読書案内 そして、星の輝く夜がくる (4) 真山 仁著
「第五話・忘れないで」:
第四話で登場したボランティアのリーダー・相原さつきが登場する。たった37ページの短編小説だが凝縮された 内容は読みごたえがある。「忘れないで」というメッセージもたくさんの意味を含んでいる。
相原さつきの心の内を「忘れないで」と表現し、
神戸大震災で亡くした妻と娘の写真が小野寺に向かって「忘れないで」と呼びかけてくる。
遅々として進まない復興計画、仮設住宅に住み将来の見通しが全く立たない中で風化し始めた震災の記憶。
被災地と被災を免れた地域との温度差。「東北を忘れないで」切ない呼びかけである。
「人は皆、忘れていくもんだ。だから生きていけるとも言える。特につらい経験は忘れた方が良い。
失ったものをいつまでもくよくよ悩むべきでない。形あるものは必ず滅びる。
生き物はね、生まれた時から運命づけられているんだよ。
それが、早いか遅いか、突然やってくるか緩やかに訪れるかだけの違いだ」
小野寺の言葉は歯に衣着せずずしりと重く、妻と娘を亡くし、
阪神大震災の混乱をくぐり抜け復興に尽力してきただけに、説得力がある。
それぞれの「忘れないで」を考えてみよう。
「第六話・てんでこ」:
人の心が抱える悲しみや後悔、そして楽しかった日々……。
それは不意にフラッシュバックしてくる。忘れようとしても拭えない。
前に進もうと一生懸命生きていても突然襲ってくる。
だったらその感情や思い出を否定せず、折り合っていくのが人生なんだ。
阪神・淡路大地震から17年を経た中で、小野寺が何となく手にした悟りだった。
震災遺構の話もそれぞれに思い入れがあり、
悲劇を繰り返さない教訓としてとらえる人と、
復興のシンボルとするには悲しい経験に未だに立ちなれない人と意見は分かれる。
子どもたちは、卒業記念制作として何を残したらよいか語り合う。
「津波てんでこ」というけれど、ひとにはそれぞれかけがえのない大切なものがあり、
そのために命を落とした人も少なくはない。
子どもたちのモニュメントは津波に立ち向かう金次郎の石像と、大津波を描いた壁画だった。
被災地の現実を見つめ、そこで生きる子どもたちの素直でまっすぐな心が、違和感なく発揮されている。
同時に、阪神・淡路大地震の災害で妻と娘を亡くした小野寺の再生の物語にもなっている。
ボランティアリーダー相原さつきの存在も忘れがたい。ぜひ読んでほしい本の一冊です。
評価☆☆☆☆☆ (おわり)