道路の落ち葉拾いにも疲れ、夫の居ないのを良いことに早々とお昼を済ませお茶をのみながら、手元にあった本をパラパラ・・っと
宮崎の昔ばなしです。何処にでも似たような話があると、感心しました。
深沢七郎さんの「楢山節考」に良く似ています。
灰のしめなわ
むかし、あるところに年よりの嫌いな殿様がいました。その殿様の家来にも、年よりの大きらいな侍がいたのです。
ある日のこと、その侍は「年寄りは、山に捨てる、捨てぬものは、自分で年よりを殺してしまえ」と言う、おふれを出したそうです。
ところが、その侍の部下の一人にも、年寄りの父親をもった小侍がいました。
「きさまのところにも、年よりのおやじがいる。よいか、早う山 に捨ててくるんだぞ」
と侍は小侍にいいつけました。
気の弱い小侍は、家に帰り、父親にいいました。
「お父さん。本当にすみませんが、上役の命令で、お父さんを山に捨ててこいと、いわれたのですが・・・」
「いいがな。いいがな。おめいの思うことなら、どこへ捨ててもろうてもええ」
と父親に言われた小侍は、しかたなく父親を背負って山道を登っていきました。
ところが、背中のかごに乗せられた父親は、山道のまがりめ、まがりめにくるたびに、松の枝を折っていたのです。
そして、山の頂上までやって来ました。かごから降りた父親は、
「やぁ、疲れたじゃろ。帰りの道をまちがえんようにな。まがりめには、わしが松の枝を折って目じるしをおいた。よう見てもどるんじゃ」 と言いました。
小侍は、子供のことを、ここまで心配してくれる父親を捨てる気になれませんでした。そこで、また父親を背負って家に連れて帰ったのです。そうして父親を、床の下にかくしておきました。
すると、あの侍が言いました。
「おまえ、ほんとうに、おやじを捨ててきたのか。どうもあやしいものだ」
と言いました。小侍はとまどいました。
「いいわけはいらん。燃えた灰のわらで、なわをなって、蝶結びのしめなわを作ってこい」
と侍は言いつけたのです。
困った小侍は、家に帰って、床の下の父親に相談しました。
すると父親は言いました。
「そげなこと、わけなか。しめなわをのうて、塩水につけ、丸盆の上で焼けばよい」
小侍は、父親に言われたとうり、灰のなわで作ったしめなわを侍のところへ持って行ったのです。
すると、あの意地悪な侍は、
「へぇ。おまえもなかなか知恵のはたらくやつじゃのう。ゆるしてやろう」
と言って、それから父親のことを、言わなくなりました。
と さ・・・ おしまい。