「仮の町構想」(2) 新しい町 ウクライナ市 スラブチチ
1986年4月、史上最悪の放射能汚染事故を起こしたチェリノブイリ原発の近くにあった
「原発労働者」の町「プリピチャ」は、
前回紹介した消えた村186の村の一つである。
その代替え都市として事故の2年後にウクライナ北部に建設されたのがスラブチチ市である。
チェリノブイリ原発の北東約50㌔にあり、
人口2万6000人のうち約1万人がチェリノブイリ原発関連の仕事に従事しているという。
だが、原発依存都市「スラブチチ」市は、産業に乏しく工場もない。
ウクライナ政府は同市を「特別経済地域」に指定し、
減税など特典を与えることで投資や企業誘致に取り組んできたが、進展は見られない。
原発事故の風評被害が災いしているのだろう。
ここでテーマとなっているわが国の「仮の町」とは、
すこし意味合いが異なるが、旧ソ連の事故後の対応は早かった。
事故の2年後にはスラブチチ市は建設され、
5つの学校や病院、映画館など日常生活に必要な設備も完備した。
社会主義だった旧ソ連では、個人が土地を所有することを禁じられ、
国家権力で迅速に政治決着をつけられたという事情はある。
それにしても、我が国の福島第一原発の復興計画が、
遅々として進まないのに比べ、
なんと迅速に進んだ旧ソ連の計画だったことか。
福島第一原発事故から1年9カ月を経過した現在でも、
原発被災地の復興計画にはばらつきがあり、
「帰還困難区域」から避難し、
他の自治体で暮す人々の生活は復興・再生からは程遠い。
キーワード・「仮の町構想」
福島第一原発事故で長期避難を強いられている住民が、
帰還の日まで自治体ごとにまとまって暮らすため、自治体が
他の自治体のなかに役場機能や病院、学校などの「町」を
作る構想。
現在の地方自治法には具体的な規定はなく、国が法整備の
必要性を検討している。
福島復興再生基本方針では、受け入れ先の自治体との間で
円滑に進められるよう国が支援することを明記している。
(つづく)