読書案内
だから荒野 桐野夏生著
専業主婦森村朋美(ともみ)が、家族という絆を断ち切って出奔したのは、46歳の誕生日の夜だった。
これが物語の始まりだ。
サラリーマンの夫は身勝手で自分のことしか考えない。
男の子供が2人。大学生とゲームに夢中な高校生。
二人とも家族と言うよりは、同じ屋根の下に暮らす他人みたいな関係。
結婚してからの私の役割って何だったのだろう。私の人生って何だったのだろう。沃野であるはずの家庭に「荒野」を見てしまった朋美はこの寂寥感に耐えきれずに、さらなる「荒野」に踏み出していく。
東京から長崎への1200キロの旅に出る。道中乗ってきた夫の車を、若い女に盗まれ、長崎の原爆の語り部・山岡の講演帰りの車に拾われ、一人暮らしの彼の家に一時の宿を得る。
だがこの93歳になる孤独な老人も果てしない荒野をさまよって生きていることを知る。
幼馴染の女友達、高校生の時に淡い恋心を抱いた男。再会してみれば、各人各様に朋美が抱いたイメージと異なっている。人は、時間の経過とともに、少しずつ変わっていくのだ。変わらない人間なんていない。
朋美を取り巻く人々が、それぞれに自分の荒野を彷徨っている、と私は思った。それでも朋美はやがて夫の待っている東京に帰ろうとする。
ひと月の時間が経過していた。
問題が解決されたわけではない。夫は相変わらず自分のことだけしか考えない我儘な男だし、子どもたちが心を開いたわけでもない。長崎原爆の語り部・山岡を取り巻く環境が変わったわけでもない。
表紙の写真にあるように、果てしなく続くように見える道路にもやがて終わりがあり、そこに存在するのが「荒野」なのか「沃野」なのか誰にもわからない。それをタイトルが暗示している。
「だから荒野」なのだと……。 2015.2.9