大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE滅鬼の刃・19『我が街のことからを孫の目から』

2021-03-20 09:44:06 | エッセー

RE エッセーノベル    

18・『我が街のことからを孫の目から』   

 

 

 忘れているようなので、わたしが続きを書きます。

 

 年の割に……というと機嫌の悪くなるお祖父ちゃんなのですが、続きを書くのを忘れた、あるいは忘れたふりをしています。

 風呂上がりに話をすると、栞にとっての河内はどうなんだい?

 と、遠まわしに聞いてきます。

 これは「続きはお前が書け」ということだなあと筆を執ります。

 

「すごい家を見つけた!」

 小学校のころ、お医者さんから帰ってきたお祖父ちゃんが、興奮して言いました。

 今どきのタレントさんには興味のないお祖父ちゃんですが、まるで、憧れのアイドルに出会ったように頬を染めていました。

「え、なになに?」

 二人だけの家族なので、こういう時の感動は共有する習慣があります。

「司馬遼太郎の家を見つけた!」

 え?

 一瞬分かりませんが、コミックのネタにもなっている幕末物の小説をあげてくれてピンときました。

 司馬遼太郎さんは、大阪を代表する歴史小説家です。府知事や大阪市長よりも有名なのは小学生のわたしでも分かりました。

 わたしの好きなアニメに『ガールズアンドパンツァー』があります。

 主役は大洗女子学園の西住みほたち五人の戦車道部なんですが、競争相手に知波単学園の戦車道部があります。

 学園の戦車は日本の旧陸軍の戦車です。

 部長は西絹代という黒髪きりりの美少女なのですが、部員に小柄で眼鏡っこの福田がいます。

 ガルパンのキャラの中で、めずらしく下の名前が設定されていません。

 この福田は、戦時中戦車兵であった司馬遼太郎さんを被らせていると思っています。

 直近の映画版では、猪突猛進の突撃を諫めて、知波単学園に勝機をもたらします。

 司馬遼太郎さんの本名は福田定一です。そして丸眼鏡をかけた小柄な小隊長でした。

「その福田定一と表札にあるんや!」

「でも、同姓同名とか……」

 小学生の割には奇跡めいたことは信じない子なので、そう返しました。

「いっしょに書いてある奥さんの名前は『みどり』や!」

 奥さんの名前までは知りませんでしたけど、検索したら、お祖父ちゃんの言う通り『福田みどり』でした。

 お祖父ちゃんの興奮がうつって、自転車で見に行くと、その通りの表札が掛かっていました。

 とっくに司馬さんは亡くなって、お家を発見した前後に奥さんのみどりさんも亡くなって、お家は身内の方が相続されたようです。

 他にも今東光のお寺とか、書道家の榊莫山さんとか……それは、お祖父ちゃんも書いていますよね。

 ぼんやりテレビを見ていたら、バラエティー番組で河内弁の特集……というよりは、オモチャにしていました。

 河内は柄が悪いとか乱暴とかを前面に押し出した内容です。

「おい、われ!」とか「おんどりゃあ」とか「いてもたろか」とか乱暴な言葉やエピソードを満載して出演者が面白がっていました。

 正直、不快でした。

「おい、われ!」とか「おんどりゃあ」とか「いてもたろか」……こんな言葉は使いません。

 中高生なんか、どうかすると標準語をしゃべっています。アクセントは大阪弁で、文字に起こしたら標準語という子もいます。

「河内弁て、あんななの?」

 あんまりなんで、お祖父ちゃんに聞きました。

「本当の河内弁は……たとえば『夕べ』のことは『ゆんべ』という具合に濁音の前には『ん』が入る。それから『お尻』のことは『ケツ』の他に『おいど』ともいう。主に女の人やなあ……それから『だぢづでど』の発音が『らりるれろ』になることが多いなあ」

「らりるれろ?」

「うん、たとえば『淀川の水』は『よろがわのみる』、『仏壇の修繕』は『ぶつらんのしゅうれん』とかな」

「へえ……」

 テレビでは、そんなことは言ってなかった。

「まあ、テレビは面白かったらなんでもありやからなあ」

「えと、なにか当たってるようなことは?」

「そうやなあ……声が大きい!」

「え、そうなの?」

「二人以上の大阪の人間が東京で電車に乗るとな、なんでか、周りから人が居らんようになる……」

 この時のお祖父ちゃんの目は、ちょっと寂し気。きっと、昔の実体験なんだと思います。

 じっさい、お祖父ちゃんはお喋りだし、声も大きいですから。

 高校生の目から見た『河内』を書いてみようかと思ったんですが、また今度にします。

 あ、産経新聞のコラムにこんなのがありました。

「来ない」というのを関西弁ではどう言うのか。

 けーへん きーひん こーへん

 けーへんは大阪、 きーひんは京都 こーへんは神戸 と分類してありました。

 生まれて十七年の感覚では、三つとも使います。

 使い分けにルールはありません、気分次第です。

 多分、もともとは地域性があったんでしょうが、いつのまにか混ざってしまって、汎関西弁という感じになってるんだと思います。

 大人の判断基準て体験に基づいたものでしょうから、古いと思います。

 本当に若者の関西文化を知りたかったら、学校の先生にでもなってください。

 では、またお目にかかります。

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らいと古典『わたしの徒然草50 女の鬼に成りたるを……』

2021-03-20 08:13:00 | 自己紹介

わたしの然草・50
『女の鬼に成りたるを……』   

 

 


 応長の比、伊勢国より、女の鬼に成りたるをゐて上りたりといふ事ありて、その比廿日ばかり、日ごとに、京・白川の人、鬼見にとて出で惑ふ。「昨日は西園寺に参りたりし」、「今日は院へ参るべし」、「ただ今はそこそこに」など言ひ合へり。まさしく見たりといふ人もなく、虚言と云ふ人もなし。上下、ただ鬼の事のみ言ひ止まず。(後略)

 応長(おうちょう)は、日本の元号の一つ。延慶の後、正和の前。1311年の期間を指します。
 本題から外れますが、「しょうわ」という年号は二つあります。「昭和」と、この「正和」です。
 ある、と、言い切りながら、この段を書くまでは知りませんでした。かりそめにも日本史を教えていたのに知らないとは情けない話ですが。
 まあしかし、「大化」から「令和」まで二百五十以上も年号があり、この「正和」は一年余りしかなかったですから(n*´ω`*n)。と、言い訳。

 話は、この応長の年に伊勢の国から女の鬼が連れてこられ、都中の評判になったが、誰もその姿を見たことがないという、今で言えば都市伝説のような話です。
 

 女性の都市伝説と言うと『口裂け女』と『トイレの花子さん』でしょうか。

 おそらく、男についての都市伝説もあるのでしょうが、不勉強なオッサンなので思い浮かびません。

『口裂け女』は地域や時期によってローカルな違いはあるのでしょうが、おおよそは以下の通りだと思います。

 夕方、人気の少ない道を歩いていると、後ろから人が付いてきます。チラ見すると、マスクをした若い女が付かず離れずで、着いてくるのです。

 そして、人通りが途絶えると「もしもし」と声をかけてきます。

「はい?」

 振り返ると、女は「わたしキレイ?」と聞いてきて、それから、ゆっくりとマスクを外します。

 女の口は耳元まで裂けていたああああああああああ!

 キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 というお話です。

 コロナで、町中マスクに満ちていて、黄昏時の待ちいく女の人を目にして『口裂け女』と連想するのは、まあ、若くても40歳以上の人ではないでしょうか。

 十年ほど前のスポーツ新聞の一面に『お忍びのトモチン』というような見出しが躍っていました。

 女子高生だったと思うのですが、街を歩いているとマスクをしてお忍びのともちんこと、AKBの板野友美に出くわしたのです。

「キャー、ともちん!」

「ともちんだ!」

 あっという間にファンに取り巻かれ、その場に居合わせたカメラマンが写真を撮って、あくる日の一面に載りました。

 実は、このともちんは、顔の上半分のメイクと髪をいじることで、いろんなタレントさんに化けて楽しんでおられるザワチンとおっしゃる女性で、YouTubeで、その変装のプロセスを載せて好評を得た方でありました。

 一部を隠すことによって、隠された部分に人間は想像力をたくましくしてしまいます。

 わたしも、世間様に恭順の意を示すために、外出時、特にスーパーやコンビニに入る時には、先の総理大臣閣下から頂戴したマスクを着用いたします。

 散歩の途中、ドラッグストアに立ち寄りました。

 若いころからの花粉症は、かなりマシになったのですが、目のかゆみだけが残りました。

 そこで、目薬とかの花粉症対策の薬を思い立ったのです。

 初めてのドラッグストアなので、商品の配置が分かりません。

「すみません、花粉症の……」

 陳列棚を整理していた女店員さんにこえをかけました。

「は、はひ!?」

 と振り返った女店員さんは、まるで口裂け女に出くわしたように驚かれました。

 ああ、ひどくなってるんだ(;'∀')……と凹みました。

 花粉症のせいで、ひどいときは日に数千回目をこすります。

 それが目の周辺のニキビを悪化させ、目の周辺のニキビだけが、この歳になっても残っています。

 いつか、目の周辺は黒ずんできて、光の当たり具合によってはゾンビのように見えます。

 それに加えて顔のあちこちに浮かび始めたシミと相まって、それでも、人と接するときは、それなりに笑顔を心がけているので、昼間にゾンビに出会ったような反応をされることはありませんでした。

 散歩の途中だったので、キャップを被り、鼻から下は恩賜のマスク。

 際立つ、目の周辺のゾンビ面。

 〆て3400円なりの薬を買って、洗顔するたびに塗りこめております。

 ひょっとしたら、ドラッグストア周辺では『マスクのゾンビ男』という都市伝説が生まれかけているかもしれません(;^_^A

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真凡プレジデント・27《とりあえず》

2021-03-20 06:05:30 | 小説3

レジデント・27

《とりあえず》   

 

 

 

 生徒会役員と言うのは、意外に露出は少ない。

 

 選挙の立会演説は年に二回。だだっ広い体育館でやるってこともあるんだけど、ステージは遠いし照明が点いてるわけじゃないから顔なんか分かりづらい。

 本気で立会演説やるなら、ステージのスクリーンに候補者のバストアップのライブ映像映すぐらいの事やらなきゃね。アメリカの大統領選挙とかでやってるやつ。

 卒業式や入学式、同じく体育館。だだっ広い上に生徒会役員なんて、完全にエキストラ。その他大勢、NPC、モブにすぎない。

 体育祭の挨拶。体育館以上にだだっ広いグラウンド、それも、校長先生はじめPTA会長、実行委員長、体育科からの諸注意なんかに埋もれてしまって、生徒会役員なんか意識の外。

 まして、うちの学校は迅速な行事運営を目指しているので、行事の実質的な運営は実行委員会に任されて、執行部の出る幕はほとんどない。

 前にも言ったけど、役員は会長、副会長、書記、会計だけで、各種委員会の委員長職がない。

 保健とか風紀とか文化部とか体育部とかの長が無いんだ。

 立候補者を募るのが難しい、分かるでしょ、今回も藤田先生が――候補者がいない――と、中庭で頭抱えていたでしょ。

 で、行事の度毎に実行委員会を作った方が小回りが利く上に短期集中できる。

 そういうことで、二十一世紀に入ったころから今の四役体制になっている。

 

 まあ、部活に等しいくらいの規模と質になっている。

 

 でも、そういうもんだから、プレジデントという響きに立候補を決心したんだし、なつきたちも役員が足りないよ~と言ったら、気楽になってくれたりもした。

 わたしは現実主義なので、そういう生徒会を、いますぐどうこうしようとは思っていない。

 でも、このままでいいとも思っていない。

 

「ほんとうに周るのか?」

 

 体育祭業務の報告に職員室を訪れると藤田先生が、ちょっと真顔で聞いてきた。

「はい、他校の様子ってネットなんかの情報だけじゃ分かりませんから。ま、行ったからって、すぐうちの学校に取り入れられるというものじゃないでしょうけど、来年以降の生徒会が考える資料になればと思ってます」

「そうか、実は四校ほどOKの返事をもらってるんだけど、行ってみるかい?」

「はい、ぜひ!」

「そうか、決まったら報告してくれ。あ、それと、これは俺からの慰労だ」

「あ、ありがとうございます」

 食堂と購買共通のチケットをいただいた。チケットだけど、けっこうな金額がある感じ。

「あ、気にしないでくれ、体育祭で使おうと思って使い残したものだから」

「はい、遠慮なくいただきます」

 

 フェリペ女学院(私学)  修学院高校(私学)  二の丸高校(都立)  神楽坂高校(都立)

 チケットは綴りのまま三千円分あった。

 

「週末に一校ずつ……う~ん、期末テストになっちゃうわね」

 聡明な副会長福島みずきが腕を組んだ。

「これからも、周れる学校増えそうだしね……」

「とりあえず、二人一組で周る体制にしようか」

 綾乃が指針を示す。いい呼吸だ。

「じゃ、とりあえずフェリペと二の丸だね」

「えと、交通費とか、どうなるのかな? これからも周るとしたら、ちょっと負担かも」

 なつきが心配する。心配は真面目に考えている証拠だ。

「それは、先生に掛け合ってくる、じゃ、この週末からやるってことでいいよね?」

「うん、じゃ、フェリペはわたしと綾乃で」

「地味な取り組みだけど、ま、よろしくお願いします」

「じゃ、質問やら観察のポイントを確認しよっか」

「そいじゃ、ジュースとおつまみ買ってくるじょー!」

「なつき、これ、藤田先生からもらったチケット」

「おう、ちょっと贅沢できるかも~(*´∀`*)」

 かわいいスキップが遠のいていった。

 

「しかし、真凡も考えるようになったんだ」

 食卓を挟んでお姉ちゃん。

「え、なにが?」

「自分の露出を意識するなんてさ」

「え、ああ……」

 沢庵を咀嚼しながら考える……お茶を飲むときには結論が出ている。

「わたしは、どうやったってダメだろうけど、生徒会役員という記号は見えてなきゃダメなんだよ。例えていうと交差点の信号機」

「信号機?」

「うん、信号機は目立つようにしとかなきゃ意味ないでしょ、赤・青・黄色のシグナルはさ。でも、信号機がどんなだったかは覚えてないでしょ、電球だったかLEDだったか、ボディーは黒だったか白だったかシロと緑のゼブラだったかとかさ」

「面白いね、真凡は(^▽^)」

 それだけ言うと、お姉ちゃんは、わたしよりも陽気な音を立てて沢庵を咀嚼した。

 間違ったこと……言ってないよね?

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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やくもあやかし物語・69『一時間目から自習』

2021-03-19 08:42:41 | ライトノベルセレクト

物語・69

一時間目から自習』    

 

 

 今日は一時間目から自習になった。

 自習は年に何回かある。

 自習と言うのは、その時間の教科の先生がお休みで、自習監督の先生が来る。

 たいてい三十分くらいでできる課題があって、その課題をやり終えたら静かにしているかぎり自由。

 ただし、じっとしていてもスマホは禁止だよ。自習時間にみんながやってることを書いてもいいんだけど、そのことじゃない。

 今日の自習はね、監督の先生も自習課題も間に合わなかったみたいで、担任がやってきて「自習課題はないけど、騒ぐんじゃないぞ」と注意だけして行った。

 たぶん、急な自習で間に合わなかったんだ。

 うちは、真面目なクラスという評判だし、こういう放置プレイもやむなしなんだろう。

 昨日の席替えで窓際になったので、一時間、窓からの景色を堪能する。

 もうちょっと視界が開けていたら染井さんが見えたかもしれない。

 染井さんというのは、通用門の脇にある古い、いや、ベテランの桜。

 ベテランだから、もう霊的な存在で、ときどき人間に化けて学校の中や周辺に出没する。わたしとは気が合って、ときどきお話とかするんだけど、さすがに授業中にちょっかいを出してくるようなことはない。

 だから、ボーっと学校の外を見ている。

 すると、大勢の生徒が前の道を歩いていくのが見えた。

 ちょっとビックリ!

 だって、三時間目だよ、授業中だよ!

 集団脱走!? でも、走るってふうでもない、先生が追っかけてきて叱るってこともない。

 ヤバイ! 

「合格発表なんだ……」

 後ろのKさんが呟く。

 そうだ、今日は四丁目にある県立高校の合格発表の日なんだ。高校への道は、うちの学校の前を通るのが近道だって、卒業生でもあるお母さんが言ってた。

 四丁目は生活圏外だし、中学からの転校生であるわたしは、校区からも外れてるんで行ったことがない。

 

 合格発表というのは、すぐに終わるんだ。

 

 さっき通って行ったばかりの三年生が、ぞろぞろ逆方向から歩いてくる。

 みんな明るい表情だ。

 きっと受かったんだ。人の事なんだけど嬉しくなる。

 春一番も、すっかり羊のように大人しくなったし、梅も満開で桜も綻びかけてうららかな日差し。

 と、思ったら。

 ひとり、集団から離れて、とぼとぼ歩いてくる男子がいる。

「落ちたんだ……」

    Kさんが、さっきより小さく呟く。

 そうだよね、ちょびっとだけど、1・0を超える競争率なんだ、落ちる人もいる。

 

 問題はね、その男子生徒の後ろについている半透明の男子生徒。

 はっきり言って妖(あやかし)だよ! ひょっとしたら悪い霊かもしれない。

 とっさに制服の胸ごと勾玉を掴む。

 消えろ!

 そう念じて、顔を伏せる。

 万一失敗したら、念を飛ばされて逆襲される。

 三つ数えて、柱とカーテンの隙間から覗いてみる。

 良かったぁ……男子生徒は一人で歩いていて、妖の姿なかった。

 

 でも、これで終わりじゃなかったんだよ(;゚Д゚)ねえ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

 

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真凡プレジデント・26《正体は学校の七不思議に》

2021-03-19 06:31:25 | 小説3

レジデント・26

《正体は学校の七不思議に》   

 

 

 駅前交差点で実況をやっていたのは体育祭の訓練だというのは言ったわよね。

 最初、お姉ちゃんに頼んだんだけど「プロがやったら違和感ありすぎ!」と断られ、じゃ、自分でやるからコーチしてよ!

 それで、練習のために引っ張り出されたわけ。

 出来心とはいえ生徒会長を引き受けたことで、わたしの錆びついたスイッチが入ったみたい。

 というか、そんな『やる気スイッチ』めいたものが自分にもあったんだと驚いているんだけど、ゆっくり驚いている場合ではない。

 体育祭と言うのは、刻々と変化する競技の行方をリアルタイムで喋らなければならない。

 やってみて分かったんだけど、実況中継って、自転車に似ている。自転車はペダルをこぐのを止めると停まってしまう。停まってしまうとネギの幅ほどのタイヤで支えられている自転車は、すぐに転倒してしまう。

 実況中継のアナウンスも、ずっと喋っていなければすぐに『こける』ものなんだ。だから、一度喋り出したら、とことん喋っていなければならない。

 交差点の様子を観察する自分と喋る自分と、二人の自分を鍛えなければならない。

「そう、自転車といっしょなのよ!」

「やっぱり」

 姉の言葉で、子どものころ自転車の乗り方を教えてもらったことを思いだす。ちょっと懐かしい。

「『観察』と『喋り』って、二つのタイヤがあって、初めて実況中継って自転車は前に進むのよ。よし、今度は駅の向こうの交差点!」

「お、おお(^_^;)!」

 でも、さすがに二カ所続けてというのはきびしい、合計で三十分を超えたところで目眩がしてきた。

「真凡、なかなかスジいいわよ」

 お姉ちゃんは――グッジョブ!――と親指を立ててくれたけど、自分がやりたくないという気持ちが半分なので額面通りには受け止められない。

 落ち着いてから分かったんだけど、お姉ちゃんは母校であるうちの高校には来たくないという気持ちがあるらしい。

 いずれ聞き質したいけど、今は、体育祭なんだ!

 

 梅雨の晴れ間と言うには憎たらしいほどの晴天になった。

 正直ね、生まれて初めて雨が降ればいいと思った。

 お姉ちゃんの特訓でマシになったとは言え、初めてやることは魂が痛むほどに緊張する。

 わたしは、子どものころから――さっさとやっちまおう!――という性格なので、こんなことは初めて。

 でも、テルテル坊主を逆さに吊るほどのヒトデナシでもない。

 

「「じゃ、よろしくお願いします」」

 

 たった二人の放送部員が頭を下げる。

 わたしが買って出たので、放送部は機材の設営だけの仕事でアナウンスからは解放された。

 アナウンスを嫌がる放送部ってどうなんだろって気持ちはあるけど、文化部の多くは、こういう状態なんだ。

 部活の沈滞って問題なんだろうけど、それも生徒会で取り上げるべき問題なんだろうけど、ま、ペンディング。

 取りあえずは体育祭の活性化だ!

 

――心配された空模様も、我が校、第七十回体育祭を寿ぐような快晴となりました。いよいよ入場行進であります、行進曲は伝統の定番『双頭の鷲の旗のもとに』。演奏は本校吹奏楽部2011年度演奏のもので、たったいま、入場門を校旗を先頭に入場行進が始まりました、旗手は生徒会副会長の福島みずき、続いて一年生より入場、一年一組。旗手は安藤忠信くん。クラス旗は、クラス担任の藤本先生の似顔絵。続いて二組……――

 滑り出しは快調! 駅前特訓の成果アリ!

――……第四走者にバトンが渡り、五クラスそろって最終走者、アンカーになりました! 先頭三組は、早くも第二コーナーを回りました! しかし四組のアンカーは陸上部の佐々木君、ラストスパートには目を見張るものが、あ、三組を抜いて四組に……並んで第三コーナーに迫る、迫る! 三組の石田君と並ぶ、並ぶ、並んでええええゴールイン! さあ、優勝は……どうやらビデオ判定に……――

 あらかじめ書記の綾乃が作ってくれた資料(クラスの旗から、走者のプロフまで入っている)にも助けられ、我ながら生き生きした実況が出来た。

 クラス対抗リレー予選ではPTAの方々が、昼休みには、学年を超えて用事もない男子が放送席のあたりをウロウロ。

「え、どの子?」「あの子?」「違うみたい」「影武者?」「生徒会長だって」「どの子が?」「あれ、違うかなあ?」「え、え、ほんとかよ!?」「声と違いすぎ」「で、どの子?」「あの子……違ったっけ?」「イメージ……」「うう、分からん」

 あまりに声も実況も素敵なので、みんなが見に来る。

 でも、あまりに声とイメージが違うので半信半疑、中には替え玉・影武者などと思う人も居て、アナウンスの正体はわが校七不思議に一つになってしまった。

 

 ま、どーーでもいいんだけどね!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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かの世界この世界:176『国生み 事始め』

2021-03-18 09:23:10 | 小説5

かの世界この世界:176

『国生み 事始め』語り手:テル(光子)    

 

 

 カオスの霧はアメノヌホコが貫いていたところだけトンネル状に薄くなっている。

 それを頼りに、ヒルデと二人イザナギ・イザナミ男女神の後をつけ、螺旋を描いてダイブしていく。

「イテ!」

 ヒルデがなにかに接触した、わたしは反射的に、それを避けて、螺旋の半径を大きくする。

「気をつけろ、いつの間にか、ぶっとい柱になっているぞ!」

 ヌホコの貫いた空間が実態を備えて太い柱になっている。

 ヒルデとわたしのダイブに合わせて、柱に文字が現れる。ダイブに合わせて青と赤の文字が走って、まるで床屋の看板を慕って舞飛ぶ虫になったような感じ。

「AMENOMIHASHIRA……」「アメノミハシラ……」

 それはアメノミハシラと読めた。

「なんだ、アメノミハシラとは?」

「たしか……」

 最初に浮かんだのは、FF14に出てくるディープダンジョンの名前だ。

 いや、オノコロジマに聳える柱だから……あ……思いついて、自分でも恥ずかしくなるくらい真っ赤になってきた。

「なにを赤くなってる?」

「いや、ちょっと……ここからはR18だよ」

「R18? ルート18? 国道18号線のことか、国道なら天下御免の公道ではないか、なんの遠慮がいる」

「ヒルデ、あんた、分かってボケてる?」

「ハハ、R指定! 面白いじゃないか、急ぐぞ!」

 ビュン!

「あ、待て、ヒルデええええええ!」

 

 二人でダイブしているわずかの間に、オノコロジマは小さいながら緑豊かな小島に成長し、アメノミハシラは、その中央に聳え立つ巨木のようになっていた。

「隠れて見ていよう」

「う、うん」

 ヒルデと薮の中に飛び込んで、週刊誌の記者のように覗き……いや、観察を続ける。

 素っ裸の二人は、不思議そうに自分と相手の体を見ている。体は大人だけど、その関心は初めていっしょにお風呂に入った幼稚園児のようだ。

「なにか、作りがちがうなあ」

「そうねえ……」

「俺のは、ちょっと余ったみたいで、変なのがぶら下がって……」

「わたしのは、なにか足りなかったみたいで、凹んで穴が開いてるわ」

「その分、イザナミの胸は二つも膨らんでるぞ」

「ああ……でも、そのぶら下がってるものは、なんか次元が違うと思うなあ」

「ほんとうに無いのか? ちょっと位置がずれてるだけとか」

「どうかなあ……ちょっと見てくれる、イザナギ?」

「あ、ああ……なんかすごい(#'∀'#)」

「な、なに赤くなってんの(#^_^#)!?」

「ちょっと頭冷やす、散歩してくる」

「そ、そう、じゃ、わたしも」

 男女神は、それぞれ反対の方向に歩き出した。

「反対側で出くわすわよ、わたしたちも移動しよう!」

「そうだな!」

 男女神はアメノミハシラを巡って反対方向から回る形になって、出くわした反対側で声を掛け合った。

「いやーー、マジいい男じゃない(^▽^)/」

 最初に声をかけたのはイザナミ。どうも、初対面だというシチュエーションで雰囲気を盛り上げるつもりのようだ。

「あ、ああ、きみもなかなか、か、可愛いじゃないか」

「そお(#^▽^#)、じゃ、じゃあ、さっそくやっちゃう!?」

「や、やっちゃうって(#^_^#)?」

「あたしの足りないとこに、あんたの余ってるとこを挿れんのよ!」

「お、おう……」

「さあ、来て!」

「う、うん!」

 ガバ!

 男女神の国生みが始まった!

 ゴクリ……

 ヒルデと二人、薮の中で固唾を呑んで見守った(n*´ω`*n)。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

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らいと古典『わたしの徒然草49 少年老いやすく……』

2021-03-18 05:56:40 | 自己紹介

わたしの然草・49
『少年老いやすく……』    

 



徒然草 第四十九段

 老来りて、始めて道を行ぜんと待つことなかれ。古き墳、多くはこれ少年の人なり。はからざるに病を受けて、忽ちにこの世を去らんとする時にこそ、始めて、過ぎぬる方の誤れる事は知らるなれ。誤りといふは、他の事にあらず、速やかにすべき事を緩くし、緩くすべき事を急ぎて、過ぎにし事の悔しきなり。その時悔ゆとも、かひあらんや。(後略)

「少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず」
 前半はこれと同意ですね。人生はあっと言う間で、なかなか事をなし難い、だからちょっとした時間も無駄にしてはいけないぞ。さっさとやらなければならないことをグダグダやってんじゃねえぞ。

 後半は、ゆっくりやってりゃいいものを、急いでやって失敗すんじゃねえぞってな内容です。

 人が大人になるまでに、折に触れて言われることですね。

 たいていは、格言通りには無しえずに、自分の子どもや生徒やらの若い世代に、自分の事は棚に上げて忠告しては煙たがられます。

 ピラミッドの中の落書きにも「今の若いもんは……」という年寄りの繰り言があるんだそうです。

 いつの時代も、人間とは、世代を超えて、そういうアホらしさがあるもので、それが人間の可愛らしいところだと思います。兼好も、全体を通して読むと、そういう可愛らしさを愛でているようにも思えます。

 まあ、兼好も世間のオッサンと違わないということですね。この四十九段は、教訓めいて、あまり面白くありません。

 少し見るところがあると思えるのは「古き墳、多くはこれ少年の人なり。はからざるに病を受けて、忽ちにこの世を去らんとする時にこそ、始めて、過ぎぬる方の誤れる事は知らるなれ」のところでしょうか、当時の日本人は十人生まれて五十歳まで生きられるのは一割か二割、半分以上は成人するまでに死んでいます。

 わたしはゴジラと同い年です。統計的に見ると、同世代の一割ちょっとが鬼籍に入っています。

 指を折って見ると五人の同級生が亡くなっています。前後三年くらいの幅で数えると、二十人ほどになるでしょうか。分母は「親しい」の括り方にもよるのですが、二百人ほどです。事故死は一人だけで、残りは病死、心臓疾患と癌とが半々というところです。心臓も癌も患っている時間が長く、どの友人知人も、家族込みで大変でした。下世話な話ですが、年金支給前に亡くなると、残されたご遺族(ご遺族も、たいてい知った仲です)の大変さを思うと胸が塞がります。

 兼好さんは、付き合いの多い人ですから縁故の九割が亡くなっていたでしょう。そして、その多くが成人前に亡くなっていることでしょう。

 その死者の数の多さは、戦争で大勢の友人知人を亡くした親たちの世代と同じだと思います。

 生きているうちに、親たちの世代から、もうちょっと話を聞いておけばよかったと、ちょっと思います。

 

 

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真凡プレジデント・25《ここは駅前交差点》

2021-03-18 05:55:52 | 小説3

レジデント・25

《ここは駅前交差点》   

 

 

 わたしは、ままり物怖じしない子だ。

 特別にブスと言うわけでもなく、とりたてていい女と言うわけでもない。

 シルエットはお姉ちゃんに似ていて、ま、プロポーションはまあまあ。

 下校中に、怪しげな足音が付いてきたことがある。

 寂し気な通りに入ったとたんに足音は急接近、これはヤバイ!

 無分別な痴漢や変質者だったら、ここで後ろから抱き付くとか押し倒すとかしてくる。

 痛い目や怖い目に合うのは、わたしだってごめんだ。

 だから、クルリと振り返る――あ、忘れ物思い出した!――みたいな感じでね。

 どうせ襲われるんだったら、正面から向き合って爪の一つも立ててやって、犯人の顔ぐらい憶えてやろうと思った。

 そういう土壇場には、思わぬ勇気が出てくると言うか、変な選択をしてしまう。こんど、生徒会選挙に出て会長に当選してしまったような。

 クルリ!

 するとね、風船に穴が開いたみたいに、そいつのやる気はしぼんでしまう。

 プシュウ……てな効果音が、これほど似つかわしい場面は無いと思った。

 わたしは、そういう気持ちを萎えさせてしまうほどの雰囲気を身にまとっているらしい。

 

 そして、その変質者と数日後に出くわしたと考えてみて。

 

 あの期待を裏切った女だと思ったら、なにがしかリアクションあるでしょ。あ、こいつか……というような。

 それが、まるで無関心。歩行者が速度制限の標識なんか気にしないように、ただのオブジェクトくらいにしか受け止めていない。

 そういう目に遭った時に、お姉ちゃんの妹への関心にブーストがかかるのは、これまでのことでも分かってもらえると思う。

 小学校でも中学校でも、担任の先生は夏休み前までわたしの顔を覚えられなかった。

 中一のとき、部活に入ろうと入部届を持って職員室に行った時のこと。

「すみません、入部届にハンコが欲しいんですけど」

「あ、担任の先生に押してもらって……」

「あの、わたし、先生のクラスの田中真凡……」

「え……?」

 この程度の事は日常茶飯事で、日常茶飯事なんだけど、姉はいちいち笑ってくれる。

 たいてい笑っておしまいなんだけど、ときどき、遠慮なく介入してくる。

 変質者の時は、放送局まで呼び出され、ディレクターと放送作家に引き合わされて「もっかい、みんなに話してちょうだい(^▽^)/」ということになった。

 むろん、きっぱり断ったけどね。

 今度の生徒会や学校の事は、その時と同じくらいに関心を持ってしまっている。

 絶賛失業中で、他にやることもないので、ちょっとしつこい。

 

「たった今、東西方向の信号が青になって、歩行者の人たちが渡りはじめました。こうやって見ておりましても。下校時間のピークだと思うのですが、ご覧ください、交差点を渡る人たちの半分以上が定年は超えたであろうと思われる方々ばかりです。昭和の高度経済成長を支えてこられたみなさんの足どりはしっかりしています。おそらくはまだ現職であったり定年後もお仕事を続けておられるのでしょう、高齢化社会は、まだまだ盤石であるように思われます。下校途中の高校生や学生さんたちは、こころなしか登校時よりもイキイキしているように思えますが、ご年配の方々のオーラは、その高校生学生さんのそれを凌いでいるのかもしれません。見上げる空は梅雨に入ってドンヨリと……」

 四時から、もう三十分も駅前交差点に立って、マイク片手に交差点の実況をやっている。

 少し離れたところにキャップにグラサンのお姉ちゃんがニヤニヤ。

 

 これ、体育祭のアナウンスの練習なんだって!

 

 でもって、いつの間にか、交差点の向こうには、なつきを始め生徒会の面々が。

 ニヤニヤしないでよね!

 むっちゃ恥ずかしんだからさ!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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せやさかい・196『留美ちゃんと朝のナマンダブ』

2021-03-17 09:00:26 | ノベル

・196

『留美ちゃんと朝のナマンダブ』さくら     

 

 

 うちの親もたいがいやけど、留美ちゃんとこもけったいや。

 

 うちは、お父さんが七年以上も行方不明で一昨年失踪宣告になって、法律上は死亡になって、お母さんの実家に母子ともども戻ってきた。ケジメにお父さんのお葬式を出したあとに、今度はお母さんが失踪。

 留美ちゃんは看護師やってるお母さんがコロナに院内感染、日ごろの無理が祟ったのか重症化して、娘の留美ちゃんでも面会でけへん事態に。それで、うちに引き取っていっしょに住むことにしたんやけど、今度は、留美ちゃんが小さいころに離婚したお父さんが学校と、うちの家に現れて、経済的には困らんようにいろいろ手を打って行った。

 せやけど、このお父さんがけったい。

 うちらが後をつけて行ってた同じ時間に、うちのお寺にも現れて、留美ちゃん名義の通帳を預けて行った。

 うちの親のこと同様に、留美ちゃんのお父さんのことも深追いせん方がええという感じ。

 うちのお寺、如来寺は、うちと留美ちゃんを引き受けてくれるだけの、いろんな意味での大きさがある。

 

 ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ

 

 登校前には本堂の阿弥陀さんに手を合わせる。

 ナマンダブのお念仏は三回だけ。特に決まりがあるわけやないねんけど、一回じゃそっけない、二回でも頼りない。四回は多すぎる感じで、三回に落ち着いてる。

 こないだまでは詩(ことは)ちゃんと一緒やったけど、大学生になった詩ちゃんとは時間が合わへんので別々。

 その代わりというわけでも無いねんけど、留美ちゃんがいっしょに手を合わせてくれる。

「なんか、留美ちゃんまで習慣になってしもたねえ」

「うん、最初は真似して手を合わせるだけだったけどね」

 ナマンダブのお念仏は簡単やけども、慣れてへんと口に出すのは抵抗があるかもしれへん。なんか、お念仏唱えると、ほんまもんの門徒(信者)になるみたいで抵抗がある。

「単なる挨拶だったんだよね」

「うん、ナマンダブは『南無阿弥陀仏』で、南無は「もしもし」の呼びかけ」

「サンスクリット語の『ナーム』なんだよね」

 留美ちゃんは賢いからサンスクリット語いうとこに値打ちを感じてるみたい。

「うん、呼びかけにもなるし、気分次第で『おはよう』『ただいま』『ありがとう』『ごめんなさい』『おやすみ』、なんでもありの万能語」

「フフ」

 小さく笑っただけやけど、留美ちゃんの気持ちが落ち着いてることの現れやさかい、うちも嬉しい。

 で、登校前になにをグズグズしてんのかというと、今日は登校時間が二時間遅い。

 電気設備の故障の修理で始業が十時半になったから。

 安泰中学がいかにボロかということやねんけど、堺市で、うちの学校だけがゆっくりやいうのんは、得した気ぃになる。

「阿弥陀さんだけじゃないんだよね」

「ちょっと、見てみる?」

「え、いいの?」

 お寺の本堂いうのは、内陣と外陣(げじん)で出来てる。

 外陣は檀家さんやらが手を合わさはるとこ。内陣はご本尊の阿弥陀さんらの須弥壇があるとこで、外陣よりも一段高くなってる。時代劇で言うたら、お殿様がお小姓とか侍らせて座ってはるとこ。

「お小姓みたいなものなの?」

 留美ちゃんはご本尊の両脇に興味が湧く。

「ええとね、こっちが聖徳太子」

「え、聖徳太子? なんで?」

「え……なんでやろ?」

 見慣れてるから不思議にも思えへんかったんやけど、なんで、お寺に聖徳太子?

「アハハ、また気いとくわ(*´ω`*)」

「こっちは?」

「あ、ここの歴代住職」

「立派なお坊様だったのねえ」

「いや、それほどでも……」

 一種の系図みたいなもんやねんけど、初代から数えて十二人の坊主の名前が肖像付きで掛け軸になってる。見かけは大名の家系図(社会の資料集とかに載ってるやつ)みたいやけど、お寺では普通にある。

 

 お早うございます!

 

 急に声が掛かって、留美ちゃんともどもビックリする。

「あ、銀之介!」

「本堂のほうだって、聞いたもんですから」

「あがって、あがって、荷物はこっちのほうやから」

「はい」

 唯一の一年生部員夏目銀之助。

 ここのとこ部活どころやなかったんで、みなさんにはご無沙汰やった子ぉです。

 学校の部室も充実させならあかんので、急きょ荷物の一部を学校に持っていくことになったんです。

 本格的な春を目前に、わたしらの周囲は少しずつ変化し始めてるみたいです。

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らいと古典『わたしの徒然草48 光親、おまえも食ってみろよ』

2021-03-17 06:27:03 | 自己紹介

わたしの然草・48
『光親、おまえも食ってみろよ』    



徒然草 第四十八段

 光親卿、院の最勝請奉行してさぶらひけるを、御前へ召されて、供御を出だされて食はせられけり。さて、食ひ散らしたる衝重を御簾の中へさし入れて、罷り出でにけり。女房、「あな汚な。誰にとれとてか」など申し合はれければ、「有職の振舞、やんごとなき事なり」と、返々感ぜさ給ひけるとぞ。

 ある日、天下太平を祈るパーティーに藤原光親が、お招きにあずかりました。
 で、光親は、後鳥羽上皇から、食べかけの料理を勧められました。
「これ、美味いからよ、光親、おまえも食ってみろよ」
「それは、それは……」
 と、光親はテキトーに食べて、トレーごと御簾(スダレ)の内に食べ散らかしたものを差し入れた。
 で、コンパニオンのオネエチャンである女房たちが、呆れかえった。
「わ、キッタネー。ここは大学の学食とちゃうねんよ。なんちゅうオッサンや、あたしらに片づけろってか!」
 そこへ、ホストである後鳥羽上皇がお出ましになり、こうおっしゃった。
「さすが有職(宮中のしきたり、マナー)に詳しい光親。粋なことするやないか」
 と、感心なさったとか。

 これはすごく変です。上皇サマからのクダサレモノを食い散らかして、トレーごと御簾の内、つまり、上皇さまの席近くにポイとウッチャラカシて消えてしまった。テーブルマナーを知らない、わたしのような田夫野人のオッサンのようで、光親は変である。それを「粋なことを」と、感心する上皇さまも変。

 変だから、兼好のオッチャンは書いたのでしょうが、どこを、どの程度変と思って書いたのか分かりませんが、後鳥羽院と光親の阿吽の呼吸的な君臣の親さを面白く感じたのだろうと思います。

 その後の光親と上皇は、以下のようになります。
 承久の変(承久三年)の時、後鳥羽上皇が北条氏の討伐の企てに際し、クールな藤原光親はまだまだ時期尚早と上奏しましたがヤンチャクレな上皇には聞き入れられません。その後、光親は義時追討の案文を上皇に書き。このことは、上皇の謀議共々鎌倉にもれ、謀議に参加した光親卿は捕われの身となり、鎌倉護送の途中で篭坂峠において打ち首になってしまいました。

 承久の変は、名前ほどには上級ではありません。武士の力は、たとえ将軍たる源氏の血筋が途絶えようと、揺るがぬものでありました。あっさり、鎌倉に動員された十九万の軍勢に破れてしまいます。そのあたりの機微を知っていれば、このTSUREDURE48は、兼好のオッチャンの時代と、人を見る目のシタタカサとタシカサを感じさせてくれる段であります。

 これに似たエピソードが百年前にありました。

 阿波と淡路を領国としていた蜂須賀家は、その遠祖を蜂須賀小六という地侍……もっとアケスケにいうと、夜盗の頭目であります。それが、豊臣、徳川の時代を泳ぎ切り、無事に明治の御代に華族に列せられます。
 当時は、テレビはおろかラジオも無い時代。人々の娯楽は歌舞伎や講談、浪曲であります。
 そのポピュラーな演目が『太閤記』です。『太閤記』では、矢作川の橋の上で寝ていた藤吉郎(後の秀吉)と、夜盗の頭目、蜂須賀小六との出会いは、前半のヤマであります。
 今で言えば、総理大臣の名前は知らなくても、AKB48は知っている! と、いうぐらいにポピュラーな話であります。
 蜂須賀家は、これを気にして、偉い大学の先生に頼みました。
「先生、なんとか我が祖である蜂須賀小六が……ではなかったと、証明してください」
 と、頼んだ。
「まかせてください」
 先生は胸を叩いて資料、史料にあたった……結果。
「やはり蜂須賀小六は……で、あられたようで……」
 で、蜂須賀さんは、ガックリきていました。

 そんなある日、蜂須賀さんは明治天皇のお呼び出しをうけ、歓談していました。

 明治天皇が、所用があって、しばし、その場を外されました。蜂須賀さんは何気なく、テーブルの上の菊の御紋入りのタバコを一握りポケットに突っこみます。まあ、家人へのお土産と思われたのでしょう。当時は「恩賜のタバコ」と、大変ありがたがられたものです。
 所用を終えた明治天皇が、お席に戻られると、タバコがゴソっと減っている。
「ワハハ、蜂須賀、血は争えんのう」
 陛下は、たいそう面白がられ、蜂須賀さんも、恥ずかしいやら面白いやらで、笑っちゃった……。
 これは、司馬遼太郎さんのエッセーに出ているエピソードです、明治という時代の明るさと大らかさを現していますね。
 ちなみに、タバコに刷られていた菊紋を考案したのは、わたしの記憶違いでなければ、後鳥羽上皇です。
後鳥羽上皇の想いは、奇しくも数百年の時を経て、蒸留酒のようなウィットになりました。

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真凡プレジデント・24《大学芋とアナウンス》

2021-03-17 05:52:41 | 小説3

レジデント・24

大学芋とアナウンス》 

 

 

 待ってるだけじゃつまんないからさ~

 

 姉貴が即興体育会系バラエティーを公園で始めたのは、そういうことらしいが、別に咎めているわけじゃない。

「学校の体育祭に欠けているのは、そういうことだと思うのよ」

「学校って、真凡の?」

「そう、大学芋食べる前に聞いてくれる」

「え、あ、うん、きくきく」

 押しのけた大学芋を目で追いながら、それでも熱は籠ってる。可愛い妹への愛情ではなく五百円で三百グラムの大学芋への愛着からだけど、まあ、いい。

「もちろん体育祭でもアナウンスはあるんだけどね、なんちゅうか、無機的にお品書きみたいなプログラム読み上げたり、召集を掛けたりだけで、熱がこもってないのよね。肝心の競技になったら沈黙するし、さっきのお姉ちゃんみたいにやれば、みんな集中するし盛り上がると思うのよ」

「それはそうだろうね、でもさ、そういう楽しい話は食べながらだったら、もっと充実すると思うんだけど……」

「だからさ」

「ちょ……」

「だーかーらー」

 クッションでオアズケバリアーを展開して、核心部分を言う。

「なんで、オアズケなのよ~(´;ω;`)ウゥゥ」

「お姉ちゃん、体育祭のアナウンスやってよ。お姉ちゃんも、うちの卒業生で気心も知れてるしい、みんなも喜ぶしい」

「そりゃダメだ」

「どうしてよう、放送局も辞めたことだし、こだわることないでしょ!」

「やっぱ、プロのアナウンサーがベシャリやったら異質すぎるって」

「そう?」

「そうだよ、焼き芋の中に大学芋が混じってるよりも異質。2Dのアニメに、そこだけが3Dみたいな。実写の中に、そこだけがアニメみたいな。肉まん食べたら、真ん中がアンコだったみたいな。餃子を食べたら中身がチョコレートだったみたいな。ワサビの代わりにウグイス餡を仕込んだみたいな」

「例えが、食べ物ばっかみたいになってるし」

「いや、だーかーらー、早く食べさせなさいよー!」

「だったらさ、学校に通って放送部のコーチとかやってよ」

「えーーだーるーいーよ、そんなのおおお」

「だったら、お芋はオアズケよ~~~(^^♪」

 思わずメロディーが付いてしまう。わたしって、意外にSなのかも。

「そうだ、真凡がやんなよ! うん、姉妹だから声質にてるしい、ちょっち劣化版的わたしで、いいよいいよ!」

「ちょ、ちょ、迫ってこないでよ。く、来るなあああ!」

 そういういきさつで、わたしはアナウンスの特訓を受けるハメになってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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誤訳怪訳日本の神話・30『スサノオは岩屋が大好き』

2021-03-16 14:38:52 | 評論

訳日本の神話・30
『スサノオは岩屋が大好き』    

 

 

 娘のスセリヒメが一目ぼれしたオオナムチにスサノオは試練を与えます。

 試練と言うよりは……よく言って嫌がらせ。現代の感覚ではイジメですね。

 オオナムチは、ヒョロッとした優男なので、イジメてやれば逃げ出していくと思っていたのでしょう。

「蛇の岩屋で一晩寝てろ」

 一匹や二匹の蛇ではありません。何千何万という数の蛇です。ひょっとしたら毒蛇も混じっているのかもしれません。その中で寝てろというのは――すぐに目を回して逃げるだろう。いや、言っただけで逃げ出すかもな――ぐらいに舐めていますし、悪意があります。

「はい、わかりました」

 オオナムチは素直に返事します。

 ヤソガミたちに大荷物を持たされても、手間山で赤猪を掴まえてこいと言われても「うん、分かった」と微塵も疑いません。手間山では騙されて真っ赤に焼けた大岩の下敷きになって焼け死んで、母のサシクニワカヒメは気も狂わんばかりに嘆き悲しみますが、当の本人は「あ、生き返った」ぐらいの感覚でした。

 どこか鈍いのか、人がいいのか、この鈍さとも人の好さというものがヤガミヒメにもスセリヒメにも魅力だったのかもしれません。

「ねえ、この領巾(ひれ)を使って」

 スセリヒメは身にまとっていた領巾(ひれ)をオオナムチに渡します。

 領巾(ひれ)とは、古代の女性が首にかけていたマフラーとショールの間ぐらいの装身具の布です。

 これは蛇の領巾で、一振りすれば蛇たちは逃げ出して、オオナムチは何事もなくグッスリと眠れました。

 

「くそ、今度は蜂とムカデがいっぱいの岩屋で寝てろ!」

 

 スサノオは岩屋が好きです。人をイジメるのには岩屋が一番だと思っているようです。

 父のイザナギが死んだイザナミを追っていった黄泉の国の長大な岩屋ですし、姉のアマテラスが籠って地上も天上も真っ暗闇にしたのは、天岩戸という岩屋に籠ったからです。

 どうも、スサノオの深層心理には岩屋=怖いものという図式があったようです。

 昔の子どもは悪さをすると押し入れとか倉とかに閉じ込められました。

 自分から入るぶんには面白い閉鎖空間なのですが、閉じ込められると恐ろしいものです。

 わたしたちが子どものころ、空き地などに壊れた冷蔵庫が捨ててありました。隠れん坊をやっていて、自分から冷蔵庫の中に入って、見つけられることもなく、自分から出ていくこともできずに窒息死してしまうという事故が、時々ありました。

 トイレの花子さんが怖いのも、あの暗くて狭い岩屋のごとき個室に入っているからなのかもしれません。

「うちのお父さんは岩屋しか能がないから、対策は万全よ(^▽^)/」

 そう言って、また別の領巾を貸してくれ、無事に一晩を過ごすことができました。

 古事記には書いていませんが、おそらくは娘が手助けしたことを知ってはいたんでしょうねえ。

 目に入れても痛くない娘ですから、スセリヒメを非難することはしません。

 その代わり、今度は三度目の正直とばかりに、はっきりと殺意を持ってオオナムチに命じます……

 

 

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魔法少女マヂカ・202『常盤橋 ゾワアアアアアアアアアアア』

2021-03-16 09:55:45 | 小説

魔法少女マヂカ・202

『常盤橋 ゾワアアアアアアアアアアア』語り手:マヂカ    

 

 

「二人は、ここで待っていて」

「「う、うん」」

 

 橋を渡り切ると、霧子とノンコを残し、ブリンダと二人で偵察に向かう。

 不穏なのだ。

 なにか禍々しいものが蟠っているような、空気が粘ってまとわりついてくるような不穏さがあるのだ。二人にはぼかしてあるが、単に震災痕が危険と言うだけではないことを肌で感じて頷いてくれた。

「新畑というのは明智小五郎のなりそこないだったんだけどね」

「明智……あの謀反人の子孫か?」

「いや、ただの同姓だ。江戸川乱歩の創作物だけど日本有数の探偵、『D坂殺人事件』で世に出るんだけど、それは団子坂の喫茶店で可能性が無くなったよ」

「作者を始末したのか?」

「言うことが剣呑だな」

「アメリカならそうする。必要とあれば大統領だって始末するぞ」

「ケネディーを殺ったのはブリンダか?」

「まさか」

「新畑自身がやったんだ、霧子はダシに使われた感じがするんだけど、追及すると藪蛇になりそうな気がしてね、わたしとしては観察中よ……」

「Das Kapital」

「マルクスね」

 凌雲閣のドアに挟まっていた紙片は『Das Kapital』、つまり『資本論』の断片だった。

 大正末から昭和の初めは日本においても共産主義の勃興期だ。震災を挟んだこの時期にも明らかになったもの以外にも凄惨な事件やテロが起こっている。

「この時代は、ロシアやヨーロッパの事に目を奪われて日本の事は二の次だったからな」

「そうね、ブリンダもわたしも自分の国には戻れなかった。震災前後の事は書類で知っているだけ……だから、見当がつかない。『Das Kapital』は主義者からの警告か主義者を警戒しろという戒めなのか……どうかした?」

 二丁目の角に差し掛かったところでブリンダが立ち止まった。

―― 来るぞ ――

―― 西と東 ――

 思念を交わすと、ブリンダは東の人形町方向、わたしは西の日銀通り方向に駆けた!

 感じた気配を瞬間で分析、揃って戦うよりも二人分散して戦った方が有利という結論を確認することもなく行動に出た、魔法少女の勘だ。

 禍々しさは秒速で高まってきて、空気の粘度が増していく。

 時間が停まりかけている……第一級の魔物は時間を弄って襲ってくる。二線級は時間を遅らせるだけだが、一級となると完全に時間を停める。時間を停められれば人間の武器は核兵器でも役に立たない。魔法少女が対抗する以外に手は無いのだ。

 ギュイイイイイイイイイイイイイン

 まるで空気が凝固していくような抵抗感、髪の毛や皮膚が後ろに持っていかれそうに突っ張らかる!

 パキーーーーーーーーーーーーーン!

 弾けるような感覚があって体が自由になる。

 音速の壁を超えた感覚に似ている。時間の壁を超えたのだ。

 常盤橋の手前に、まるでフィギュアを並べたように人の列。ほとんどが軍人だ。

 その軍人の列の中ほどに小柄な左官級の軍服。その左官級に将官たちがゾロゾロ……摂政の宮殿下だ。

 平時なら馬か車で移動されるのだろうが、事細かに被災状況を視察するためだろう、徒歩での御視察だ。

 まずい、あまりに無防備。

 ゾワアアアアアアアアアアア!

 常盤橋周辺の地面が鳥肌を立てたように泡立ったかと思うと、鳥肌の一つ一つから無数の黒い影が飛び出して摂政の宮殿下の列に襲い掛かった!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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真凡プレジデント・23《これをやれば体育祭は盛り上がる!》

2021-03-16 06:52:53 | 小説3

レジデント・23

《これをやれば体育祭は盛り上がる!》  

 

 

 

 目立たない格好のつもりらしい。

 

「でしょでしょ(o^-^o)、番組で着てたおシャレなジャージだから、ちょっとだけね、スクールジャージみたく白線とかネームとか入ってないし、狸穴坂46とオソロだし、コンセプトは『書を捨てよ街に出よう』だから、パジャマ、部屋着、ちょっとした外出着にもなってえ、引きこもり応援グッズのベストワンだったしさ、自然に溶け込んで目立たないっしょ」

「喋ったら目立つ!」

 グイグイ引っ張って家に帰る道すがら、姉貴は陽気に言い訳ばかりしている。

 小さいころからのモテカワで、高校と大学のミスコンではずっと一等賞。女子アナになってからは、いっそう磨きがかかり某週刊誌で『恋人にしたい女子アナ!』のナンバーワンになった。いくらジャージ姿でも姉貴は目立つんだ。それに、いくらオシャレでもジャージはジャージ、狸穴坂46だって不振で解散してるし、理由はダサイアイドルだったし、落ちぶれ女子アナ宣伝してるようなもんだし、やっと世間は忘れかけてるっていうのに、ジャージ姿で買い食いなんてあり得ないんだよ!

「ねえ、これだけ買いに行かせてよ~」

 折り込み広告なんかヒラヒラさせんな、ちょ、顔に貼りつけんな!

「……大学芋?」

「そ、コロッケじゃないんだよ! 匂いもしないからさ、これだけ買いに行かせてよ! 行かせてよ真凡ちゃ~ん」

「ウウ……ダメだあ」

「ね、家に帰るまで食べたりしないからさ」

 立ち止まったのが中町公園の前、やっぱ、人がチラチラ見ている。これ以上ことを荒立てたくないわたしは「先に帰ってジッとしとくこと!」チラシをふんだくって商店街に舞い戻る。

 

 で、やっと宿敵の大学芋を買って戻ってみると、公園の一角に人だかり。

 

 買い物帰りのオバサンや、下校途中やらそうでないのやらのガキども、シルバー人材センターご指名の公園整備のお年寄り。

 でもって、その人だかりの真ん中には不肖の姉貴。だれが持ち込んだのかけん玉で賑わっている。

 とても、その輪の中に入っていく気にはなれずに木陰に隠れる。

――やっぱ、腰の入り方! 失敗してもフォームがお見事! 大勢でやると楽しさ倍増! これは延長戦か!? いま、ドキッとした? アハハ、笑顔でやらなくっちゃ何事も~ よーし、じゃ、つぎはみんなで駆けっこだ! 低学年の部と高学年の部と、それ以上に分けまーす!――

 職業柄かよくしゃべる。

 喋るだけじゃなくて、姉貴の喋りは場を盛り上げる。

 

 そーっと木陰から覗いてみると、みんな、姉貴よりもけん玉に夢中になり始めている。

 けん玉くらいで、こんなに人は熱狂はしないだろう。盛り上げたのはジャージの姉貴……。

 

 閃いた! これをやれば体育祭は盛り上がる!

 けん玉大会が終わるのを待って、ジャージ女を引っ張って家に帰る。

「ん? なんか、さっきまでの真凡と違くない?」

 わたしは、なんとか家に帰るまでは耐えるのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

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銀河太平記・035『リトルナースのコスと対空戦闘訓練』

2021-03-15 09:00:54 | 小説4

・035

『リトルナースのコスと対空戦闘訓練』未来   

 

 

「ホログラムでも、アルルカンのパルスは強烈だからね」

 わざわざナース服でミナホが慰めてくれる。

 アルルカンのホログラムがわたしの体を通過してから熱っぽくて、ちょっと体のバランスが崩れてキャビンで横になっているのよ。すぐにミナホが飛んできてくれて治療をしてくれているところ。

 ミナホは人間だかガイノイドだかよく分からない。ダッシュのいやらしい目つきから、たぶんH系ガイノイドを魔改造したものだと思うんだけど、感じるオーラは人間の美少女。

 あ、ガイノイドって言うのは女性型のアンドロイドのことなんだけど性差別に繋がるというので、扶桑語や日本語では『女性型アンドロイド』、国際的には『フィーメルアンドロイド』って言う。言うんだけども、言葉としては『女性看護師』と同じく長ったらしいので、改まった場合でなければガイノイドと言ってる。

 ロボット基本法ができて、ロボットを人間と区別することは禁止されたので、自律型ロボットが現れて以来義務付けられていたロボID(ロボットの頭上に出てるIDホログラム)が無くなり、素人ではロボットと人間の区別がつかなくなった。

 パルスというのは、この宇宙に存在する無機物・有機物・エネルギーが個別に持っている振動波のことで、これを難しい技術で増幅したり変換したりすることで個体識別ができたり、強烈な動力や武器になるんだよね。

「ホログラムは映像パルスだから微弱なものなんだけど、敏感なひとにはね……えと、このサプリが効きそうね」

「え、薬のカタチしてる?」

「うん、この方が、治療してもらったって実感があるでしょ、胃の中で溶けて中和パルスを出してくれる」

「そうなんだ」

「じゃ、いちおう安静にしていてね(^▽^)/」

「うん、あ、はい……ちょっと、ダッシュの目線、いやらしいんですけど」

「んなことねえーよ」

「「いやあ、あるある」」

 テルがニヤニヤと、ヒコが真面目に同調する。

「あ、このナースのコスよね」

「あ、っていうか、治療の仕方も時代劇みたいで」

「『も』ってゆーことは、コスにも興味津々てゆーことなよろがぁ?」

「リトルナースって言って、二百年前の製薬会社のトレードマークらしいです」

「あ、メン〇レータム!」

「さすがはヒコさんです。でもリトルナースのモデルはナイチンゲールだとも言われています、由緒正しいんですよ」

 たしかに、濃紺のワンピに純白のエプロンとナースキャップ。現代の折り紙みたいにシンプルなナース服よりも「治療します!」って雰囲気がある。

 ビーービーービーー

 和気あいあいになってきたキャビンに非常警報が鳴り響き、みんなビックリ、見の軽いテルなんか、三十センチほども飛び上がり半回転して頭から落ちそうになったところをヒコに受け止められている。

『今から対空戦闘訓練をやる! 総員戦闘配置! 総員戦闘配置! 乗客も協力してもらう、キャビンに備え付けのヘッドギアを装着! 指示に従ってくれ!』

「ああ、本気だあ……」

 ミナホがため息をついて、ベッドの下から人数分の非常用ヘッドギアを取り出す。

「ベッドに横になって装着してください、コンソールに銃座が現れますから敵を発見次第撃ってください、適当でいいですから」

 そう指示すると、ミナホのコスは白地に紺線の入ったバトルスーツに変換された。

 ヘッドギアを装着すると、視界が青白くなったかと思うと、銃座が現れる。

 周囲の壁が消えてなくなり、ファルコンZは船体各所に配置されたパルス機関砲の銃座だけが見えるようになる。各銃座には船長以下の乗組員の他にも、元帥、宮さま、ヨイチ准尉、すみれ先生も配置され、本当に総員戦闘配置になっている。

 銃座の操作方法がインストールされたんだろう、頭の芯がホワっと熱を持つ。

 コンソールに複数のドットが浮かび上がる。

 敵認定!

 したかと思うと、一瞬で体が動いてパルス機関砲を敵に指向させた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

 

 

 

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