愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題372 金槐和歌集  ながれ行く 木の葉の淀む 鎌倉右大臣 源実朝

2023-10-16 09:12:29 | 漢詩を読む

一読、胸に閊(ツカ)えを覚える歌である。晩秋、錦秋の彩を添えた紅葉は散りはて、川に流れ去ることなく、川下で淀んでいる。この秋が暮れても、秋の気配は、縁(エニシ)によっていつまでも流れ去ることはないのだよ と。

 

「川面に敷き詰めたもみじ葉は、川の錦であるよ」と詠った能因法師(後述)とは、真逆の発想のようである。青年・実朝の胸内には、余人の計り知れない“苦悶”の重しが淀んでいたように思える。

 

ooooooooo 

  [題詞] 水上落葉 

ながれ行く 木の葉の淀む 江にしあれば 

  暮れてののちも 秋は久しき  (金槐集 秋・269)

 (大意) 木の葉がよどんで流れぬ江であるから 秋が暮れてのちも ここには

  秋が久しく残っているであろう。 

  註] 〇江にしあれば:“し”は強めの助詞、“江であるから”の意; 

xxxxxxxxxxx 

<漢詩> 

 江上落葉     江上の落葉             [上平声六魚韻]  

流来乱落葉, 流れ来たる乱(ラン)落葉,

行至所江淤。 行(ユキ)ゆきて至(イタ)る江の淤(ヨド)む所。

四節秋過去, 四節(シセツ) 秋 過去(ユキサ)るも,

但茲秋氣舒。 但(タダ)茲(ココ)は 秋氣 舒(ジョ)たらん。

 註] 〇乱:さまざまな; 〇淤:淀む、堆積する; 〇四節:四季; 

  〇茲:ここに、これ; 〇舒:のびる、ゆるやか、落ち着きはらったさま。

<現代語訳> 

 江上落ち葉の淀んだところ 

さまざまな落ち葉が流れ来って、 

流れ流れて、川のさる場所で淀んでいる。 

時節は変わって、間もなく秋は暮れることであろう、

だが、落ち葉の淀むこの川では、その後も、秋の気配は続くことでしょう。

<簡体字およびピンイン> 

  江上落叶   Jiāng shàng luò yè 

流来乱落叶, Liú lái luàn luò yè,

行至所江淤。 xíng zhì suǒ jiāng .     

四节秋过去, Sì jié qiū guòqù, 

但兹秋气舒。 dàn zī qiū qì shū

ooooooooo  

 

能因法師(・988~1051?)の歌:

 

嵐吹く 三室(ミムロ)の山の もみぢ葉は

  龍田の川の 錦なりけり (『後拾遺集』秋下・366; 百人一首69番*)

 (大意) 三室の山の絢爛たる紅葉の葉は、山風で散って龍田川に集まり、川面

  はまるで錦の彩である。 

 

晩秋の頃、奈良・三室山が全山紅葉で彩鮮やかに染まっている。山風に吹かれて散った葉は、麓の竜田川に集まり、川面は錦を敷いたようで、三次元の美の世界であると詠っている。

 

  実朝の歌の“本歌”とされる歌: 

 

人心(ヒトゴコロ) 木の葉ふりしく えにしあれば 

  涙の川も 色かわりけり 

     (按察使兼宗 『千五百番歌合』; 『新勅撰集』 恋・)   

 (大意) 木の葉がしきりに落ちる川であるから、流れる水の色が変わるよう

  に 人の心も盛んに言葉を交わし、縁があれば流す涙の色も変わるもの。

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