愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題80 飛蓬 漢詩を詠む-18 ―杜甫-春夜喜雨

2018-07-13 10:53:02 | 漢詩を読む
前回、杜甫の故郷を訪ねた折の感想を述べ、その中で、杜甫の詩「春夜喜雨」について触れました。下にその詩を記載してあります。ご参照下さい。

杜甫の生まれ育った鞏義の“杜甫故里”にある記念館では「春夜喜雨」のビデオ映像が上映されていました。その一部をここに紹介します。下記のURLを開いてみて下さい。この詩の情景が見事に表現されています。

https://1drv.ms/v/s!Ahh2v_mmpeyzdpg25kFrse0qUq0

ビデオでは、‘杜甫故里’園内の“好雨”に潤う緑と、ビデオカメラで捉えられたコウライウグイス(黄鶯)の囀りも紹介してあります。

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春夜喜雨   春夜雨を喜ぶ
好雨知時節, 好雨(コウウ) 時節(ジセツ)を知り,
当春乃発生。 春に当(ア)たって乃(スナワ)ち発生す。
随風潜入夜, 風に随(シタガ)いて潜(ヒソ)かに夜に入り,
潤物細無声。 物を潤(ウルオ)して細(コマ)やかにして声(コエ)無(ナ)し。
野径雲倶黑, 野径(ヤケイ) 雲は倶(トモ)に黑く,
江船火独明。 江船(コウセン) 火は独(ヒト)り明らかなり。
暁看紅湿処, 暁(アカツキ)に紅(クレナイ)の湿(ウルオ)える処(トコロ)を看(ミ)れば,
花重錦官城。 花は錦官城(キンカンジョウ)に重からん。
 註]
野径:野の小道
江船:川に浮かぶ船
錦官城:成都の別称。特産品の錦を管轄する役所が置かれていたことから。錦城ともいわれる。

<現代語訳>
 春の夜 雨を喜ぶ
良い雨は、降るべき時節を知っており、
春になると降り出して、万物が萌え始める。
風につれて、人知れず夜に紛れ込み、
万物を潤して、しとしとと音もなく降っている。
野の小径も垂れこめた雲もすっかり真っ暗であり、
川面に浮かぶ船の漁火だけが明るく灯っている。
明け方に紅(クレナイ) の花が濡れている所をみれば、
錦官城の花々は雨の雫を含んで重たげに咲き誇っていることであろう。
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何時の頃か、映画の場面であろうと想像するが、月形半平太が、「春雨じゃ 濡れて行こう!」と名セリフを吐いて、颯爽と小雨の降る中を行く。この場面とセリフだけが、奇妙に、鮮明に記憶の奥に残っているのである。

今、ネット上で調べてみると、「月形半平太」は、大正時代に行友李風(ユキトモ リフウ)という人が書いた戯曲で、「国定忠治」と並んで、“新国劇”の代表作の一つである由。いろいろな意味を含めて、“時代物”であるようですが。

春に降る、頬を湿らす程度の小糠雨は、むしろ春の訪れを実感させてくれる“時節”の雨と言えるのではないでしょうか。万物が目を覚ます時期であり、明るい季節の到来といえるでしょう。

上掲の「春夜喜雨」は、まさに春の息吹を詠う詩と言えるでしょう。長安を襲った「安史の乱」(755) により、生活基盤を失った杜甫は、“蜀道の険”を越えて成都に赴きます(759)。妻子を伴った旅、如何ばかり苦難の旅であったか、想像に難くない。

成都では、これまでに得た多くの知己の援助もあり、成都郊外に「杜甫草堂」を築きます(760)。家族ともども暮らす草堂での生活にはやっと安らぎを覚えたことでしょう。

「春夜喜雨」は、成都に来て三年目、杜甫50歳の時の作とされています。音もなく降りしきる春雨の闇夜に一点の漁火が目に止まります。暁を迎える頃には、錦官城一円の花々が、潤いを帯びて一斉に赤に染まるようになる。

世の中の在りように‘チクリ’と苦言を呈する詩が多い杜甫ですが、「春夜喜雨」は、読む方も心休まる詩と言えるでしょう。

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