大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!9『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-22 07:03:59 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

9『ダークサイドストーリー・5』 




 片岡先生は、中庭の池を泳ぐ鯉を見ている。

 池は、五十坪ほどの中ノ島を取り巻いてドーナツ状になっている。鯉たちは前に泳いでいるつもりかもしれねえが、実際は、ドーナツ状の池をグルグル回っているだけなんだぜ。

 鯉が回遊しやすいように、ポンプで、適当な水流を作り出してあるんだ。

 鯉のやつらは上流に向かってのんびり遡っているような気になっていやがる。

 バカみてえだけど、これを作った人間に悪意はねえ。鯉が運動不足にならないようにとの気配りなんだ。

 じっさい、この学校の鯉は長生きで体格も良く元気に育ってやがる。視察にきた知事が「ぜひ一匹譲って欲しい」と申し出たぐらいだ。

 だけどよ、一匹だけ、回遊のアホらしさに気づいたのか、一カ所くぼんだとこに停まって動かない鯉がいたぜ。

「オレに似てるなあ、お前は……」

 片岡先生は、その鯉に親近感を感じていた。

 でもよ、回遊している鯉も、わだかまっている鯉も、どこへも行けないという点では同じなんだけどよ。


 パシャ


 その鯉が、何に驚いたのか、水音をたてて跳ねた。

 よく見ると、新顔の錦鯉が泳いでいる。どうやら、その新顔に驚いたみてえだ。

「知事さんが、気に入った鯉が欲しいっていうんで、交換に持ってきた新顔ですよ。ただ貰っただけじゃ、どこかの知事みたいに追及されますからね、前のより値の張るベッピンですよ」

 庭木の手入れをしていた技能員のおっちゃんが、問わず語りに解説する。

「若い雌でしてね、そのスネた鯉は、あまりのベッピンぶりにタマゲタのかもしれませんねぇ」

 片岡先生は、自分のことを言われたような気がしたぜ。

――しかし、オレは違う……だって、シンディーは、とっくに死んでしまったんだから――

 片岡先生の思念を感じて、利恵のやつは混乱し、マユは一つの結論に達したぜ。

「利恵、おまえ、頭の中スクランブルエッグだろ」

「そ、そんなこと無いわよ!」

 渡り廊下の窓から、中庭の片岡先生を見ながら、二人のオチコボレは声を交わしたぜ。

 こっちは悪魔語り、利絵は天使のささやきで、志向した相手にしか聞こえねえ喋り方なんだけどな。思念よりも気持ちが通じる。

「アミダラ女王から、メリッサ先生を検索したのは大したものだったよ。さすがガブリエルの姪っこだぜ」

「だって、片岡先生の心には、メリッサ先生が住んでいた。だから二人が出会えるようにしたのに……」

 パチャン

 また鯉が跳ねた。

「片岡先生は、メリッサ先生を見て、シンディーって呼んだんだ……ほら、今でも心の中でシンディーを呼んでるぞ」

「だって、DNAまで調べたんだよ」

「天国のスパコン使ってなぁ」

「うるさい! 悪魔みたいにアナログじゃないのよ。たえずイノベーションしてんのよ!」

 中庭に面した、英語科の準備室からメリッサ先生が、当惑したような顔で中庭の片岡先生を見てやがる。

「メリッサ先生もとまどってるぞ」

「おかしいなあ……」

 そのとき、知井子が声をかけにきやがった。

「ねえ、マユ、お昼いこうよ。みんな待ってるよ」

「あ、ごめん。すぐに行くから。ランチの食券買っといて」

 マユは、財布から五百円玉を出しながら、利恵に言った。

「一卵性の双子は、DNAがいっしょなんだよ」

「え……双子!?」

 思わず声になってしまい、近くにいた生徒たちが驚いた。


 そう、利恵とマユは、渡り廊下の二階と三階にいて、話し合っていたんだ。


――天使の親切、大きなお世話ってな――

――そんな――

――片岡先生は、シンディーの名前さえ封印して、記憶の底に鍵をかけていたんだよ。もう、片岡先生、立ち直れないぞ。おめえが撒いた種だから、もう一度検索しなおしたらぁ。いっぱいコンピューター使って。じゃ、よろしくな――

 プツン

 マユは、利恵との思念のチャンネルも切って、食堂に向かったぜ。

 利恵は、混乱しながらも、天国のスパコンにアクセスしてメリッサの情報を検索しなおしやがった。

 答えが出てこない……。

 天国のスパコンでは間に合わないので、人間界の何十億ものパソコンにアクセスするように命じた。天国のスパコンはプライドが高いので、最初は拒否したが、バグの報告をすると言うと、しぶしぶアクセスした。

 それは、数年前のフェイスブックから出てきた。

〈ジョンソン・オブライエン:娘のシンディー・オブライエンは、交通事故で、今日、神に召されました。でもシンディーにはシロ-・カタオカという恋人がいて、神に召されるまで彼女を見守ってくれました。シンディーは幸せに旅立っていきました。そちらのメリッサにはご内密に〉

 シンディーとメリッサは、双子の姉妹で、赤ん坊のころにシングルマザーが亡くなったので、それぞれ違う里親に預けられたんだ。里親同士は、SNSで知り合い、情報を交換していた。

 それを利恵は気づかなかった。

――くそ、憶えてろぉ……落第小悪魔め!――

 利恵は、見当違いの憎まれ口をたたきやがった。たとえ小悪魔相手とは言え、天使が憎まれ口をたたいちゃいけねえんだけどな。

 こういう利絵は、ちょっと可愛くてよ、悪くねえと思うぜ。

 さあ、ご飯食べに行こ!


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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銀河太平記・249『突出する准将』

2024-09-21 09:20:49 | 小説4
・249

『突出する准将』 胡盛媛中尉




 国境の向こうで戦闘が始まっても我が騎兵三個旅団は、順番待ちのパレード部隊みたいに落ち着いている。いたずらに緊張したりテンションが上がっているのは、わずかの新兵たちと、うちの准将ぐらい。

 まだ少年の匂いの残る二等兵はともかく、准将がワタワタしているのは、ちょっとみっともない。

 うちの准将は兵学校こそは出ているけど、ほとんど軍政畑に身を置いて、戦闘経験はおろか実戦部隊に居たこともほとんど無い。

 わたしがしっかりしなくっちゃ。

 一人は全員のために、全員は一人のために……お父さんが教えてくれた。

 単なるスポーツの教訓なんかじゃない。軍隊、いえ、人が複数で行動する時には必要な心構えだって言っていた。

 見渡すとあがっている新兵のそばにはベテランの兵が付いている。あるいは、伍長や先任の兵が寄り添っている。

 わたしも僭越ながら准将の傍でお助けしなければ!


 カメラを国境の向こう、始まったばかりの戦場に向ける。


 活発に両軍の騎兵が動く中にひときわ大きな騎兵があちこちに見える――青銅の騎士――だ。

 モンゴルの騎兵は巧みに青銅の騎士を躱して通常の騎兵を攻撃している。数騎で取り囲んだかと思うと、直後にその場を離れる。すると、ロシアの騎兵が倒れる。時どきは二三騎まとまって倒され、次の数騎が止めをさす。

 モンゴル騎兵のワイヤー攻撃だ。でも、青銅の騎士には通じない。青銅の騎士はその大剣で易々とワイヤーを切り、直近のモンゴル騎兵を追って、馬ぐるみ切り捨てていく。

 しかし、モンゴル騎兵も、その間に一騎二騎と敵と味方の間に入り青銅の騎士の目を逸らせて、味方を救う。しかし、その救助も必ず成功するわけではなく、まとめて返り討ちになるモンゴル騎兵もチラホラ。

 10分ほどすると、モンゴル兵は青銅の騎士を避けて、通常の騎兵や、その背後の騎兵砲部隊に襲い掛かる。奥に入り過ぎたモンゴル騎兵を青銅の騎士を先頭に数騎のロシア騎兵が囲み、討ち取られる者、逃げおおせる者。ざっと見て五分五分の戦い……いや、微妙にモンゴルが押されているのかもしれない。

 数の上では、圧倒的にロシア兵が多い。この戦いぶりでは、時間が経つとモンゴルが不利だ。

「そうとも限らないわよ……」

 いつの間にか准将とわたしは劉宏元帥の傍まで来ていて、元帥は、わたしの心配が分かったように呟やかれる。

「全軍、西北に移動」

 元帥は右手を上げて進路を示し、静かに移動し始める。

 攻撃に移るわけではない、牽制しているんだ。ロシア軍が吊られて横に伸びる。本能的に漢明軍の介入を恐れているんだ。

 その僅かな怖れの隙を狙って、十騎あまりのモンゴル騎兵が一騎の青銅の騎士を取り囲み、甲冑の隙間目がけ、同時に銃を撃つ。

 パパパパーン!

 ほとんどゼロ距離射撃された徹甲弾は、騎士の関節を狂わせ、一ニ発はメインサーキットにダメージを与えて無力化していく。一体だけだったけど、突然爆発して支援に来た通常騎兵もろとも爆散する個体もいる。

「おもしろい!」

 ひとこと叫ぶと、准将は突然駆けだした!

「部長!」

 わたしも追随する。このまま駆けては国境を超えて戦場に突入してしまう。広報とは言え軍人、軍服を着て携帯用の銃は持っている。戦闘への参入ととられても不思議ではない。背後の味方には期待できない。大人数が出てしまえば、本当の参入、参戦になってしまう。

 一刻も早く連れ戻さなきゃ!

「部長ぉー! 准将ぉー! 停まってくださーーい!」

 声が届かない……准将の馬は上級将校用のオートホース、わたしのはリアルポニー。届かないかぁ……。

 これはもう、准将の馬を撃って強制停止……カメラを銃に換えて狙ってみる……でも、射撃に自信のある方じゃない。間違って准将に当ってしまうかも。

 ピピピピ ピピピピ

 あ(''◇'')!

 迷っているうちにハンベのアラーム。

 国境を超えてしまった!!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!8『ダークサイドストーリー・3』

2024-09-20 09:45:32 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

8『ダークサイドストーリー・4』 
 
 本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです




 雅部利恵(みやべりえ)はヤキモキしてやがった。


 利恵は、片岡先生がメリッサ先生と出会うのを心待ちにしてやがったんだ。

 マユといっしょに時間を止めたときに、利恵は確信しやがった。片岡先生は留学中のアメリカでメリッサ先生に出会って、好きになったんだとな。

 片岡先生が、その女を好きだという気持ち、それを押し殺していること。そして、片岡先生の心に浮かんだブルネット女のDNAを読み取り、天国のスパコンで検索して、シアトルにいるメリッサを見つけた。そして、前任のスミス先生に宝くじが当たるように仕掛けをして、英会話の先生の席を空席にしやがった。

 で、ネットで英語講師の募集が、メリッサの目に止まるように白魔法をかけて、たった一週間でメリッサを、この学校の英会話の先生にしちまいやがった。

 こんな離れ業ができるのは、利恵が大天使ガブリエルの姪だからだ。伯母のガブリエルは自分自身、一度天界を追放されたことがあってよ、姪で落第天使の利恵に目をかけていたんだ。

 ドジャーズの『踊るグランド・キーパー』っていうチアガールをやっていたメリッサが契約切れになったことは偶然なんだけど、彼女が日本アニメの大ファンでよ、彼女の気持ちを日本に傾斜させることは簡単みてえだった。
 そして、契約切れになった日に、ネットで、日本の学校が英会話の講師を探していることに気づかせるのは、もっと簡単だった。伯母のガブリエルは通信を司る大天使だしな。

 むろん、魔界でこんな公私混同は、ぜったいできねえ。ほんとに天界てのはアマチャンにできてるぜ。

 けども、メリッサ先生が、片岡先生に出会うのは一週間もかかちまった。メリッサ先生の勤務日が、週に三日しかないことや、いっしょになった日も、なにかと二人はすれ違って、なかなか会うことができなかったからだ。

利恵:――マユ、あなた、わたしの邪魔しないでくれる!――

 二度目もすれ違いで終わってしまったとき、利恵は、マユのせいだと思いやがった。

マユ:――知らねえよ!――

 マユはプンスカして答えたぜ。

 ちょうどルリ子が沙耶の宿題をこっそり写しているところを邪魔していたところだった。

ルリ子:――そうだ、ポキポキ折れるシャーペンで写さなくても、携帯で写して、あとで書けばいいんだ!――

 マユのシャ-ペンの芯折りの魔法がお留守になった瞬間に、ルリ子は小悪魔顔負けの悪知恵をはたらかせやがった。

利恵:――だって、こんなに二人の出会いが遅れるのは、悪魔の仕業としか思えないじゃない!――

マユ:――だから、知らねえって!――

利恵:――とにかく、邪魔はしないで。わたしの単位がかかってるんだから――

マユ:――邪魔なんてしてねえよ。人には、持って生まれた運命があんだ。下手にイジルと混乱して不幸を招くぞぉ――

利恵:――なにさ、悪魔のクセして、混乱やら不幸は、そちらの専門でしょうがあ――

マユ:――それって天使の偏見だ! 悪魔ってのはなあ……!――


 キンコンカンコ~ン  キンコンカンコ~ン


 その時、始業のチャイムが鳴って、講師のメリッサ先生がやってきた。


「ハロー、エブリワン。スタンダップ」

 みんなが行儀よく起立した。マユは、この学校の生徒の上っ面の行儀良さは気に入らない。

利恵:――え、この時間って、片岡先生じゃなかったっけ?――

マユ:――朝、時間割変更があるって、副担が言ってたじゃねえか――

利恵:――あ、そうだっけ――

マユ:――だから落第すんだよ、おめえは――

利恵:――落第小悪魔に言われたかないわね――

 起立してからの会話は、心でやったんで、人間たちには聞こえねえ。


「シッダウン、プリーズ」


 メリッサ先生が、皆のお行儀のいい挨拶をうけて、着席をうながしたとき、それは起こったぜ。

 コソリと、力無くドアを開けて入ってきたのは片岡先生だ!

「し、失礼、教室を間違え……(''◇'')ゞ」

 アハハハハハ

 先生の間抜けた慌てようにみんなが笑った。
 
 ガラ!
 
 いったん教室を出て、片岡先生は、人が変わったような乱暴さで閉めたばかりのドアを開けてフリーズしちまった。

 先生は、怒ったような顔をして口を開いていた。初めて見る先生の表情にみんな驚いたぜ。

 二人を除いて……。

 人間というのは、非常な驚きに出会うと怒ったような顔になる。たとえ小は付いても落第の冠が付いても、天使と悪魔には、それがよーく分かったぜ。

利恵:――やったー!!!!――

 利恵は、単純に喜んだ。この一つの善行で、落第はチャラになったと感じやがったんだ。

マユ:――ちょっと変だぞ――

 マユは、違和感を感じたぞ。

 そして、その違和感は、先生の次の言葉で確定的になった。

「シンディー……どうして( ゚Д゚)!?」

 先生の心には混乱しかなかった。

 そして、混乱した心からはドクドクと目に見えない血が流れ出していたぜ……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)156・秋風を予感して

2024-09-19 10:30:43 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
156・秋風を予感して 松井須磨 




 瀬戸内美晴を凹ませて体育館の外廊下に出る。


 スチールの扉を開ける時、秋風を予感した。

 だって、窓から見えた空、たたなづく秋の叢雲は風を予感させたから。

 あ、たたなづくは山とか八重垣の枕詞だっけ。まあいい、今のわたしは、空の雲さえ、おごそかに言ってみたい気分。

 だけど、風の向きなのかグラウンドに面した外廊下にはソヨとも風は吹いていない。

 こんな凪のようなグラウンドでも、ヘリコプターが不時着した時はオズの魔法使いのつむじ風よりも凄かった。慌てたわたしとミリーはうまく車いすが操作できなくて、啓介がバットを放り出して駆けつけて、千歳をお姫様ダッコして中庭まですっ飛んで行った。

 学校も人間も、外からの風にあおられないと本気では動き出さないものなのかもしれない。


 一般の生徒は教室に戻って授業だけど、わたしはタコ部屋に戻る。

 急ぐことは無い、授業が待っているわけじゃないからね。


 美晴には、ああ言ったけど、けして悪いことじゃない。十代は大いに悩めばいいのよ。

 啓介と千歳と伊藤香里菜。

 どうくっついても、傍から見ている分には面白い。別れても面白い。

 いろいろドラマチックにはなるだろうけど、それで人は鍛えられていくんだ。あとで振り返れば、人生のいい肥やしになっているさ。

 ミリーは、ちょっと深刻。

 田中さんのお婆ちゃんが亡くなって、シカゴの家族はテキサスに引っ越す。

 テキサスなんて、ミリーにとっちゃ外国同然なんだろうね。

 中学から留学生で大阪に来てる。田中さんのお婆ちゃんに鍛えられて、大阪弁なんか、わたしより達者だもんね。彼女、頭の中で考える時も英語じゃなくて大阪弁でやってると思うよ。

 ミリーは、あと5年とか10年のスパンで日本にいればいい。

 めちゃくちゃ不安なんだろうけど、啓介もいることだしね。付き合いの長さからいったら、啓介にいちばんお似合いなのはミリーなのかも。保健室でカマをかけた時のリアクションは千歳と変わりない。

 保健室のミリーを見て「わたしもね、来年卒業するんだ」と、あっさり口をついて出た。卒業は山梨に行くことなんだ。こんなあっさり口にするとは思わなかった。ひい祖母ちゃんはミリーに感謝すべきだ。

 階段を下りると、時計塔の前で朝倉さんがハイス薬局のおじさんと話している。なんか要領を得ないという感じなので、傍まで寄ってみる。

「あ、スマちゃん」

 同級生時代の愛称で呼んできた、やっぱり持て余してる。

「どうかしたんですか?」

「薬局のおじさんがねぇエリ-ゼって人形をどうとかで……」

「あ、エリ-ゼのこと?」

 そう聞くと、二人とも安心した顔になって、朝倉さんは「ごめん、授業の用意があるから」と校舎に戻って行った。

「アレが、どうかしたんですか先輩?」

 薬局のおじさんは、演劇部の古い先輩でもあるんだ。

「いやね……ちゃんと作り直そうと思って」

「完成じゃなかったんですか?」

「いや、そうなんだけどね。ミイラのまんまやろ」

「あ、そういうネライで作られたんじゃ」

「前にも言うたけど、あれはうちのカミさんがモデルでなあ」

「ああ、みんなでイメージ言い合いしてるうちにグチャグチャになって……」

「ヤケクソでミイラいう設定にした」

「アハハ、あの時は大騒動だった( ´艸`)」

「いや……あれから、シミジミうちのカミさん……エリーゼを見てきたんやけどな。なんや、うちのハイス薬局と商店街にすっかり馴染んでしもてなあ」

「あ、それは思う。遠目に見たら総堀屋のケメコさんと区別つかないかも」

「うん、いつの間にか、あいつの方が儂らに合わせてくれた感じやなあ」

「あ……」

「あんたは飲み込みのええ子みたいやなあ……せやねん、あのころ感じてたエリ-ゼの姿にしてやろ思てなあ。それを見たら、カミさんもちょっとは……惣堀でしみついたもんはおいそれとは抜けへんやろけど、ちょっとはなぁ」

「うん、いい考えですね。じゃあ、タコ部屋に置いてありますから」

「あ、いや、引き取るのは下校時間になってからにするわ」

「あ、そうか、ニオイが凄いですからね」

「消臭剤のええのんもってくるさかいに」

「はい、じゃあ、部長や他の部員にはわたしから」

「ほんなら、また。ありがとう」

 大先輩は、少し頬を染めて、それでも安心した笑顔で校門を出て行った。

 タコ部屋に戻る前に、もう一度グラウンドに戻ってみる。

 たたなづく叢雲の下、少し強めの秋風がバックネットを飛び越えて吹いてきて髪を押える。八年前の体育祭、障害物競走で飛び損ねたハードルを思い出した。


 昼休みに、瀬戸内美晴から、部室棟は予算をつけ直し、来春から保存修理が再開されると聞いた。


 ちょっと恩着せがましく言うところが笑いそうだった。



 REオフステージ(惣堀高校演劇部) 完

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
  
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馬鹿に付ける薬 016・ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』

2024-09-18 14:54:15 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
016:ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』 




 プルートは夜遅くになって帰ってきた。


「あら、いつの間に帰ってきたんですか?」

 自分たちのために森に行ってくれたんだと思って、ベロナは火の番をしながら起きていたのだが、つい睡魔に勝てずにまどろんでしまった。アルテミスはかまわずにブランケットにくるまって寝てしまっている。

「なにを言ってる、もう行くぞ」

「え?」

 帰って来るなり「行くぞ」と言われては混乱する。

「儂も三時間寝た十分だ」

「え、あ、じゃあアルテミスを起こして朝ごはんにしなきゃ」

「それは果樹園の用事が済んでからだ」

「え、あ、ちょっ……」

 熟睡中のアルテミスを起こすと、すでに峠の中ほどまで下ったプルートを追いかけてベロナは坂を下った。まだ東の空に明けの明星が煌々と輝き、目標の森は夜の底に黒々と蟠って空との境目が定かではない。

「森にはヒュドラという蛇の化物がいてな……」

「ヒュドラ!」

 ベロナは思わず立ち止まってしまった。

「ヒュドラ……だってぇ!?」

 寝ぼけ眼のアルテミスも瞬間で目が覚めた。

「知っている様子だな。じゃあ、説明はいらんだろ、行くぞ」

「ちょっと待てよプルート、ヒュドラなんてオレ……あたしでも知ってる100個も頭のある蛇の化物だ、レベルは、ほとんど100だぞ」

「さっき、いえ、夕方にカロンが認定書を持ってきてくれましたけど、わたしのレベルは8でした」

「あたしは10だ」

「とても、レベル100の魔物なんか無理です」

「普通にやればな」

「ヒュドラは眠る時でも一つだけは起きてる。寝込みを襲っても、その起きている一つが、たちまち、残りの99を起こしてしまうから、駆け出しの冒険者じゃ返り討ちになるだけだ」

「年にニ三回は100の頭が全て眠る。それが、今朝の明け方の一時間ほどだ」

「どうして分かるんですかぁ(^_^;)」

 穏やかだが、眉をひきつらせてベロナが聞く。

「ヒュドラの奴が相談しているのを聞いた」

「ヒュドラの相談相手って……」

「100の頭が相談するんだ。前の記録から言って、今夜あたりだろうと、息を殺して聞いていたのさ」

「じゃあ、その一時間の間なら、簡単にやっつけられるというわけなのか?」

「ああ、無防備になるからな」

「おし、それなら勝てるかもしれないな」

「でも、アルテミス。わたしたち曙の谷でチュートリアルみたいな戦いしかしたことないのよ」

「寝てる間は、臨時の魔物が入る。なに、ヒュドラに比べればなんでもない」

「その臨時の魔物って?」

「なんなんだ?」

「たかのしれたケルベロスさ」

「「ケルベロス!?」」

 ケルベロスでも十分すぎる脅威だ。

 プルートに付いていく足どりが目に見えて落ちてくる二人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)155・伝達表彰式

2024-09-18 09:39:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
155・伝達表彰式  瀬戸内美晴 




 生徒会の任務は多岐にわたるけど、地味に重要な任務がある。

 全生徒のモチベーションを高いポテンシャルで維持すること――惣堀生でよかった!――という気持ちにさせることよ。

 文化祭や体育祭だけじゃなく、学校行事や学校生活に規制があるのは当たり前。集団生活にはルールが付き物。たとえば、定足数に満たない部活を同窓会に降格させたり、部室棟と呼ばれる旧校舎の建て替えに向けて演劇部とかのクラブを追い出すこととかね。

 時には強権発動的なこともしなくちゃならないんだけど、そのためには、生徒会は、部活が優秀な成績を残したとか、生徒がいいことをしたとかのチャンスを捉えては、イッチョカミするわけよ。

 ふつう、そういういいことがあったら、伝達表彰って言うんだけど、校長先生がステージで代読しておしまい。校長って地味がスーツ着てるようなものだから、全校集会の挨拶とか講話のついでにやられたら誰も聞いてない。

 そこで、そういう表彰めいたことは、生徒会がプロディュースする。

 放送部でアナウンスコンクールで入賞経験のある女子にMCをやってもらって、吹部や軽音にBGMやら、表彰状を渡す瞬間にはドラムロールとかをやってもらって、時にはくす玉を仕込んで『祝 〇〇部~優勝!』とかの横断幕をステージの上に出す。時には、生徒会長がお祝いのスピーチをやるんだけど、この一年は不肖、副会長の瀬戸内美晴の独壇場。

 まあ、才能的にもビジュアル的にも当然なんだけどね。

 で、今日は演劇部の小山内啓介の表彰なのよ!

 先月、南河内温泉で人命救助をやった。その感謝状と表彰状が学校に届いた。

 普通なら、ミス放送部のMCと吹部のBGMで伝達表彰という段取りなんだけど、ちょっとした仕掛けをした。

「校長先生から、南河内消防本部からの伝達表彰をしていただきました。続きまして、小山内啓介君に蘇生措置をしてもらって一命をとりとめた藤堂佐和子さんからの感謝の言葉です。佐和子さんは、まだご療養中ですのでお孫さんである、本校一年生の伊藤香里菜さんに代わって述べていただきます。伊藤さんどうぞ!」

 吹部が結婚式の披露宴かというような、聞いているだけで感謝や幸福を予感させるBCMを奏でる中、伊藤香里菜が頬を染めてステージに上がった。


「お婆ちゃんが心肺停止の状態で病院に運ばれたと聞いた時は、目の前が真っ暗になり、地球がグズグズに崩れていくような気がしました。仕事で忙しい両親に代わって保育所の送り迎えや、病気をした時には、それこそ寝ずの看病をしてくれたお婆ちゃんです。そのお婆ちゃんが仲間といっしょに南河内温泉にいって倒れてしまいました。たまたま、隣の男湯に入っていた小山内先輩は、女湯のただならぬ気配に気づいて、すぐに駆け付けて人工呼吸と心肺蘇生措置を施してくださいました。「初期対応が適切だった」とお医者さんに告げられ、それが、自分もかつてやっていた演劇部の部長だと聞いて、お婆ちゃんはとても感激していました。そして、その救助をしてくださったのが、わたしの通う惣堀高校演劇部の小山内先輩だと聞いて、今度はわたしがビックリしました。先輩と演劇部のみなさんの姿は文化祭の舞台でも拝見し、とても素敵だと思っていました……小山内先輩、ほんとうにありがとうございました! そして、こうやって皆さんの前で感謝の言葉を述べる機会を与えてくださった、学校と、運命の神さまに感謝です! ほんとうにほんとうに、ありが……とう……ございましたあ(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ ) 」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!

 全生徒と教職員と入り口のところに来ていたA新聞の人たちから感動の拍手が巻き起こる。

 そして、一年生の列には車いすの沢村千歳が複雑な顔で、それでも拍手している。

 フフフ

 我ながら、意味深な愉悦が沸き起こるのを押えられなかった。はた目にはサキュバスみたいな表情だったかもしれないけど、大丈夫、舞台袖から見ているのはわたし一人なんだから。

「罪なことをやったものね、瀬戸内美晴」

 ゲ!?

 声に振り返ると袖幕から半身を覗かせた松井須磨がジト目で立っていた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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やくもあやかし物語2・072『みんな来てくれた!』

2024-09-17 14:20:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
072『みんな来てくれた!』 




 しばらく行くと草原は胸の高さに迫ってきた。

『やっぱり、半魚人の水のせいだろうね、伸びているだけではなくてツヤツヤとしているわ』

「感心してないで、しっかり前を見てよね。方角見失ったら元も子もないんだからね」

『分かってるわよ、だいたい合ってる。ずっとホバリングしていたから』

「たのむわよ」

 御息所の言葉が微妙に元に戻ってる。

 お局言葉っていうんだろうか、むかしの貴族女性みたいな言葉の時はアグレッシブで、率先して戦ってくれてる感じ。
 それが、ふつうの言葉遣いになると、ズボラになってくる。ふつうといっても、ちょっとわがままな感じなんだけどね。

 いまは、その『ちょっとわがままモード』なんだ。

 日本にいたころからの付き合いだから、こういう時は放っておく。

「しかたない!」

 シャラン

 左肩に掛けた近衛の剣を抜く。

 セイ! ヤー! トォー!

 恰好をつけて、佐々木小次郎みたいにぶん回す。

 バサバサと鳥が飛びたつような音がして目の前の草原が開けて、ちょっとだけ気持ちよくなる。

『その意気その意気、方角もだいたい合ってるでしょうから、がんばってね』

「んもー、時どきは確認してよね、道が合ってるかどうか」

『ん、いまさっき『こういう時は放っておく』とか思わなかったぁ?」

 チ、付き合いが長いのも考えものだよね。

 半魚人と戦った丘の位置を確認しながらでないと、ぜんぜん別の方角に向かってしまいそう。

 セイ! ヤー!  ヤー! トォー!  ヤー!  トォー! ヤー! トォー!ヤー! トォー! ヤー! トォー! ヤー! トォー!

 え、わたし以外にも声がする!?

 ちょっと数が多い、一人や二人じゃない。

 魔物とかだったらばんじきゅうす!

「ここで戦闘になったらたちうちできないよぉ(;゚Д゚)」

『しかたないわねぇ』

 ポケットから飛び出すと、頭の上でホバリングする御息所。

『……あ、学校のみんなよ! ヒイ フウ ミイ……女4人に男6人』

「ええ?」

 ここへは一度に一人しか来れないはずだよ。さっきは変換魔法でハンターがオリビアに付いてきたけど、やっぱり無理があって、すぐに消えてしまって、あらためて来たと思ったら近衛の剣だけ残してしゅんかんで戻ってしまったし。いったい何が?

「おーーい、こっちだよ、みんなあ!」

『こっちこっちぃ!』

 御息所と二人で声を張り上げると、ワサワサと草をかき分けながらみんなが集まってきた。

「みんな、どうしたの?」

 息を切らしながらも、ロージー・エドワーズが説明してくれる。

「いやあ、一人ずつ来ても、ラチ開かないでしょ。それで、ダメもとでね、みんなでジャンプしたのよ」

「よく来れたわねぇ」

「力を合わせたのよ。メイソン・ヒルが変換魔法、ヒトビッチ・アルカードが補助魔法……」

「補助魔法?」

「ああ、それはね……」

 ロージーが説明しようとするとヒトビッチ・アルカード自身が前に出てきた。

「うん、先祖から受け継いだ魔法なんだけどね、ダメもとでやってみたら意外と効果があった」

「ヒトビッチの七代前は吸血鬼だったのよ」

「え、吸血鬼( ゚Д゚)!?」

「ああ、伝説だよ伝説(^▭^;)」

「でも、ちゃんと魔力はあったじゃない!」

「ま、まあね(^_^;)」

「先祖はなんだっていいのよ、力を合わせて、それで効果があるなら。あとはタイミングね。大三角の真ん中目指して、みんなが息を合わすのはタイミングが大事」

「それについては、ヒューゴ・プライスの功績さ」

 メイソンがヒューゴの背中を叩いた。

「うちは株屋っていうか、相場師だからね。魔法のタイミングまで計れるかどうか、分からなかったけど、やったらできた。でも、みんなを引っ張ってきたのはメイソン・ヒルと」

「「「ロージー・エドワーズよ!」」」

 声をそろえたのはベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグとアンナ・ハーマスティン。

「ああ、ロージーはゴッドファーザーの孫娘なんだ」

 ヒューゴがすごいことを言う。

「あ、それはお婆ちゃんの家系で、今は、みんな堅気の市民だからね(#^_^#)」

 喋っているうちにロージーとメイソンが中心になっている。

 二人がリーダーになって、みんなを引っ張って来てくれたのは事実のようだ。

 わたしって、日ごろはネルとハイジ以外とはあまり親しくしてなかったから、ちょっと感動だよ。

 ……て……あれ、ハイジはどうしたんだろう?

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)154・音楽の授業を遅刻した理由

2024-09-17 08:28:39 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
154・音楽の授業を遅刻した理由 千歳 




 惣堀はバリアフリーのモデル校で、車いすのわたしでも移動に不便を感じることは少ない。

 でも、ときどき不便なことがある。

 それが芸術の時間。

 音・美・書の特別教室は、惣堀がモデル校になる前に建てられた芸術棟なので、いったん玄関を出て、芸術棟に行ってエレベーターに乗りなおさなきゃならない。

 エレベーターに通じる吹き抜け廊下にさしかかったとき、下の玄関ホールから織田先輩が友だちと話してる声が聞こえてきた。

『織田も、来年は移動が楽になりそうだな』

『ああ、芸術は二度もエレベーターに乗らなきゃならんものなあ』

 あ、織田先輩も芸術(たしか美術)だったんだ。

『手術、うまくいくといいな』

『ありがとう、大丈夫さ』
『ジイもやっと肩の荷が下りまする』

『だってさ』

『織田の腹話術も聞き納めかぁ』

『いやいや、足が治っても平手のジイは、永遠の守り役じゃぞ』
『ま、まことでござるか!?』 
『ああ、足が治れば本格的に腹話術をやるぞ』

『吉本でもいくんかい(^_^;)』

『ああ、織田信中の戦国腹話術! ウケると思わねえか?』
『お濃も楽しみにしております(^▽^)/』
『だってさ』
『市も応援してますわぁ』
『おうおう、愛い奴じゃ(^▭^)』
『兄上ぇ(^^♪』
『よしよし』

『あ、それは気持ちが悪いかも(^〇^;)』

 チーン

『お、エレベーター来たぞ』

 
 あ、ヤバイ。


 エレベーターの前を離れる。ここで出くわすのは、ちょっと気まずい。

 先輩たちをやり過ごしてからエレベーターに乗る。

 おかげで、音楽の授業は遅刻してしまった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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銀河太平記・248『モン漢国境沿いで初任務』

2024-09-16 11:35:12 | 小説4
・248

『モン漢国境沿いで初任務』 胡盛媛中尉




 うちの騎兵三個旅団は見せ駒なんだ。


 騎兵旅団というのはナポレオンの昔から馬に乗った兵士の部隊ということなんだけども、三百年前に戦車が現れると、馬に乗ってる分、歩兵よりも速いというだけの騎兵は役目が無い。いや、ロボット兵なら、時速100キロで走るのがザラにいるから、ほんとうに辺境のパトロールやパレードぐらいしか使い道が無い。
 だから、第一次大戦から騎兵は馬の代わりに戦車に乗るようになって騎兵部隊とは機甲部隊、つまり戦車隊のことになった。だから、騎兵と言っても馬に乗るのは健軍祭のパレードで戦車部隊の前に一個中隊分の騎兵を歩かせるだけ。その騎兵も一個小隊を除いてはオートホース、つまりロボット馬。
 リアル馬をたくさん出すと落とし物の心配がある。パレ-ドが通った後に落とし物が残って、後続の部隊がグチャグチャに踏んでは、見た目も臭いもすごいことになる。だから、パレードの時のリアル馬は落とし物のしつけを施した一個小隊だけ。

 いま、その一個小隊のリアル馬を前衛にオートホース一個大隊。その後ろに三個旅団の戦車部隊と自走砲部隊。つまり、パレードの時の編成と同じ。つまり、見かけは立派だけども本気で戦争をやるつもりなないという編成。

 工兵隊や補給部隊、そしてなによりも歩兵部隊を連れていないので本気ではないということが、軍人でなくとも、ミリオタの高校生にだって読み取れる。

 つまりつまり、漢明軍はパレード用の部隊をモン漢国境沿いに並べ、折り目正しく国家的警戒感を示しているだけなんだ。


「中尉、カメラカメラ!」


 大佐、いや准将が手をはためかせてわたしを呼ぶ。

「元帥がお出ましになった、絶好のシャッターチャンス!」

「はい!」

 わたしは、自身でカメラを担いで馬(広報用のポニー)に乗り、頭の上三メートルにはドローンを付き従わせて劉宏元帥の前に出る。

 幕舎の脇には『帥』の元帥旗と、今朝はその半分の『劉』の字を染めだしたのが並んで草原の風にはためいている。背後と左右には一個大隊の騎兵部隊が徒列。

 元帥の野戦服に身を包んで騎乗している姿は、馬が立派な分、ちょっと可愛い。アイドルが一日署長を引き受けたみたいで、なんだかプロモーションビデオを撮っているような気になってくる。

「下から舐めるように、そう、元帥の右から左に抜けて、カメラはあくまでも元帥に。ドローンはちょっと引き気味でフォローさせよう……」

「こんな感じですか?」

「そうそう、元帥旗と被った時はゆる~くズームして、さり気にアップ……よーし、オーケー」

「あと、部隊の全景とかは……」

「まだ撮っとらんのかね」

「あ、整列したのは初めてですから」

「仕方ない、このあと、馬で駆けながら撮ろう」

 他にも二班撮影隊が居るんだけれど、准将は半分以上わたしの横に付いている。別に、旧上司の娘であることをおもんばかってのことじゃない。わたしに付いていれば元帥と接触する機会が多いからだ。

 ウワァァァァァァ  ドーーーーン  ドーーーーン  パチパチパチ

 国境の向こうから吶喊の声やら、銃撃、砲撃の音が聞こえ始めた。

 どうやら、再びモンゴル騎兵とロシア軍の戦いが始まったようだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)153・藤岡先生と織田信中の話を聞いてしまう

2024-09-16 08:06:27 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
153・藤岡先生と織田信中の話を聞いてしまう 須磨 




 ギシ カチャ

 椅子に座る音と車いすを停める音がして話が始まった。

「それで、手術はいつやのん、織田くん?」

「はい、年末には。手術後もリハビリがあるので三学期は休むことになると思います」

「そうか、出席日数は大丈夫やねんね?」

「はい、今年度は今のところ欠席ゼロですから、学年末テストも受けられそうですし、まあ、成績は下がりそうですけど」

「まあ、学年の成績は二学期まででほぼ決まりやし、留年するようなことにはなれへんのやろ」

「はい、それは無いと思います」

「そうか、それなら大丈夫やろねえ、ええと……ほんならこれが意見書。いちおう学校として病院に知っておいてもらいたいことが書いてあります」

「ありがとうございます」

「まあ、学校のアリバイみたいな書類やけど、学校と病院との連携の証しやさかい。入院の時に主治医の先生に渡して」

「ありがとうございます。なんだか内申書みたいですねえ」

「いちおう公文書やからね、無くさんようにね」

「はい」

「そうか、これで、春からは車いす無しで生活できそうやねえ……」

 プルルル プルルル

「はい、保健室……あ、はい、今から伺います。ごめん、校長さんから呼び出しやから」

「はい、ありがとうございました」

 カチャ ギシ……再び椅子と車いすが軋む音がして、二人は出て行った。


「いまの、織田君ですよね、近ごろ千歳と仲のええ?」

「なんだか手術して歩けるようになるみたいだねえ」

「千歳、どう思うかなあ……」

「あ、ミリーも思った?」

「え、あ、ちょっとだけ」

 わたしも思っている。

 千歳と織田信中が仲良くなったのは、互いの個性もあるんだろうけど、同じハンデを背負っているところが大きいと思う。

 それに、二人の出会いはエレベーターの前で車いす同士が絡んで身動きが取れなくなったことがきっかけだ。織田君の担任が駆けつけるのが遅れて、三十分ほどもそのままだったらしい。

 千歳自身も至近距離で放置プレーみたくなって、アタフタドキドキしたと言っていた。

 まあ、一種の吊り橋効果。

「まあ、お節介にならない程度に見守ってやりますか」

「そうだね……ん、なんだか血色戻ってきたみたいだねえ」

「え、あ、アハハハ(^〇^;)」

 毒リンゴで死にそうになっていた白雪姫が王子さまにキスされたみたいに元気になっていたミリーだった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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馬鹿に付ける薬 015・カロンと晩ご飯

2024-09-15 14:33:29 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
015:カロンと晩ご飯 




「おめえら、こんなもの食ってんのか!?」

 お湯で温めただけのレトルトシチューをコッフェルに入れてやると目を丸くするカロン。

「悪いな、いちいち調理なんかしてられねえ『ダンジョン飯』じゃないんだからな」

「ああ、あれはすごいわね。ドワーフが調理のベテランで、どんな素材からでもご馳走を作ってしまうのよね。あ、でも、旅は始まったばかりだから、パンは、まだ新鮮よ。はい、どうぞ」

「グ、グググ……」

「なんだ、まだなんか文句あるのか!」

「ち、ちげーよ。有機物の……それも白いパンなんて初めて食うぜ……」

 カロンがビックリしているのは、レトルトとかの安直さではない。旅の簡易な食事なのだが、カロンには、とんでもないご馳走に思えるのだ。

「う、うめぇ!」

「カロン、普段はどんなもの食ってるんだぁ?」

「アルテミス、失礼よ」

「別にかまわねえよ。オレたち、太陽系のいちばん外れだし、オヤジが惑星のカテゴリーから外されてからは、そこらへんの星くずとかデブリとかを分子変換して食ってる、ムシャムシャ」

「そ、そうなのか(;'∀')」

「たまに、迷い込んだUFOとかも、ズルズル」

「UFO食うのか!?」

「ああ、中に食料とか積んでるのがあるし、宇宙人て基本有機物だから変換したら、ムシャムシャ……けっこうなご馳走だ」

「「…………」」

「あ、むろん生きてるやつは食わねえぞ。生命だからな。くたばってる奴をいただくんだ。ムシャムシャ」

「そ、そうなのか」

「オヤジはよ、248年かかって太陽の周りを周ってるんだけどよ、人類が発見してからまだ日が浅くって、公転の様子は、まだ半分以上分かってねえ」

「ああ、言語化するには人類の知性を経由しなくちゃならないからな」

「だから、オヤジにはがんばってもらわなくちゃ……オレもがんばるしな。ムシャムシャムシャ……」


 それから、ひとしきり晩ご飯を食べると、空になったコッフェルに手を合わせ、あっという間に消えてしまった。


「いまのアレ、ごちそうさまだよな?」

「意外と礼儀正しい……」

 それから、自分たちはほとんど食べていないことに気づき、それぞれカロンの半分ほどの晩ご飯を食べた。

 プルートは、深夜になって戻ってきたが、しっかり寝ていた二人は朝まで気づくことが無かった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)152・保健室にミリーを見舞う

2024-09-15 09:46:45 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
152・保健室にミリーを見舞う 須磨 




 ここのところ、演劇部はいろいろある。


 啓介が野球部の助っ人をやったかと思うと、9回の裏でヘリコプターが不時着、車いすがトラブって千歳が身動き取れなくなった。ミリーと二人でおたついていたら、バッターボックスから啓介が飛んできてドラマチックに救助。

 ちょっといい雰囲気の二人……と思ったら、その千歳は二年の車いすの男子と仲良くなった。

 対する啓介も、下足ロッカーに手紙を入れるというテンプレ的手法で屋上に呼び出した一年女子といい仲になった。
 なんでも、南河内の温泉に行った時に、マウスツーマウスの人工呼吸で助けたお婆さんの孫らしい。

 伊藤香里菜という、その子はヘリコプターの一件も見ていた。陰ながら思いを寄せていた彼女にしたら、これは積極的に前に出なければと思って、ロッカーレターと屋上での告白という攻撃に出たんだ。一見大人しそうな子だけど、ヘリコプター事件の二人を見て、敵わないと思うのではなく前に出てくる。おもしろい子だ。

 演劇はやらない演劇部だけど、日常生活が劇的で面白い。

 もうひとつ面白い事件……と言っては不謹慎なんだけど、今度は、ミリーが人生の師とも仰ぐ、田中さんのお婆ちゃんが危篤になってシカゴに戻った。なんとか臨終には間に合ったみたいだけど、学校のある身なので、お葬式には出ずに帰ってきた。

 そのミリーが、休み時間中に具合が悪くなって一人で保健室に行くのを見かけてしまった。

 
「ねえ、わたし、入っていいかい?」


 一言声をかけて、仕切りのカーテンを開けると、毒リンゴを齧った白雪姫みたいにミリーは寝ていた。

「あ、松井先輩……」

「疲れが出たんだね、とんぼ返りだったし、大好きなお婆ちゃんだったし」

「あ、すみません。ひとりで抱えてるのがしんどくて、つい先輩にメールしてしまいました」

「いや、嬉しかったよ。こういう時に頼りにしてくれて……お婆ちゃんは残念だったね」

「うん、でも、亡くなる前の晩、ゆっくり話せたし」

「そうだったね……メールにも書いてたけど、もう、シカゴには戻れないんだって?」

「はい、治安がめちゃくちゃ悪いんで……」

「そうみたいだね……でも、まだ高校二年なんだし、焦ることは無いわよ」

「はい」

「わたしもね、来年卒業するんだ」

「え、本当ですか( ゚Д゚)!?」

「うん、田舎の山梨に戻ってお婆ちゃんの手伝いというか、見習いやるんだ」

「見習い?」

「あ、みんなには言ったことないんだけどね……うちの家は、昔から林業とかいろいろやっていてね。じつは、文化祭の後、山梨に戻ってね……」

 山梨の一件を話すと、ミリーは目を丸くして驚いた。

「そうだったんですかぁ……なんか、大河ドラマみたいですねえ!」

「あはは、未だに『お屋形さま』とか『姫さま』の世界だからね。しばらくは見習いだけど、面白そうだし。もし、その気になったら、山梨へおいでよ、仕事ならいっぱいあるし、ミリーが来てくれたら助かるし」

「ありがとうございます」

「まあ、大学とかに行く手もあるし。いっそ、日本人の嫁になれば永住できるよ」

「え、山梨でですかぁ!?」

「ああ、それもいいけど、手近に優良株がいるじゃない」

「……!?」

 白雪姫の頬っぺたがリンゴみたいになった。

「どうよ」

「あ、あきませんよ! あいつには伊藤香里菜とかおるしぃ、千歳かて、どこか相思相愛みたいやしぃ……」

「アハハ、あんなのは、まだまだ予行演習、子どもの恋愛ごっこ! まあ、そこからゴールインすることもあるけどね、余裕よ余裕!」

「先輩、なんか、ものすごく貫録ですねえ」

「……そういや、ミリー、ちょっと敬語になりすぎ」

「え、あ……」

「学年はいっこしか変わらないんだぞ」

「一つ聞いていいですか?」

「ん、なに?」

「卒業目指すということは、教室に戻る気ぃなんですか?」

「え、あ……もちろん!」

「あ、いま、躊躇しましたよね!?」

「もう、先輩をおちょくるんじゃない」

 ミリーも少し元気になった……かと思ったら、保健室の戸が開いて、養護の先生と車いすが入って来る音がした。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・127『MITAKA特別講演会』

2024-09-14 13:49:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
127『MITAKA特別講演会』   




 久しぶりのMITAKAを階段教室でやってる。


 先日の世界史の授業、ツクツクボウシが鳴きやんだことから吉村先生が脱線。

 兵隊時代の話をしてくれて、みんな印象深かったので急きょMITAKAで講演してもらうことになったのだ。

「いやあ、階段教室いうのは大学以来ですなあ。むろん、学生でそっち側で、前に立って話すのは初めてです」

 事前に「どんな話をしてもらえますか?」と真知子が聞いたんだけど「まあ、思いつくままに(^_^)」ということで、黒板には十円男が『戦争を知らない子どもたちへ』とタイトルを書いて、ロコがお花を描いて、それらしい雰囲気。

「ええとぉ……戦時中の空襲いうと原爆とか東京大空襲ですが、この宮之森や大浜市にも空襲がありましたが、当時は大阪におりましたんで、大阪大空襲の話をします」

 そう言うと、先生は、黒板にサラサラと大阪の地図を描いた。

「当時は大阪城に第四師団が置かれて、外堀の南には第八連隊がありました」

 サラサラと天守閣の南東に師団司令部。内堀と外堀を跨いで連隊本部を書き入れた。

「僕は気象班やったんで、司令部の建物に居りました。司令部は天守閣を再建するときに……当時は城の中は陸軍の用地で、天守閣を再建するときに交換条件で師団司令部を作ったんですねぇ……あ、これです」

 先生が示してくれたのは、三階建ての異世界アニメに出てきそうな西洋のお城風。

「あ、『ゴジラの逆襲』に出て来た……」

 高峰君が呟いた。

 ゴジラと言えば『シン ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』しか知らないわたしには、アニメの2クール目みたいで新鮮な響きがある。

「そうそう『ゴジラ』の二作目ですなあ、大阪城でナンチャラいう怪獣と大暴れする奴。あれにも出てましたなあ。あそこはGHQが居らんようになって、一時は警視庁が置かれましてなあ……」

「え、大阪に警視庁があったんですか?」

 四組の男子が声を上げる。

「うん、すぐに大阪府警と改めるんですがね、あのころは自治体警察いいましてねぇ……あ、いまでも言うか。けど中身は全然違って、アメリカの警察と同じでした。大阪で犯罪が起きてパトカーで追いかけますなあ、県境を超えて京都とか兵庫に行かれると捕まえられません」

 ビックリする声と笑い声が起こる。

「『青い山脈』いう古い小説が、映画にもなってますが、吉永小百合、浜田光男なんかの青春映画の走りですな。主人公を寺沢新子いう女子高生なんですが、ラストでリンゴの密輸、終戦直後は自治体やら国の許可なしに食料を県外に移送することは違法やったんです。家のためやったか友だちの家のためやったか、新子はリンゴをトラック一杯に積んで値段の高い県外に輸送するんです。密輸の女親分ですなあ。新子は警察に見つかってパトカーに追われるんですが、県境を越えると追うてこんようになります」

 アハハハ

 笑いが起こって、わたしは『ラピュタ』でシータと空賊の女親分を思い出した。

「それで、警察の予算も自治体から出るもんやから、小さな町では警察官の給料も払えません。当然、自治体によって給料も違いますしねえ」

「なんか、アメリカの保安官みたいですねえ」

 久々に出て来た佳奈子が面白がる。

「元々、GHQの指導でできた警察ですからね、モデルはアメリカです。あ、そうそう、大阪の大空襲は5月13日やったんですが、月の初めに東京の大本営から参謀飾緒付けたエライさんが来て『五月に大空襲がある模様だから対策するように』て注意しよったんです」

「事前に分かってたんですか!? あ、すみません(;'∀')」

 たみ子が、ちょっと大きな声を出して、自分で謝る。

「そらぁ、日本の軍隊もアホやないから知ってます。重要書類やら燃料やら大事なものは避難させんとあきませんからね。兵隊は、来たるべき本土決戦のために、空襲で死なすわけにはいきませんからね」

 ええぇ……

「それで、第四師団のエライサンは『大阪府民に伝えるべき!』やと言うたんですが、大本営は『軍機に属することだから一般には伝えてはならん!』と言うんですなあ。その言い争う声が廊下まで聞こえてきましてなあ、外の車寄せから大本営が帰りよるまで殺気だってました」

 大本営の秘密主義にもビックリしたけど、大阪の第四師団も意外に府民の事を思っているのでビックリした。

「それで、第四師団はどうしたんですか?」

「いや、軍機ですからね、府民に言うわけにもいかず、防空についての指導やら教練に力を入れました。まあ、これで悟ってくれいう感じでしょうなあ」

「それで、大阪大空襲はどれほどの被害が出たんですか?」

「ううん……4000人ぐらい死者がでましたかねえ……」

 4000……という数字に二種類の反応。

 多いというのと、逆に少ないという反応。

「東京大空襲は七万人死んだと聞いてます、空襲の規模が違ったんですか?」

 10円男が数字を挙げて質問する。学園紛争やってる時に少しは勉強したのかもしれない。

「規模は同じくらいです。B29は300機前後来ましたし、爆弾やら焼夷弾は2000トンぐらい落としていきました。あ、それと東京大空襲の七万いうのはあくる日に警察が把握した数なんで、その後に分かった分を合わせたら10万はいくでしょうねえ」

 10万……広島や長崎より多いよ、たぶん……。

「まあ、ただの伍長でしたからね、細かいところはわかりませんが、そんなもんです。そうそう、僕は気象班でしたんで、毎日司令部の屋上で、風向きやら気温やら日照を調べて上の方に報告するんです。まあ、日に三回ほど、あとは大学で気象学やってた班長、大尉なんですが、この人を中心に喋ってばっかりですわ。まあ、ヒマやったんですなあ。終戦の前の年ぐらいまでですが、暑くなってくると『吉村さん、ビール買うてきてくれませんか』と頼まれる。班長は会社で言う管理職なんで、公用の外出許可を出せるんです。それで、公用の腕章つけて、堂々とビールを買いに行ったこともありました」

「戦時中にビールがあったんですか?」

「あるとこにはあります。まあ、大空襲のまえぐらいまでは」

 じっさい現場にいた人の話だから面白く、下校時間いっぱいまで先生のMITAKA特別講演は続いた。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)151・シカゴを離れる

2024-09-14 09:11:12 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
151・シカゴを離れる ミリー 



 お葬式まで居りたかったけど、前夜式の明くる朝にはシカゴを後にした。

 前夜式いうのは日本でいうお通夜。

 さすがに式を取り仕切ったのはクラークのお父さんやったけども、クラークも助祭として立派に役目を果たしてた。

 遺品の整理とかはお葬式が終わってからやねんけど、一足先に日本に帰るわたしのためにミチコさんは一つの写真をくれた。

「ああ、これ……!?」

 それは、生まれて間もないわたしを抱いて笑顔いっぱいのお婆ちゃんの写真。

「身内やご近所で赤ちゃんが生まれると抱っこさせてもらうのが楽しみだったのよ」

 フレームの下には、わたしの生まれた二日後の日付。

「病院から戻って来るのを待ち受けてね、家の前で撮ったのよ」

 お婆ちゃんとの写真は、家にもお婆ちゃんとこにもいっぱいあるけど、これを見るのは初めてや。

 
 その写真を膝に置いて飛行機に乗ってる。


 正面のモニターには遠ざかるシカゴの街、背景には子供のころから馴染んだミシガン湖が朝日を照り返して輝いてる。

 小学校のころ、お婆ちゃんは『キャンディーキャンディー』のコミックを貸してくれた。キャンディス・ホワイトいう孤児の女の子が成長していくビルドゥングスロマン。そのキャンディーがいた孤児院がミシガン湖の畔にあるという設定で、キャンディーと同じツィンテールにしてお婆ちゃんと湖の畔を歩いた。めちゃめちゃええストーリーやねんけど、日本に来て知ってる子ぉはおらへんかった。

「あ、オレ知ってるで!」

 啓介は、お母さんの愛読書やったいうのんで覚えとった。

「え、ほんま!? もっぺん読みたいわぁ、貸してもらわれへん!?」

「あ、ごめん、前のオカンのやから(^_^;)」

「え、あ、ごめん……」

 啓介の家庭事情を知った瞬間やった。

 もう、この街に戻ってくることは無い。

 うちの家も空港まで送ってくれた伯父さんもテキサスに引っ越してしまう。

 前夜式に来た人も何人かはシカゴを離れる予定やという。

 こんど戻ってくるときはテキサス。

 シカゴよりはうんと安全なんやろうけど、南部訛の母国語は大阪弁よりも遠い言葉や。

 ……もうこのまま日本に住み着こうか。

 惣堀を卒業したら留学ビザが切れてしまう。

「大学の留学も調べておくよ」

 車の中で伯父さんが言ってくれた。

 でも、大学へいっても最大四年や。

 いずれは日本で異邦人になってしまう。

 いっそ、日本に帰化する……言うほど簡単なことやない。

 なんか仕事を見つけて……わたしになにが出来んのやろかぁ?

 
――だれか、ええ人はおらんのんかいな――


 お婆ちゃんの言葉が蘇る。

――え、あ、それは……――

 あの時、頭に浮かんだのは啓介……あかんあかん、なんちゅう短絡!

 飛行機が水平飛行になって、そのまま寝てしもた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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銀河太平記・247『朱元尚 大統領と写真を撮る』

2024-09-13 14:36:24 | 小説4
・247

『朱元尚 大統領と写真を撮る』 朱元尚



 大統領の権限は大きく且つ広範囲に及ぶ。


 この朱元尚を資源開発公司の管理職のまま現職に戻し、准将にした。

 選鉱機の情報を獲得しホトケノザの試掘事業にも目鼻を付けたのだから、少将に進級して、中央の軍政職に就けるかと思った。軍務局長か作戦部次長、あるいは軍需局長。

 それが准将という半端な階級で中央軍の広報部長という役職だ。

 補任にあたっては異例なことに劉宏大統領自らが官邸に呼び出して行われた。

 大統領は陸軍元帥の軍服姿で現れた。

「いやあ、一昨日陸軍長官を罷免した後、後継が決まらなくて、暫定的にわたしが陸軍長官を兼務してるの。本来なら陸軍省の長官室で行わなければならないんだけど、仕事が立て込んでいて呼びつけることになってしまった。ごめんなさいね」

 王春華のボディーにPIしてからは言葉遣いを改めている。わたしもTPOを考える方だが、大統領の立ち振る舞いはリラックスしていてとても自然だ。

「いえ、准将クラスの補任は書類で済ますことが多くありますので、かえって恐縮しております」

 そう、准将クラスの補任は少将以上の補任がある場合についでに行われる。昔の王朝時代の言葉で言えば、少将以上が上から二番目の勅任官。准将は将の字がついてはいるが三番目の奏任官。奏任官なら、直属上司である長官から辞令を交付されるだけ。大統領から直接辞令をもらうことは、少将以上のついでがない限り行われない。厚遇であることに違いは無い。

「広報は、軍の内外、身軽に飛び回れて短期に見聞を広められるわ。人はどういうか分からないけれど、近い将来に軍の、あるいは軍関連機関の枢要に立つ人には適任のポジションだと思うわ」

「はい、この朱元尚、粉骨砕身任務に励みます」


 それから辞令が交付され、これでお仕舞と思ったら、大統領が意外の提案をしてきた。


「せっかくだから記念写真を撮りましょう」

「き、記念写真ですか!?」

 思わず声が上ずってしまった。補任のおりに記念写真を撮るのは親任官たる上将に限られ、准将単独ではあり得ない。

 これは軍広報のトップに『新任広報部長補任式』と大々的に載せられる。

 少なくとも「えぇ、准将なのぉ」と不足顔だったカミさんには喜んでもらえる。

「じゃあ、記念写真撮るから、お願い」

 大統領がインタホンに呼びかけると、すでに待機していたんだろう広報係りが三脚付きのカメラを持って次室から現れた。

「失礼します」

「え?」

「ごめん、驚かせたかなあ。君が粉を振っていたのを聞いてね、大佐、いや准将の人事と同時に発令しておいたの(๑´ڤ`๑) 」

「よろしくお願いします、准将(''◇'')ゞ」

「あ、ああ、よろしくな胡盛媛中尉」

「じゃ、その国旗の前にしましょうか」

「ハ!」

 勇んで国旗の前に行く……と、大統領が横に並んだ!

「え、あの、ごいっしょされるんですか?」

「はい」

 普通補任の記念写真は国旗の前で起立の姿勢で撮る。任命者が横に並んで撮ることなどあり得ない。

 すごい厚遇!

「視察の時なんか、よく現場の人といっしょに写真撮りますからねえ(^▭^)」

 そうだ、大統領は視察どころか、どうかすると官邸の庭掃除をやっているオバサンなどとも気楽に写真を撮っている。

 ということは、ただのスナップ写真?

「あ、えと……大統領」

「なあに、フーちゃん?」

 フ、フーちゃん? 

 あ、そうか、以前プライベートで西之島に行った大統領と胡盛媛中尉は既知の仲なんだった。

「あのう……軍服の写り具合が、生地の質感が違うので……」

「ああ、わたしのは、間に合わせのお仕着せだものねぇ」

「はい、准将のは上海縫製公司のオーダーメイドの英国製の生地で、レンズを通すと……補正はできますが」

 そうだ、西之島で以前のはダメにしてしまったが、帰国するとカミさんが新たに注文して、そのおろしたてをを着てきたんだ。

「軍服なんて、しばらく着てなかったからねえ……まあ、このままでいいわ。今日は准将が主役なんだし」

「承知しました」

「じゃ、お願いね」

「では、撮りまーす」

 パシャパシャ パシャ パシャパシャ パシャ

 十数枚の写真を撮って、そのうちの三枚が、その日のうちに大統領のSNSと軍の広報に載った。

 写真は無修正で、明らかにわたしの方が軍服もきれいでキマッテいるのだが、大統領のフランクさと可愛らしさが勝っている。

 大統領のSNSのは、三枚の写真――どれがいいか分からないので三枚とも出しました(^_^;)――と手書きのキャプションが付いている。

 いちばんイイネが付いたのは、セルフタイマーにして中尉も入って三人揃ってピースを決めた一枚だった(-_-;)。上海縫製公司のオーダーメイドでキメタわたしは、そのぎこちない笑顔ともども「悪党のボスみたい」「なにか企んでるみたいな?」「大人の七五三!」などとさんざんだった。


 その准将補任式から十日、わたしは騎兵三個旅団を率いてモン漢国境沿いに出師された大統領の簡易幕舎の横、広報部20名を引き連れて待機している。

 大統領の幕舎には元帥であることを現す『師』の旗、わたしのそれには『広』の旗が草原の風にはためいている。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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