愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

からだの初期化を試みよう 40 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-5

2016-06-02 16:10:29 | 認知能
もう一つの材料、キャンバスに触れます。通常絵を描くキャンバスとしては、二次元の平面であり、白紙の状態を想像します。ときに、紙製ではあるが、人や動物、家、山等々、輪郭が前もって印刷されたものもあり、塗り絵の勉強に使われています。

学習や記憶に関わる脳のキャンバスを考える時、白紙の状態と言うよりは、むしろ‘塗り絵’の原稿に近いものと考えたい。その‘こころ’は?

本論に入る前に、基礎的な点をいくつか押さえておきます。

神経の基本となる構造は、神経細胞と神経線維(軸索)からなり、両者を合わせた神経単位はニューロンと呼ばれています(写真1)。

写真1 神経単位(ニューロン)


一個のニューロンの神経細胞体から出た軸索は別のニューロンとつながっており(写真2)、そのつなぎの部分はシナプス(接合部)と呼ばれていて特殊な構造と機能を持っています。

写真2 ニューロンとシナプス


写真1で、中央上部に示した一個の神経細胞から、神経線維(軸索)が右方に伸びており、また木の枝のような突起(樹状突起)が上下前後左右へ幾つも伸びている。このようなニューロンが、ほぼ無数(140億個!)集まった立体的な三次元構造が、すなわち、脳実質であると言えます。ただし、神経細胞の形や大きさは場所によって異なっていますが。

写真2では、軸索は3本に枝別れして、次の神経細胞の細胞体および樹状突起とシナプスを形成しています。さらに黒丸(●)を付した部分は、その他の複数のニューロンの軸索末端がそれぞれの細胞体や樹状突起とシナプスを形成してつながっていることを示しています。

ニューロン内での情報の伝わり方は、まず神経細胞が興奮する。この分野で、‘興奮する’とは、電気信号を発生することを意味します。この電気信号は、軸索を通じて非常な速さで軸索末端まで伝わります。この情報の伝わり方は、‘伝導’に当たります。

一方、軸索末端では、電気信号に触発されて神経伝達物質が遊離され、それがシナプスの間隙を移動して、下位の神経細胞に達してその興奮を惹き起こすことにつながります(注)。このような情報の伝え方は、‘伝達’と呼ばれています。神経伝達物質は、脳内外で数多くの種類が知られています。

(注):ところによっては、むしろ抑制的に働く箇所もある。神経伝達物質の違いにより興奮的に働く箇所と抑制的に働く箇所が巧みに組み合わさって、情報の行き先や強さなどを微調整する効果を生み出しているようです。

このような神経のつながりは、脳の外部でも基本的には同じです。ただ、神経線維(軸索)の長さは、脳内では非常に短いが、脳の外部では長い。

例えば、足指先を動かそうと意識すると、その情報は、大脳皮質の運動を司る司令塔から発せられ、脳内で複数のニューロンを経て後、脊髄内に入る。脊髄内で腰の辺りまで下ってきて、またニューロンを変えて、脊髄外に出て、足先まで情報を運ぶことになる。脳や脊髄内・外での神経線維(軸索)の長さがいかほどかは、凡そ想像できるでしょう。

このように脳(中枢)からからだの末梢まで情報を運ぶ神経系を、遠心性神経と呼んでいます。

一方、足先の痛みやかゆみとかの末梢からの情報を大脳皮質の感覚を統合する箇所まで運ぶのも、逆方向ではあるが、同様にいくつかのニューロンを経て伝えられていきます。このような神経系は求心性神経と呼んでいます。

脳内では、無数のニューロンが複雑なつながりをしつつ、写真1に見るように立体的な三次元構造の網目(ネットワーク)を作っています。しかしニューロンは無造作に集まっているわけではなく、ある目的を有機的に果たせるように、機能的なネットワーク構造をとった集合体を形作っています。

脳全体として見た時、脳の表面(大脳皮質)では、運動の司令塔、あるいは感覚の統合箇所、さらに足や手、顔等々からだの各部の運動や感覚に関連する部位など、機能に応じてニューロンが集合、局在していて、あたかも領土地図を見るように、、機能地図が描かれています。

脳の中心部に行くと、四六時中、呼気と吸気を交互にリズムよく維持するとか、血圧を適度に保つなど生命の維持に関わる部位があります。さらにからだの各部から求心性に届けられた感覚情報を上位に橋渡しするとか、あるいは運動の司令塔から届けられた情報を中継してからだの各部に遠心性に送るような機能をもつ神経細胞が集まった部位があります。

このような部位は、神経核と呼ばれていて、脳内の多くの部位と連絡路を作っています。これら神経核では情報の中継点としてだけでなく、上下前後左右の関係のある部位に情報を伝える配電盤の役割も担っているものと考えてよいでしょう。

さて、学習や記憶との関連で見ると、本稿第3回で触れた、大脳基底核や海馬体などが、記憶情報の中継点または配電盤として、非常に重要な役割を持った部位とされています。届けられた情報は、これらの部位を中心にして、他の関連部位と情報のやり取りを繰り返し、練った後に記憶事項として固定されていくとされています。

今一つ忘れてならない点は、脳の形態を維持し、また機能を十分に発揮できるよう、環境を整える脇役を演じるグリア細胞と言われる特殊な細胞が神経ネットワークの間を満たしています。

本論に戻って、学習・記憶の絵を描くための、想像上のキャンバスとは、予め絵図の輪郭が印刷された塗り絵のようなものであると考えると理解しやすいようです。予め印刷された輪郭とは、誕生時にはすでに出来上がっていて、さらに生後、時と経験を経て修正されてきた個人特有のニューロンネットワークを主体とした三次元の構造体を意味しています。

ニューロンのネットワークは、永久不変なものではなく、その「つながりは使えば強くなり、使わなければ消滅していく」構造体であり、さらに「絵描き人の意図により、部分的に修正が可能」な状態にあると考えたい。

絵を仕上げる、すなわち、学習し、記憶するに当たって、材料としてのミツバチやキャンバスの用意はできました。そこで最も大事なことは、何をどのように描くか、描く人の‘意図’でしょうか。続いてその辺を考えていきます。
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