上巻に引き続いて一気に読み通しました。
下巻の収録建築は13。そのうち6つは日本国内の建築です。
そのうちのひとつ、栗林公園にある「掬月亭」。
総面積75haという広大な回遊式庭園の一角、南湖の辺に立つ数寄屋造りの「茶屋風」建築です。
128枚の雨戸を開放して、建物を取り巻く庭園と連続した空間は見事としか言いようがありません。
(p28より引用) 畳の床から縁側へ、そして外部へと水平に繋がっていく無限定な空間です。和紙貼りされた天井に反射し、拡散した光は陰影の階調を生み出し、室内全体に、静謐な気配がみなぎっています。
他方、日本建築ならではの細部の仕事にも注目です。
本書で紹介されている「掬月亭」の雨戸の開閉の仕組みは驚きですね。丸棒一本で雨戸を90度方向変換させる仕掛けです。シンプルなだけに、先人の知恵に感心です。
この本で紹介されているすべての建築に言えることですが、その建物が在る場に実際に行ってみないと、建築家の意図、その深さ、素晴らしさを真に知ることはできないようです。
たとえば、カルロ・スカルパの改修によるイタリアの「カステルヴェッキオ美術館」の例です。
(p40より引用) なるほど! 建物中央にあった当初の入口をそのまま踏襲していたら、こうした視覚的な見せ場は生れなかったわけです。スカルパがわざわざ建物の一番隅に美術館の入口を移した理由が、これではっきり納得できました。
独創性に富んだ改修の手法や展示方法がどれほど見事な成功をおさめているかは、展示室を一室ずつ巡り歩くうちに次第次第に分かってきます。
その地に行かなくては絶対分からないのが「光」と「空気」です。
本書で紹介された建築は、ほとんどすべて、「自然の光」に気遣いそれを見事に生かしています。(ウィーンの地下水道は別ですが)また、その場の「空気」と同化しています。
当たり前のことかもしれませんが、建物は「箱物」だけの独立物として存在してはいません。建物内部の空間、建物の立つ土地、さらにはその時代・・・。そういった時間・空間の総合物だということです。
中村氏は、「建築家とは、『空間のトータル・プロデューサー』だ」ということを再認識させてくれました。
意中の建築 下巻 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2005-09-21 |
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