愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 187 飛蓬-94 小倉百人一首:(素性法師)今来むと 

2020-12-31 09:51:52 | 漢詩を読む
(21番)今来むと 言ひしばかりに 長月(ナガツキ)の 
      有明(アリアケ)の月を 待ち出(イ)でつるかな 
          素性法師 『古今集』恋4・691 
<訳> 
「今すぐに参ります」とあなたが言ったばかりに、9月の夜長をひたすら眠らずに待っているうちに、夜明けに出る有明の月が出てきてしまいました。(小倉山荘氏) 

oooooooooooooo
今行くよ と言われたので、身繕いして休まずに待っていたのに、……との解釈(=上記<訳>)。今一つ:今夜こそは見えるか と毎夜ずっと待ち続けて、とうとう夜長の九月に至った、……との解釈もなされている。素性法師の女性の立場から詠われた一首です。 

素性法師は、生没年不詳、50代桓武天皇(在位781~806)の曽孫にあたり、父・僧正遍照(百人一首-12番、閑話休題-128)の指示で若年時に出家されている。ユーモア溢れる軽妙でサラリとした歌の作風で、独特の世界を表出している。三十六歌仙の一人である。 

漢詩化するに当たって、二つの解釈のうち、“情”がより濃密に感じられる上記<訳>に従った。五言絶句としました。 

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<漢詩原文および読み下し文>  [下平声十二侵韻] 
 白等盼望的人  盼望(マチノゾム)人 白(ムダ)に等(マ)つ 
就来動我心,  就(ス)ぐ来る が我が心を動かし, 
摄衣待来臨。  衣を摄(トトノ)えて来臨を待つ。 
不覚黎明月,  覚(オボ)えず 黎明(レイメイ)の月,
季秋寂蟀音。  季秋(キシュウ) 蟀(シュツ)の音(ネ)寂し。 
 註] 
  摄衣:身繕いをする。    季秋:晩秋、陰暦9月。 
  蟀:コオロギ。

<現代語訳> 
 待ち人来らず 
今行くよ の一言に心動かされて、 
身繕いを整えて来訪を待った。 
待ちに待ち、気づかぬうちに有明の月が出ていて、 
長月の夜更けコオロギが寂しく鳴いている。 

<簡体字およびピンイン> 
 白等盼望的人 Bái děng pànwàng de rén 
就来动我心, Jiù lái dòng wǒ xīn, 
摄衣待来临。 shè yī dài láilín.  
不觉黎明月, Bù jué límíng yuè,  
季秋寂蟀音。 jìqiū jì shuài yīn. 
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素性法師は、僧正遍照の在俗時の子息で、桓武天皇の曽孫にあたる。56代清和天皇(在位858~876)の時代に左近将監まで昇進して殿上人となったが、「法師の子は法師になるがよい」との父の指示で出家した と。父とともに、宮廷に近い僧侶として和歌の道で活躍した。

後に54代仁明天皇(在位833~850)の皇子・常康親王(?~869)が出家して雲林院を御所としたとき(851)、親子で出入りを許されていた。親王薨御後は、遍照が同院の管理を任され、また父没後、素性は同院に住まい、和歌・漢詩の会の場としていた と。

59代宇多天皇(在位887~897)の歌合にしばしば招かれて歌を詠んでいる。896年、宇多帝の雲林院に行幸の日に権律師となり、後に大和・石上(イソノカミ)の良因院に移った。898年、宇多上皇の大和国御幸に際し,同院に立ち寄った上皇に召され、供奉して諸所で和歌を奉る。

60代醍醐天皇(在位897~930)にも寵遇を受けたようである。909年、御前に召されて屏風歌を書いている。なお雲林院は、現京都北区紫野に、良因院は現天理市にあったが、両院ともに廃され、現在はない。

素性の歌は、上掲の歌に見られるように、独特の作風によるユーモアに溢れた軽妙で機知に富んだ歌である。三十六歌仙の一人で、古今和歌集では36首入集し、歌数第四位という。勅撰入集は63首。家集に後世の他撰による『素性集』がある。

素性の亡くなった際には、紀貫之や凡河内躬恒が追慕の歌を詠んでいるようで、生前から歌人としての名声は高かったことが窺われる。

素性法師の名歌の一つと讃えられる一首を読んで素性法師紹介の締めとします。秋の紅葉を錦にたとえるのが常識であった当時、新たな美として「春の錦」を提示しています。“都踊り”を思わせる優美な歌である。後に藤原定家や後鳥羽院に影響を与えたとされています。

見渡せば 柳桜を こきまぜて 
   都ぞ春の 錦なりける (古今和歌集 春 素性法師)
  [桜の花盛り 都大路に植えられた柳の若緑が桜の淡いピンクと
  混在している そのさまはまるで錦のようではないか](小倉山荘氏)
コメント
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