十六回の見合いをし、職場の同僚からは「大橋の見合いは趣味や」と言われました(^_^;)。

 見合いは一種の面接で、最初の三十秒、三分、三十分が勝負。

 三十秒で、相手に好印象を与えなければ、あとの挽回は極めて難しい。
 三分で、相手は「話を聞いた方がいいのか、こちらがリードして話題を提供しなければいけないのか、見極めなければならない。リードするといっても、最終的には相手にお話してもらえるようにする。人というモノは、共感してもらいたいものなのである。それも百パーセントではいけない。二割方の質問や、疑問は呈しておいたほうがいい。三十分もしたら(状況しだいで一時間)場所を変える。外に出た方がいい。お日さまに当たればセロトニンがお日さまからいただけ、人間はポジティブになれる。

「どこに行きましょうか?」

 これは、最低。主体性がないこと丸出し。

 男たるモノ、自然にエスコートできなければなりません。

 わたしは、たいてい事前に見合いの場所と、その周辺を下見しておきました。むろん雨になった時のことも想定しておきます。途中立ち寄るかもしれないレストランや喫茶店もチェック。
 これは、教師が校外学習の準備をするときの下見と同じなのです。校外学習では、タバコの自販機、トイレの有無、生徒のニーズに合ったアミューズメントやショッピングの場所。遊園地などだったら、同日に予約を入れている他の学校まで調べます。学校によってはケンカが起こる恐れがあるためですね。
 担任を持った時には、生徒にこう提案しました。
「将来、困らないために、デートコースを遠足の場所にしよう」
 で、初めてのデートから、恋人として互いが認めあえたレベルまで三段階に分け、実益を兼ねて見合いやデートコースの研究にいそしんでいました。

 で、最初はよかった。
「大橋さんは、迷わないからいいですね。お見合いして、『どこ行こうか?』なんて、主体性の無いオトコなんて最低」
 で、三十回目ぐらいからは裏目に出ることがしばしばになってきました。
「大橋さん、慣れてますねえ……」
 で、当然、見合いしまくりのオッサンということがバレてしまう。

 あまりに興あらんとする事は、必ずあいなきものなり……であります。

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真凡プレジデント・33《若い男が待っていた》

2021-03-26 05:43:37 | 小説3

レジデント・33

《若い男が待っていた》  

 

 

 校門を出ると若い男が待っていた。

 

「話があるんだ」

 そいつは、一言言うと、とっとと前を歩き出した。

 これを目撃した下校途中の生徒たちが注目……することは無かった。

 声を掛けられたのが、人柄はいいが、どうにも色恋沙汰には縁のなさそうな生徒会長のわたし(田中真凡)であることと、男がいささか若すぎるからだ。

 

「なによ、健二」

 

 やっと声をかけたのは中町公園の前だ。

 公園に入るのかと思ったら、健二は自販機で缶コーヒーを二つ買った。

「話を聞いてもらうんだから、これでも飲みながら……」

 小学生に気を遣われては収まりが悪いのだけど、その思い詰めた表情から、おそらくは姉のなつきのことだろうと見当が付くので、あえて何も言わなかったのだ。

 ただ、健二の不器用な気遣いから、容易なことではないと、つい、つっけんどんな「なによ、健二」になってしまう。

「小学生が高校生に気を……」

 言いかけて停まってしまった。

 健二が差し出した数枚のA4用紙には「怠学届」「退学届け」「辞表」などの意味は一発で分かるが、全部間違った言葉が書かれていたからだ。

「姉ちゃんバカだから、書き損じばかりして寝ちまったから持ってきたんだ、相談するのは真凡ねえちゃんしか思いつかなかったから」

「バカが早まって……」

「まだお母さんには言ってないんだ。お母さん何も知らないし、心配かけるの嫌なのは、俺も姉ちゃんもいっしょだから」

 健気な奴だと思った。なつき同様スカタンなところはあるが、心配するポイントは外していない。

 

「分かった、すぐに会いに行く!」

 

 勝算も見通しも何もないけど、とりあえずなつきを一人にしてはいけないと思った。

 そう言ってやると、やっぱり小学生、目から大粒の涙がこぼれ、それをグシグシ拭きながら付いてくる。わたしを待ち伏せて助けを乞うところまでがやっとだったのだろう。

 公園を出たところで一台の自転車が追い越したと思ったら、急停車して二人の前に立ちふさがった。

 

「あ……柳沢!?…………さん」

「坊主、おまえ付けられてる。付けてるやつを撒くから後ろに乗れ、真凡、電話するから、聞いたら指示に従ってくれ」

 そう言うと顎をしゃくって健二を後ろに載せると横っちょの路地に入ってしまう。

 さて、どこで電話を待とうかと考えて……なんで柳沢が? ちょっと遅れて腹が立ってきた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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かの世界この世界:177『最初の子は流された』

2021-03-25 09:27:09 | 小説5

かの世界この世界:177

『最初の子は流された』語り手:テル(光子)    

 

 

 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 オノコロジマの産屋にイザナミの悲鳴が響き渡った。

「なにごとだ!?」

 岩陰に移って、最初に生まれるのは「男の子かなあ(^_^;)女の子かなあ(^o^;)」と心待ちにしていたわたしとヒルデは反射的に剣の柄に手をかけて産屋の窓の下に駆けつけた。

「あ……あれは!?」

 イザナミの足元には、まだへその緒が付いたままの……ちょっと表現するのも憚られるものが転がっている。

「ふ、二つか……?」

 さすがはヴァルキリアの姫戦士、それを見ても動じることは無かったが、どうにも判断しかねているようなのだ。

「一体は、手足も目鼻もない……もう一体は……」

 わたしも言葉にはできない。

 イメージとして浮かんだのは、まるで祖父が酒のつまみに好んでいた『いかの塩辛』だ。

 バラバラの体が粘液の中でグニャグニャと動いている。

 イザナギは妻の肩を抱くと、冷静に優しく諭した。

『女の方から声をかけたのが良くなかったんじゃないかなあ……』

『ナ、ナギ君……』

『ごめん、こういうことは男がリードしなきゃなあぁ、オレが気が回らずにナミに辛い思いをさせてしまったな』

『ごめんは、わたしの方よ、ちょっと焦ってしまって』

『よし、またやり直そう。とりあえず……まずは、この子たちだ』

 

「お、なにかやり始めたぞ!」

「声が大きい」

 

 あやうく気づかれそうになり、ヒルデの頭を押さえて身をかがめる。

 イザナギはアメノミハシラの葉っぱで洗面器ほどのボートを作ると、二人の赤ん坊を載せて海岸に向かった。

「この子はヒルコ、こっちはアハシマだ。海の向こうで幸せになってくれよな……」

「ごめんね、ヒルコ、アハシマ」

 葉っぱの船は、そよそよ、ゆらゆらと沖に向かって流れていく。イザナギ、イザナミは抱き合ってその行方を見えなくなるまで見送った。

「あれでいいのか……?」

「ちょっと待って」

 スマホで検索してみる。

「ああ、このあと、二人はアメノミハシラを巡って、子作りをやり直すことになる」

「流された子供が気になる……ちょっと、行くぞ」

「分かった」

 

 波打ち際に向かって助走し、ジャンプすると海鳥のように飛べた。

 

「あ、あれか?」

「あれは!」

 五カイリも飛んだだろうか、海は凪いでいるんだけども、そこだけ海面が泡立っていて、海の中で何かが暴れているような感じなのだ。

「上がってくる!」

 シュババーーーーーーーン!

 二つ飛び出してきた。

 一つは、ヒルコとアハシマが合体したモンスター、もう一つ、いや一人は……

「「ケイト!?」」

 それは、向こうの世界で別れて以来のケイトだ。

「トリャアアアアアアアア!」

 海中から打ち出されたミサイルのように上空まで飛び上がったケイトは弓をつがえていて、水の抵抗が無くなるのを待ち構えていたんだろう、気合いと共に矢を放つ。

 矢は過たず、哀れなクリーチャーとなり果てた神の子を射抜いた。

 グオオオオオオオオオ

 口の無い体のどこから出てくるんだと言う悲鳴を上げて、神の子は海上に落ちてしまった。

「トドメだあああああああ!」

 ケイトは弓をタガーに変換し、両手で構えると、自分を一本の銛にしたようにダイブアタックをかけた。

「待てええええ!」

「テル!」

 わたしは、反射的に剣を構えるとケイトのタガーに打ちかかっていった。

 ガキーーーン!

 火花が散る。

 なんとかケイトのアタックをキャンセルする。

「何をする!」

「おちつけ、ケイト、わたしだ! テルだ!」

「テ、テル!?」

「ああ、テルだ! 見ろ、ヒルデもいるよ!」

「ケイト、無事だったか!」

「ヒルデ! テル! さ、探したよおお! 寂しかったよおおおおおお!」

 懐かしさのあまり三人でハグすると、団子になって、そのまま海に墜ちてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草53『仁和寺の法師つづき』

2021-03-25 06:49:38 | 自己紹介

わたしの然草・53
『仁和寺の法師のつづき』   




徒然草 第五十三段

 これも仁和寺の法師のことです。

 童の法師にならんとする名残とて、おのおのあそぶ事ありけるに、酔ひて興に入る余り、傍なる足鼎を取りて、頭に被きたれば、詰るやうにするを、鼻をおし平めて顔をさし入れて、舞い出でたるに、満座興に入る事限りなし。

 仁和寺とは、京都市右京区御室にある、真言宗御室派の総本山。遅咲きの八重桜などが有名で、よくドラマのロケにも使われています。あまり知られていませんが世界文化遺産だったりもします。
 この仁和寺の法師の話は前段のほうが有名なのですが、この段も面白い。
 仁和寺のお稚児さんが目出度く正規のお坊さんになれるので、知り合いの仁和寺の坊主たちが集まって祝賀会を開きました。そのうち酔っぱらった坊主が、足鼎(三つ足の鍋みたいなの)を頭に被って踊り出します。  
  

 当時のお稚児さんというのは、かわいいもので、坊主たちは、しばしば女の子のように、そういう対象にしていました。この坊主もそんなお稚児さんの気をひきたかったのかもしれません。
 で、酔いが覚めて、その鼎を外そうとしても、顎や鼻が引っかかって外れなません(;゚Д゚)。むりやり引っこ抜くと、鼻ももげて、傷だらけになったという笑い話。
 しかし、よく考えると、鼎というのは口が広く、底の浅いものなのである。なんたって鍋のようなモノであります。被っても鼻のあたりまでくるぐらいのもので、口が広いので、被って抜けないということはあり得ません。

 要は、坊主の与太話なのだと思います。針小棒大というか、宴会で坊主がハメを外して鼎を被った話が大きくなっただけのもの。今風に言えば都市伝説でしょうね(^_^;)。

 こんな都市伝説があります。

 前世紀の末、まだ携帯電話が普及していなかったころの話です。あるタレントAさんが車でテレビ局に向かう途中、渋滞に巻き込まれてしまいました。とても本番には間に合いそうにない。そこで、車を降りて、公衆電話で放送局に電話をしました。
「ごめん、道路が渋滞でさ、ちょっと間に合わないよ……」
 渋滞と言っても、車の流れは少しずつ動いています。後続の車からクラクションを鳴らされ、このタレントさんは、早口で事情だけを話して、車にもどります。

 で、この早口がアダとなりました。

 電話を受けたテレビ局のオネエサンは、彼の早口と、興奮が憑りうつってしまい、担当のADに内線で、こう伝えました。
「Aさん、交通渋滞で間に合いません!」
 で、これが、伝言ゲームのようにディレクターの耳に入るころには、こうなります。
「Aさん、交通事故で重体で……」
「なんだって!?」
 警察に問い合わせたり、代役の手配、報道部では「Aさん、交通事故で重体!」のニュース原稿まで用意しました。
 で、大騒ぎの真っ最中、当の本人がひょっこりスタジオに姿を現し、みんなびっくりしたり、笑ったり。マネージャーも連れずに、名前のあるタレントが一人で放送局にくることなど、まず考えられず。これは仁和寺の法師の話と同列でしょう。

 こんな話もあります。

 ある高校生が夏休みに免許をとり、うれしくなって親父の車を借りて街に出ました。携帯で仲間を呼び、同乗者が増えた。五人になったところで困ってしまった。運転している高校生を入れると六人になり、乗り切れない。そこで、一人は車のトランクに入った。体の硬いやつで、みんなに手伝ってもらって、やっとトランクに収まった。

 これを近くで見ていた人が勘違いした。

 ――あ、拉致されてる!

 で、その人は警察に通報しました。パトカー五台と、ヘリコプターまで出動するという大騒ぎになってしまいました。一時は、府警本部の記者クラブまで話がいき、夕方のトップニュースになるところでありました。
 幸い、免許取り立てのヘナチョコ運転、すぐにパトカーに捕まり、ことの真相が明らかになりました。
 明くる日、担任の教師共々警察にお詫びに行って、お灸を据えられただけで、メデタシメデタシ。
 これ、都市伝説ではありません。わたしが現職だったころ、実際に起こった事件なのです(^_^;)。
 しかし、これを読んだあなたが、だれかに話し、そのだれかさんが、また他のだれかさんに話すころには、いろんな尾ひれが付いて、立派な都市伝説に成長しているかもしれません。

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真凡プレジデント・32《うちの学校の一大事・2》

2021-03-25 06:32:34 | 小説3

レジデント・32

《うちの学校の一大事・2》  

 

 

 

 いろんなことが重なった。

 

 その子は、入試が終わって、あそこどうだった? そこはどう? と入試の手ごたえを友だちと話し合った。

 その手応えで合格間違いなし! そう思ったら落ちてしまった。

 それで、答案の開示を学校に求めたところ採点ミスが一か所あった。ただ、そこを正解にして加点しても、その子は合格圏に入ることは無かった。

 それで一度は納得しかけたんだけど、国語の問題で正解と思って書いた答えが間違いにされていた。

「え……うそ?」

 おかしいと思って、その子は塾の先生に問題を見てもらったところ「君の答えでも正解だよ」との返事を得た。

 学校は教育委員会が制作した問題で、採点も教育委員会の模範解答と採点の方針に従っていて、その点で間違いはない。

 

「全員の答案を見直してください!」

 

 その子の申し入れがあって、学校は時間をかけて全員の答案を見直しにかかった。

 塾の先生は、広く塾の連盟や大学の教授などにも問題の鑑定を依頼して、その子の解答が間違いでない確証を得た。

 だけど、一度出てしまった結果を覆すのは時間がかかる。

 一年以上たった先月。学校と教育委員会は間違いを認めて謝罪したらしい。

「ひどいよね、これ!」

 なつきが机を叩いて会計のプレートがでんぐり返りそうになる。

「お茶淹れるとこだから、あまり興奮しないでね(^0^;)」

「ポテチが出てきちゃう(^_^;)」

 書記の綾乃が置きかけた急須を胸の高さまで上げて、みずきがポテチをかき集める。

「この子、うちの学校に入れるべきだよ!」

 自分もギリギリの成績で入っているので、なつきは義憤を感じているんだ。

「まあ、それは、この子の気持ち次第だろうね」

「そうね、もう一年もたっちゃってるから、その子も、今の学校に馴染んでるだろうし……もう、お茶淹れていいかなあ?」

「あ、ごめんごめん」

「じゃ、学校訪問の総括を……」

 わたしは、議案の話題に舵を切りなおした。

 学校にとっては不名誉なことだけども、それは、先生や教育委員会の問題で、生徒会にとっては休憩時間の茶飲み話にすぎないからね。

 

 でも、その後の展開で、とんだ副産物が出てきた。

 

 なんと、合格した生徒の中で、その子の代わりに不合格になってしまう者が出てきてしまったのだ!

 もう、一年以上も中町高校の生徒としてやってきているので、今さら「君は不合格なんだ」とは言えずうやむやにしてきたのが、ネット社会の恐ろしさ、外部に漏れてしまった。

  そして、その本来なら不合格になっていた生徒が……義憤を感じて机を叩いた橘なつき自身だったのだ。

「わたし……やっぱバカだから」

 見る影もなくなつきは落ち込んでしまい、わたしは親友としてもプレジデントとしても放っておけなくなった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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せやさかい・197『銀之助の秘密』

2021-03-24 09:37:04 | ノベル

・197

『銀之助の秘密』さくら     

 

 

 文芸部のほんまの部室は図書分室。

 

 図書分室いうのは、図書室に置ききれへんようになった本を保管するための部屋。

 まあ、倉庫ですわ。

 一昨年の春、ひょんなことで、この図書分室の前で頼子さんと出くわして、うちの運命が変わった。

 頼子さんは、夕陽丘・スミス・頼子というのが生徒名簿に載ってる名前。

 スミスというミドルネームで分かると思うんやけど、ヤマセンブルグいうヨーロッパの国の血が流れてる。

 今は頼子さんの事は置いといて、このほんまもんの部室の事。

 ずっと、うちの本堂裏の座敷を事実上の部室にしてるんで、ほとんど使うことが無くなった。

 それを学校から指摘されて、アリバイ程度に部室を使うためにお座敷部室からあれこれ運んで整理をしてるとこ。

 あれ?

 留美ちゃんの手が止まった。

「どないしたん?」

「本の配置が変わってるの」

「え、そう?」

 うちは、がさつな性格なんで、細かいことは苦手。せやけど、留美ちゃんは神経が細やかな子ぉで、ささいなことでもよう気が付く。

「文学書の順番が変わってるし、総記分類の辞書なんかが、奥の書架に行ってるよ……で、なんだろ、あそこ、面陳列になってる」

「めんち……」

「面陳列、表紙を向けて陳列してあるでしょ?」

「あ、ああ……」

 言われると違和感。

「図書室の本て、新刊本とか雑誌以外は棚刺し……背表紙が向いてるでしょ」

「ああ、せやねえ……」

 言われても、留美ちゃんほどにはピンとけえへん。

「まして、ここは倉庫同然の図書分室だよ面陳列なんて……」

 言いながら、留美ちゃんはメンチンの本を手に取った。

「「あ!?」」

 揃って驚いたのは、メンチンの奥に大量の文庫本が入ってたから。

「全部ラノベだ……」

 そこには百冊は優に超えるラノベが、書店の棚のように並んでた。

 あ!?

 後ろで声がした。振り返ると夏目銀之助が固まってる。

「あ、夏目君」

「せ、先輩、そ、それは……」

 銀之助の反応は、ベッドの下のエロ本を見つけられた時のテイ兄ちゃんといっしょやった。

 せやけど、可愛い後輩なんで、描写は控えます(;^_^A

 で、話を聞くともっともやった。

「ぜんぶ、閲覧室から排除された本たちなんです」

 言われて気が付いた。

 ラノベは形式が文庫なんで、閲覧室では文庫の書架に並んでる。

 その文庫の書架から、たしかにラノベの量が減ってる。

「保護者からクレームがついて撤去されたラノベたちなんです」

「そうなん?」

「はい、遭難した本たちです!」

 ギャグになってんねんけど、笑われへん。銀之助の目は真剣そのものやったさかい。

「傾向があるわねえ……」

 留美ちゃんが呟いた。

「え、そう?」

 言われて、ラノベの背表紙をざっと見わたしてみる。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『エロマンガ先生』『中古でも恋がしたい』『冴えない彼女の育てかた』『のうりん』『新妹魔王の契約者』……他にもいろいろ。

「タイトルだけや一部の描写だけで排除されたラノベばっかりです。ラノベっていうのは玉石混交ですけど、そこらへんの文芸書に負けないくらいの内容を持ったものも多いんです。なによりも、今の中高生や若者の感性で書かれたり受け入れられたりしたものばかりです。それに、一見表現はエロいですけど、意外に恋愛とか友情とかへのこだわりはストイックだったり、生きるってことに真っ直ぐだったり、正直太宰治とか野坂昭如を読んでいるよりは、前向きに生きて行こうって気にさせるものが多くて……僕は、文芸書も読みますが、こういうラノベも好きです。PTAは紙くずみたいな有害図書って言いますけど、何度も読み返すことに耐えられる名作も多いんです。文庫は劣化するのが早いから、この図書分室に置かれたら、三年もたつと、人に読まれることもなく廃棄にされてしまいます、だから……」

「夏目君……キミって……」

「銀之助……熱いんや……」

「は、はい、もうちょっと語ってもいいですか?」

「うん、いいよね、さくら?」

「うん!」

 うちは、パイプ椅子三つ持ってきて、書架の谷間で銀之助講演会の態勢を整えた。

 

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真凡プレジデント・31《うちの学校の一大事・1》

2021-03-24 06:40:17 | 小説3

レジデント・31

《うちの学校の一大事・1》  

 

 

 大阪の高校でイジメがあった。

 

 SNSを使った執拗で陰湿なものだったらしい。

 被害者の生徒は不登校になるが、学校は認識が甘かったのか、マスコミが取り上げる事件になってしまった。

 学校名は伏せられているので、ひょっとしたら、その学校の関係者でも知らない人が居るのかもしれない。

「初期対応のまずさだろうね……そのうち、みんな知るところになって……見えるようね、こじれるのが」

 朝ごはん食べながらのお姉ちゃんの感想。

 この三月まで女子アナだったお姉ちゃんは、ニュースなんかで日常茶飯にこういうニュースに接して来ているので、こういう事件の行方は予想が付くようなのだ。

「ニュースになるまでは何か月もほったらかしといたんだろうね……」

 後の言葉は呑み込んで、チャンネルを変える。どこだかの知事がセクハラをやって進退窮まる……米軍の戦闘機が不時着……アイドルが二十歳のお誕生日……パリで万博のプレゼンテーション行われる……この夏のファッション……。

 くるくる切り替わっているうちに、わたしはタイムリミット。鏡でササッと髪とリボンを整えて、行ってきまーす!

 さっきのニュースの切れ切れ、夏のファッションが気になってスマホで確認しようと思ったのは、うまく空いたシートに座れたからなのかもしれない。

 

 え…………ネットニュースが飛び込んできた。

 

――昨春の入試でミス、本当は合格していた――

 そんなニュースで手が停まってしまった。

 だって、出てきた学校名は、なにを隠そう、わが都立中町高校なのだ。

 こんな噂は聞いたことが無い、中町高校入試ミスで検索してみる。

 次の駅で下りなければならないところで概要が分かった。

 

 昨春と言えば、わたしたちが受けた入試だ。

 それだけでも気持ちが悪いのに、入試ミスで落ちた本人は、こう言っている。

――本当は、わたしが合格していた。ずっと言ってきたのに学校も教育委員会もなしのつぶて。だから訴えることにしました――

 これは、大阪のイジメ問題と同じ……それ以上にこじれた問題になるかもしれない。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・31『あの鏑矢を拾ってこい』

2021-03-23 09:12:49 | 評論

訳日本の神話・31
『あの鏑矢を拾ってこい』    

 

 

 スサノオの意地悪も三回目になります。

 最初の二回はオオナムチを岩屋に閉じ込め、蛇やらムカデの大群に襲わせようしますが、スセリヒメが身にまとっていた領巾(ひれ)を貸してくれて蛇もムカデも追い払うことができて難を逃れることができました。

 身にまとっているものが妖を追い払う力があるというのは、イザナギが黄泉の国でイザナミの手下である黄泉醜女(よもつしこめ)の追撃をかわす時にも使っています。機会があれば、どこかで触れ直してみようと思いますが、取りあえずは先に進みます。

「おい、オオナムチ、今度はこれだぞ」

 スサノオは自慢の弓を取り出し、弓弦に鏑矢(かぶらや)をつがえて、ヒョーーーっと放ちます。

 鏑矢とは、矢じりの根元にイチジクの実ほどの木のパーツが付いているものです。

 このパーツには二カ所ほど穴が開いていて、弓が飛翔している間、空気が吹き込んで笛のような音がします。その音が、ヒョーーーって感じになります。見かけは、お正月の破魔矢に似ています。

 昔の戦には作法がありました。

 敵味方、数千数万の軍勢が対峙すると、いつ戦闘が始まるか分かりません。

 それで、大将の命令で代表が敵の前面に出て、互いに戦闘開始の宣言をします。

 この宣言が終わると、次に双方の陣から撃ち込まれるのが鏑矢という訳です。

 まあ、試合開始のホイッスルですなあ。

 鏑矢が鳴り響きますと、我も我もと郎党を引き連れた騎馬武者が走り出し、戦場のあちこちで個人戦が始まります。

「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは……」

 堂々名乗りを上げてから戦います。

 まあ、鎌倉時代いっぱいまでくらいの美しい習慣でした。

 ちゃんと名乗って手柄を認めてもらわないと、あとの論功行賞で手柄の証明ができないという理由もありますが、なんともフェアプレイの精神ではあります。

 このフェアプレイの精神が1274年の元寇で裏目に出てしまいます。

 名乗りを上げると、元の方から数十人が飛び出してきて、いっぺんに絡めて討ち取ってしまいます。

 鏑矢が、ヒョーーーーっと音を立てて飛んでくると、アハハハと笑われてしまいます。

 元軍の戦いに作法などはありません、勝てばいいので、一騎打ちもしませんし、鉄砲(のちの鉄砲ではありません)の音で脅かすし、毒矢だって撃ってきます。

 日本の武士も学習しました。

 こいつらにルールは通用しないと思うと、もっぱら夜襲をかけるようになります。

 元軍は夜襲が苦手です。元軍は舞台単位の集団戦闘です。暗闇でやると収拾がつかないので、一般に夜戦はやりません。

 その常識外れの夜戦に元軍は恐慌をきたし、たいていメチャクチャに負けてしまいます。

 そこで、元軍は、陽が落ちると沖の軍船に戻って兵力の損耗を回避します。

 大ざっぱに言いますと、そうして船に戻ったところに神風(台風)がやってきて二度の日本遠征に失敗したということでしょう。

 夜襲は、日本のお家芸になり、旧日本軍も夜襲を得意としました。

 余談の余談になりますが、戦後三千人近い日本兵が復員せず、東南アジアの各地に残りました。

 ベトナムやインドネシアが宗主国に抵抗し、この旧日本兵たちは教官として招かれ、現地の軍隊を鍛え、しばしば夜襲を仕掛けて、宗主国軍を壊滅させました。

 実に、日本武士の夜襲はアジア諸国の独立にまで貢献したわけです。

 あ、脱線しすぎました(;^_^A

 スサノオが射ったのは、そういう夜戦が主力になる以前の麗しき鏑矢なのですが、射ったあとにオオナムチに命じます。

「おい、オオナムチ、あの鏑矢を拾ってこい」

 簡単な命令ですが、そこにはスサノオの腹黒い仕打ちが秘められていたのでありました……。

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らいと古典『わたしの徒然草・52 仁和寺の法師』

2021-03-23 06:44:56 | 自己紹介

わたしの然草・52
『仁和寺の法師』   



 徒然草 第五十二段

 仁和寺にある法師、年寄るまで岩清水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、ただひとり、徒歩より詣でけり。極楽寺・高良などを拝みて、かばかりかと心得て帰りにけり。
 さて、かたへの人にあひて、「年比思ひつること、果たし侍りぬ。聞きしに過ぎて尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。
 少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。


 徒然草と言えば、仁和寺の法師と言われるぐらいに有名な段で、教科書で習う『徒然草』には、ほとんどと言っていいほど、この五十二段が出てきます。

 京都の仁和寺の坊さんが、かねてから都の南方にある石清水八幡にお参りに行きたいと思っていたが、ようやく念願を果たした。

 で、この坊さん、兼好法師にこう言いました。

「いや、兼好さん、わたしはお参りしたんですけどね。なんやら、その奥の山の方まで行かはる人が大勢いたはったんですけどね。わたしは石清水さんをお参りすることが、目的やったさかいに、その山の上までは行きませんでしたわ」
 これ、わたしのようなボンクラに例えれば、パリのシテ(中之島)に行って、自由の女神のミニチュアを発見し、言うであろう感想に似ています。

「フランス人はミミッチイなあ、こんな小さい自由の女神のコピー作って喜んどる」

 実は、自由の女神というのは、こっちが本物。

 アメリカが独立百周年の千八百七十六年に、お祝いに巨大な自由の女神像を送ることになり、そのために作った原形なのです。日本的に言えばご本尊。アメリカのニューヨークにあるものはこれをもとに拡大して作られたものであり。いわば巨大な写し(レプリカ)なのですねえ。それを日本人は、こう思う。
「日本にあるパチンコ屋のモニュメントの方が大きいし、カッコいい!」
 ことのついでに申し上げておきますが、アメリカの独立二百周年記念に日本は「平和の女神像をプレゼントしたい!」と、アメリカに申し入れ、低調に断られています。一国の安全保障をアメリカ頼みにしている脳天気な日本から、憲法九条の権化のような女神像を頂くなど、アメリカ人には笑止千万だったのでしょう。

 あの誇り高いフランスが作り、プライドの高いアメリカが大感激して頂戴し、アメリカの玄関先であるニューヨーク港に飾っているのは、アメリカの独立革命とフランス革命が密接に関係していて、世界中の市民革命のお手本になっているからでしょう。

 まあ、本題に戻ります。

 仁和寺の坊さんは石清水の麓の寺社を見て、それを石清水八幡だと思いこんでしまったのであります。
 石清水八幡というのは、その山の上にこそあったのです。
 何事につけ、経験のある先達(経験のあるガイド)というのは必要なものだなあ……という感想が、この段のテーマであります。

 わたしは、この段には○と×の両方の感想があります。

 ○の方から。日本人は、大きな意味で先達から学びました。いやDNAとして刷り込まれた弥生時代からの百姓根性です。米作りは、田植えや治水、稲刈りなど、集団としての秩序感覚が無ければできません。この秩序感覚は、古くは戦後の奇跡的な復興と経済成長。近くは阪神大震災、東日本大震災で見せた日本人の力や忍耐力に現れています。こんな状況でパニックや暴動を、ほとんど起こさないのは日本人の美徳であると思います。

 ×は、日本人の一部の先達たちのお粗末さです。
 日本の学校の授業では、江戸時代や明治時代を否定的な傾向で教えます。
 江戸時代は、幕藩体制と士農工商の身分制度の中で、大勢の民衆が高い年貢を巻き上げられ、塗炭の苦しみを味わっていたと教えられます。
 明治時代は、薩長の藩閥政治により、殖産興業、軍事大国化が推し進められた絶対主義の時代と教えられます。こんなに自分たちの国を否定的に教える国も珍しい。
 

 こういう傾向は日本だけかと思っていたら、ちょっと世界中に広まりそうな空気があります。

 キャンセルカルチャーと言うらしいです。アメリカではワシントンやリンカーン、果てはコロンブスまで否定して、銅像を壊したり撤去したりという中国の文化大革命のようなことが起こり始めています。

 なんでも、奴隷制度などの矛盾や人種差別のアメリカを作った、あるいは、その礎を築いた奴らだから否定した破壊するんだということらしいです。例えば、ワシントンは合衆国の独立を成し遂げたけれども、彼は奴隷を所有していて、奴隷制度に反対しなかったから、批判され排除される対象なのだと言う考え方なのです。

 ちょっと難しい時代の入り口に立っているのかもしれません。

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真凡プレジデント・30《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》

2021-03-23 06:11:15 | 小説3

レジデント・30

《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》  

 

 ちょっと考えている。

 だって、部長会議が行われた社会科教室を出て校舎の一階まで下りると、伊達さん、あ、二の丸の生徒会長は伊達さんと言う。

 最初に挨拶した時に言ってくれていたんだけど、わたしもなつきも飛んでしまっていた。「あ、どうも、わたし生徒会長の田中真凡です。こちらは会計の橘なつきです……」と、挨拶はしたんだけど、初めての学校訪問、すっかり抜けていた。

 一階まで下りた時に、集まっていた部活の代表さんたちが――伊達さん――と呼んでいたので再認識。

 で、考えたというのは、みなさんの反応。

 

 みなさん、カックンにならなかった。

 

 前にも言ったけど、わたしの印象の薄さというのは、ちょっと筆舌に尽くしがたい。

 暗闇を下校中、後ろから変質者が付いて来て、これは襲われる!

 そう感じた瞬間振り返ったら、変質者は、とっても落胆した顔になって、そのまま通り過ぎて行ってしまった。

 部活に入りたいんで入部願いに担任のハンコをもらいに行ったら「それは担任に貰いに行きなさい」と言われ、「えと、先生が担任なんですけど……」。そうしたら、たいてい「あ、そうだった、ごめんごめん」なるじゃない。それが――こんなやついたかなあ?――という顔になる。

 それぐらい、印象が薄くて残念な人なんだ、わたしは。

 それが、二の丸の人たちは明るい笑顔で出迎えてくれて、そのまま中庭の藤棚の下で交流会になった。

「とっても、楽しかったねえ(^▽^)/」

 帰り道、地下鉄に乗ってもなつきは「楽しかったね!」を繰り返している。

 なつきも、いろいろ質問をされたりしたり、好意的な雰囲気にニコニコしている。中学のころのなつきはワルグループに入っていたので、肯定的な雰囲気の中で話ができたことが嬉しいんだ。

 わたしは思った。

 これは、伊達さんが、事前に友好的な情報をみんなに流して、あえて顔の見えない写真でみんなの興味をマックスまで高めてくれていたことにあると思う。プレジデントとしての有りようが違うんだとしみじみ思った。

 なつきは次の駅に着くころには、わたしの肩にもたれて居ねむりし始めた。

 その油断しきって口から涎を垂らしながらの寝息が嬉しい。友だちなんだなあ、生徒会に引き込んだことも間違ってなかったんだ……しみじみ嬉しくなる。

 でも、制服に涎を垂らされてはかなわないので次の駅では腋の下をくすぐって起こしてやる。

「ウキャ! ウキャキャキャ!」

 猿みたいな声を上げて目をパチクリ。

 最初の学校訪問は楽しく有意義に、かつ無事に終わった。

 

 だけど、そのあくる日、なつきに関するとんでもない問題が持ち上がってしまうことには思い至らなかった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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魔法少女マヂカ・203『常盤橋 ブリンダ可愛くなる』

2021-03-22 09:08:10 | 小説

魔法少女マヂカ・203

『常盤橋 ブリンダ可愛くなる』語り手:マヂカ    

 

 

 砂糖に群がる蟻の群れのようだ。

 気が付くのが早かったので、まだ数匹の黒い影が付き添いの侍従や武官にとりついたところ。

 取りつかれた武官は、突風に襲われ帽子を飛ばされたような感じだが、数秒の後には生きたまま体を引き裂かれるだろう。それほどに影たちは禍々しい。

 セイ!

 風切丸を引き抜くと、そのまま数匹の影をぶった切る。視野の端でブリンダが攻撃に移った姿をとらえる。

 いつものサーベルではないようだが、気にしている暇はない。

 行列周辺の影たちを蹴散らして、攻撃の矛先をこちらに向けさせなければならない。

 群がる蟻を一網打尽に始末することはできない、しいて言えば火炎放射で焼き殺すことだが、それをやれば砂糖の山まで焼いてしまうことになる。砂糖の山とは殿下の御行列だ。

 砂糖よりも気にかかるものがあることを示すのだ。

 ただ、砂糖のように甘くはない。こいつらをやっつけなければ砂糖に取り付けないことを思い知らせるだけでいい。

 打合せしたわけではないが、常盤橋の東と西から攻める。

 一撃で十数匹の影を切り倒す。

 斬撃をくらった影は針で突かれた風船のように霧消する。風船ならば破裂の音がうるさいだろうが、影なので音がしない。

 数撃食らわせたところでブリンダと交差し、彼女の得物が、いつものサーベルでも得意のコルトの二丁拳銃でもないことが分かる。

「ロッドか!?」

 思わず声に出る。

 ほんの刹那の間だけど聞こえてしまったのか、ブリンダの頬が一瞬で染まる。

「うっせー!」

 ロッドは魔法少女のデフォルトウェポンだ。

 たいてい先っぽに星だとかハートだかが付いていて、振り回すたびに星屑とかのエフェクトがついて、とてもファンタスティック。

 影が密集している間は、エフェクトは隠れて見えなかったが、行列の周辺を排除してみると、その柔軟剤のCMっぽいキラキラが、とても……笑わせてくれる。

 プ( ´艸`)

「わ、笑うな!」

「どうしたの、それぇ?」

「と、とっさにこれしか出てこなかったんだ(-_-;)」

「かっわいいよ(^▽^)/」

「か、かわいいゆうな!」

 セイ! とりゃあ! とおおお! とららら!

 掛け声まで可愛らしくなってきている。

 魔法少女のウェポンは、それに相応しいモーションや掛け声がある。

 ウェポンに合わない掛け声では、十分な働きができない。

 デフォルトのロッドやスティックは、可愛い系なので、クラスが上がると使いたがらない魔法少女が多い。

 合衆国建国以来250年の経歴を持つブリンダは、さすがにきまりが悪く、技にキレがなくなってきている。

 ゾワワワワワワ!

「ブリンダ、敵の数が増えたぞ!」

「く、くそ!」

「ロッドに合わせたアクションをしなきゃ、効果出ないぞ!」

 ……………。

 一瞬無言になったかと思うと、シュルシュルっと常盤橋上空百メートルほどのところに駆け上った。

 しゅぱーーー!

 めちゃくちゃ懐かしいお花のエフェクトを放射しながら旋回すると、フリフリミニスカートのコスに変わった。

 これがブリンダのデフォルトか!?

 感動した。

 てっきりアメコミヒロインのように、ピチピチのボディースーツの胸にSだかBだかのイニシャル付けて、赤いマントを翻しているかと思ったら、まるでセーラームーン、いや、ランドセルを背負わせたら星屑ウィッチメルルでも通りそうな可愛らしさだ!

「は、早打ちブリンダ! は、はっじっまっるよおおおおお(#^0^#)!!」

 パチパチパチ!

 思わず拍手してしまう。影たちも呆気にとられたのか、一瞬動きが停まって、中にはズッコケて川に落ちて消えてしまう者もいる。

「く、くそ、こっちだって恥ずかしいんだからねえええええ!」

 ええい、これでもくらえ! ブリンダスマアアアアアアッシュ!

 上空で旋回してロッドを振り回すと、幾千万のピンクのハートが降り注いで、あらかたの影たちを消滅させてしまい、残りの影たちは橋の東西へと逃げ散った。

 むろん、摂政殿下の行列は無事に被災地に向かっていく。

 この行列の中に霊感の強い侍従見習いの青年が居て「常盤橋に差し掛かると、桃色の童女が上空に現れ殿下の御行列を祝福する幻を見ました」と述懐し、その後優れた童話を世に出すことになったと知るのは、全てが終わって、元の令和の時代に戻ってからのことだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

 

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らいと古典『わたしの徒然草・51』

2021-03-22 06:34:30 | 自己紹介

わたしの然草・51
『万に、その道を知れる者は……』   



 徒然草 第五十一段

 亀山殿の御池に大井川の水をまかせられんとて、大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。多くの銭を給ひて、数日に営み出だして、掛けたりけるに、大方廻らざりければ、とかく直しけれども、終に廻らで、いたずらに立てりけり。
 さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかに結ひて参らせたりけるが、思ふように廻りて、水を汲み入るる事めでたかりけり。
 万に、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。

 後嵯峨上皇が、嵯峨野に亀山殿を造営した時のこと。庭の池に大井川から水を引こうと計画して、大井の百姓を集め大井川に水車を作らせた。時間と金をかけたがうまくいかず、宇治の百姓たちにやらせたら、上手くいった。やっぱ、世の中、餅屋は餅屋だなあ!

 そういう話、というか、それだけの話であります。
 当時から、石垣は、比叡山麓の穴太(あのう) 水車は、宇治の百姓衆が上手いとされていました。で、宇治のオッサンらは上手い! プロは偉い!

 これだけでは話が続きません(*ノωノ)、面白くもありません。
で、ヘソマガリのわたしは、違う局面から話してみようと思います(^_^;)。

 プロは、自分の常識からしかものが考えられない。時として素人の閃きや直感の方がすぐれているという話ですね。
 世界中の軍艦には、固有の名前よりもデッカく番号が書かれていることが多いです。あれはアメリカ海軍が十九世紀に考案したものだそうです。それ以前の世界中の海軍というのは、プロの集団と決まっており、船の名前など、遠くからでも、そのカタチが判別できなければならないとされ、ボースン(水夫長)や、士官は、敵味方の区別無く、世界中の主だった主力艦艇のカタチと名前、おおよその性能は知っていました。まあ、そのころ大海軍を持っている国はしれたもので、主力艦艇と言っても、世界中で百ほどでしかありません。
 当時のアメリカの海軍は、世界的に見ても二流で、このことは、アメリカ海軍自身がよく知っていました。  
  そこで、バカでも自分の国の船ぐらいは一目で分かるようにしてやろうと、船の舳先に大きな数字を書いたのです。成り立ての水兵でも、その番号と手許のマニュアル本を見れば、たちどころに船の名前が分かるようにしたのですねえ。
 では、敵の船はどうしたかというと、小さな模型を作りました。それを見せて、水兵たちに覚えさせました。第二次大戦中、これをプラスチックで大量に作り、海軍の全艦艇に持たせてやりました。戦後、これが民間でも流行り、これがプラモデルの元になりました。
 火星ロケットを打ち上げるとき、火星まで行くことは簡単なのですが、探査衛星を火星に無事軟着陸させることが非常に難しかった。姿勢制御や速度調整など、当時のコンピューターでは困難なことが多く、また開発費もかさむ。そこでNASAは思い切ってヤワラカ頭の若者(一般公募者も入っていたような気がする)たちに任せました。
 若者達は、ハナから軟着陸を考えていませんでした。探査衛星が火星の地表近くまで来ると、衛星の周りにくっつけた風船が一斉に膨らみ、ショックを吸収するようにしました。地球で飛行機から投下実験するとものの見事に成功しました。それから研究も実績も上がって、先日は軟着陸させたカプセルから探査車を出して、着陸地点の色々な映像を送ることに成功していますね。

 今は、世界中の自動車に付いていますが、衝突したときにダッシュボードから風船が瞬時に出てきて、ショックを吸収する仕掛けは「車はぶつかるもの」という素人の発想から生まれたものだそうです。

 学校は、システムや規則の博物館であると言われます。
 わたしがヒヨッコのころ、女生徒たちは体育の時間は下着同然のピチピチの短パンでありました。たまに体育の授業前に女生徒を呼び出し、その格好で職員室に入ってこられると目のやり場に困ったものであります。
 むろん、女生徒たちからも不満が出ていました。
「せめて、体育祭の時ぐらいは、ジャージの下を穿かせて欲しい」
 至極真っ当な要求が出てきました。わたしは、その生徒の声を代弁して体育科の主任に掛け合いに行ったことがあります。
「他教科のことに口だしするな」
 それが答えでした(^_^;)。世紀末を境に、この下着同然の短パンはハーフパンツに替わりました。

 宿泊学習というものが流行ったことがありますね。春の連休前に新入生を一泊で遠くに連れて行き、生徒としての規律などを覚えさせる。さらには、新しい学校への帰属意識を高め、愛校精神の涵養を図ろうというアナクロな精神主義でありました。
 この行事、下見や、会議、準備のため三月から、学校の三分の一以上の教師が、延べ数千時間の仕事の時間をとられるのであります。で、思い通りの実績はあがりません。
 ベテランのコワモテの担任のクラスは、これで締まります。しかし、わたしのようなハンチクな担任だと、この行事で生徒に乗り越えられてしまい、その後の学級経営は非常にむつかしくなります。簡単に言えば「うちの担任は、この程度」と、瀬踏みされてしまうのですね(;^_^A。
 職員会議で毎年、この宿泊行事の廃止を訴えてきました。
「教育効果というものは、すぐには表れない。若い人はすぐに手を抜くことばかり考える」と叱られました。
四年がかりで組織票を固め、やっと廃止にこぎつけましたが、ベテランのコワモテからは睨まれました。
「大橋、ようもやってくれたのう……」
 我々、ハンチクな担任達は、その代わり、しつこいほどに面談、懇談、家庭訪問をくり返すことにしました。これはという生徒の家には四月一日から、夜討ち朝駆けの家庭訪問。そうやって生徒本人や保護者と人間的な関係を作ってしまうのです。いじめられそうな子がいると、ボスクラスの何人かと、廊下やトイレ、階段の踊り場でナニゲニ声を掛けておく。
「あいつ、人間関係ヘタでなあ、なんか気に食わんことあるかもしれんけど、よろしゅう頼むわ。おまえやからこそ声かけてん」
 これで、いじめの芽を摘んできました。
 これらは全て、自分の技量に自信のないハンチク教師だから思いついたことです。

 今回は、珍しく兼好のオッチャンに逆らってみました。ま、たまにはいいでしょう(^_^;)。


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真凡プレジデント・29《都立二の丸高校訪問・2》

2021-03-22 06:10:51 | 小説3

レジデント・29

《都立二の丸高校訪問・2》  

 

 

 

 二の丸高校の凄いところは設備だけじゃなかった。

 

 民放のアナウンサーのようにイカシた生徒会長は、各種生徒会の会議が行われる部屋を案内してくれる。

 ハードというか施設は単純に目に飛び込んでくるので「ウワーー」とか「スゴイ!」とかダイレクトに感動できるんだけど、組織の運営や風通しの良さなどは部屋を見ただけでは分からない。

「こんな具合です」

 なんと、会長がスマホを操作すると、モニターやら電子黒板に会議の様子が出てくる。それも二分程度に編集されていて、とても分かりやすい。

 

「え、もう卒業式のことやってるんですか?」

 

 化学実験室を会議場にしているのは三年生の学年会議だ。

 理由は三年生の教室から一番近い特別教室で、集まりやすいから。それに、会議に寄って部屋を固定しておくと――今日の会議はどこだっけ?――ということが起こらない。

「間際になって決めるといい結論が出ません。三年生は秋以降は忙しいですからね、むろん決定はもっと後なんですけど、今は、いろんな学校の卒業式を見て研究というところです」

「やっぱ、薬品とか使って?」

 なつきがスカタンを言う。

「ハハ、映像が薬品と言えないこともないかなあ、とにかく、いろんなのを見てもらって化学変化させるというか、雰囲気づくりですね。映像は二三分で、あとは十分ほどフリートーキングです。繰り返しているうちになんとはなしの空気ができます。昼休み放課後に関わらず、会議はニ十分以内を目標にやってます」

「よっぽど議長さんとかが、しっかりしているんですね」

「う~ん、普通の生徒だと思いますよ。事前の問題整理と資料作りがしっかりしていれば、案外スムースにいくもんです。くたびれそうになったらトピックというか、関係ない話を投げ込むんです」

「関係ない話?」

「たとえば、化学教室の椅子にはなんで背もたれがないか……とか」

 

 言われて、化学教室の椅子を見渡す。

 当たり前すぎて疑問にも思わなかったけど、言われてみればそうだ。

「なんでだろう……あ、そうだ。背もたれのない椅子だったら、寝かせて集めれば小テーブルになりますよね。文化祭の時なんかに重宝する!」

 なつきのスカタンも、会長はにこやかに受け止める。

「それ、いいかもしれませんね! 椅子は椅子って固定観念でないところがいいですよ、メモっておこう……」

「正解ですか?」

「ハハ、正解は、実験に失敗して火が出たり爆発が起こっても、すぐに逃げられるように背もたれが無いんです」

「え、そなの?」

 好奇心旺盛ななつきは、さっそく試してみる。

「なるほど、コンマ何秒か速くなるかも!」

 生徒会長は、飽きさせないことがコンセプトのようだ。

「今日は、こんな話題を投げかけてみたんです」

 そう言ったのは、その日の昼休みにクラブ部長会議が行われた社会科教室だ。

「これです」

「「あ!?」」

 なんとモニターにはわたしの写真が……どういうシャッターチャンスなんだろう、フイと振り返ったところで顔が見えない。

「そちらの学校は伝統的な制服だし、その、こんなにステキな会長さんだから、ちょっとネタに使わせてもらいました。事後承認みたいで申し訳ないです(^_^;)」

「で、どんなクイズにしたんですか!?」

「いや、ただ、視察に来られるってことだけを伝えただけです。毎日、同じ制服と顔だけですから、みんな喜ぶんですよ」

 むつかしく言うと肖像権とかの問題なのかもしれないけど、ほとんど後姿。ま、いっか。

「それで、何人かの生徒が一目お目にかかりたいって、階段降りたところで待ってるんですけど、よろしいですか?」

「え、えーーーー」

 

 プロポーションとかは、お姉ちゃんといっしょだから……でも、ルックスは振り返っただけで変質者もトーンダウンしてしまうくらいのご面相なんだ。気が引ける、顔が赤くなってくる~!

「決めてかかるのは良くないよ」

 なつきにズンズン押されて、指定の階段下へ……。

 

 二の丸の皆さんの反応は……次回に(;^_^)

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
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銀河太平記・036『対空機関砲』

2021-03-21 09:40:34 | 小説4

・036

『対空機関砲』ダッシュ   

 

 

 ガックン ガックン ガックン

 振動がえげつない。

 ファルコンZの機関砲のショックはハンパじゃない。

 銃座の旋回軸が銃の機関部にあるので、軸から50センチ後ろの射手シートが銃座がターゲットを指向するたびに振り回される。

 普通の銃座は射手の頭の位置に同期されていて、感覚としては頭を振るほどの衝撃しかない。

 例えればな、時代劇に出てくる殺虫スプレー。あいつで蚊を追いかける時って頭が軸だろ?

 その殺虫スプレーの軸がスプレー缶にあると思えよ。そうすっと、蚊を狙う度に体が振り回されるって感じになるだろ?

 それが、宇宙空間でビュンビュン飛んでくる戦闘機を撃つんだぜ! 蚊の何百、何千倍って速度だ。もう、巨大なシェーカーの中で振り回されてるようなもんで、もう脳みそがスクランブルエッグになりそうだ。

 え、バーチャルの遠隔操作だろうって?

 そうだよ、リアルの体はキャビンにあって、ヘッドセット被ってやってんだけどな。対空機関砲のスペックが、そのまんまバーチャルの体感に反映される。

 古典ラノベにSAOってのががあったじゃんか。アニメとかゲームとかになって、二十位世紀前半のサブカルチャーの金字塔って言われてる。正式タイトルは『ソードアートオンライン』って言うんだ。

 あれってナーブギアっての着けて、ゲームの中にフルダイブする。五感がリアルで、痛みとか衝撃とかもリアルに感じる。あれと同じ。

「しかし、なんで、こ、こんな旧式なんすかああああああ!?」

 撃墜が三ケタになったところで、悲鳴と共に聞いてしまった。

『なんせ、98隻分のジャンクパーツでできてるからなあ、対空射撃の管制を統一しようとすると、一番古いパーツのスペックに合わさなきゃならないんでな……よっと、1000機クリアだ! がんばれ火星少年!』

「古いって、いつごろのっ!?」

『ダッシュが使ってんのは戦艦三笠のだ』

「に、日露戦争!?」

『そこまで神話時代じゃない、グノーシス侵略の時のだ』

「ええ!?」 

 グノーシス侵略ってのは、百年前の開拓時代に地球と火星を襲った正体不明の侵略だ。短期間でグノーシスは撤退したけど、その時活躍した日本の宇宙戦艦だ。宇宙戦艦と言っても地球の成層圏の外を飛ぶのがやっとで、正しくは空中戦艦。成層圏から地球上の敵をやっつけるものだ、それに開発されたばかりのパルス機関を積んでムリクリ出撃させて、グノーシスと同士討ちをやったってロートルだ。

 その宙域は、今でも『ミカサエリア』と呼ばれているくらいだ。その三笠の機関砲ということは、パルス機関を搭載するためにドッグ入りした時に外したものだろう。三笠そのものは、敵の主力艦と共にロストしてしまっている。

『船長、訓練を中止してください、三時の方向から天狗党の編隊が接近しています!』

 コスモスが割り込んで落ち着いた声で意見具申をしてきた。

『いいタイミングだ、総員、ここからは実戦だ! 死ぬ気で戦え!』

 コンソールの敵機を示すドットが、実戦を示す赤色に変わった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略

 

 

 

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真凡プレジデント・28《都立二の丸高校訪問・1》

2021-03-21 06:39:17 | 小説3

レジデント・28

《都立二の丸高校訪問・1》  

 

 

 

  エーーーーーッ!! これが都立!?

 

 なつきが遠慮のない声を上げる。

 

 なつきは、こういうところが子どもで、見た目で感動したことがダイレクトに出てしまう。

 でもね、恥ずかしいから写真撮るのやめてくれないかなあ(^_^;)。

 パシャパシャ パシャパシャ パシャパシャパシャ

 注意してもいいんだけど、逆効果になることが往々にしてあるので、少し離れるだけでやり過ごそうとするわたし。

 まあ、校内に入ってからは、そうそう馬鹿な真似もしないだろうから、ここは辛抱。

 

 たしかに、二の丸高校は凄い!

 

 鉄筋七階建てで、ファサード(建物の正面)は三階までの吹き抜けでガラス張り。

 屋根や庇には中国の紫禁城を思わせる朱瓦で装飾されていて、このままリゾート地にあって三ツ星ホテルだと言われても信じてしまう。

 下校してくる二の丸の生徒たちが奇異な目で見始め、さすがに一言と……思った時に、なつきも気が付いたようで、真っ赤になる。

 

「いやあ、バブルのころの創立なんで、ハードは贅沢なんですよ」

 

 通された生徒会室で、そのまま議員秘書が務まりそうな会長さんが頭を掻く。

「もっとも、バブル期の中でも、うちは特別で、噂によるとグリンピアに建てるはずのものを流用したという噂もありますよ。あ、これが学校案内と、三十周年の記念誌です」

「ウワー、頂いていいんですかあ!?」

「はい、どうぞ。これもPRの一環ですから」

「あ、なんか付録が付いてる!♡!」

 なつきはアニメ雑誌と間違えているような喜びようだ。

「学校案内のDVDですよ。施設とか一年間のタイムテーブルとかは上手く編集してあるので、僕の説明よりも退屈しません」

「あ、これって、ペーパークラフト?」

 ページがパラリと飛んだかと思うと、三枚つづりのクラフト紙のページが出てきた。

「情報科の授業で作ったのをそのまま綴じただけです。見てくれがゴージャスだし、楽しみながら読んで頂ければと……本館校舎だけですけど、DVDの中のをダウンロードしていただいたら、校舎全部と敷地の分も作れますよ」

「これは、弟が喜びます!」

「それは何よりです。じゃ、校内を見て回りますか」

 わたしとなつきは、議員秘書に国会議事堂を案内されるお上り支援者のように校内見学に回った。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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