読書案内 そして、星の輝く夜がくる (1)
真山 仁著
この作者の本は前に「コラプテオ」という「原発輸出を巡って政府を巻き込む利権争い」を描いた本として紹介した。
今回は「東日本大震災で津波の被害を受けた被災地の子どもや大人たちの日常を通し、震災にまつわる様々な問題」を描いた連作短編ということで興味を惹かれて読んだ。
「第一話・わがんね新聞」:
小野寺徹平は神戸市教委から派遣された小学高教諭で、16年前に起きた阪神・淡路大地震の被災者で、この災害で妻と娘を失っている。
「がんばるな」、小野寺の口癖だ。
これは、我慢するな! いい子になるなという、小野寺が子どもたちに託すメッセージなのだろう。
提出された作文には子どもたちの生の声が集まった。
「…パパはお酒ばっかり飲み、ママはずっと泣いてます。こんな家族を捨ててどっかに逃げたい!」生活に疲れ果て追いつめられている両親が許せないのだろう。小野寺は彼女の気持ちをもっと知りたいと思う。
「…妹のぜんそくがひどい。ゼッタイにあのガレキのせいなのに、皆知らん顔している。あそこにガレキ置くな!!」子どもたちの本音がたくさんの作文の中に現れている。
「わがんね新聞」を出そう。
小野寺の発案である(「わがんね」とは、やってられないとか、もうダメだという意味がある)。
こんな新聞を発行してよいものか。
創刊号は生徒たちの手によって完成し、小野寺は檄文を書いた。
町は全然復興しないし、家にも帰れない。
こんな生活はイヤだ。
いや、おかしいぞ!
みんな、もっと怒れ、泣け、そして大人たちに、しっかりせんかい! と言おう。
『わがんね新聞』は、この世の中と大人たちに、ダメ出しをする新聞です。
当然のことながら、学校が難色を示し、親たちも「恥をさらすな」「眠っている子を起こすな」など反対があったが、壁新聞は意外な評判で発刊が続く。
見てくれは稚拙な手作り新聞だが、意見は発信できるし、誰かに疑問を投げかけることもできる。
子どもたちの笑い声が聞こえ、小野寺も笑って答えた。(つづく) 2015.2.16