『夢の小筥』

再び廻り来る事のない、この刻(いま)を、そっと筥に納めてみました。

宮崎の昔ばなし

2008-10-30 13:05:32 | Weblog

     

 道路の落ち葉拾いにも疲れ、夫の居ないのを良いことに早々とお昼を済ませお茶をのみながら、手元にあった本をパラパラ・・っと

 宮崎の昔ばなしです。何処にでも似たような話があると、感心しました。

 深沢七郎さんの「楢山節考」に良く似ています。


    灰のしめなわ

 むかし、あるところに年よりの嫌いな殿様がいました。その殿様の家来にも、年よりの大きらいな侍がいたのです。

 ある日のこと、その侍は「年寄りは、山に捨てる、捨てぬものは、自分で年よりを殺してしまえ」と言う、おふれを出したそうです。
ところが、その侍の部下の一人にも、年寄りの父親をもった小侍がいました。
 「きさまのところにも、年よりのおやじがいる。よいか、早う山 に捨ててくるんだぞ」
 と侍は小侍にいいつけました。
気の弱い小侍は、家に帰り、父親にいいました。
 「お父さん。本当にすみませんが、上役の命令で、お父さんを山に捨ててこいと、いわれたのですが・・・」
 「いいがな。いいがな。おめいの思うことなら、どこへ捨ててもろうてもええ」
 と父親に言われた小侍は、しかたなく父親を背負って山道を登っていきました。
 ところが、背中のかごに乗せられた父親は、山道のまがりめ、まがりめにくるたびに、松の枝を折っていたのです。
そして、山の頂上までやって来ました。かごから降りた父親は、
 「やぁ、疲れたじゃろ。帰りの道をまちがえんようにな。まがりめには、わしが松の枝を折って目じるしをおいた。よう見てもどるんじゃ」  と言いました。

 小侍は、子供のことを、ここまで心配してくれる父親を捨てる気になれませんでした。そこで、また父親を背負って家に連れて帰ったのです。そうして父親を、床の下にかくしておきました。
 すると、あの侍が言いました。
 「おまえ、ほんとうに、おやじを捨ててきたのか。どうもあやしいものだ」
 と言いました。小侍はとまどいました。
 「いいわけはいらん。燃えた灰のわらで、なわをなって、蝶結びのしめなわを作ってこい」
 と侍は言いつけたのです。

 困った小侍は、家に帰って、床の下の父親に相談しました。
すると父親は言いました。
 「そげなこと、わけなか。しめなわをのうて、塩水につけ、丸盆の上で焼けばよい」

 小侍は、父親に言われたとうり、灰のなわで作ったしめなわを侍のところへ持って行ったのです。
すると、あの意地悪な侍は、
 「へぇ。おまえもなかなか知恵のはたらくやつじゃのう。ゆるしてやろう」
と言って、それから父親のことを、言わなくなりました。

   と さ・・・  おしまい。